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第四十一話 ぼっち妖魔は発展途上

<視点 麻衣>

 

気配を殺してるつもりなんだろうけど、こっちに注意を向けてる時点であたしにはバレバレなんだよ。

もう、ホントにいいところで!


 「ダナンさーん」

 「な、なに?」

 「魔物、ていうか邪魔者です。」

 「へっ!?」


すぐにダナンさんは身体を放してくれた。

そこで私は足元から適当な石コロ拾った。

 「そこ!!」


右後方の茂みの中!!

思いっきりぶん投げてやった。

・・・と言っても、あたしの腕力じゃあ山なりの軌道で殺傷力ゼロなんだけども。


 「きゃあ!」

悲鳴が上がったけど当たった気配はない。

単に自分のすぐ近くに投げられたんで驚いただけだろう。


 「え! 人間!?」

ダナンさんが驚くのは無理もない。

あたしだって事前に察知してなきゃ、信じられないくらいだもの。


 「ダナンさん、人間じゃありませんよ。

 ていうか、覗き見なんて趣味悪いですよ、

 出てきてください、ラミィさーん!!」


半人半蛇、ラミアのラミィさんだよ。

分類は亜人でなく妖魔。


 「え!? 知り合い!?」


あたしが答える暇もなく、ガサガサ茂みの中から蒼い髪のエキゾチックな女性、

・・・の上半身のラミィさんが飛び出てきた。


て、また装身具以外、全裸じゃないですか!


 「うっふっふっふ!

 邪魔するつもりなかったのに、なんでバラしちゃうのー?

 麻衣、あなたの手腕がどの程度か見てあげようと思ったのにー?」


あ、一応おヘソから下は草むらの中に隠してるのね。

そりゃあ蛇の下半身見せたらダナンさん卒倒するかも。


ていうか、やな予感がしてダナンさんの方を振り返る。


あ、やっぱり。

ダナンさん、後ろ振り向いて両手で自分の目を塞いじゃってる。


 「見ちゃったんですね、ダナンさん・・・。」

 「見てない! 僕は見てない!!

 なにも見てない!!

 記憶にございません!!」


やってくれたな、この人、

と非難の目でラミィさんに首を戻すと、不思議そうなラミィさんの惚けた表情があった?


 (あれぇ?

 蛇の下半身は見えないように出てきた筈なんだけどなあ?)


違うって!

 (ラミィさん 、胸! その豊満な胸!!

 この人にその凶悪なバストは刺激強すぎるんですってば!!)


ようやく納得したとばかりに自分の胸元に視線を下ろして、バインバイン揺らしてみせやがったよ、このおっぱい妖魔。


 「なーによお?

 出てこいって麻衣が言ったくせにー。」

 「言いましたけど、せめて服を着るとかしてから出てきて下さいよっ!!」


いるのはわかってたけど、いちいち遠隔透視してまで、ファッションチェックしないから。

てゆーか、なんでこんなところに・・・。


 「あー、ごめーんなさーい?

 人間の習慣、今ひとつわかんないからー。」


そういえば、初代リーリトだって素っ裸だったはずなんだけどね、

「恥ずかしい」って概念はイブが誘惑された後の話なわけで。

ええ、ええ、どうせあたしは混血ですよ。


と、そんな事よりも、えーっと、確か朝方買ったやつが・・・

あったあった!

あたしは巾着袋から防寒用に買ったブランケット引っ張りだした。

 「ラミィさん、これ差し上げますから、首元に巻いて胸元隠してください。

 じゃないと紹介もできませんから。」


 「わぁ!

 これくれるの!?

 麻衣、ありがとう!!

 ブランケットっていうの?

 すごい暖かい!」


それはようございました。

 「それでラミィさん、ここに来たのは偶然じゃないでしょう?

 どうやってあたしがここにいると?」


感知能力自体はあたしの方が上のはず。

普通に考えてあたしに気付かれずに接近されることはあり得ない。


しかしここでもあたしの想定外な理由が存在していたようだ。

 「ううん、相手が麻衣だったのは知らなかったよ、

 そういう意味では偶然ね。」


 「え!? 相手って?」

 「あたしが感知したのは、近場で大量の蛇がテイミングされたことよ。

 でしょ?

 蛇はあたし達の眷属でもあるんだから。」


あ!

そういうことか。

自分たちの眷属に何かが干渉してきたことは、感覚的にわかるんだ。

それに今回のテイムでレベルも2に上がってるし。


 「・・・それで近づいてみたらあたしがいたと。」

 「そう。

 どんな人があたしたちの眷属を操ってるのか気になって。」


うう、それは仕方ないな。

まあ、今回は目撃者がダナンさん一人であったのを幸運とすべきか。

さぁ、この場をどうしよう?


 「ダナンさん、もう振り返って大丈夫ですよ。

 ブランケットで上は隠してもらいましたから。」


下はもっと大変なことになってるけど、そっちはラミィさんも自覚してくれてるので心配しなくてもいいのかな?


 「え、ほ、ほんとに大丈夫?

 ていうか、その人、人間なの?」 


おっかなびっくりといった感じで、ダナンさんは恐る恐る振り返る。

ブランケットで巨大な胸は隠れてるとはいえ、やっぱりダナンさんの視線はラミィさんからずれている。


とりあえず説明はしておかないとね。

 「あ、あ、えーと、・・・亜人さん、かな?

 あたしが北の平原で放浪してた時に、一泊お世話になった方で・・・。」


 「えー、何言ってるの、麻衣?

 あたし、亜人じゃなく妖魔よ?」


あー! もう!!

人がせっかく心配してあげてるのに!!

ていうか、あたしもさっき魔物って言っちゃったけどさ。


 「よ、妖魔だって!?

 いけない、麻衣ちゃん!

 すぐに村に戻ってギルドに討伐依頼を!」


 「あっ、待ってください、ダナンさん、

 この人、人間の敵じゃありませんから!」


 「え?」

後ろでラミィさんがすっとぼけた声を上げる。

え、じゃないでしょラミィさん!!

 「ラミィさん、まだ人間食べる気でいるんですか!?

 そんなことしたら討伐されちゃいますって言ったでしょ!」


 「あー、そうだったわね、

 うん、食べない食べない。

 だから人間の男の人、仲良くしてね♪」


ホントにだいじょぶかな、この人・・・。


 「そんな顔しないで、麻衣?

 あたしだって仲間のエモノを横取りなんかしないわよ?」


 「全っ然っ!! 違います!!

 あたしは人間なんだから、共喰いなんかしませんっ!!」

 「わかってるわ、食うって別の意味よね?」


 「べ、別の意味って、ま、麻衣ちゃん!?」

 「別の意味でも食べませんっ!!

 ダナンさんあたし見て怯えないでくださいっ!!」


あー、ヤバい、

なんかグダグダになってきた気がする。

とにかく早めにまとめよう。

まずダナンさんだ。


 ガシっ!

 「まっ、麻衣ちゃんっ!?」


まずは真正面からダナンさんを両腕でがっちりホールド!

そしてあたしは目を潤ませて彼の視線を逃がさない。


 「まぁ!」

後ろでラミィさんが感心したような声を上げている。

あたしの手腕をじっくり観察してやるとでも言わんばかりだ。


だから魅了スキルは使わないからね?


 「ダナンさん、聞いてください。」

 「あ、あ、あ、な、なんだい!?」


 「あたしが冒険者として、召喚術や、テイムスキルを持っているのはご存知ですよね?」


今更だけどここから始めないと。


 「あ、ああ、それで僕の依頼をこなしてくれている。」


 「正確にあたしの個性を理解していただいてありがとうございます。

 それで、今現在、あたしの実力では、数種類の動物と魔獣を喚ぶのが限界なんです。

 このままだと、多分Eランク、

 運がよくてもDランクになるのが限界でしょう。」


 「そ、それはわかるけど、それで?」

 「ここにいるラミィさんは妖魔です。

 そして今現在のあたしでは妖魔を喚ぶことはできませんが、この先スキルポイントを稼げば、

 妖魔を喚べるようになるんです。」


 「あ、そ、そうなんだ?」

 「はい、あたしが妖魔を召喚できるようになった際には、ラミィさんが協力してくれると仮契約結んだんです!

 だからその間、人間を襲うことはしないので、ダナンさんもラミィさんを敵扱いしないでいただけないでしょうか?」


無害とも言い切れないんだけどなあ。

あ、後ろで「そんなはっきり約束したかなあ?」と首を捻ってるのがわかる。

でもここはウルウル純真な瞳でダナンさんを射抜くのみ!


あれ?

みるみるダナンさんの顔が真っ赤に・・・


そんな効果あったかなって・・・


妙にダナンさんの態勢が不自然に・・・


あ、

あたしの発展途上中の胸のせいか。

いや、うん、やってから気がつきました。


後ろでニヤニヤしてるんじゃない、ラミィさん。



結果、時間はかかったけど、誤解は全て解けて、どうにかこうにか、このパニック寸前の事態は避けられました。


実は誤解ではないのではないかという、的確なツッコミはしないでください。


これを機に村に戻ろうかというところで、なんとラミィさんが茂みの中からゴソゴソと。


 「何してるんですか、ラミィさん?」

 「ん? お土産、これ探してたんでしょ?」


ラミィさんがよっこらしょとでも言わんばかりに両腕で抱え上げたのは・・・


ピンクスライム!!


 「え! どうしてそれを!?」

 「ええ、蛇たちの思念があたしに届いたのね。

 蛇にはスライムの種類は区別できなくてもあたしにはわかったから。

 あと、あたしの爪には麻痺効果あるから、このスライムまだ生きてるわよ。

 その方がいいんでしょう?」


スライムは死ぬとカラダが維持できなくなってズブズブになってしまう。

だからスライムの場合、薬材目的としては生け捕りが基本なのだ。

つまりこれで依頼はパーフェクト!


 「いやっほーっ!!」

二メートルくらい飛び上がって喜ぶダナンさん。

走り高跳び選手でも似合うかも。

 「え、えっと、ラミィさんでしたっけ?

 ありがとうございます!

 お客様は神様です!!

 いや、あなたは女神だ! 天女様だ!!」


待って。


ちょっと待って。

随分ストレートにラミィさんに突撃してったな。

さっきまでの中学生男子みたいなもじもじぶりはどこ行った。


ラミィさんは大人の女性の妖艷な笑みで対応中。

これどういうこと?


わかる?

ちょっとこのイライラ感。

嫉妬じゃありませんよ、

ただこれあたしがピエロみたいじゃない。

これじゃ、小さめな二つの膨らみという切り札まで使用したあたしの立場は!!



・・・この件に関しては、あとでラミィさんがフォローしてくれました。

 「ううん、あれでいいのよ。

 実際、あの男の人は、あたしに純粋に感謝してただけでしょ?

 女として意識してたわけじゃない。

 だから、麻衣の攻撃は確実にあの男に効いてるわ。」


 「別に攻撃じゃありませんからね?」

 「うふふ、安心してね?

 あたしは人間の習慣は知らないけど、男女間の機微なら麻衣より上手だから、くす。」



ううう、なんだ、この敗北感。

どっちにしたところで、あたしはまだまだ未熟ってことじゃないかあ。


リーリトの能力や、異世界で身に付けたスキルではどうにもならない事が多過ぎる。

人生はどこの世界でも、そんな甘くはないということなのだろうか。


ラミィさんとはその場で挨拶をしてお別れをした。

蛇の下半身は、ダナンさんに精神衛生上お見せできないので、あたし達が先にその場を離れる形となる。


では今回のクエスト結果です。

ラミィさんがブランケットと余裕の優越感を得る。

ダナンさんが目的の素材全て手に入れ、年下の女の子とイチャコラできて、大人の艶やかな女性の姿態をちゃっかり目に焼き付ける。

あたしは、うん、クエストは全て文句の一つも出ることなく達成、後は採集素材の余り物を換金できたくらいかな。

いや、あと、人生経験のお勉強をしたと思う事にする。


負け惜しみじゃないよ!!



その後、探索系クエストを全てクリアしたあたしは、晴れてEランクに昇格。

その日の打ち上げパーティーではみんなにチヤホヤされてしまいました。

チョコちゃんと仲良くなったり、ケーニッヒさんから真面目な忠告をもらったりとか、ベルナさん含む、ギルドの女性陣からからかわれ続けるダナンさんとか、とても楽しかった。


まーこの辺も語ると長くなるんだけどさ、

キリがないので、ちょっとおやすみ。


え?

もう次の人が待ってる?

次の人って誰?

そのうち会えるの?


え、ちょっともう少し詳しくっ、て、


あーっ




次回からはついにこの世界の勇者が登場!


賢王カラドックがAランクパーティー「蒼い狼」の下へ。

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