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第四百三十六話 母は強し

<視点 ケイジ>


 「いや、それは・・・」


いくら麻衣さんとは言えあまりに無遠慮、

オレの過去と心に土足で踏み入るような・・・

いや、思考停止するな。

彼女の発言の真意を・・・


 「あたしはケイジさんの過去は視てません。

 あくまで今まで聞いたお話の感想ですけどね。」


え、それだけ、なのか?


 「ちょ、ちょっと待ってくれ!!

 感想って・・・何を根拠に!!」


見もしないくせにどうしてそんなはっきり言えるんだ!?


 「あたしはご覧のとおり、ただの女子校生です。

 けれど、元の世界でもこっちの世界でも、何人かのとても強いお母さんを見てきました。

 知り合ってきました。

 ケイジさん、アスターナさんを見てどう思いました?

 あの人がメリーさんの話を聞いて・・・

 異世界の自分が、その命を投げうってまで、自分の子供を生かした話を聞いて、

 本当に嬉しそうにしてましたよね?

 アスターナさんなら、こっちの世界で同じ運命が待ってたにしても、

 自分が死ぬことで娘を生かせることが出来るなら、喜んで命を投げうったんじゃないですかね。」



 「・・・それは・・・。」


 「ちょ、ちょっと麻衣ちゃん、それは・・・。」



 「あっ・・・。」


リィナが何を言いたいのか分かる。

魔族シグとの戦いの時に、

オレが自分の命を犠牲にしてでも彼女の命を助けようとしたことを、リィナは咎めていた。

いま、麻衣さんはその逆の話をしてしまったのだから。


けど・・・どっちの言いたい事もオレは分かってしまう。

オレだって、同じようなことが起きたら、何度だってリィナを助けるだろう、

自分の命を使ってでも。


助けられなかったのなら、後にオレだけ生き残ってもその先に待ってるのは激しい後悔だ。

だが、助けられるのだとしたら、この命など惜しくない。


けれどまた、残された方には・・・。


 「ケ、ケイジさん、ごめんなさい、うまく言えなくてっ!

 でもあたしが言いたかったのはっ・・・!」


 「ああ、ベアトリチェも・・・母さんも、おふくろも・・・

 幸せな最期だった・・・ってことか。

 やり直し、なんか必要ない、って言えるほどに・・・。」


けど、残された方は・・・。



 「・・・そりゃ、生きていてくれた方が嬉しいに決まってます。

 もっと幸せな道だってたくさんあると思います・・・。

 けど、

 世の中、理不尽なことなんてたくさんありますよね・・・。

 あたしたちが、天使や・・・神様とちょっと縁があったっていうだけで、

 人生のやり直しがきくって考えるほうが、身の程知らずの贅沢な願いかなっとも思うんですよね・・・。」


まぁ、・・・そりゃあ、そうなんだが。


これがオレらのことを全く知らない第三者なら、

或いはぬくぬくと平和な世界でのんびり暮らしてる女から言われたなら、

今の話を全てひっくり返していただろう。



けど、確か麻衣さんは


 「・・・麻衣さんは、お母さんに逢いたい、とかは・・・。」


母親を失っているのは麻衣さんも一緒だ。

しかもそんな昔の話じゃないらしい。

ついこないだまで、麻衣さんはその母親の死を認められなかったとも言っていた。

その気持ちは痛いほど分かる。


なら、オレの感情だって麻衣さんには他人事でないはず・・・。


 「もちろん逢えるものなら逢いたいですよ。

 あたしが不用意に危険な物に近づいてしまったが為に、ママとは二度と逢えなくなってしまったんだから。」


 「その話って・・・さわりは聞いたような気がするけど」


どこで聞いたんだっけか、

あれは鬼人と戦った時の事か。


 「どこまで話しましたっけ?

 ケイジさんの向こうのお父さんに、

 殺人鬼と一緒の空間に閉じ込められたって話はしましたよね?」


あれ?

それはまた別の場所で聞いたような気もする。


 「あ、ああ、そうだったな。」


とりあえず話の腰を折らないようにしよう。


 「ターゲットはあたしじゃなかったはずですけど、思いっきり巻き込まれました。

 そこであたしは余計なマネをしでかして、悪霊に取り憑かれたんです。

 正確には取り憑かれたっていうより、感染したってとこですけどね。」


 「あの、イザークみたいなヤツか。」


 「もっと恐ろしいものです。

 何よりも妖魔であるあたしとメチャクチャ相性が悪かった。

 悪霊は自分の実父に歪んだ愛情を持っていて、愛してるから殺さなければならないなんて訳の分からない強迫観念に身を焦がしていたんです。」


な、なんだ、そりやっ!?


 「えーと、これ話したっけか、

 あ、そうそう、世界樹の女神さまのところで喋った記憶あるから大丈夫ですかね、

 ケイジさん、

 本来、あたし達妖魔リーリトの種族は自分達の正体を隠す為に、夫を殺す風習があったって話したの覚えてます?

 やだなぁ、怯えないでくださいよ、もう。

 だから、あたしも、殺さなきゃ、

 大好きなパパやママの体を何度も何度も包丁で刺さなきゃならないなんて、あの時は思い込んでいたんですよ。」


 「ど、どうやったらそんな思考になるんだよって!?」




 「え?

 だって大事な大好きな家族ですよ?

 愛してるなら殺せますよね?」




挿絵(By みてみん)


ん?

 「あ、え、ちょ、ま、麻衣さん!?」

 「麻衣ちゃんっ!?」


麻衣さんの様子が一変した!?

まるで人格が変わってしまったかの様・・・い、いや、一瞬そう見えただけ?

元に戻ってる!?


 「あ、・・・大丈夫です、大丈夫です。

 あくまで当時の思考です。

 ああ、気持ち悪い、ちょっと思い出しちゃいました。

 もう免疫ついてますから心配いりません。」


ほ、本当か?

なんか思いっきりヤバくないか?

さっき殺せるって言った瞬間、気味の悪い笑顔が張り付いていた気がするんだが。




 「あ、えっと話戻しますね?

 そんな状態で精神病院に閉じ込められてる間に、ママはメリーさんのカラダを使って、

 悪霊の本体を切り裂きました・・・。

 多分、他人からの恨みや憎しみなんて本来の力は流入してなかったんじゃないですかね。

 ママ個人の意志の力だけで悪霊に立ち向かったんだと思います。

 向こうは同じく感染した人間達を集めて、拳銃やら、ショットガンやらで人形のカラダを破壊して・・・」


・・・うぇ


 「もし、周りからメリーさん本来のエネルギーを吸収していれば、人形の再生機能も働いて、ママは死ななかったかもしれません。

 けれど、器を破壊されればどこかの時点で、魂は定着できなくなる。

 あたしを助ける為に、ママは・・・」


 「・・・辛いことを思い出させて済まない。

 けど、本当に強いな、母親って。」


 「そう思いますよ。

 あたしがあんな軽率なマネをしなければ、

 もう一度やり直せるなら、と思わないわけじゃないんですけど、ママの生き方や、その最期は、あたしにとって消すことの出来ない土台というのか、幹っていうのか、あたしの中の大事な部分になっているんですよ。」


まさしくオレとは全く考え方が違うのかもしれない。

けれど、麻衣さんの考え方は理解できないわけじゃない。

やっぱり麻衣さんに話を聞いて良かった。





 「さて、そこでケイジさんに更なる追撃です。」


え?

まだ何かあるのか?

 「い、いったい、な、何の・・・?」


 「実はかなり前からケイジさんにはイライラしてたんですけどね?」


ええっ!?


 「す、すまん、オレに何か至らないことがあったなら・・・」


 「問題はあたしに謝ることじゃないって話なんですよ。」


あ、え? え? ・・・?


 「いま、あたしも自分の話だったんで一気にばーって喋っちゃったんですけど、その間、リィナさんが居心地わるそーにしてたの気付いてました?」


 「あ、麻衣ちゃん、それ・・・。」


え、あっ?


 「リィナさん、ごめんなさい、

 本来あたしが言うことじゃないんですけど・・・。」


 「あ、いや、いいんだよ、

 あたしだって覚悟ができないから、今まで言い出せなかった部分もあったから・・・。」


リィナと麻衣さんは話が通じているようだ。

けどオレには何のことやら・・・


 「すまん、話が見えないんだが・・・」


 「でーすーかーらーねー!

 あたしやケイジさんのお母さんの話ばっかしてたら、(ご両親のいない)リィナさんの立場がないでしょうにぃ!!

 言わせないで下さいよー、もお!!」


しまった・・・


オレは何も考えられなくなった。

できることは誠心誠意を込めた謝罪!


リィナの前で頭を地に擦り付けた土下座、

それしかない。


流石に他の連中も何をやっているのか、とこっちに視線を向ける。

後で正直に言おう。

オレと麻衣さんの母親の話に集中して、リィナの心情に気を回せなかった、という部分だけ。


 「いや、いいんだ、ケイジ、

 その代わり、近いうちに二人っきりで話をしたい。」


ガクガクガクガク・・・


 「あ、怯えなくていいよ、

 ていうか、勘違いだよ。

 麻衣ちゃんの話とあたしの用は直接繋がってる話ってわけじゃないんだ。

 ただ、その話はあたしにとっても覚悟がいる話でさ、

 ケイジの答えによっては、あたしが二度と立ち直れない状況になるかもしれないんだ・・・。」


え、それってどういうことだ?


 「え、リィナさん、それじゃリィナさんが・・・。」


 「せっかく気を遣ってくれたのにごめんね、麻衣ちゃん。

 それこそ、あたしが強くならなきゃならない話だからさ、

 やっぱりあたしとケイジでケリつけないとならないって思うんだよね、

 邪龍との戦いの前に。」


な、なんの話になってるんだ?

まさか、オレと一対一の決闘とか言い出さないよな?

そんな前フリなかったよな?


 「わかりました、

 どんな結果がでるにせよ、あたしはリィナさんを応援しますからね・・・?」


 「うん、ありがとう、麻衣ちゃん・・・。」



 

麻衣

「もらい〇ろみたいなもんですよ。

思い出したら一瞬そんな気になったっていうだけで・・・。」


ホントに大丈夫・・・?

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