第四百六話 振り上げた拳
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<視点 リィナ>
まずいですまずいですまずいです!!
あ、違いますよ?
「不味い」ってのは、
ケイジがこの辺り一帯を治める領主に、とんでもないお説教をかましたことじゃないですからね?
普通の平民とかだったら、身分の違いからとんでもない行為だと咎められるところなんですが、
ケイジは勿論そんな事は百も承知で・・・
そしてむしろあたし達も、ケイジの行動は無理もないと、心からそう思うのですけど・・・
問題は領主のアスターナ様の方が・・・
あ・・・これ、ケイジの言葉にショックを受けちゃったのか、
アスターナ様の足がガクガクと揺れています・・・。
この国では珍しい、凛としていた流れるような長い黒髪の威厳も、
まるで何処かへ吹き飛んでしまったかのように、今や見る影もありません。
「そ、そんな・・・ハギルっ
あなたはそんな目に遭ってまで・・・っ」
だいたいケイジも言い過ぎなんですよ!!
あんな年端も行かない少年の腕がちぎれてたとか、お腹が裂けて内臓飛び出してたなんて、
そんなグロい説明聞かされて、真っ当な神経してたら普通の女性なんて卒倒しますよ!?
しかももしあの雪豹少年が、アスターナ様達と深い結びつきでもしていた日にゃ・・・。
「おっ、奥様、しっかりしてください!!
おい! 君!! ご、誤解だ!!
奥様は、彼にっ、そんな残酷な命令など、していないっ・・・!!」
アスターナ様を支えるように執事姿の人が出てきました・・・。
けど、この年配の人も体力の限界っぽいですね・・・。
言葉にも力がありません。
あああ、ケイジの口が思いっきり裂けるううううううっ!
「・・・ほう、そうか?
だが、彼は元々あんたらと一緒にいたんだろ?
なら・・・命令してないにしても、アンタらはこの子供を見捨てたってことでいいんだなっ!?」
「・・・あ、あ・・・あ、
うあああああああああっ!」
ケイジが怒るのは分かります。
けど・・・アスターナ様は見ていてこっちが痛々しく思うくらい取り乱してる様子です。
もうまともに会話すらできそうにありません・・・。
この様子なら、
あの獣人の子供を見殺しにしようとしたのは、アスターナ様の本心ではないと思うんですが・・・。
ここで状況に変化がありました。
爽やかフェイスのイケメンの人がこの場に割り込んできたのです。
「待ってくれ!!
奥様は終始、自分たちと一緒に街へ戻るよう彼を説得していたんだ!!
まごまごしている時間はないと、奥様に決断させたのは僕だ!!
それ以上、奥様を責めるなら僕を相手にしてもらおう!!」
おお! 凄い格好いい事言いますね、このイケメンさん!
カラドックの知り合いだそうですけど、この辺りの冒険者でしょうか。
「・・・アンタは?」
「僕はBランクパーティー『栄光の剣』のアレンだ。
カラドックやメリーさんとは以前、共同で依頼を請け負ったことがあるよ。」
その言葉にカラドックもこちらに来てくれました。
「ああ、ケイジ、間違いない。
彼の人格については私が保証する。
とりあえず、アレンの話を聞くだけ聞いてやってくれないか?」
「・・・わかった。
カラドックがそう言うなら・・・。」
やっぱりカラドックならケイジを止められますね。
もっとも、この話に関しては、もともとカラドックもケイジを止める気はなかったようです。
カラドックもあたしと同じ考えだったんでしょうね。
そこであたしたちは、彼らがここに至った経緯をすべて聞きました。
アレンというリーダーは、終始堂々と説明し、
嘘や誤魔化しなどは一切ありませんでした。
麻衣ちゃんも反応しないし、自称嘘発見勇者のあたしの耳でもそんなものは感じ取れません。
その上で責めるなら僕を責めろとアレンという人は言うのです。
外見だけのキザ野郎ではなさそうな人ですね。
・・・それなりに緊張はしていたようですが・・・。
「生まれ育った孤児院を守るため・・・か。」
「君が・・・カラドックが探していたケイジ・・・なんだね。
どうだい?
もし君がこの少年の立場だとしたら、君ならどんな選択をする?」
「・・・ぐ。」
あ~、これはケイジの分が悪そうですね・・・。
そんな状況、普通の人なら逃げますもん。
他に一般的な行動としたら、アスターナ様と共に街へ戻るくらいでしょうか?
あ、ケイジが目を瞑って首を振ります。
これ降参ですかね・・・。
「済まなかった・・・
感情に任せて無礼な言動をしてしまった。
この通り謝罪する。
許して欲しい・・・。」
おおおおお、これは珍しい!!
ケイジが全面敗北を認めましたよ。
でも・・・これは仕方ない・・・というより・・・。
すると、そこへアスターナ様ご本人が、ケイジの手を両手で握りしめたのです。
涙を流しながら・・・。
「えっ!?」
「そんなことはございませんわ・・・!
謝罪など不要です!!
あなたの叱責は何も間違っておりません!!
このアスターナ、あなたの言葉、心に刻み付けておきましょう!
そして・・・そして・・・本当に、よく・・・う、よく私達のハギルを救っていただき、
ああ・・・そしてスタンピードまでも・・・・ううっ」
今度はケイジの方がアスターナ様の態度に面食らっているようです。
どんな反応をしていいか、分からなくなってしまったようですね。
「い、いや、オレはたいして何も・・・、
少年の危機を察知したのは向こうの麻衣さんだし、
その少年を回復したのはそっちのタバサだし、
魔物の群れを氷漬けにしたのはアガサとカラドックだし。」
「まぁ!
皆様ありがとうございます!!
もしよろしければ、この後私達の館にいらしてはいただけませんでしょうか?
この地の領主として、最大限のおもてなしをさせていただきます!!」
「ちょ、ちょっとお待ちください、アスターナ様!」
そこへカラドックが割って入ります。
ええ、このままだと、話が別の方向に行っちゃいそうですもんね。
ケイジじゃないですけど、あたしもカラドックに全て任せた方がいいと思います!
「・・・あら? あなたは?
え・・・と、どこかでお会いしましたかしら?
マルゴット女王のご子息たちとどこか面影が・・・。」
「・・・異世界よりやって参りましたカラドックと申します。
公言できるようなことではありませんが、マルゴット女王とは親子のような関係とでも申しましょうか。
本来、私達は女王の親書を持って、アスターナ様の所に参るつもりだったのですが、
いきなりこんな緊急の事態に遭遇しまして・・・。」
「・・・まぁ! まぁまぁ!!
こんな高貴な佇まいのご子息が異世界にいらっしゃったなんて!!
ええ、ええ、それでしたら更に真心こめておもてなしいたさないといけませんわね!!」
・・・アスターナ様のテンションが更にヒートアップしました・・・。
こっちとしては悪い気は勿論しないんですけど、こんな無警戒でいいんでしょうか?
「奥様! こちらの方々が恩人であることはもちろんですが、
もう少し、慎重な・・・。」
執事の人の言葉は当然だと思います。
いろんな意味で大丈夫でしょうかね、このアスターナ様って人?
まぁ・・・先程の絶望とショックが大きすぎた反動だとは思うんですけど。
「チャンバス!
私を見くびらないでもらえますか!
・・・御覧なさい、この魔力の痕跡を!!
こんな事、我が国でマルゴット女王以外に誰が出来るというのです!?
どう見ても、この方はマルゴット女王の関係者でしょうに!!」
なるほど、ちゃんと根拠をもって判断したんですね。
・・・それはそれで、カラドックが異世界から来たとか、マルゴット女王の関係とか、
すんなり受け入れるのも別の意味で凄い気がしますけど。
「いえ、アスターナ様、執事の方を叱らないで上げてください。
彼の言うことはもっともな話です。
こちらを先に提示すべきでしたね、
女王からの親書を預かっています。」
そこでカラドックは女王からの封書を取り出しました。
「ふふっ、間違いなく女王の封蠟ですね。
さぁ、皆様もご一緒に・・・ああ、ご先祖様は私達をお見捨てにはならなかった・・・。
まだハギルの意識が戻らないのは心配ですけども、一先ず屋敷に戻りましょう。」
アスターナ様、ちょっと待ってください!
この場がこのままじゃ不味いですよ?
でも貴族の説得はあたし達よりカラドックに任せちゃえば安心です!!
「いえいえ、アスターナ様、申し訳ありません。
こちらの獣人少年を安静にさせるのはそうすべきなのでしょうが、
私達には先にやらねばならぬことがあります。」
「まぁ、それは!?」
そこで一度カラドックは私達を振り返ります。
まぁ、この流れならそうなりますよね?
「私たちは・・・このスタンピードの発生源を断たねばならないと思う。
ダンジョンの出入り口から出てこれない魔物がまだたくさんいるはずだ。
そいつらが絶対に地上に出てこれないというなら、放っておいてもいいかもしれないが、
この先どうなるかわからないなら、今のうちに叩いておかねばならないだろう?」
ケイジとあたしは勿論、ダブルエルフも力強く頷きました。
ヨルも気合十分、
・・・麻衣ちゃん、大丈夫ですよ?
そんな嫌そうな顔しないで。
あたしがガードしちゃいますからね!
「ああ! あなた方は何ということを・・・!」
感極まってまた泣き出しそうですね、アスターナ様は。
ミコノ
「さすがアレン様!!」
ライザ
「ふふ、アレン・・・。」
オルベ
「やっぱ、アレンはやるヤツやぁ!」
ミストレイ
「へぇ・・・あの獣人の人、けっこう熱い人なんだね・・・。」
アレン
「・・・ああああああ、この獣人暴れ始めたらどうしようっ!?
いざとなったらカラドック助けてくれよっ!?」