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第四十五話 「蒼い狼」の愉快なパーティー会議

<視点 ケイジ>

 

 「さて、みんなの意見を聞かせて欲しい。」


オレは一度パーティーメンバーを自分の部屋に集めた。

カラドックのいないところで、客観的なメンバーの意見を聞きたかったからだ。


 「ちょっと今夜はらしくないケイジ。」

 「真っ先に自分の意見を言うのがケイジ。」


いきなりエルフたちから突っ込まれた。

まあ、そうだよな。

今回ばかりは我を通していいのか分からない。

オレは苦笑いを浮かべてリィナに振る。


 「リィナは?」

 「あたしかよ!?

 う~ん・・・嘘は言ってなかったと思うよ、あのおっさん。」


そうだろうな。

リィナには看破スキルのようなものはないが、兎獣人ならではの異常聴覚が、相手の心音の微妙な変化を聞き逃さない。

そこである程度、相手が嘘をついているのか本当の事を言っているのかわかるらしい。


さて、エルフたちの目も同じか?

 「ステータスがとんでもない。

 少なくとも魔力は最高ランク。

 「口元のお髭も堪らない。

 艶も柔らかさも最高ランク。」


ダークエルフのアガサ、ハイエルフのタバサ、二人とも鑑定スキルを持っている。

しかもレベルは高く、隠匿結界でも敷かれていなければ大体の情報を看破する。

けど髭の情報はどうでもいいからな?


だがエルフたちの鑑定は、そこから更にとんでもない情報を明らかにした。

 「ていうか、称号に賢王。」

 「さらには、称号に天使の息子。」


 「でぇっ!?

 何それ、異世界からやって来た伝説の賢者で息子の天使!?」

リィナが驚くのも無理ないだろう。

ていうか、わけが分からないことになってるぞ、リィナ?


だが、確かに一個人でこれだけの称号持ちの男なんて滅多にいやしない。

転移者、天使の息子・・・間違いないのか。


オレはパーティーのリーダーとして、一つの判断を下さざるを得ない。

 「称号は別にしても、本当に精霊術士ならパーティーの火力を上げる為に喉から手が出る程欲しい人材だ。」


 「同意。」

 「異議なし。」

 「なんだよ、わざわざ話し合いすることねーじゃん。」


リィナの疑問に二人のエルフが呆れたように突っ込む。

 「これは兎さんが分かってないのが問題。」

 「むしろ兎さんにとってこそ重要な問題。」

 

ん? なんでだ?

 「えっ! なんであたし!?」


いや、オレもわからんぞ?


 「男が増えるとケイジのハーレムが破綻。」

 「リィナとケイジのハネムーンが崩壊。」


 「お前ら、いい加減になぁ・・・」

そういう事かよ・・・。

なんかあいつが来てからいじられシーンが30%ほど増えた気がするぞ?

おい、リィナもそこで赤くなるな。


 「はいはい、真面目な話に戻すぞ?

 ステータス上、あの男の実力は申し分ない。

 まあ、実際使えるかどうかは実戦で試せばいい。

 あの男の事情とやらもとりあえず置いておく。

 気にすべきはグリフィス公国の出方だ。」


 「でもさ、ケイジ、

 グリフィス公国の人間を知ってるのってケイジだけじゃん。

 あたしらには判断材料ないよ。

 それこそ、あのカラドックって人が信用できそうかどうかで決めるしかないんじゃ?」


そうなんだよなあ。

となると・・・オレはニ人のエルフ娘に頼るような目を向ける。

 「オレたち獣人の話は一度捨て置いてもいい。

 アガサにタバサはどうなんだ?

 オレはこの世界の危機だという、お前たちの話を信じて手を取り合った。

 ・・・だが奴はこの世界の人間ではないという。

 それこそ、訳を話したらアイツがオレたちに協力する必然性もなくなってしまう。」


あ、二人して、なんか凄い見下されている視線が来た!


 「私達についてこれないならそれだけの事。」

 「尻尾丸めて逃げるならそれまでの男。」


ああ、まあそういう事になるわけね。

 「じゃあ、いいんだな、

 あいつのことは?」


 「では北の洞窟を守る門番を倒せるかでテスト。」

 「でも先に私たちの目的を話しておくのがベスト。」


 「わかった、同意する。

 オレ達の目的を話して、奴が協力を表明してくれる、

 そして、北の洞窟の門番を倒すのに実力を示してもらう。

 それがカラドックのパーティー加入条件でいいな!」



やっぱりこうなったか。

・・・だが一体・・・

転移、か。

誰かがこの世界にカラドックを送った?

その話自体、信じられないというか、信じれる要素が見当たらない。

かと言って・・・そんなマネができるとしたら・・・


いや・・・


オレはリィナを見た。

あ、いや照れなくていいから。

 「リィナ、一つ聞きたい。」

 「な、なに?」


 「あの、カラドックという男の、

 あいつの世界でお前によく似た女と奴の弟が死んだって話、聞いたよな?」

 「う、うん。」


 「どう思った?」

 「え、いや、そんなどう思ったって聞かれても?」


まあ、そりゃそうか。

漠然と聞かれても答えようないよな。

それでもリィナには感じる事があったらしい。

 「で、でもさ。」

 「ん? でも?」


 「あの人、絶対守ってくれそうだよな、そんな事が起きたらあたしを!」


まあ、嬉しそうに言っちゃって・・・。

だが違うぞ、リィナ。

 「お前は一つ勘違いしている。」

 「あ? 何をだよ?」


そこでオレは犬歯を剥き出しにして笑う。

 「お前を守るのはオレだ!」


ボンっ!!

ん、なんだ、今の音?


 「決まった!

 女ったらしケイジの会心の一撃!」

 「終わりね!

 純情リィナのハートにクリティカルヒット!」


あわわわ、リィナの許容範囲をオーバーした音か!

真っ赤になって固まってる固まってる!

おい、ちょっと、リィナ!?

倒れるなっ!!

 




<視点 再びカラドック>


結構混んできたな。

私は食事も終えたので、テーブル席から離れ、先程までエルフ達が座っていたカウンターに移動した。

アルコールは先程のもので十分だったので、食後の紅茶を愉しんでいた。

ケイジは一時間ほど待てと言っていた。

あと二十分程だろうか。

まあ、時間に追われているわけでもない。


カウンターの中で忙しそうに酒を作っているバーテンダーの隙を見つけて、私は世間話をさせてもらった。

やっぱりバーテンダーの彼も、さっきの給仕の女性同様元冒険者か。

Bランクまで行ったそこそこのパーティーだそうで、年齢的な体力の衰えで引退を決めたそうだ。

魔術士はともかく、戦士は体力いるからなあ。


それと、このアークレイの街には最近、冒険者の間で一つの話題が持ち上がっているという。

なんでもアークレイの街の北には誰も越えることのできない大きな崖があるらしい。

もちろん、その先に何があるとわかっているわけもないのだが、その崖の麓にいつのまにか、洞窟のようなものが出来ていたとのことだ。


何人かの冒険者が内部を探索しようと試みたが、奥まで辿り着けずに戻ってきたらしい。

何の役にも立たねーとボロクソ言われたそうだが、実際、洞窟の中には魔物もいなかったそうなので、冒険者ギルドの方でも緊急性がないと、依頼のランクを下げたという。


まあ、私の方には関係なさそうだけど、いきなり洞窟なんて出来るものなのかな?

突然水が湧き出てきたとかなら、不穏な話として崖崩れとか心配するところだけど、そういう話でもなさそうだ・・・


ってところにケイジ達が戻ってきた。


 「やあ、早かったね?」

 「イラつくな・・・。」

ケイジが不機嫌そうに吐き捨てる。


 「え?」

 「その、何でも見越してるかのような余裕だよ?」

 「何言ってるんだ、

 いま、私の予想より早かったと、見込みを外したとこじゃないか?」


そこでケイジは苦虫でも噛み潰したように顔を歪めた。

仕方ない、折れてあげよう。


 「でも気にさわるようなら気をつけるけど?」

 「別にいいさ、無理するな。」


なんだ、そりゃ。

いいのかよ。


 「それより。」

 「ん?」

 「お前をパーティーに入れるのに条件がある。」

 「ああ、そこまで話が進んだんだね、

 ありがとう、それで?」


 「オレ達はこれから向かうところがある。

 その第一関門に魔物が陣取っているという情報を入手していてな。

 パーティー戦でお前の存在価値を示せ。

 それがまず一つ。」


 「承った、他は?」

 「まだ全ては言えない。

 それはこの場所で言えないということだ。

 この後、オレの部屋に来てくれるか?

 そこで話す。

 ただし、聞いた後に他言は無用に願いたい。

 いまだ根拠のない話なんでな、

 迂闊に漏れると世界中に混乱が起きる。」


・・・なるほど、かなり混みいったことになりそうだ。


 「それが、君がグリフィス公国を出た理由か。」


そこで彼はしてやったりとでも思ったのか、愉快そうに笑う。

 「残念、外れだよ。

 オレや獣人、奴隷の話とは直接関係ない。

 だが、オレが各国の戦争をチョロチョロ邪魔してるのには関係ある話だ。」


ふうん、

それは私の手持ちの情報では辿り着けない流れだな。

だが、話はトントン拍子に進んでいる。

では、ありがたく彼の申し出に従おう。


私は食堂で会計を済ませた。

その後、全員で受付を通り過ぎるわけだが、ケイジはその受付の男性に話しかけた。


 「いきなりで済まないが、シングル一部屋空いているか?」

 「ああ、申し訳ないが既にいっぱいだ。

 『蒼い狼』の知り合いだってんなら、物置部屋を使ってもらう分には構わないが・・・。」


なるほど、いろいろ融通が利くんだな。

まぁ私の方は問題ない。

 「構いませんよ。」と言おうと思ったらケイジに割り込まれた。

 「なら、俺の部屋にベッド一台運んでくれないか。

 料金はもちろん規定分払う。」


ちょっと驚いた。

まだ話は途中の筈だし、私が条件を承諾すると見込んだとしても、会ったばかりの私をそこまで信用できるかどうかは別の話だろうに。


だがケイジはそんな私の考えを見越したかのように、振り返ってニタっと笑った。


 「話を聞いたら逃がさないってことだ。」


そういうことか。

引き返すならここが最後ということだな。

もちろん、ここまで来て帰ることは考えてない。

 「問題ないよ。」


ケイジも私がそう答えることは予想していたのだろう。

その顔に笑みを浮かべながら、自分の部屋まで私を案内した。


従業員達が新たなベッドを運んでくる間、エルフたちはケイジのベッドを二人で占領して座り、ケイジ本人は部屋に設置されている二組の椅子の一つに座る。

そして向かいのもう一つの椅子に私を座らせた。

リィナは気を利かして全員分の飲み物を用意してくれていた。


 「はいよ。」

 「ああ、ありがとう。」


うっすらとリィナは微笑んでくれているようだ。

懐かしい笑顔だ。

もう、二度と見ることはないと思っていた。

彼女に出会えただけでも、この世界に来れたことを感謝したい。

そして彼女も、少なくとも私の先の話には納得してくれたという事だろうか。


そこでケイジが私の名を呼んだ。

 「カラドック・・・。」

 「ああ、私の方はいつでもいいよ。」


宿の従業員たちは既に部屋を出て行った。

もう私の分のベッドは用意されている。

今晩の寝床は確保できたというわけだ。

このケイジと一つの部屋で眠ることになるんだが・・・。


逆に私の方が、このケイジに安心して寝顔を晒すことに危険を感じるべきなのだろうが、この時点で私はあまり危機意識を抱いていなかった。

それは私が、弟と彼の姿を重ねていたというのもあるのだろうが、彼のこれまでの話を、何の抵抗もなく私が受け入れていたせいもあるのかもしれない。


 「まずカラドックに断っておきたいんだが・・・。」

 「うむ。」

 「オレは、獣人がどうの、差別がどうの、グリフィス公国の連中がどうの・・・。

 今現在、そんなこだわっていないんだ。」


えっ?

それは意外だった。

だってそれが理由であの国を飛び出したんでないのか?


私の戸惑いは顔に出てたんだろう。

ケイジがそれ見たかと苦笑いを浮かべていた。

 「たぶん、カラドックはマルゴット女王たちからそういった話を聞かされたんだろう?

 それはきっと事実だよ。

 そしてそれがオレの出発点であることも否定しない。

 だが、冒険者となった今、リィナや、アガサ、タバサとパーティーを組んだ今、

 俺たちの目の前にあるのはもっと大きな問題だ。」


 「聞こう・・・いや、聞かせてくれ。」


 「この場で一から十まで話すつもりはない。

 旅の途中で、その気になったら聞かせてやる。

 今ここで話すのは、オレとリィナが、二人のエルフ、アガサとタバサに出会った時のことだ。」


できればリィナと会った時のことから聞きたかったが、多分、彼にとってか、もしくはリィナにとってあまり口に開きたくはないことなのだろう。

少なくとも、今の「蒼い狼」には関係ないと言うことか。


 


次回からケイジ達の物語です。



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