第四百四十一話 ぼっち妖魔は何故か勝てない
ぶっくま、ありがとうございます!
<視点 麻衣>
「ううううううううう~・・・。」
あたしとヨルさんは一足先にみんなの所へ戻った。
あの二人はもう放っておいて大丈夫だろう。
ケイジさんの出した結論はあたしにとっても意外なものだったけど、
リィナさんが満足したのならそれでいいと思う。
ん?
ああ、あたしの遠隔透視はちゃんと会話も拾えますからね。
サイレンスかけてても影響はないのだ。
もちろん、それなりに集中が必要だけど。
まぁ、あたしがリィナさんの立場なら「ふざけんな」と言ったかもしれない。
・・・かもしれないけど・・・
さっきのヨルさんの言葉が胸に針のようにひっかかってる・・・。
「真剣に恋をした事ない人にはわからないですよぉ」
むぅぅぅぅぅぅぅっ!
いやあ、真剣に恋したからこそ、自分だけを見て欲しいもんじゃないの?
そりゃ、人によって性格も相性も価値観もバラバラだから、
どっちの立場でもいろんな答えが出て来るのが当たり前なんだろうけど・・・。
おや?
みんなが待っている場所に戻ろうとすると、
あたしの耳に笛らしき音のメロディが聞こえて来た。
うん、間違いなく笛だね。
あ、確かカラドックさんが笛を持ってたはず。
そう言えばあの人の適性ジョブには音楽家があるそうだ。
しかもこの世界にやってきて、自分で笛を作ったとか?
何と器用な王様なのだろう。
・・・どこかで聞いたことある気がする。
日本人のあたしでも知ってる曲かな。
なんか物悲しい、静かな旋律。
確かサビの部分が激しい曲調の筈だけど、
笛だけで再現するのは無理があるんだろう、そこは上手くアレンジしている。
そうこうしてるうちにみんなの元へ辿り着いた。
カラドックさんの笛のおかげで、多少気分は紛れたけど、あたしの不景気そうな顔までは元に戻っていなかったようだ。
ちなみにヨルさんの顔は赤らめたまま。
その二人の表情に、
カラドックさんは笛をやめて、不安そうな表情を浮かべる。
「・・・え、と、麻衣さん、ヨルさん、
ケイジ達の様子を見に行ったと思うけど・・・大丈夫だったのかい?」
演奏を中断させてしまって非常に申し訳ない。
「あっ、は、はい、あっちの二人は心配ないかと!
詳しくは本人たちが戻ってから聞いてください!!
あたしの方は、ホントに個人的に、自分のことなんで心配しないでくれて大丈夫です!!」
「そ、そうか?
なんなら麻衣さんも不安なことがあれば、何でも言ってくれて構わないよ・・・。」
「だ、大丈夫ですからホントに」
「麻衣ちゃん、単純にうらやまカップルみて自分が独り身なのを儚んでいるだけd」
「さいれーんす!!」
とりあえずヨルさんの口は封じておく。
とはいえ、いいかげんヨルさんも、あたしの術の特性は把握している。
あっという間に封印エリアから抜け出られてしまった。
まぁ、それ以上、あたしを追い詰める発言はしないでくれたけども。
だいたい、あたしはこっちの世界でやることやったら元の世界に戻るつもりである。
ならなおの事、こっちで色恋沙汰にはまってる場合ではないのだ。
だから今現在、相手がいなくても問題ない。
むしろ相手を見つけたら問題だらけである。
かっこいいお兄さんや頼りになる人を見つけた所で変な感情を起こしてはならない。
そう、あたしに女性的魅力がないとか、
恋愛に脅えてるとかそういう話ではない。
そう、ないのだ。
・・・まてよ。
そう言えば・・・今更なんだけど・・・
あたしがこの世界で身につけたスキルって・・・
元の世界に戻ったらどうなるんだろう?
あくまで異世界特権として使えなくなるんだろうか?
身体ステータスはたいして変わってないけど魔力だけはもの凄いことになっている。
魔力って元の世界に戻ったら何に使うの?
召喚術・・・は以前から使えてたよね?
あたしの意志で呼んでたわけじゃないけど。
家の中でペットを飼うにはいいかもしれない。
ぱぱは仕事、
エミリーちゃんたちはパートに出てるから、
24時間ペットのお世話をうちでは出来ない。
でもあたしが遊びたい時だけ、召喚術でフクロウや蛇さん達を呼ぶのは有りだろうか。
「この子に七つのお祝いに」はダメだ。
あれを元の世界で使ったら、護身術どころかオーバーキルになると思う。
今のところ「即死」はステータス異常の範疇に入ってないみたいだけど、
死んだ方がマシかと思えるような状態だって起こり得るのだ。
あれが使えるようだったら絶対に封印せねばならない。
・・・封印と言えば、虚術。
アレは便利だと思う。
人に危害を加えないというのが何よりもいい。
もしあたしが暴漢に襲われたら、
周りを真っ暗にして逃げちゃえるのだ。
そう、それはいいのだけど・・・
封印。
実は虚術・・・第五の術は既に明らかになっているんだよね。
恐らく最後の術と言えよう。
そしてその術をゲットできるスキルポイントも溜まっている。
・・・けれど何故か取得できない。
あたしのステータスウィンドウにはグレー表示のまま、
それにタッチしても「封印中」としか表示されてないのだ。
ジョブを鑑定士に変えてその表示をいじくっても何も変わらない。
何か条件が必要なのだろう。
この期に及んでまだ何かあるのか。
まあ、いつまで考え込んでても仕方ない。
とりあえず、話を切り替えよう。
「カラドックさん、さっきの笛ってあたしも聞いたことある気がするんですけど有名な曲です?」
タバサさんもアガサさんもうっとりして聞き惚れていたね。
ラプラスさんもどうやら知ってる曲だったらしい、視線をカラドックさんに移しながら頷いている。「異世界の知識」恐るべし!
「ああ、別の世界でも流行っていた曲は一緒なのか。
私の世代よりずっと昔の曲だけどね、
『天国への階段』ってタイトルさ。
麻衣さんのお父さんくらいの世代なら知ってるんじゃないかな?」
おお、そういえば聞いたことあるぞ?
でもきっとだけどパパより前の世代じゃないかな?
「私自身の経験ではないのに、聞くと思い出せるというのは不思議な感覚ですな。
先ほどからいろいろカラドック様にリクエストしていたのですよ。」
ラプラスさんにはどれだけのあたし達の世界の知識があるのだろう?
それにしても自分の経験じゃないのに知識があるってのも、想像しにくい感覚だなあ。
何か例えられる感覚はないものか?
既に今の曲の前に、
キングクリムゾンとかジェネシスとかいうのを吹いていたらしい。
知らないなあ。
なんかアニメで聞いたような単語だと思うけど。
この場にメリーさんがいれば詳しく解説してくれたろうか。
あたしも何かリクエストしてみようかな・・・
と言ってもさすがに外国の有名な曲と言われてもピンと来ないな。
聞けば思い出すのもあるかもしれないけど。
いや、待て。
そもそもこんな落ち着いてていいのかしら。
確かに茂みの向こうで繰り広げられているであろう、イチャラブ展開よりかは遥かに健康的だとは思う。
でもあたしには、
何か重大な問題があったはずだぞ?
あとは・・・そうだ、
今現在あたしの最大の悩みと言えば・・・
ちなみにフラアのキャラ作成のきっかけは、
キングクリムゾンのムーンチャイルドのイメージと、
ジェネシスのフォックストロットの中で
ピーターガブリエルが「a flower」
と呟いた所から生まれました。