第四百四十五話 最強の一撃
<視点 カラドック>
一方、その間にミュラが駆る金竜が、我々の傍を離れて更なる上空へと舞い上がる。
・・・うぉぉ、太陽の光が眩しくてその姿を捉えきれないけど・・・
360度宙返りを行っているのか、よくあれで目を回さないな、ミュラは・・・。
護衛のドラゴンたちは何とかついていっているけど、騎乗している「聖なる護り手」のみんなは大変なことになっているようだ。
「・・・くぅぅぅぅぅっ!!」
「ぎにゃあああああああああああっ!?」
「ひぃぃぃぃぃぃっ!!」
「漏れる!漏らしちゃうっ!!いやああああああああああああああっ!!」
一人ヤバいのがいるな。
確か死霊使いの女の子だっけ。
状況としては無理もないと思うし、全力で同情するけども、私に出来ることは何もない。
同じパーティーのみんなでフォローしてあげるといい。
「オスカっ! 結界解除だ!!」
「ひ、ひぎぇっ!? わっ、わかりましたぁ、結界解除ぉっっ!!」
「・・・ちょっと待て、あいつ何するつもりだ・・・。」
ケイジが挑発スキルを使って、地上の異形どもが集まりつつある。
とはいえ密集というにはまだほど遠い。
これを片付けるには、まだ私の精霊術やアガサの大規模魔法でも辛いところがあるぞ?
「・・・ひっ?」
そこへ麻衣さんから悲鳴のような呻き声が。
「どうした、麻衣さん!?」
「あっ、え、あっ、あ、あの金色のドラゴンから・・・特大の危険反応が・・・。」
まさかとは思うが・・・
この先の展開が私にも読めてきた・・・。
ミュラが乗っているドラゴンが一度、我々から距離を取るかのように宙返りしたということは・・・。
「ケイジ・・・目のいい君なら、あのゴールドドラゴンがなにを仕出かそうとするのか・・・」
「いや、カラドック、・・・オレも何しようとしているのか、想像がついてきた・・・。
あとはその想像通りになるかどうかで・・・。」
どうやらケイジも私と同じ感想を得たようだ。
そして私達の予想は当たりだよとでも告げるかのように、
その前触れとなる甲高い超音波のような叫び声・・・。
キッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
そのゴールドドラゴンの口がぱっくりと開く!!
私の位置からはもう既に見えないが、そこに何らかの巨大なエネルギーが集約するっ!!
「まさか・・・ブレス!?」
え・・・ブレス・・・?
いや、ケイジ、あれ、そんなレベルじゃ・・・
その瞬間、私達の会話も思考も全てが凍りついた。
「消え失せろっ!!」
私達が存在する空間、いやその世界そのものを切り裂くのではないかという赤熱の光の束が解き放たれたからだ!!
その間、我々の全ての時間は止まったまま!
その光景を黙って見ているしか出来ない。
何が起きているのか、
ミュラの号令と同時に超高熱の光線は大地を縦横無尽に薙ぎ払い、
あれだけいた異形どもがみるみるうちに崩壊・・・いや、蒸発というべきか、
消滅してゆくのだ。
「あ、あれ、ブレスっていうより、
・・・レーザービームって言った方がいいんじゃないのか・・・。」
「あれが世界最強破壊力攻撃・・・」
「ゴジラでしたっけ、キングギドラでしたっけ?
私も直接見たことないから自信ないのですけども。」
「メガフレアですね・・・わかります。」
うん、皆んな会話は成立してないな。
各々の口から勝手に言葉が出るだけだ。
ケイジの言葉は私の耳には聞こえない。
リィナちゃんの言う通り、これまで見てきたどんな攻撃や魔術よりとんでもない破壊力だ。
これなら邪龍も一撃じゃないか?
ラプラスや麻衣さんが口に出した単語は聞いたことあるな?
21世紀の時代の知識なのだろうか。
それより・・・
上空での戦闘は続いているが、
竜人ゾルケトフの指揮も相まって、
かなり優勢にすすめている。
地上は地形ごと壊滅状態だ。
かなりの部分が超高熱で結晶化しているのではないだろうか。
あ、ミュラが戻ってきた。
「どうだい?
なかなかなものだろう。」
あ、こいつ、私に見せつける為にわざわざこんなパフォーマンスして見せたのか。
結構子供っぽい部分残しているな。
「いや、大したものだ。
けど、これ、そのまま邪龍倒せるんじゃないのか?」
そんな美味い話があればいいのだけど。
「残念ながらそうもいかない。
まず見ての通り、ドラゴンたちの巨体では、邪龍の潜むダンジョン内部に侵攻出来ない。」
ああ、それは仕方ないな。
最低でも私たちが邪龍を地上に引っ張り出す必要があるのか。
そして「まず」と言ったな。
「そしてゴールドドラゴンの今のめがふr・・・
いや、ブレスは一度使うと長時間のインターバルが必要なんだ。
最大出力で撃つのにどれ程の時間が必要なのかは、まだ検証出来ていない。」
「ミュラ君、いまの言い直す必要あったんですかね?」
麻衣さんのツッコミは冷静だ。
まぁ、確かにミュラがこっちに転生してからまだ数日しか経ってないんだものね。
それでここまでの戦力を整えただけでも凄い事なのだ。
下手するとこの世界の勢力図を全て塗り替え得ない。
・・・つくづくミュラを敵にしないで良かった。
「・・・まぁうまく、これだけのドラゴンを手なずけられたのは、ゾルケトフの助力のおかげでもある。
・・・あいつが僕の配下のままでいてくれるのは・・・。」
そこでミュラは視線を空中戦を繰り広げている竜人の方へ向けた。
・・・ふむ、
正直あの竜人のことはよく知る機会はなかったが・・・
あいつは魔人クィーンことベアトリチェに仕えていた筈だ。
すなわちそれは、ヨルさんみたいに種族の義務として仕えているわけではない。
何らかの個人的なつながり・・・あるいはベアトリチェの忘れ形見に何らかの義理立てをしているのだろうか。
戦いが終わったら、一度話でもしてみたいな・・・。
あの様子では、鬼人のように自らの 欲求に身を任せて生きているわけではなさそうだしね。
そしてミュラ本人の心の裡は、
竜人にではなく・・・
その竜人を残してくれた自らの母に・・・
たとえそれが意図的なものでなかったとしても・・・。
いや、まだこんな所で感傷に浸っている場合じゃないな。
「なんにしても助かったよ、ミュラ。
おかげで後ろを心配することなく、このまま邪龍の元に行ける。」
「カラドックのことだ、心配はしていない。
だがあの兎獣人の女の子は絶対に守れよ・・・。
もしあの子に何かあったら、僕はお前らを・・・。」
「怖いこと言うね。
だが、ミュラに言われるまでもないさ、
なぁ、ケイジ。」
「当たり前だ。
リィナはオレが守る。」
「・・・君はこないだの・・・
もしかして・・・君が。」
「・・・あ?」
「いや、何でもない、
兎獣人の子はしばらく預けるよ・・・。」
「・・・てめぇ、しばらくも何も」
「ホラホラ、リィナちゃんが困っているから私たちはそろそろ行くぞ。」
私の国王としての勘が、全力でこの二人を一緒にいさせちゃいけないと警告を発している。
リィナちゃんには悪いけど、ダシにさせてもらうよ。
「そうなりますと後はダンジョンへの入り口を探すだけですかな?」
「つまり当てにさせてもらうなら・・・。」
ラプラスは部外者だけに、本来の目的を見失うこともないかな。
もちろん、私たちの次の行動は決まっている。
そこで頼りになるのは・・・
「・・・あたしですね。
でも周りに邪魔がなくなったら感知も楽ですよ。
ラプラスさん、10時の方向に軌道修正お願いします。
あっちの方角からぷんぷん匂ってきます。」
麻衣さんが邪龍のねぐらへの入り口を見つけたようだ。
いよいよクライマックスは近いということだね。
麻衣
「メリーさんがいたら、きっとナウシ〇ごっこをしてたはず!!」
メリー
「一度言ってみたくない?
『薙ぎ払え!!』って。」