第四百九話 真の敵
<視点 魔族メイド>
ま、まさか本当に実在してたなんて・・・
いえ、
そんなお伽噺にしか伝えられていなかったような存在・・・
それが私の目の前に・・・三柱も!?
余りの衝撃的な出来事に、声を発することも忘れていた私などとは、
やはり器が違うのでしょう、
ミュラ様は臆することなく魔族の神々と会話を試みになられるようです。
「・・・世界の神・・・悪神だと?」
「くくくくく、左様・・・。
通常、魔王と言えども我らが声を直にかけることなど皆無。
されど、そなたは出生そのものが異例中の異例。
ましてや、ここで邪龍復活とあってはそうも言ってられないのでな・・・。」
「ほう?
我らに全く臆することがないとは・・・
これはこれはさすが、異世界よりやってきた魂よ・・・。」
「あああ、今までの魔王は下品な顔つきの男どもばかりだったものね、
みずみずしい少年が魔王とは・・・うふふ、食べちゃいたいくらい・・・。」
なるほど。
確かに魔王となるものが異世界よりやって来た事も、
その誕生が、邪龍復活のタイミングに合致したことも、今まで聞いたことのない事例ですね。
それは理解できます。
・・・けれど左端のゆらゆら揺れている女性型の神・・・
その艶めかしい声と、胸の部分と腰の部分が凶悪なほどの大きさです。
ミュラ様に・・・襲い掛かったりしませんよね?
その時は、このメナ・・・命を賭してミュラ様を守りきらねばなりません・・・。
「いけねぇ・・・こいつらはヤバすぎる・・・。
特にあの胸がデカ盛りのお姉ちゃんに押し倒されたら、
勝ち目なんかどこにもねぇ・・・。」
おい、ヒューマン。
あなた、ミュラ様を守る気これっぽっちもないですね?
むしろ進んでヤラれようとしていませんか?
「・・・メナ、
こいつらの言ってることはわかるかい?」
「はっ、はい!!
恐らく魔族を守護する三柱の神々と思われます!!」
「ヒューマンや亜人にも神々は存在すると言われております。
彼らはその対立者かと・・・。」
オスカ、あなたにはミュラ様は質問してませんよ?
大人しく口を閉じているべきでは?
「くくく、左様。
我らは魔族として長きにわたり生き、力をつけ、
そして死しても輪廻の輪に帰らず、己の命を神に昇華させた存在よ・・・。」
「ほう? これはこれは。
状況判断も理解も早い。
さすがは魔人が産み落とした奇跡の子ということか・・・。」
「ねぇ、坊や?
お姉さんといいことしなぁい?
なんならそこのヒューマンの男の人とまとめて面倒みてあげるわよぉ?」
オスカ、
あなたの結界術であの色ボケ女神、どうにかできないんですか?
え? 無理ですって?
本当に役に立たないハイエルフですね。
「それで・・・僕に何の用だい?」
「くくく、これはこれは話が早い。
しかしそう身構えるものではない。
まずは・・・君の魔王としてのスタンスを聞いておきたくてね。」
「僕のスタンス・・・だと?」
「くくく、左様。
基本的に魔王は自らがやりたいようにやる。
しかし、ヒューマン・亜人側との勇者と戦うことも必定。
・・・ところが君は何という運命の悪戯か、
向こうの勇者とは戦うつもりはないのだろう?」
そ、そういうことですか。
魔王として生まれてきたにも拘らず、勇者と戦わないなど、神々の立場からはとてもじゃないけど傍観できはしないということなのですね。
「・・・ならどうする?
別に僕は望んで魔王になったわけじゃない。
いつでもこの称号は返上させてもらっても構わないんだがね。」
「ほう?
これは欲のない男だ。
では勇者と一緒にいるあの狼獣人に彼女を寝取られても構わぬと?」
その瞬間・・・!
ミュラ様から途轍もないオーラが噴き上がりました!!
「・・・いま、なんと言った・・・!?
リナが・・・あの狼男に・・・だと!?」
「くくく、これほどの魔力を噴出するとは・・・。
だが、勘違いしないで欲しい。
確かにこれまで魔王と勇者は何代にも渡って殺し合いを続けてきた。
だが・・・我々も今回、過去を顧みていたのだが、
本来、魔王は勇者を殺す事が使命というわけではなかったのだ。」
え!?
そうなのですか!?
いったいそれはどういうことなのでしょうか?
「・・・どういうことだい?」
私もそれ程魔族の歴史に詳しいとは言えませんが、
この世界に生まれ落ちたミュラ様にとっては、何もかも新たに知るお話ばかりでしょうものね。
話が受け身中心になってしまうのは仕方のないことでしょう。
「くくく、簡単なことよ。
話は互いの勢力の生存競争に過ぎぬ。
魔王も、勇者もその旗頭なのだ。
すなわち、君が・・・今代の勇者を虜にするでも、監禁するでもいいが、
ヒューマンサイドから勇者を取り除きさえすれば・・・
それで魔王の役目は完遂されると言ってもいいだろう。」
な、なるほど!
それは素晴らしいアイデアです。
この先とても切ないラブロマンスが、ミュラ様に待ち構えているかと思っていたのですが、そんな抜け道があったとは!
「・・・では邪龍はどうする?
言っておくが、僕は奴の存在を許そうとは思っていない。」
「くくく・・・それで十分だ。
あれは魔族にとってもヒューマンにとっても天災のようなもの。
かといって今回は魔人が余計な・・・おっと、
永遠に近い生命を与えてしまった。
魔族と言えども傍観しているわけにもいかぬだろう。」
「・・・。」
「うふふ、いいのよぅ?
魔王ちゃんは、あの可愛らしい兎さんと共闘することを考えているのでしょう?
大丈夫よぅ?
邪龍を倒すのにどんな作戦を立てようが、誰と手を組もうがあなたのやりたいようにすればいいのよう?
その上で、あの子を虜にしちゃえば、完全勝利じゃなぁい。」
「・・・そういうことか。」
「くくく、魔族の中にはヒューマンに対し復讐心に凝り固まった者もいよう。
しかし我らの望みは詰まるところ、魔族の繁栄だ。
その為の最適なる行為を推し進めるとなれば、手段など問いはせん。
我々が三柱にてここへ訪れたのは、そのお墨付きを与えるためだ。
忘れないでもらいたい、異世界より現れた新たなる魔王よ。
・・・我々は敵ではない・・・。
その事を・・・そなたに伝えたくてな・・・。」
・・・我々魔族そのものがあまり他人と関わりになろうとしない生き物。
その神々というからには、どんな方々かと思いましたが・・・
けっこう親切な方々なのでしょうか。
「・・・一つ、断っておきたい。」
はっ!
ミュラ様の所信表明ですね!?
「くくく、何かな、異世界より来たりし魔王よ。」
「ほう・・・我らに何か願いでもあるというのか?」
「うふふ、避妊なら不要よ?
私には肉のカラダがないから、赤ちゃんができる心配はないわ?」
一人、頭のおかしい神がいるようです。
どうにかして消滅させられないでしょうか?
・・・あ、オスカがヒューマン冒険者の男を人身御供にしました。
女神も大喜びで、男も嬉しそうな悲鳴を上げて干からびていきます。
・・・一応まだ息はあるようですが、やりますね、オスカ。
初めてあなたを尊敬できるような気がします。
「・・・ああ、貴重な話し相手の男が・・・いや、話を戻そう。
僕のカラダは確かに魔族とやらのカラダなのだろう。
けれど、他の世界からやってきた僕に、この世界のヒューマンやらとの確執を背負わされても困る。
そして勇者だとかになったリナの問題は僕個人の問題だ。
干渉は不要。
僕が言えるのは一つだけ。
邪龍は殺す。
それだけでいいなら、君らの言葉を聞いてあげよう。」
す、すごいです、魔王様。
これだけの魔力と重圧を発する神々の前で、全く臆することもなく堂々と・・・。
「く・・・くっくっくっく、これは面白い。
異例、なにもかも異例!
長くこの世界と魔王を見てきたが、
邪龍に立ち向かう魔王が現れるとは!」
「ほう?
威勢がいいのは結構だが、
勝算はあるのかね?
気分とノリでどうにかなるほど邪龍は甘くないぞ?」
「ああ・・・男・・・美味しい・・・
迸る情熱・・・生命・・・この脈動・・・。」
それは・・・この方々の言葉も正しいのでしょう。
話を伝え聞くに、過去に邪龍が現れた時には、魔族はその人口が半分以下になってしまったということですから。
あと、あの女形の神はどこか他の所でやって欲しい。
「・・・勝算か・・・。
確かに未だ邪龍の力の全貌を見てないからな、
それを正確にはじき出す事など出来ないさ。
・・・けどね。」
おや?
ミュラ様・・・なにか嬉しそう・・・ですか?
「・・・カラドックがいるんだぞ・・・。
あいつとは出し抜いたり、煮え湯を飲まされたこともあるが・・・
こんな形でまた会えるなんてな・・・。
お母様のことといい、リナのことといい、
僕はこの世界でやらねばならないことがたくさん有りそうなんだ・・・。
邪龍など、その為の踏み台のようなものさ・・・、
ふ、・・・ふっふっふっふふ・・・!」
・・・ああ、ミュラ様が・・・ミュラ様が初めて嬉しそうな笑いをそのお顔に・・・。
ところが・・・
この場にいた頭のおかしい女神・・・
その方がよりもよって、火のついたミュラ様に、
更に・・・更に油をぶちまけるかのように!
「うふふふ、
ならもっと面白くなるような情報をあげましょうか、坊やぁ?」
「ん? なんだ?
何を知っているんだ?」
「うふふふ、大したことじゃないわよ?
坊や? あなたの真の敵は、邪龍でも勇者でも、
その異世界から来たと言う男でもないのじゃないかしらあ?」
「・・・ん?
他に・・・いったい誰がいると?」
「くすくすくす・・・あの場にいたでしょう?
兎姫を守る狼ナイトが・・・。
私にも詳しいことは分からないけど・・・
あのオオカミくん、あなたの事知っていたわよ?
彼も実は転生者なんじゃないのぉ?」
「・・・なんだと・・・?」
お待たせです。
次回、メリーさんがアスターナ邸に到着です!!
下書きを書き続けないと・・・。