第四百三十話 ぼっち妖魔は覚悟する
ぶっくま、ありがとうございます!
<視点 麻衣>
麻衣です。
夜が明けました。
おはようございます。
良い天気です。
表は寒そうですけど。
ええ、この辺りもすっかり冬なんですね。
・・・え?
なんか文体が白々しい?
い、いえ、まぁ、
皆様もある程度事情はおわかりかと・・・。
昨晩何が起きるかはある程度予想してましたよ。
もしかしたらあたしの想定を超える事態が起きる可能性もあったんだけど、
そこまであたしの危機察知能力は警鐘を鳴らさなかった。
・・・第一、疲れてたしね。
豪勢なお客様用のお部屋に案内してもらった後はすぐに寝ちゃったんだ。
だからメリーさんと肖像画のお爺さんとで、どんなやり取りしたかは知らない。
知りたくも・・・ない。
今現在、起き抜けに遠隔透視しても、メリーさんも無事だし、
肖像画の霊も落ち着いているように見える。
・・・深く観察はしないからね!
パッと見るだけ!
うん、多分とんでもない事態は起きてない。
そう思うことにする。
・・・昨夜については。
ただ、なんか・・・、
胸騒ぎすんだよね。
もしかしてこれからこの屋敷を出発しようとする矢先に何か起きるっていう事なのか。
そういえば世界樹の女神さまの予知シーンはまだ訪れていない。
あの人の能力がどれほどのものか分からないけど、
仮にも「女神」の称号を持つ人の能力が外れることはないだろう。
・・・今のうちに覚悟しておくか・・・。
先に良い話をしておこう。
ヨルさんが元に戻った。
昨晩のことはほとんど覚えていないらしい。
本当に良かった。
もう二度とあの術を仲間の人には使うまい。
食堂では昨夜のメンバーに加えてハギル君が復活していた。
朝食のような軽いメニューなら大丈夫だろうとのこと。
本来は、従者の身分なのでアスターナままたちと同じテーブルに着くことは出来ないのだけど、まだご褒美タイム続行中なので、マデリーンちゃんの隣で彼女の世話をしながら一緒に朝食を共にすることになった。
昨日はバタバタしてたので、ハギル君は改めて治癒魔法をかけてもらったタバサさんにお礼を言う。
うん、普通に謙虚で礼儀正しい男の子だね。
メリーさんの中の人が大事そうに抱きしめてたのも頷ける。
「お礼を言うなら麻衣にも一言。
あの子が少年の右腕を見つけてこなければ、私でも腕を生やすことは不可能。」
ぶっ!
タバサさんがこっちに振って来た!!
「麻衣様、あ、ありがとうございます!
おかげで以前同様の生活が送れます!!」
「い、いいよ、いいよ、そんな気にしなくて!
それにカラドックさんにも手伝ってもらわなきゃだったし!!」
そのカラドックさんは手を上げてにこやかに「気にしないで」アピール。
うーむ、礼儀は大切だと思うけど、お礼ばっかってのも不毛なやり取りだと思うんだよね。
するとそこへアレンという爽やかお兄さんが話題を変えてくれた。
「昨日の戦いでかなりレベルアップしたんだって?
機会があったら僕らのパーティーに臨時で参加してみるかい?
オルベと二人で撹乱系のアタッカーとしていい連携が取れるかもしれない。」
「えっ、そ、そんなオレなんかがっ?」
「まぁ、ハギル!
素晴らしいお話だわ!!
マデリーンの護衛の為にも少しお勉強するのもいいと思うわ!」
さすが女性とは言え武門の名家の領主。
旦那さんのクリュグぱぱも、剣術が得意と言うからアスターナままも強さに憧れを抱いているのだろう。
あっ、
そう言えば冒険者ギルドに登録するのは13才からと言ってたっけ。
なら丁度いいのかな?
多分作者さんも忘れて・・・いえ、なんでもないです。
・・・和やかな時間である。
でもとても白々しい。
昨夜はあれだけメリーさんに質問が集中していたにもかかわらず、
今朝はまるでメリーさんがここに存在しないかのよう。
あたしも他人のことは言えない。
昨夜のうちに絶対に何かあったはずなのだから、それを聞いておくべきなような気もするのだけど、
今朝はあたしも視線すらメリーさんに送れない。
勘のいいメリーさんは絶対それに気づくし、スルーもしないはずだ。
そして恐らくアスターナままも似たようなことを感じているのだろう。
昨日のハイテンションとはどこか違う。
全てがわざとらしい。
・・・そしてこのまま終わる筈もない。
あたし達はこのあと、屋敷を後にする。
けれど未だに女神さまの視た光景は訪れていないのだ。
予知が確実なら、この朝食の後に何かが起こる筈・・・。
そしてついに・・・
みんなの会話が途切れる瞬間が訪れる。
メリーさんが・・・その隙を逃すはずも・・・ない。
「ちょっと、いいかしら?」
きたーーーーっ!!
「は、はい、メリーさんどうしました?
昨夜はよく眠れました!?」
「意味のない社交辞令は不要よ?
それよりアスターナには少し確かめたいことがあるの。」
「はっ、はい、なんでしょう・・・?
まっ、まさかご先祖様がまた不埒な・・・。」
「それは否定しない。
ただ朝からするような話でもないし、小さい子もいるからね。
それに本題とはかけ離れた出来事だから、今はどうでもいいわ。」
「ああ、あの人はまた・・・。
あの絵を暖炉に焼べておいた方が良いのでしょうか・・・。」
「一考する価値はあるわね。
・・・ただまぁそのおかげで、私が忘れていた人間時代のことをいろいろ思い出す事が出来たのよ。」
そういうのも怪我の功名というべきなのか、
よく、犬に噛まれたと思って諦めろと言うのは・・・。
「そ、それは何よりで・・・。」
「それで、色々考えてみたの。
この屋敷には、私が前世で関わったザジル・・・ハギルがいる。
もう死んでいるけど、もう一人の私、エリザベートとイザークまでいる。
こんな偶然あるのかしら?
・・・という話は昨夜もしたわよね?」
「あ、は、はい、覚えておりますよ・・・。」
「そう、良かったわ。
それと・・・私には前の人生で心残りのようなものがある。
ハギルもそうだけども、彼に会えて私の心は少し軽くなった。
正直、ウザークのことは余計に思うけども、ハギルに逢えただけでも良かったと思ったわ。」
メリーさん、
ウザーク様でなくてイザーク様では?
「は、はい、それは私からも喜ばしい事だと言わせて頂きますわ。」
「ええ、ありがとう、
それで昨夜、イザークに夜這いされていた時に、フッと思ったのよね。」
「・・・あああ、あの色ボケジジイ・・・あ、え、な、なにをでしょう?」
本音がダダ漏れです、アスターナまま。
やっぱり体面を重んじる貴族様でも、内心はあたしたちと変わらないんだね。
「・・・ええ、これで終わりなのかしらって。」
ん?
「え、終わりって・・・。」
「そう、よく言わない?
コップの中に水が半分入っていて、
それを『水が半分も入ってる』と言うべきなのか、
『水が半分しか入ってない』と言うべきなのかって。
そういう考え方に気づいてしまったのよ。」
えっ?
それってどういうこと?
「・・・。」
アスターナままも聞いている事しかできない様だ。
もはや相槌を打つ余裕もない。
「私は途中まで、
ザジルに逢えた、
望んでないけど、アイザスに遭った、
会ったわけじゃないけどもう一人の私の痕跡も発見した。
こんなにも多くの偶然が・・・と思っていたのだけど、
昨晩もう一つの考え方に気付いたのよ、
『これしかいないの?』って。」
そ、そういう考え方が・・・え?
これ以上にも!?
「こ、これしかいない・・・って。」
「思えば最初にアスターナ、あなたに会った時から、
気づくチャンスはいくらでもあった。
私が元の世界で大切だったあの子と同じ黒髪、
あなたの立ち居振る舞いが、どうしてもその子と記憶が重なる。
でもあなたは『あの子』ではない。
知らず知らずのうちに自分でその可能性を否定してしまっていた。
だから気づくのがこんなにも遅くなってしまったのよ。」
「あ、あの一体何を?」
そこでメリーさんは視線をあたしたちの方に向けた。
「ここでカラドックやケイジに聞くわ?
世界樹の洞窟で、私が『アフロス』や『ミィナ』という名前がセットだったからこそ、
思い出す事が出来たって話は覚えている?」
「・・・ああ、そう言ってたね。」
「そ、そうだな、そう言ってたな。」
「今回もそれに近いわ。
アスターナにクリュグ、その名前がセットであるとしたら偶然じゃない。」
「え? メリーさん、アスターナさん達までメリーさんの知り合い!?」
「私は『彼女達』に会ったことがない。
だから彼女達がどんな顔をしていたのかも知らない。
だからこそ気づけなかった。
でも今なら言える。
私が嫁いだ国の・・・神聖ウィグル王国先代の第二王女アスタナシア、
そして彼女と共に駆け落ちして王宮を出ていった男、王宮親衛隊長クリューゲル、
それらは私の大事な・・・あの子の・・・黒髪の子の、
実の両親の名前だったのよ。」
な、なんだってーっ!!
というわけでフラア編で名前しか登場しなかったあの人たちです。
キャラクター像はそれまでなかったのですけど、
こんな人たちでした。
以前も言いましたが、アスタナシアさんであって、アナスタシアさんじゃないです。
元ネタは新疆ウィグル自治区トルファンのアスターナ古墳から名前を付けました。
今回は元の名前を使ったというところでしょうか。
次回、アスターナままに異変が?