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第四百三十五話 母の死

<視点 ケイジ>


そしていよいよ話題は、

メリーさんがとても大事にしていたという女の子の話になる。


 「核心的なのは、黒髪の子ですよね、

 あの子は実の両親にも会えてない。

 元の世界でも、自分を産んだご両親の姿を一度も見てないそうですね。

 メリーさんの言う通り、もしこの世にあの子が生まれていたなら、

 メリーさんに会えるどころか、それこそあの暖かい家で幸せな家族に囲まれていたと思うんですけどね・・・。」


なんでも、その子はカラドックの遠い子孫だという。

まぁ、オレと血が繋がってるかどうかは大した話じゃない。

普通に他人の話として聞かされても切なすぎる。


 「あれは・・・オレが聞いても酷いと思う・・・。

 その上、邪龍に食われていたなんて・・・。」


 「ちょっと待ってよ、そしたら幸せなんてどこにあるのさ!?」


途中でリィナも口を挟んできた。

もちろん彼女の指摘は真っ当な物だ。


 「あ、ああ、少なくとも黒髪の子には何にもないな、

 けど、アスターナさんは少しは慰められたって話だったよな?」


だが、麻衣さんはオレの甘すぎる希望的観測を許してくれない。


 「・・・どうでしょうかね、

 その後あの子が邪龍に食われたという話を聞いて、また落ち込んでいたようでしたよ・・・。」


う、そ、そうだったな・・・。


あの館から離れる出発間際、

一応、パーティーリーダーとしてオレ、

そして勇者としてリィナの2人で

アスターナさんに「仇は必ず取る」と言った時、

あの人はオレとリィナ2人ごとしがみつくかのように泣き崩れていた・・・。



あれが・・・人の親・・・。



 「やっぱり、オレの考えが見当外れなのかな、

 いや、おふくろのこともあるし、最初から考え違いをしている可能性自体は考えていたんだが・・・。」


 「そういえば、ケイジさんのお母さん、

 その、つまり元の世界の加藤さん、でしたっけ、

 その人と、この世界の獣人のお母さんて同一人物なんですか?」


 「・・・それこそその可能性がないとは言わないが、

 オレは完全な別人と思ってる。

 なんていうのかな、嗅覚とは別の話なんだが、匂いが違うって言うのか・・・、

 外見だけじゃなく、性格とか行動パターンも前の世界の母さんとは全て違うと言わざるを得ない。

 まぁ、アスターナさん達の家族のことも然り、別の世界の人間関係がこっちで必ずしも再現されているわけじゃないってことを考えると、それ程不自然じゃないのかもしれない。

 ていうか、それこそ、オレの祖母だったり、或いはこれから生まれる娘として、向こうの世界の母さんが生まれてくるかもしれないし。」



 「・・・その可能性もあるか・・・ってことですね。」


可能性はある。

けどな、そんな美味い話もないような気もするんだよな。



 「ケイジさん的には・・・

 あたし達が転移してきたのは、自分含めみんなの幸せを取り戻すためって考えたいんですか?」


お、そうそう、本来その話をしたかったんだ。


 「・・・む、いや、やはり転移者の最終目的は究極的には邪龍の排除だろう。

 けれどそこに至るまでに、副次的に・・・言葉は悪いかもしれないが、ついでにみんなが幸せになってくれたら・・・、

 いや、これは麻衣さん達を送り込んだ奴の意図というよりも、

 麻衣さんやカラドックのおかげと素直に認める方スッキリするのかな。」


 「あたし、別に人助けしているつもりないんですけどね。」


居心地悪そうだな。

単に照れ隠ししたいだけのようにも見える。


 「なら余計に、麻衣さんのおかげさ。

 考えるより先に、みんなを助けているってことなんだから。」


おっ、麻衣さんの顔が赤くなったか?


 「むぅう、・・・またこっちが反応しにくいことを・・・。

 じゃあ意地悪するつもりじゃないですけど、

 ちょっと反論していいですか?」


 「あ、ああ、元々麻衣さんの意見を聞くために来てもらったんだからな。」


 「まず一つなんですけど、

 たぶん、こっちの世界にあたしたちを送った人たちは、

 みんなが幸せになればいいとかは、考えてないと思うんですよね。」


 「へぇ、その根拠は?」


 「根拠っていうか、むしろ以前、ケイジさんも女神さまに言ってましたよね?

 『やり直し』するために転生したり、転移させたりとかしてるんじゃないですかね?」


 「あ、え? やり直し・・・?

 いや・・・あ、確かに言ったな?」


あれ?

っていうか・・・


 「確かに言った覚えはあるけど、

 オレの前に麻衣さんがミュラに言ったんじゃなかったっけ?」


 「あ・・・、そ、そうでしたっけ!?

 そう言えばそんな気も・・・。

 じゃ、じゃあ今のやり取りは無しで・・・。

 えっと、やり直し、ってことは、自分の後悔とか、思い残したことを清算するためとか、

 確かにそれで幸せを追求することもできるんでしょうけど、

 目的の方向性が少し違うのかなって・・・。」


 「そうか・・・ベアトリチェとミュラは親子として正しい関係を取り戻すため、

 オレはリィナを救うために、

 ハギルやアスターナさんたちは、異世界の記憶がないからやり直しって言うのは違うが、

 それを知っているメリーさんにしてみれば、やり直しみたいなものなのか・・・。」


 「肝心のメリーさんが会いたい人とすれ違いになってるんですけどね。」


 「すれ違いっていうか、完全に会えないよな・・・。」


 「もっとも、黒髪の女の子のほうは、メリーさんに会いたいんですかね?」


 「えっ? それはどういう?」


 「・・・話聞いてると、メリーさん、人間の時にかなり酷い事してるみたいですからね、

 本人は謝罪とかしたいのかもしれませんけど、被害者の方からは顔も見たくないと思ってるかもしれません。」


 「あ、そういうこともあるか・・・。」


そうだよな。

幸せっていうか、人の望みなんてそれこそ十人十色。

建設的な生き方を望む者もいれば、

逆に復讐を望む者だっているかもしれない。


 「さて、ここでケイジさんに真の意地悪です。」


 「えっ、ここからなのかよ!?」


 「・・・ただ、これは・・・あたしから見ても意地悪いというか残酷な意見なのかもしれませんけど・・・。」



 「な・・・なんだ、覚悟はするぞ・・・。」


 「これ、ケイジさんにとって、とてもデリケートな話なんで、怒られるかもしれないんですけど、怒らずに聞いてくれます?」


 「あ、ああ・・・わかった。

 いったい・・・。」



 「さっき、ケイジさん、二人のお母さんのこと話して・・・

 助けられやしなかったのかって話してましたけど・・・。」


 「その話か、ああ、なるほど・・・。

 大丈夫だ、怒らないよ・・・。」


確かにオレにとってはデリケートな話題だ。

麻衣さんが気にするのは当然だな。

だがいったい?


 「わざわざ、転移者呼んでお母さん助ける必要あると思います?」


 「・・・あ?」

 「麻衣ちゃんいくらなんでもそれは!!」


流石に今の言い方は神経が逆立った。

リィナにだってわかるだろう。


 「ごめんなさい、やっぱり怒りますよね・・・。」


 「怒りはしないが・・・何か意図があってそんな話をしたんだろう!?

 いったいどういうことだ!?」


 「さっき言った話ですよ・・・。

 やり直しをする為に転生なり、転移者呼んできたりって話・・・。

 ケイジさんのお母さんの死に・・・

 やり直しをさせる意味ってあるんですか?」


 「麻衣さん、・・・オレがどこまで怒らずに耐えられるのか試したいって言うのか・・・。」


 「ああああ、ごめんなさい、

 挑発的に言っちゃったのは謝りますけど・・・。

 落ち着いて聞いてください!

 ベアトリチェさんの時を思い出してくださいよ!!」


 「ベアトリチェの・・・?」


 「あの時、見ましたよね!?

 ミュラ君と再会して、あの子と親子の情を取り戻して!!

 例え死の淵だったとしても、ベアトリチェさん本当に幸せそうにしてたじゃないですか!!」


 「え、あ、いや、それはわかるが・・・。」


 「ケイジさんのお母さんはどうだったんですか?

 前の世界と、こっちの世界と・・・

 お二人に違いはあるのかもしれませんけど・・・どっちのお母さんも満足してお亡くなりになったんじゃないですか!?」




なんだと・・・。


 

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