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第四百三十九話 堂々巡りの果て

<視点 ケイジ>


そ、そんな、まさか


オレの返答を待たずにリィナは説明を続ける。

 「あたしがベアトリチェに見せられた悪夢はそういうことさ。

 あたしは・・・、

 リィナはあくまでこの世界のあたし。

 例え同一人物だとしても、ケイジの前世のリナじゃない。

 でも、ケイジがこの世界に転生してきたように、リナだってこの世界に転生しているかもしれない。

 ・・・そうしたらケイジはどうする?

 あたしを置いてリナを抱きしめる?

 何十年ぶりになるかは知らないけど、感動の再会を果たすわけだ。

 そしたら、さっきケイジが言ってくれたように、

 リナとずっとこの世界で暮らすの?

 答えて、ケイジ、

 お前はどっちのあたしを選ぶんだ?」



オレの頭が真っ白になる。

オレは自分がそんな頭が悪い方だとは思ってない。

多少、他人の心情に思いを至れないところもあるとは自覚してるが、

処世術でも戦闘でもそれなりに色々な修羅場をくぐり抜けてきた筈だ。


けれど


あまりに想定外。


だってそんな現実あるはずがない。

有り得るはずがない。

自分自身が同時に二人存在するなんて。



でもこの世界なら出来てしまう。


実際もし、メリーさんの転移が、

百年かそこらずれていたら、あの人はこの世界の自分自身に会っていたかもしれないのだ。


そして、

もしこの世界にリナが転生していて、

この世界にもともと生きてるリィナとまだ会っていないだけというならば。

いや、そこは、オレとまだ会ってないならば、と言うべきなのだろうか。



 「わかっただろ、ケイジ、

 あたしにも覚悟がいるって意味が・・・。

 よく考えてくれケイジ。

 別に可能性の一つだからさ、

 現実にそんなことは起きないかもしれないし、

 今この場であたしに気を使った言葉でやり過ごしてもいいんだぜ?

 ・・・まあ、あたしの耳を誤魔化せるかどうか知らないけどさ。」


 「い、いや、けど、なんで・・・いま、この場で」


オレの純粋な疑問こそが、

リィナにとっての地雷のスイッチとなる。


 「だからさ!

 あたしの心の中はぐちゃぐちゃなんだよ!!

 ケイジはあたしを大事にしてくれるって言った!!

 でもそれはリナがいない前提での話だろ!!

 ここまで!

 ここまで二つの世界の人間たちが重なりあって、あたしが例外だなんて誰が保証してくれるんだよ!?

 どれだけ考えてもどれだけ悩んでも答えなんか出ない!

 あたし一人の問題の筈なのに、あたしだけじゃ答えを見つけられないんだ!!

 だからお願いケイジ!!

 あんたの口から答えを出して欲しい!!

 あたし一人じゃ・・・

 あたしだけじゃもう耐えられないんだよ!!」


 「覚悟、ってそういう、ことなのか・・・。」


 「ああそうだよ!!

 この件で言えばあたしとケイジは対等だ!!

 お互いを選ぶ権利もあれば拒絶する権利もあるよな!!

 もちろんここまであたしを大事にしてくれたケイジには感謝してるし、この後、どんな答えが出たにしても一緒に邪龍を倒しに行くさ!!

 でも、でも答えを出さずに、

 このままなあなあの関係で進むのだけは嫌なんだ・・・。

 何も・・・この先の未来がなんにも見えないのに、足を踏みだせ、なんて・・・

 酷い、酷すぎる・・・

 お願い・・・答えを出して、ケイジ・・・

 それが、どんなものでも受け入れるから・・・。」


なんてことだ・・・。




真っ白な頭の中で幾つかの選択肢が浮かぶ。


そんな不確かな未来は絶対に起きないと考えて、

リィナを、今この場にいるリィナと添い遂げると。


そう答えるのは簡単だ。



・・・絶対にそう言い切れるか?

ましてやあまりにも不誠実過ぎると思う。

ここまで散々苦しんできたリィナに対して、

そんな思考放棄とでも言えるような答えを出して。


すぐに別の考えが浮かんだ。

奇策、なのだろうか。


ミュラ。

あいつをこの関係の中に入れれば収まりがいいのではないか?


・・・いや、


いや!

いやいやいやいやいや!!

何の解決にもなってない!!

オレとミュラとでリナとリィナ、どっちを選ばせる気だ!!


他に、

他に手はないのか?


あ、これはメリーさんの思考に近いか?

更なる登場人物を。


そ、そう、そうだ。

オレが転生者として、

この世界に本来居るはずのもう一人のオレが実は居るとか?


これも・・・


あああああああああああああ、余計混乱するだけだろっ!!

確かに全員、オレとリィナだけだ。

ミュラを介入させるよりいいだけで、

既に互いの関係がねじくれまくってる。


誰だ!?

オレを、この世界に転生させた奴がオレらの幸せを願ってるとか言ってた奴は!?

あ、オレか!

ちくしょう、一時でもそんな考えに陥ってた自分に腹が立つ。

絶対愉快犯だろ!!

あいつか!? 黒幕はやっぱりシリスか!?


いや、今はそんな事どうでもいい!

まず目の前のことを考えないと。




ところが突然、リィナの態度が変わる。


 「・・・あ、そ、そうだよな。

 ケイジにしてみれば、そんなぐちゃぐちゃな状況、いきなり突きつけられて・・・」



情緒不安定な、

いや、オレがめちゃくちゃ混乱してしまったせいもあるのだろう、

でも、けれど、だって・・・

何が正解なんだ・・・

オレは、オレはどっちを選択すればいい・・・。


 「い、いや、リィナの言ってる事はよく分かる。

 確かにそれは先延ばしにしていい話じゃない。

 リィナがオレにどっちを選ぶのか、問い詰めるのは当然のことだっ・・・。」


そこまでは当たり前の話として受け入れられるんだが・・・


オレは頭を掻きむしる。

答えが出ない・・・!

どうすればいい?

別に時間に追われているわけでもないが、

さりとて、このままいくら考えても満足いく答えが出るとも思えない。



そんなオレに対し、リィナは非難するでも文句を言うでもなく、

ただただ悲しそうな表情を浮かべるのみ・・・。


 「・・・やっぱり言うんじゃなかったのかな、

 あたしが想定してたのはさ、

 ケイジがその場しのぎであたしを選ぶって言ってしまうのか、

 そ、それとも、あり得ないと思うけど、

 もしかして、万が一、リナを選ぶっなんて言われたらってことだけで・・・

 お前が、そんなに悩み苦しむって考えてなくて。」


いや、オレのことはどうでもいいんだ。


冷静に


努めて冷静に考えれば、

恐らく今のリィナは、心のうちに秘めてた苦しみを一気に吐き出して、

精神的にはかなり落ち着いたように見える。


けれどそれは一時凌ぎ。

問題は全く解決していない。

本当にそんな未来が訪れたら、

オレたちにどんな運命が待っているのか予想だに出来ない。


いや、予想したくないんだ。


何を選択しても誰かが悲劇を迎える。


・・・いや、オレの思い過ごしという考え方は?


さっきは反射神経で否定したが、

リナかリィナか、一人をミュラに預けることは・・・


もちろん激しい修羅場が訪れるだろう。

オレも五体満足で生き永らえる保証はない。

ただ、

カラドックに言われたんだったか、

幼い頃から一緒に過ごしたというだけで、

そのまま終生共に過ごすなんて、

本来滅多にいないんだ。

男女の別れ話なんて腐るほどある。


案外、別れたら、昔の男は綺麗さっぱり忘れ切るなんてのも珍しくは




それを・・・


リナと?

リィナと!?



オレに


そんな選択が出来るのか?




ダメだ・・・考えがまとまらない・・・。


こんなもん・・・

リィナの妄想・・・有り得ない未来、有り得ない現実として一刀のもとに切りすてた方が・・・


いや、その妄想を消すことが出来ないからリィナは苦しんでるわけで



ああ、堂々巡りか、さっきも同じようなこと考えてたぞ。

リィナがずっと悩んできたのは当然だろう。


こんな心理状態で邪龍みたいな半端ない敵と戦えるわけもない。

その意味でも、リィナがこの状況にケリをつけるタイミングは今しかなかったという訳だ。


オレは今一度リィナを見上げる。

答えが出たわけではない。

リィナもそれが分かっている。

そしてこんな難問をオレに突き付けたことに対して、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


 「リィナ・・・。」

 「う、うん・・・?」


オレは救いを求めるかのようにリィナを抱き寄せる。

前もこんなマネをしてしまった。

本当にオレは成長しない。

ただ今回については前回と状況が違うせいか、

彼女は戸惑いつつも、オレの元に身を任せてくれるが・・・。


オレも自分自身のこの動作に意味があるとは思えなかった。

ただ・・・何か状況を変えれば、

何かの刺激でもあればいいアイデアでも・・・

いや、ただの現実逃避みたいなマネだったのかもしれない・・・。


リィナの息が顔にかかる。


 「ごめん、ケイジ・・・。

 今の話は忘れてよ・・・。

 みんなにはあたしから謝っておく・・・・。

 言い訳も適当に考えておくからさ。」


 「い、いや待て、リィナ、お前は悪く」

 「大事な戦いの前なのに、あたし自分勝手にこんなことを・・・

 どうせならもっと幸せなことを考えないとな、

 タバサとアガサの話、聞いた?

 あの二人、ホントにエルフ界の社会を変えるつもりだよ?

 すげーよな、

 カラドック達が帰って、あたし達二人だけに戻ったら、

 冒険者から足を洗ってもいいよね?

 報奨金はたっぷり貰えるだろうし・・・。

 あ、そうだよ、さすがにもうその頃にはあたしが奴隷でいる必要ないよね?

 普通の平民になれれば、ケイジとだって・・・。」



オレだって何度その未来を夢見た事か。

リィナと一緒にいられれば、別に獣人の社会的地位向上だってどうでもいい。

オレたちの功績を勝手に持ち上げて、社会運動する奴だって湧いてくるはずだ。

もう全部そいつらに任せちまおう。


ぷっ、

あれだけ偉そうに獣人差別を語っておいてな・・・


全くオレって奴は最低・・・



待てよ?


実はオレ・・・最低だった?



 

次回、一つの回答が出ます。


そして次回!

麻衣ちゃんとヨルの仁義なき対決です!!

勝つのはどっちだ!!


・・・また下書きが尽きる・・・。

明日明後日の連休でどこまでできるか・・・。

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