第四百十二話 いま、成り行きを見守っているの
ぶっくま、また増えました!
ありがとうございます!!
<視点 メリー>
アレン達は完全に気を抜いていたわね。
無理もないとは思うけど。
魔物のスタンピードなんて、滅多に出くわさない筈のトラブルから、
やっと逃れられたと思った直後の出来事だもの。
しかも確実に安全なはずの貴族の屋敷の中でこんなことが起きるなんてね・・・。
「ミッ、ミコノ!!
こっ、これは明らかにレイスっ・・・
いや、もしかするとリッチ級の魔物の仕業じゃないかっ!?
君の力でこいつを祓うのは・・・!?」
「い、いえ、アレン様!!
こ、ここまでとなると、私の力では・・・
エクソシスト以上のジョブに就いているものが必要です!!」
ミコノは高位のプリーステスの筈だけど、
さすがにこのレベルの悪霊には二の足を踏むか。
ここにタバサがいれば、また違ったのでしょうけども。
とはいえ大丈夫よ。
心配する事は何もないわ。
いざとなったら私が斬り祓うもの。
この世界でまだリッチとやらに会ったことはないが、
きっと私といい勝負になるだろう。
いえ、実力伯仲という意味ではないわ?
向こうの武器もきっと大鎌よね?
大鎌対大鎌の見どころある戦いになるだろうという予想。
これがフラグになるかどうかは私の知ったことではない。
そして一方、
オルベとミストレイは二人仲良く抱き合って震えている。
案の定、ダークエルフのライザは目をキラキラさせて、
屋敷の騒霊現象にうっとりとしている。
気を付けないとそのうち取り込まれるわよ?
「だっ、ダメだったのです・・・!」
執事の人がミコノの言葉に反応したようだ。
「執事様!?
それはどういう・・・?」
「いっ、以前も金枝教の高位の方々に除霊をお願いしたのですが、
みっ、みんな失敗してしまわれたのです!!」
「なんだって!?
じゃ、じゃあ、今までずっとこんなっ!?」
アレンが呆れた声を出すのはもっともな事だと思う。
仮にも領地を持つ伯爵クラスの貴族が、そんな事態を放置していたなんて、危機管理能力が全くないということよね?
とはいえ、流石にそれは私やアレンの思い過ごしだったようだ。
「い、いえ、数年前、先代のご当主様の頃、
Aランク冒険者で、死霊術士を擁するパーティーの方々が、
この異常現象が、
この館のかつての先祖の霊の仕業だと調べてください、
なんとか説得と交渉に成功して、
それ以降は、とてもおだやかになられていたのですがっ・・・。」
へぇ、それは凄いわね。
この館の当主だった人間なら、その子孫を護ろうと今は頑張っているわけか。
うん?
そうすると・・・
ちょっと確かめてみるか。
「ねぇ、執事さん?
一昨日か昨日か、この屋敷に気持ち悪い虫とか出なかった?」
私達が出くわしたのは一昨日だけど、
あの虫たちは瘴気の濃度が高まると出現するらしい。
なので、あれらが湧くタイミングは、どこの地域でも全て同時という訳ではなさそうだ。
もしかしたら、まだこの地では湧いてない、ということもあり得るかもしれないが。
「えっ? な、何故それを!?
は・・・はい、そ、それは屋敷の中には一匹も現れませんでした!!
しかし、屋敷の外は何匹も気持ちの悪い虫たちが湧いて・・・っ」
やっぱり既に発現済みか・・・。
「なるほど・・・この霊の結界があったから、
屋敷の中には邪龍の虫たちは現れることが出来なかったのね・・・。」
そして邪龍の虫たちは、この館を護ろうとするご先祖さまとやらの、激おこスイッチに触れてしまったわけだ。
そこへ日も経たないうちに、正体不明の闇属性人形が、屋敷に入ってこようとした、と。
なるほど、事の経緯が見えてきたわ。
となると、これはただの不可抗力。
あとはこの場をどうするかね。
アスターナが懸命に声を振り上げているけど、
コミュニケーションは成立しているのだろうか?
それなりに霊の方も反応しているようだが、
意志の疎通ができているようには・・・
いえ、通じているのかしら?
「私達のご先祖様であるイザーク様には、いつもこの屋敷や家族を見守り頂いていることに、このアスターナ、感謝を忘れたことなどありません!!
ですがお聞きください!!
今現在、この館の当主はこのアスターナであることも事実です!!
この屋敷の主人たる私が、あのメリーさんという人形の方を大事なお客様と判断して招き入れたのです!!
既に隠居なされたイザーク様がお口を挟む道理は有りませんっ!!」
・・・んむうぅおおおおおおおおおおおおおおおおお・・・
・・・あら?
アスターナ、結構言うわね?
少し見直したわ。
普通の神経なら、悪霊相手にあれほどピシャリと言える勇気なんかないだろうに。
今のはまるで、ボケ始めた義理のお父さんに、お嫁さんが説教するみたいな勢いだったわ。
それに悪霊の方も、確実にたじろいでいるみたいね。
まぁ、実際は直接的な血縁関係にあるのだろうけども。
マデリーン嬢も負けてないようね。
いじらしくも懸命に声を張り上げてるわ。
「絵の中のおじいちゃま、おねがいです!
メリーさんは悪い人形なんかじゃありません・・・っ!」
んふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・
あらあら・・・。
今度は可愛い孫娘にお願いされたみたいに・・・
・・・みるみるうちに霊が大人しくなって、
あんなにも荒々しかった敵意が消えていくわ・・・。
それに・・・いつの間にか結界もなくなったようだ・・・。
私が手を伸ばしても、さっき弾かれた空間内で普通に動く。
「・・・ふぅぅ、どうやら納得していただいたようですね・・・。
皆様、申し訳ありません・・・。
どうかお気になさらないで・・・あっ
と言っても・・・む、難しい・・・ですよ、ね・・・。」
アスターナは自分で凄い無茶振りをしていることに気付いたようだ。
素敵な笑顔で振り向いたのに、
アレン達の表情に気付いて一瞬で固まっちゃったわね?
確かに私は今更こんなものなど気にしないけど・・・。
ミストレイとオルベは腰が抜けちゃったみたいよ?
アレンとミコノは必死に虚勢を張っているようだけど、顔やカラダが不自然な形に引きつっているわ。
ライザはとても幸せそう。
それにしても、
いくつかわかったことがある。
私は館のエントランスにようやく足を踏み入れた後、
問題の根源であろう、正面の二階部分の廊下を見上げた。
そこには何枚かの肖像画が並んでいる。
恐らく歴代の当主たちの姿を描いたものだろう。
その内の一枚。
・・・あれね。
その絵に取り憑いているということか。
アスターナやマデリーンの先祖、イザークという人物が。
「い、いったいこれは何の騒ぎだっ!!
せっかくハギルを安静に寝かせてきたところなのにっ!?」
その二階の扉が開いて、立派な服装と体格の中年男性が現れた。
カラドックのようなお髭を生やしているけど、こっちの方がワイルドな印象ね。
この金髪の人がこの領地の名目的な領主、クリュグ伯爵か。
「あ、あなた・・・実はまたイザーク様が・・・っ。」
「えっ、またっ?
しばらく大人しくしていただいていたのに・・・?」
さっきまでの喧騒が嘘のように静かになったエントランスホール。
幾人ものメイドたちの顔には恐怖が張り付いていたままだが、
今回が初めてという訳でもないのか、或いはこうなる事を事前に聞いていたのか、
ぎこちない動きを見せているが、それほどの動揺はなさそうだ。
消えてしまった燭台の炎も、再び彼女達の手によって灯されてゆく。
もはや、エントランスホールそのものには、何の違和感もない。
屋敷は完全な平穏を取り戻したのだ。
だが
・・・この段階で、私はまだ気づかない。
これで、全ての登場人物が出そろったにも拘らず。
だって仕方ないではないか。
この地で出会った彼らは、
私が「会ったことのない人間ばかり」だったのだもの。
今は静かな「二人」の人物を除いて。
カルミラ
「セリフも出番も少なかったけど、カルミラちゃんは有能なのだ!」
ダン
「まぁ、仮にもAランクだしな。」
クライブ
「あれ? ダン、生きてる?」
ダン
「死んでねーわっ!!」
オスカ
「はぁ・・・ミュラ様(尊・・・」
一方、ダンジョンのスタンピードに向かった麻衣ちゃんたちは・・・。