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第四十二話 Aランクパーティー「蒼い狼」

ぶっくま、ありがとんです!!


これまでのあらすじ


グリフィス公国を出奔したという獣人に、自らの弟の姿を重ねた賢王カラドック。

部下の裏切りで殺された弟と、同じ道を歩ませないために、カラドックはマルゴット女王に協力することを誓う。



ふぅぅ・・・

着いた・・・!

やっと着いた。

ここにたどり着くまで長かったな、

そろそろ冬も近いのか、風が強く素肌に堪える。

それにしても、古今東西そして異世界探しても、ここまで一人旅をする王様なんていないだろうな。

我ながら呆れてしまうよ。

これじゃあイゾルテに偉そうな事は何にも言えないな。


さて、目の前にあるのは、宿屋兼居酒屋「琥珀の灯亭」。

冒険者を引退したパーティーが始めた宿屋とかで、この地方では評判の宿屋だそうだ。

その分、一見さんはなかなか泊まることは出来ない。

誰かの紹介なり、常連さんでもないと難しいという。

ただし、冒険者上がりの宿屋と言うだけあって、

ある程度訳アリのパーティーだと例外的に対応してくれる時もある。

そういうところも人気の秘訣なんだろう。


まぁ私は泊まりに来たわけじゃない。

人探しである。

このアークレイという地方の町の冒険者ギルドに辿り着くまで、三か月の時間を要した。

これは目的の人物を探し当てるまでにかかった時間と言うわけでもない。

その内、私の冒険者ランクを上げるために二か月かけている。

まぁ半分ズルというかマッチポンプだけどね。

グリフィス公国が、

特定の人間でないと達成できないような依頼を冒険者ギルドに出し、

「偶然」私がその依頼を受けて解決してしまう。

これまで効率よくランクを上げさせてもらった。

そして現在、私はグリフィス公国中央冒険者ギルド公認のBランク冒険者となったわけだ。


さすがにソロでBランクというのは規格外らしく、

道中どこのギルドでも驚嘆の目で迎えられた。

ああ、最初は公国の冒険者資格を持っている近衛兵にサポートしてもらってたりしたけどね。

Dランクに上がってからは、協力してくれる仲間を自分で見つけたり、他のパーティーのお手伝いしたり、その辺りは臨機応変に。

もちろん、各地のギルドでも数々の依頼をこなし信用と実績を打ち立てた。

その結果が、目的の人物の発見である。

誰のことかは言うまでもないだろう。

マルゴット女王の甥にあたるハーフ獣人のことだ。

彼も冒険者の中では有名人になっているらしい。

王家の人間や役人には口の堅い冒険者たちでも、

同じ冒険者となった私には情報を流してくれるというわけだ。

そして、ついにこのアークレイという町に、彼が滞在していることを突き止めたのである。


そこから先は早かった。

もちろん、この町の冒険者ギルド自体が情報を流してくれたわけじゃない。

個人情報やパーティー情報は漏洩禁止だしね。

だが、こんな辺鄙な町に、あの、

Aランクパーティー「蒼い狼」が滞在しているなんて噂を誰が止められよう。

ギルドの待合場で、他の冒険者からその情報を手に入れた私は、

すぐにギルドの受付嬢から「琥珀の灯亭」の地図をもらったのである。

そこで受付嬢から、先の宿屋情報を同時にもらったが、

別に泊まりに行くわけじゃない。

まずは「彼」に会う事だ。

まず・・・いや、ついに、か・・・。


ついに会えるのだ・・・。

果たして、ここから先は、

私の僅かな望みが叶う展開になるのか、

それとも予想を外した現実が待っているのか・・・

珍しく私も緊張しているよ・・・。



この地方は冬は寒いせいか、木製の扉は分厚い。

その重々しい扉を開けると、

まだ夕方前だというのに、居酒屋のような喧騒が私を迎え入れてくれた。

出入り口から食堂までは距離があるにも関わらずだ。


宿屋の受付には年配のガッシリした男性が立っていたが、

まずは情報だけ入手しておきたい。

受付の男性とは目を合わせて軽く会釈して私は食堂に向かう。

食事だけなら宿泊する必要ないからね。


それにしても賑やかだ。

夜はもっと煩くなるのだろうか。

食堂と言っても、イメージはナイトバーとでも言うべきか、

薄暗いオレンジ色のランプが食堂を満たしていた。

ああ、「琥珀の灯火」のイメージか。

宿屋の名前に合わせているんだね。

空席はあるが結構混んでいるな。

この辺りは夜が早いのかもしれない。

まぁ、私が座れる席は十分ある。


それにしても、

いきなりみんなで私を注視しなくてもいいじゃないか?

まさか食事だけでも一見さんお断りとでも言うのだろうか?

いや・・・違うな。


理由は私自身同じことを感じたからよくわかる。


とんでもない実力を持ったグループがここにいるのだ。

鑑定魔法や魔眼など必要ない。

食堂の中が薄暗くても強者の存在感は圧倒的だ。

・・・どうやら・・・いきなり「当たり」を引いたようだな・・・。


カウンターに座り、こちらを見つめる二人の女性・・・

そのすぐ手前のテーブルに、

一組の男女・・・2人とも獣人!

距離の取り方からしてこの4人は一つのパーティーだろう。

聞いていた情報と合致する。


狼のような風貌の男性とは一瞬目が合った。

毛深いせいもあるが、テーブルランプの光だけでは顔ははっきりとは分からない。

二、三秒こちらを凝視したようだが、

彼はすぐ私に興味を無くし、テーブルのグラスのアルコールを飲み干した。

他の女性たちは、私を今も値踏みするように睨みつけている。

特にカウンターに座る二人は、

私の魔力を感知しているのだろう。

こちらからも分かる。

耳が尖った彼女たちの魔力も桁違いだ。


すると、彼女たちではなく、食堂の給仕らしき女性が私に大声をあげた。

 「ちょっとぉ! お客さん、食べに来たのぉ?

 なら空いてる席に座りなよぉ、

 そんなとこに突っ立ってられると邪魔なんだけどぉ?」


それはそうだ、

私は苦笑いを浮かべ頭を下げる。

だだ注文はちょっと待ってほしい。

私はまっすぐ、そのパーティーの席に向かう。

彼らの警戒度が跳ね上がったようだ。

2メートル・・・ここまでの距離が限界か。

そこで私は声をかけた・・・。


 「おくつろぎのところ、失礼します・・・。

 Aランクパーティー『蒼い狼』の皆さん・・・ですね?」


その瞬間!!


食堂内につむじ風が舞う!!

いや・・・


気が付くと背後から私の首元に小刀が当てられていた ・・・。

食堂内は一瞬にして静まり返る。


素早いなんてもんじゃない。

目で追えなかった・・・。

これがAランクパーティーの実力か・・・。


私の視界から女性が一人消えていた。

テーブル席に座っていた子だろう。

その子が私の首にピッタリと煌めく刃を当てているのだ。


 「誰、あんた?」

彼女は私の背後にいる。

ゆえにその顔を見ることは出来ない。

仕方がないので、恐らくパーティーのリーダーであろう、テーブルに座ったままの狼獣人に話しかけた。


 「間違いないようだね、

 てことは、テーブルの君が・・・

 勇者・・・ケイジ・・・なんだね?」


そう、私の母上の似姿、マルゴット女王から聞いた、王宮から失踪したという彼らの家族、

狼獣人と人間のハーフ、その名が「ケイジ」・・・!



だが、「彼」は反応しない。

まるで私の問いかけを予想していたかのようだ。

一方、私の背後の女性はさらに殺気を強めた。

 「あたしは『誰?』とあんたに聞いてるんだよ!?」


 「ああ、これは失礼、

 私の名はカラドック、一応Bランク冒険者にして精霊術士さ。」


その時、狼獣人の尖った耳がピクリと動いたような気がする。

だが、彼はそれ以外、何の反応も見せない。

話を女性に任せているかのようだ。

なお、私の職業は国王から精霊術士に変えてある。

なんでも職業として国王にしておくと、

低レベルの鑑定眼では、ステータスの覗き見できなくなるそうだが、

高レベルの者や魔眼持ちに看破される可能性は充分あるらしい。

そうなっては、結局余計なトラブルの元となるので、一応念のため無難且つ有用なジョブに変えたのである。



 「Bランク~?」

 「精霊術士~?」

タイミングを合わせたの如く、カウンターの二人が私の自己紹介を復唱した。

雰囲気が似ている二人だが、姉妹ではないらしい。

事実、肌の色からして違う。

冒険者ギルドで聞いた情報では、

あらゆる属性の魔法を使いこなすダークエルフのアガサ、

そしてどんな重傷をも回復させるというハイエルフのタバサ。

ハイエルフとダークエルフって仲良くなさそうな印象だけど、実際はそうでもないようだ。


・・・となると、いま私の首筋に刃を当てているのが、

斥候とアタッカー、両方こなせるという兎獣人少女のリィナか。


そしてそのリィナらしき少女はさらに語気を強める。

 「その精霊術士さまがあたしたちに何の用~!?」

 「うん、話すからさ、とりあえず椅子に座りたいな?

 私のカラダ放してくれる?」


わたしの呑気な受け答えは彼女たちの心証を悪くしたらしい。

カウンターから二つのため息が漏れる。

 「ああ、これは血の海確実。」

 「激怒したリィナは制止不能。」


あ、本当に怒気が凄いことになってる。

 「てんめぇ~っ、死にたいのかぁ・・・!?」



 「やめろ、リィナ。」


それは狼獣人の言葉だった。

相変わらず視線をこちらには向けないが、

会話をさせてくれそうな流れだ。


 「え、で、でもよ、ケイジ・・・。」

 「その男にお前のナイフは届かないぞ。」


 「は!?」

 「ああ、バレてた?」


正しく現状を把握しているのは私とケイジのみ。

リィナと思しき女性は何が何だかわからないようだ。

 「な、何言ってんの、おめーら!?」

 「なら、試しにその男の首切ってみな、リィナ。」


おいおい、酷いこと言うね、ケイジくん。

だが、すぐにリィナはその言葉の意味がわかったようだ。

 「あ、ああ?

 ど、どういうことだよ?

 ナ、ナイフが動かないっ!?」


サイコバリヤーの応用。

私のサイコバリヤーはピンポイントでしか張れないし、

防御性能が高いというほどでもないが、

こういう接近戦で使うと効果が高い。

相手の指にシールド張っておくだけで事足りる。


そこで私はようやく、彼女から体を離すことができ、

あらためて獣人ケイジの顔を見た。

そこに私の知る顔は・・・


 

次回、カラドック号泣。



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