第四百二十四話 ぼっち妖魔は湯につかる
<視点 麻衣>
いーきーかーえーるーっ!
あああ、おおきいお風呂・・・。
もちろんあたしの実家なんかのより全然大きい。
これ、お水を張るのにどれだけ時間がかかるんだろう。
床はもしかして大理石?
普段はアスターナままとマデリーンちゃん、そしてクリュグぱぱしかこのお風呂場は使えないそうだ。
執事さんやメイドさんや住み込みの人たちは、別の使用人用お風呂を使うとのこと。
・・・その筈なのに、今この場には、なんと9人もの女性陣が占拠して、
なおも手狭に感じないという超豪華お風呂なのだ!!
はい、そこ!
人の胸を見るんじゃありません!!
みんなと比較対象すんなっての!!
あたしは最年少なんだから仕方ないんですよっ!
・・・だから比べるなって言ってんだよっ!!
呪うぞゴラァッ!!
「私達も、極たまにですが、大きいお風呂を備えてる宿に泊まる時もございます。
オルベちゃんとも一緒に入ってますもの。
兎獣人のリィナ様でしょうと問題ございませんわ。」
貴族出身のミコノさんという人も、獣人差別なんか気にはしてないみたいだね。
「・・・いえ、お恥ずかしい話ですが私も実家にいたころは・・・。
やはり教会で色々な教えや経験を積むうちに、ようやくそんな考えを捨てることが出来て・・・。」
そういうもんなのかな。
でも自分で考えを変えることが出来たのなら素晴しい事だと思う。
「いやー、でも嬉しいねぇ、
カラドックが追いかけてたパーティーがどんな人達かと思ったけど、
みんないい人たちばかりでぇ!」
ハイエルフのミストレイさんを見てると、どうしてもあの超絶コミュ強のお姉さんを思い出す。
たぶん、この妹さんもかなりの猛者なのだろう。
よく観察しておこう。
うむ、湯船の中に浮かぶ二つのブツが光の屈折でとても凶悪に見える。
「そうそう! あのケイジって狼獣人もなかなか格好いいやぁ!
・・・あ、大丈夫大丈夫、オルベはアレンだけで十分だしやぁ!」
リィナさんも微妙な表情を浮かべてるね。
まぁ、単純にケイジさんを褒められて嬉しいのと恥ずかしいので、どう返していいのかわからないようだ。
ダークエルフのライザさんて人は、湯船につかってウチのアガサさん達と魔法談義中。
アガサさんほどではないけどこの人も胸がでかい。
ダークエルフはあの街の闇魔力を胸につぎ込んでいるのだろうか?
ちなみにメリーさんはこの場にいない。
お風呂に入る必要がないからだ。
人形の再生機能は汚れをも排除するという。
一瞬羨ましいと思うけども、この解放感、充足感を味わえないのはもったいないよね。
あ、そうそう、ハギル君が無実なのはあたしとリィナさんで弁護しておいた。
それによって彼が地下室送りになることは免れている。
おかげで彼には聖女を拝むような目を向けられてしまった。
そしてメリーさんは今もハギル君の傍にいるのかもしれない。
・・・それでもあそこまで怯えるとは、地下室には一体何があるというのだろうか?
さて話を戻そう。
現在、二つのパーティーの女性陣がここにいる。
グループは分かれているかもしれないけど、それなりに友好的なムードになったと思う。
ここであたしはちょっと情報を共有させて欲しいと思ったんだ。
「えっと、みなさんはあたし達より先にこの館に着いていたと思うんですが、
その間、何か奇妙なことは起きませんでしたか?」
その瞬間、ミコノさんはじめ、オルベさんやらミストレイさんらの顔に恐怖が浮かんだ。
あれ?
「ま、ままままま、麻衣様の仰っているのは・・・あの、この屋敷のご先祖様のお話のことですかっ!?」
どうやらビンゴらしい。
そこで初めてあたしたちは、メリーさんがこの屋敷で受けた洗礼について聞かされたのだ。
・・・あたし達の知らないところでそんなトラブルまで・・・。
やっぱりハギル君の件だけで終わりそうにないな・・・。
「馬車の中でもいろいろおかしい話は聞かされていたのですよ・・・、
『絵の中のお爺様』とか、パニックに陥ってたアスターナ様が『呪われている』とか口走ったりとか・・・
最初は昨晩湧いた異様な虫たちの話かとも思っていたのですが、
それだけではなさそうな・・・。」
「絵っていうのはエントランスの二階部分に飾られている、初老の男性の肖像画のことですね、
あそこから異様な霊的気配を感じます。」
「・・・さすが巫女職の方は違いますね・・・。
私でももっと近くに行けば判別できるとは思いますが・・・。」
ミコノさん、顔が青ざめているよ。
確かにそんなもの近付きたくもないよね。
もちろんあたしだってごめんである。
「私達は明日、この屋敷を・・・
後は冒険者ギルドに顔を出したら、公都に戻るだけなのですが、
麻衣様はどうして、その話を気にされるのです?」
そこであたしはこの場にいないメリーさんの話をした。
ハギル君の件だけでない、何かメリーさんに関わる秘密がこの屋敷にあると踏んで。
もちろん、全てを話すほどのことでもない。
そんな長話したらのぼせちゃうもんね。
メリーさんの元の世界の因縁が、この屋敷にあるようだとぼやかして話しただけ。
そこでミコノさんからもらった情報としては、
あの肖像画に描かれてた人は、アスターナままの曾お祖父さんになるそうだ。
この屋敷にはかなり昔から騒霊現象があったそうだけど、
それが半端ない異常を起こし始めたのは、先代当主・・・すなわちアスターナままのお父さんが領主だった頃に遡るという。
この地域で有力な金枝教という団体が何人も除霊に来たが、
肖像画の霊はそれらの僧侶たちを全て追い払い、
「聖なる護り手」という、どこかで聞いた気がする冒険者の死霊使いの人が、ようやく騒霊現象を鎮めたという。
「麻衣、それこないだの魔人にいたところの冒険者パーティー。」
あっ!
そ、そうでしたっけ!?
世間は狭いですねっ!?
情報ありがとうございますっ、タバサさん!!
話を戻すよっ!
この話には続きが・・・いや、続きになるのかミコノさんもわからないそうだ。
その後、騒霊現象は治まったのだけど、
二年前にその当主の人が病気でなくなり、
名目上はクリュグぱぱが、実質的にはアスターナままがこの地の領主の地位を引き継ぐ。
・・・そしてその後も、この館にはよくない事が連続で起きたそうなのだ。
それが具体的に何だったのかまでは、ミコノさん達は聞きだせてないという。
ただ、悲しみに浸るマデリーンちゃんを慰めるためにも、
あのハギル君を雇うことに繋がった、ということらしい。
もしかして、マデリーンちゃんがハギル君に異常に執着してたのも、それなりの理由があったということなのだろうか。
うーむ、
後は直接、あたしが調べるしかないか・・・。
・・・なるべくなら肖像画の方はタッチしたくないぞ・・・。
バチャアン!!
「ひゃあああっ!?」
後ろから胸をタッチされたあぁあっ!?
「ウヒャヒャヒャヒャッ!
こないだのお返しですよぉ!!
魔闘法と隠蔽術を極めたヨルが、ついに麻衣ちゃんから一本取ったですよぉっ!!」
ああ、ヨルさんと同室で寝た時、のろけ話でうざったらしいヨルさんを、あたしが手籠めに・・・ゲフン、
あの時のか。
ですが・・・良い度胸ですね、ヨルさん・・・。
確かにあたしは今、油断していたようだ。
「あっ、あれ?
麻衣ちゃん、瞳の色が変ですよぉっ!?
お肌の色も異様に白くぅっ?」
「タバサさん、すいません、あとで状態異常回復はお願いしますね?」
「ヨッ、ヨルにダークネスとサイレンスかますつもりですねぇっ!?
いつまでも、そんな子供だましの術にヨルは引っ掛からないんですよぉ!!」
「・・・いいえ?
ヨルさんはこれから貴重な体験をされますよ?
あたしも仲間の人にこの術を試すのは初めてなんですから・・・。」
「あ・・・ヨル、これは覚悟を決めた方がいいとアドバイス。
麻衣に謝るなら今のうち。」
「ヨル、私のディスペルでも回復しきれない可能性甚大。
遺言残すなら今のうち。」
「あっ、そ、それ、もしかして昼間の亀さんを屠ったぁ・・・っ!?」
「一応、手加減してあげますね?
それ、『この子に七つのお祝いを』!!」
状態異常!!
・・・近眼!!
・・・引き籠り!!
・・・美白!!
・・・肥満!!
・・・息切れ!!
・・・自信過剰!!
・・・厨二!!
あれ・・・これ?
湯船の白い水蒸気の中に巨大な物体が浮かび上がる・・・。
「おやぁ・・・?
もしかしてヨルは更なる力に覚醒してしまったようですぞぉぉぉ?」
どうやらあたしはまた余計なことをしてしまったようだ。
・・・本来はね、
今回のお話はこれまでのまとめというか、説明回のフリしたサービス回だったはずなのに・・・。
いよいよ次回から新たな謎を解き明かすパートなんだからね?
と言っても、もう伏線は全部入れ終わったんでしょ?
ならみんな、この先の展開くらいわかるよね?
わからない?
じゃあ、最後のヒント?
あたしの脳内に飛び込んできましたよ。
発信元はあの肖像画?
『エリザベート』
・・・え?
人の名前ですよね?
誰ですか、それ。
例の黒髪の子?
いや、あの子はそんな名前じゃない。
ここに来てそんな初出の名前なんて・・・
いや、初出じゃないとしたら・・・。
今回最後に出た名前は蛇足的な手掛かりです。
この名前が出なくても、もうみなさん、私の作品の方向性はわかりますよね?
しかし・・・なかなか邪龍討伐へ向けて旅立てないなぁ・・・。