第四百二十七話 いま、痴漢被害に遭っているの
ぶっくま、ありがとうございます!
<視点 メリー>
『私を・・・私を見ておくれ、
行かないでおくれ、エリザベートォォ・・・』
全く何ということだろうか・・・。
まさかこんな後始末をするはめになろうとは・・・。
ただこの出来事すらも・・・
「メリーさん、
これも女神さまの言ってたこととは・・・。」
麻衣も私と同じ考えの様ね。
「ええ、私が跪く?
有り得ないわね。
確かに私が逃げ出したことでアイザス王のメンツは丸つぶれになったでしょう。
その事自体は悪かったと思うことはあるけれど、
それこそ彼には、私がザジルに対して持っていた情の欠片も有りはしない。
さらに言えば私もエリザベートではないし、彼もアイザスではない。
・・・単に奇妙な縁もあるものね、としか思えないわ。」
『愛してくれないのか、エリザベートォォ・・・』
なんで貴方を愛してあげないといけないのよ?
もともと国と国との政略結婚じゃないの。
・・・ああ、それは私の世界の話だけど。
それにしても、いったい何十年こじらせているのか、この男は。
アイザスもこの男のように、私が夜逃げした後、こんな体たらくだったのだろうか。
仮にも王様なんだから、後からお嫁さんくらいいくらでも貰えそうなのに。
(「ああ、やっぱり・・・」byあふろでぃーて様)
するとそこである現象が起きた。
肖像画の絵が、いきなりぶれるようにその輪郭が崩れたのだ。
いや・・・これは・・・。
あらあら、まぁまぁ、
イザークの姿をした霊体が絵から浮き上がって来たわよ?
「うあああああああっ・・・」
すぐに反応したのは感知能力を持つ麻衣。
私同様、麻衣には霊の形が視えるものね。
彼女から反射的に声が出るのも無理はないと思う。
そして麻衣の反応で・・・
すなわち、彼女の視線が絵から何もない筈の空中に移るのを見た他の人間が、その異状の意味を理解する。
「え、ちょ、」「きゃああああっ!?」「ま、まさかっ!?」
喚きたいのはこっちなのだけど。
何しろイザークの霊体は、この私に向かって両腕を拡げて迫ってきているのだもの。
私は葛藤する。
ホントに斬り裂いちゃダメなの?
簡単に一刀両断できるのに?
・・・確かに騒霊とは言え、誰かに危害を加えてるわけではない。
恨みや憎しみを撒き散らすような存在でもないから、
あらゆる意味で、この人形メリーの関与する対象ですらない。
単に「私」がうざく感じてるだけ・・・。
ホントにどうしてくれましょう、このウザーク様・・・いえ、イザーク様。
やがてイザークの霊はこの人形のボディにしがみつく。
・・・これ、私だからいいようなものの、
他の人間だったら、それこそ必ず条例に・・・いえ浄霊しなければならない案件よ?
「メメメメリーさん・・・っ!?」
「大丈夫よ、麻衣・・・。
自分で言って何が大丈夫なのかわからないけどね・・・。」
「ど、どうするんです、ソレ?」
ほんと、どうしましょうか。
そう言ってる間も、イザークの掌は私のカラダを這いまわる。
『エリザベートォォ・・・、お前だけを愛してるぅぅぅっ・・・』
だからホントにキモいと言ってるの。
確かに遠い昔にこの男とは、こんな感じに何度も肌を重ねたけども・・・
あら?
一致するの?
私の記憶と?
この私のカラダを撫で回す感覚に?
そこまで・・・
「はぁ・・・
わかったわ・・・。
それがあなたの未練だというなら、
しばらくこのカラダを好きにするといいわ・・・。
けれど・・・それで成仏したって私は何の責任も取らないからね?」
『おおおおおおおおお!
また昔の様にぃぃぃ!
初めてそなたを抱いたあの時のようにぃぃぃっ!
エリザベートォォ・・・!! 私のエリザベートォォ!!』
「あ、あのメリーさん、もしかして今、ご先祖様は・・・」
アスターナは大体理解してるのかしら、
いま、私がカラダの隅々をいじくりまわされてることに。
ついでに言うと、お尻の辺りに硬いものを押し付けられているような気もする。
人形のお尻も硬い筈なのだけど。
おかしいわね?
こっちと違って向こうは霊体のはずなのに。
「アスターナ、女性のあなたなら今の私の気持ちがわかる?
むかーし付き合ってて、今は別の男と結婚して家庭まで持っていたのに、
何の興味も未練も持たない過去の相手から、
また昔のように愛して欲しいと抱きつかれている構図なのだけど・・・。」
「そ・・・そして、その男が私のご先祖様なんですね・・・わかります。」
ああ、アスターナも大変ね。
いま、彼女は貴族としてのプライドもメンツも粉々に砕け散っているのだろう。
同情だけはしてあげるけど被害者はこっち・・・
「いえ、メリーさんも、全く罪がないわけでは・・・。」
麻衣から冷静なツッコミをもらった。
ああ、そういえばそうね。
罪悪感は全くないけど、私も好き勝手していたといえばそれまでか。
「・・・チャンバス、すみませんがスコップを持ってきていただけませんか?
少し裏庭に行こうと思ってます。」
「お、奥様、何をなさるおつもりですかっ!?」
「心配しないで、
ちょっと穴を掘って来るだけですから・・・。」
穴を掘るだけじゃないわよね?
きっと、そのまま土の中に埋まるつもりじゃなくて?
彼らにも予測できたのだろう、
アスターナは夫のクリュグと執事の人に全力で止められていた。
全く手間のかかる人たちだこt
んむっ!?
私は反射的に鎌を振る!!
「「「「メリーさんっ!?」」」」
・・・躱されたかっ・・・!
イザークの霊が私に向かって来た辺りの時点で、
みんな私から遠ざかっていたし、
死神の鎌には麻布を巻き付けていたから、周りのみんなを危険に晒すようなことはなかったけども・・・。
「・・・こ、この男、口の中に舌までねじ込んできたわ・・・。
好きにさせてあげると言ったけど、調子に乗り過ぎよ・・・!」
さすがに今のは殺意を覚えた。
しかも口の中というのは、人形の口の中ですらない。
「私」の霊体の中にだ。
向こうの世界では何の能力もない平凡な王様だったくせに、
何でこっちではそんな器用なマネが出来るのよ?
幽霊になると追加スキルでも与えられるのだろうか。
そしてイザークは私の殺気に脅えて絵の中に逃げていく。
この絵ごと斬り裂いてもいいのだけど・・・。
あら?
アスターナはクリュグの背中の陰にしゃがみこんじゃったの?
両手で顔を隠したりして、
とてもかわいらしい仕草なのだけど、あなたはこの屋敷の主人なのだからしっかりなさい?
ん?
また何か思い出しそう・・・
もう、すぐ記憶のふたが開きそうな気もするのだけど・・・
まさか・・・・
このうざったらしい行為の中に・・・
私が気付くべき何かがあるとでも言うの?
なにその嫌がらせ?
「・・・アスターナ?」
「は、はい、なんでしょう、メリーさん・・・、
あの・・・訴えるのだけは・・・裁判沙汰にだけは・・・っ」
「あなたのご先祖様を婦女暴行罪とか強制猥褻罪とかで訴えるつもりはないから安心して。
それより悪いのだけど、私だけ今晩は一人部屋にしてくれるかしら?
部屋そのものは質素なもので構わないわ。
・・・多分、他の子といるとその子に迷惑かかりそうなので・・・。」
ちらっと麻衣の方を見たら、首が捩じ切れそうなほど激しく左右にブルンブルンしていた。
そんなことしてたらどんどん首が伸びていくわよ?
もちろん私の言葉を正確に理解したアスターナは、
私の申し出を快く受け入れてくれた。
「はっはい! わかりましたっ!
チャンバス! メイドの皆さんへの指示は任せましたよっ!!」
「かっ、畏まりましたでございます!!」
さぁ、アイザス・・・!
数百年ぶりのケリを付けようじゃない・・・。