第四百四十九話 ぼっち妖魔はちょっとずれてる
あああああ、時間はたっぷりあるはずなのに、更新ギリギリ・・・。
<視点 麻衣>
あたしの意識はこの先に向けられていた。
それが既に失敗だったというお話である。
まず聞いて欲しい。
前人未到のこの洞窟。
いったいどんな危機が待ち受けているのか。
更なる邪龍の眷属が登場するのか、
それともあたし達の行く手を阻む地形が存在するのか。
あたしはそれだけに感知機能を働かせようとしていたのだ。
さらに言い訳をしよう。
あたしの遠隔透視で、ずっと向こうのほうが視えなくなっていた。
少なくともまだ邪龍本体の棲家までは距離があるはず。
なのに、ここまであたしの能力を阻害されてしまうのかと。
そういう考えに意識を囚われていた。
だからそれ以外のことに注意を向けられなかった。
更にと言うべきか、
けれどと言うべきか、先程の虫オーガを倒した後、しばらくしたら霧が晴れたみたいに先が視えるようになった。
余計にあたしの脳みそは、他のことに注意を向けられなくなってしまう。
目の前の不可思議に頭を捻るのみ。
とりあえず、この先の道に差し迫った危機はないようだ。
結局この件の原因は分からずじまい。
そう判断してみんなに出発を促す。
油断はしているつもりはなかったけども、
かなり安心しきってしまっていたのだ。
そこへ・・・
「みんな!?」
叫び声を上げたのはリィナさん!
その直後、ようやくあたしも危機を感知した。
え、でも、方角は!?
真後ろ!?
「そ、そんなバカな!!
止めは刺したはず!!」
あり得ない・・・。
倒れていた虫オーガがモゾモゾと動き出しているのだ・・・。
恐らくその動きによって生じた音で、リィナさんの聴覚が反応できたのだろう。
「再生スキル・・・?
いや、だが一度死んでしまったなら・・・」
その筈だ。
ケイジさんの言う通り、死んだら再生なんて出来る筈はない。
まだ虫オーガは動き始めたばかりで、立ち上がるまでも至らない。
だからある程度、あたしたちに状況分析しようという余裕はある。
この世界には、再生スキル持ちの魔物は希少とはいえ、そこそこいる。
あたしが戦った吸血鬼もそうだし、
こないだの鬼人だってそうだし、
ネームドモンスターでなくとも、
トロールにも再生スキルはあるそうだ。
・・・あ、みんな鬼人種か。
いや、吸血鬼は鬼と日本語で訳されているけど、この世界では妖魔扱いだったね。
はい、脱線しました!
そう、こいつらが再生スキル持ちであることは問題ない。
けれど、先程の戦闘で完全に死んでしまったというなら再生などしやしないのだ。
では、こいつらは死んでいなかったのか?
そう思うしかないけども・・・
「死んでいなかったと言う見解は否定。
確実に生命活動停止を確認。」
「むしろ現在、虫オーガの生命活動活発化を懸念。
このまま完全再生すれば先程より強大になる可能性大。」
アガサさんとタバサさんの正確にして信頼できる分析結果が出ました!
そ、そしてそれはあたしにもわかる。
この虫オーガ達、さっきよりも邪気が強い!!
「考証は必要かもしれないが、何も慌てることはないよ!
タバサ!
ホーリーシャインだ!!」
カラドックさんの指示が飛ぶ。
そしてその言葉通り、滑らかな動きでタバサさんホーリーシャイン!!
するとどうだろう?
ブクブクと膨れ上がってあたし達に近づこうとしていた虫オーガどもが、
光を浴びてグズグズと「おから」のように崩れていく。
さすがにそこまでになったら再生スキルでもどうしようもないな・・・。
よし、今度こそ完全に戦闘終了だ。
あ、でもこの現象って・・・
「やはり、そうか・・・、
他の属性攻撃でもダメージは与えられる・・・。
けれど絶えず邪龍の邪気が供給されるこの地では、死んだとしても何度でも命が与えられてしまうということか・・・。」
カラドックさんにしてみれば予想の範疇内ではあったようだ。
あ、でも今の話だと、「再生」とは微妙に意味合いが違うのだろうか。
でも、なんて事だろう。
光属性スキルでカラダの大部分を浄化しないと倒しきれないというのなら、
やっぱりタバサさんが攻撃の要にならざるを得ないのだ。
「むう、面倒。
なら今のうちにみんなの武器に光属性付与。」
それも最低限、必要になるよね。
それとは別に、ついあたしが思い出したのは、
吸血鬼エドガーの最期。
邪龍とは属性が違うんだろうけど、
ツァリーベルクさんの神聖スキルでエドガーは灰と化して崩れ去った。
・・・もちろんあの人の死に様と、こいつら虫オーガとで比べるのもアレだけどね。
ただ、あの現象に近いと言うことは、
聖水・・・ホーリーウォーターとか同様のスキルも吸血鬼に通じたように、
こいつらに多少はダメージを与えられるということか。
いえ、
ホーリーウォーターにそれほど決定的な威力がないのは分かってますよ。
ただこのままだと・・・
「光属性でないと決め手にならないっていうなら、タバサさんの負担が大変になりますよね?」
「麻衣さん、何かアイデアが?」
ケイジさんがあたしの方を向き直る。
「いえ、アイデアってほどじゃないんですけど、アガサさんのメイルシュトロームにタバサさんのホーリーウォーター合わせられないかなあ、と。」
合体魔法とかね。
・・・
あれ?
みんな動きが止まっちゃったよ?
あたしそんな変なこと言った?
「あはは、流石にそれは無理。
同じ人間が同時に術を起動するならまだしも、別個の人間が別々に発動しても、同調する手段がないから、作り上げた聖水の分量がメイルシュトロームに飲み込まれて終わり。」
タバサさんに笑われた。
や、やっぱそうですよね。
こないだのベアトリチェさんの宮殿破壊した時みたいに、精霊術に既存魔法を合わせるようにはいかないか。
けど意外なことに、アガサさんはあたしの意見を評価してくれたようだ。
「・・・いや、タバサ。
今の麻衣の考えは画期的。
普通の術士でない麻衣だからこその発想。
ちょっと私のインスピレーションに刺激有り。」
よ、よかった、
それほど外した意見を言ったわけじゃなかったか・・・。
でもどうやら、みんな悲観してないのかな?
「麻衣さん、私も実はそんなに心配してないんだ。
確かに術は限定されてしまうけど、
炎系、氷系、雷系の術やスキルが再生を阻害することは分かっているからね。
アガサの大規模術法やリィナちゃんの天叢雲剣で敵を殲滅できるとは思っているんだよ。」
あ、ああ、そうか!
ツァリーベルクお爺ちゃんと一緒に戦った時は、再生阻害系の術を誰も持ってなかったからね。
改めて思う。
今のパーティー、何と安心できる一団なのかと!
「まあ、ケイジやヨルさんには止め刺せる役が少なくなってしまうのは申し訳ないけども。」
「何言ってる、カラドック。
目的は邪龍討伐だ。
オレにそんな気遣い不要だぞ。
強いて言えば、オレは誰も犠牲者を出したくはないというのがあるからな、
その分、みんなの護衛に専念するぞ。」
「ヨルはカラドックを守りきればいいのですよぉ!!」
「い、いや、ヨルさん、さっきみたいに、敵の出鼻を挫いてくれると・・・」
まあ、そうですよね。
ケイジさんとヨルさんとで、奴らの動きを止めてくれるだけでも十分ですよね。
・・・ちなみに虫オーガたちに、
こないだ覚えたばかりの麻衣麻衣蛾・・・、
じゃなくてマイマイガの鱗粉攻撃は通じるのだろうか・・・。
あいつら、呼吸なんかしなくても襲ってきそうだからなあ・・・。
うりぃ
「麻衣はん、すまんな、
遠隔透視で何も見えんかったの、作者のせいやさかいにな・・・。」