第四百二十五話 ぼっち妖魔は気づいている
ぶっくま、ありがとうございます!
<視点 麻衣>
「アスターナ様、とても贅沢なお風呂をいただきました、
おかげで全ての疲れが癒されたようでございます。」
さすがは貴族の子女ミコノさんだ。
見習いたいくらいの礼儀正しさ。
「いえいえ、それは何よりでございます、
殿方たちも揃われたようですね、
では我が屋敷の料理人が腕を振るって・・・
あ、あれ?
あ、あの・・・そちらの方は・・・いえ、人数は合ってらっしゃいますよね・・・。
なぜお身体がそんな急に・・・?」
体型だけでなく、肌の色までかわっちゃったからなあ。
「ま、麻衣さん、こ、これは一体どういうこと・・・?」
カラドックさんでも理解不能だろう。
「すいません、すいません、ほんとにごめんなさい。」
「でゅふふふふふふふ、
ヨルのお肌がすべすべの真っ白ですぞぉぉぉぉっ!
更なる進化を果たしたヨルは着実にカラドックとの結婚に向けて爆走中ですぞぉぉっ!!」
「・・・タバサさんのディスペルでも解除できなくて・・・
でも多分あたしが使った魔力が抜ければ時間で元に戻ると思います・・・。」
いや、もう可愛い服着た牝オークにしか見えなくなってきた。
どこまで迷走するんだこの人は。
うん、いや、半分以上あたしが悪いんだけども。
「ほ・・・本当に刺激的な方々ですわね、皆さんは。
どうぞお席についてくださいませ、
今晩は素敵な夜を過ごせそうですわ。」
アスターナままもメンタルしぶとい人だと思う。
これまで結構神経すり減らしてる事態に直面してるのに、
その度に不死鳥のように持ち直しているのだから。
キリオブールのキサキお婆ちゃんやクィンティアままとも仲良くできるんじゃないだろうか。
それにしてもどうしようかなぁ。
この屋敷の秘密を聞き出したいとは思うのだけど、
ミコノさんの話だと、なにか不幸的なエピソードであるのは間違いなさそうだ。
そんなもの率先して聞き出そうとするほどあたしも悪趣味じゃない。
なにか手掛かり的なものを見つけて、あたしのサイコメトリーなり鑑定能力なりで見極めるのがベストだと思うんだけどね。
・・・正直に言えば関わらないのが一番なのだけど。
なお、半病人のハギル君はお休み。
その代わり、マデリーンちゃんもメリーさんもここにいる。
ハギル君はメイドの人たちが代わるがわる様子を見るという。
まぁ、ここに来て彼の容体は安心していいと思う。
夕食会はね、
とても友好的で華やいだムードで進んだよ。
クリュグぱぱの仕切りも堂々としてるし、
カラドックさんやケイジさんもこなれた感じで応じているし。
対して「栄光の剣」の人たちも、アレンさん、ミコノさんは一歩引いて自分たちの立場をわきまえて必要以上の会話を抑えてる感じだ。
ミストレイさんなんかは、自分からは言葉を発しないけど、自分に会話を振られた時はとてもにこやかに笑顔を振りまき、場の空気を明るくするように務めている。
・・・オルベさんはいい意味でマイペース。
何も気にせず楽しそうに食事も会話も楽しんでる。
・・・ライザさんは別の意味でマイペース。
うん、なんとなくわかるよ。
そしてこのお食事メンバーで、最も異質なメリーさんにはどうしても疑問や質問が集中する。
普段ならメリーさんも興味ないとばかりに適当にあしらうのだろうけど、
ハギル君のことがあるから、誠実に質問に対応してるようだね。
それでも「饒舌」とか「丁寧」という話しぶりからは程遠い。
せいぜい、他人に不快にならないように気を遣ってる程度。
それでも凄い気はするけどね。
ちなみに飲食しない筈のメリーさんの前にはグラスワインが置かれている。
実際、口にすることもできるようだ。
味はサイコメトリーでわかるのだろうか。
それとも、他の人の感覚に同期することもできるのだろうか?
あたしもいつも通り子ども扱いされるかとも思ったけど、
巫女的なお役目をしているせいか、結構丁重な態度を取ってくれてるような気がする。
やっぱり「働く」って大事なんだと思う。
・・・わかってる、ヨルさん?
「でゅふふふふふふぅ!
美味しいですぞぅ!!
ホラホラ、ケイジ殿ももっと食べないと勿体ないですぞぉぉ!
これだけ美味しい夕飯食べれる機会なんてないのですぞぉ!?」
「・・・あ、ああ、そうだな、美味しくいただいてる・・・よ。」
なんで言葉遣いまでヨルさん、変化してるのだろう。
さっきなんかは掌で顔を覆って「くっ、異質なる魔の力が暴れ始めているのですぞぉ・・・」とか訳の分からないことを呟き始めていたし。
・・・「この子に七つのお祝いを」で薬物中毒キメちゃったんじゃないよね?
まぁ、それ以外はどうということはない。
あたしもご飯を美味しくいただいている。
ちょっとテーブルマナーに緊張しているけども、
そんなに気にしなくていいとクリュグぱぱが言ってくれた。
ちなみにコース料理みたいに一皿ずつ運ばれてくるわけでもないし、
順番に食べなければいけないわけでもない。
その意味では楽だと思う。
・・・問題は。
問題あるとするならば・・・。
あたしが気付かない振りをしているアレ。
あの視線。
相変わらずメリーさんをストーカーのように見続けてる肖像画の霊。
メリーさんだって気づいて・・・
「麻衣、どうしたの?
私に何か用・・・?」
げぇっ、あたしのチラ見に気付かれたぁっ!?
そこは気づいても気づかない振りをして欲しかったのに!!
「あっ、え、い、いえ・・・別に、なんとなく?」
「あの気持ち悪い視線でしょ?
もちろん、気づいてるわよ?
水着着て海辺で肌を焼いていたら、鼻の下を伸ばした男にチラチラ見られてる感覚ですもの。
気づかないわけがない。
・・・水着着たことないけども。」
ま、まぁそうだよね?
短めのスカートはいて自転車乗ってたら、サドルの辺りに視線飛ばしてくるアレだよね。
女の子なら誰だって気づくもの。
・・・気付いてんだよ、見てないフリしようとも!
「・・・もっとも、昼間の時のような敵意ではないわね。
それこそ、なにか粘着されてるような感覚・・・。」
「あ、あの、メリーさんに麻衣様?
な、なにかございましたか?」
あ、ヤバい。
アスターナままに不審がられてしまった。
この場の空気を壊したくないから気づかない振りしようと思ってたのに。
「なんでもないわ?
あなたのご先祖様に今も見られ続けてるだけという話よ。」
ああ、メリーさんたらオブラートにも包ませずそんなストレートに・・・。
「そ、それは申し訳ありません・・・。
一族のものがご迷惑を・・・。」
「気にしなくてもいいわ。
私自身、異形の存在であることは自覚してるもの。
・・・でも、もしあの霊の存在がこの屋敷にとって目障りなら、
死神の鎌で斬り裂いてくるけども?」
メリーさん、ストーップッ!!
確かにその鎌で、悪霊ぶった切った実績あるけども!!
「あ、す、すみません、
一応、屋敷の住人を守ってくれたりもするので、
そこは一つ穏便に・・・。」
「そう、残念だわ・・・。」
この屋敷で起きる筈の何かのイベント・・・。
或いは隠された謎。
それはハギル君のことでないとしたら、
その肖像画の霊のことなのだろうか?
でも今のところ、メリーさんが屈服する様子も見せないし、
頭を下げる兆しもない。
結局、この夕食会でも何も進展は得られなさそうと思っていたら、
「それ」は向こうからやって来たのだ。
・・・ザベート・・・
ん?
「麻衣様、どうかなさいましたか?」
何か聞こえた。
「あ、いえ、いま、男の人の声が・・・。」
「「ヒィィィッ!?」」
反射的にオルベさんとミストレイさんの悲鳴が響く。
ごめんなさい、怖がらせるつもりはないのだけど。
「え・・・あたしは何も。」
この中で最も聴力に優れたリィナさんには聞こえない。
それはそうでしょう、
耳で聞こえた声じゃないんだから。
「・・・確かに聞こえたわね。」
「「「えええっ!?」」」
そう、あたしと同じ感知系能力者であるメリーさんにも聞こえたはず。
しかも「それ」は間違いなくメリーさんに話しかけてるのだから。
・・・リザ・・・ベート・・・
これは・・・
「人の名前・・・ですかね?
リザベート? エリザベト?」
その瞬間、アスターナままの顔が険しくなる。
「そ、その名前は・・・!?」
「お知り合いの方の名前ですか?」
何故その名前を騒霊はメリーさんに向かって言うのだろうか?
「し、知り合いも何も・・・」
えっ?
『エリザベートォォォ・・・』
「肖像画のご先祖様、イザーク様の生前の伴侶・・・
その名がエリザベート様でございます・・・!」
えっ、それがどうしてメリーさんに?
「エリザベート・・・?」
一方、メリーさんがその名を復唱する。
え・・・
しかも戸惑ってる?
なにその反応・・・
「エリザベート・・・ですって?」
え? メリーさんが知ってる名前?
「ど、どうして・・・?
アスターナ、教えて・・・。
あの肖像画の・・・貴方の先祖の名前は・・・。」
「え、あ、は、はい、あの方の名前はイザーク様・・・ですが、
メリーさん!?」
「イザーク・・・イザーク?
それって・・・読み方を変えると・・・アイザック、よね?
アイザック、アイザッ・・・アイザス!?
じゃ、じゃあ・・・まさかエリザベートって・・・
この私が人間だった時の名前!?
イザベル!?
イザベルが・・・この世界に生きていたって・・・そういうことなのっ!?」
え、ちょ!?
なにその展開!?
メリーさんの中の人がこの世界にいた事は、
物語の展開上、大した話ではありません。
単にメリーさんが
過去を「思い出す」或いはその先の話に「気付き」やすくする為です。
なので重要なのはその先です。