第四百三話 これだけいると、だいたいなんでもできる
ぶっくま、ありがとうございます!
<視点 ケイジ>
・・・うるさい。
みんなでぴーちくぱーちく・・・
いや、今が切迫してる状況なのは分かっている。
だからこれ以上は何も言わず、現在必要なことと思われる作業をこなすだけでいいだろう。
「なにか・・・ヤバいことになってます・・・!?」
いつも通り、最初の反応は麻衣さんだった。
ただ、彼女も反応したばかりで何がどうなっているのか、まだ判別すらできないのだろう、
語尾が疑問形になっていた。
次に声を発したのはリィナだ。
彼女の耳はオレよりも高性能。
オレがまだ聞き取れないものもリィナは感知する。
「こ、これ、何か地響きのような・・・
そう、まるで軍隊の行進だよっ!?」
「麻衣さん、
その・・・君が感じた異常の発信地は!?」
情報分析はカラドックの役目だ。
そこからどんな行動を取るかの判断についてもな。
この辺りはオレもカラドックに丸投げしている。
当然だろう?
その方が確かだし信頼性もある。
「ほぼ・・・進行方向です。
ちょっと・・・左にずれた程度で・・・。」
進行方向だと?
ならオレの出番だろう。
久しぶりにオレのユニークスキルが活躍できるな。
「ラプラス、
現時点で異常がわかるか?」
この集団の先頭で前方を見続けているのはラプラスだ。
一応、先に聞いてみたが・・・。
「・・・私の目ではまだ無理ですね。
ただ・・・進行方向より左側というと・・・向こうに拓けた土地がありますが・・・。」
ふむ、確かにあるな。
そんな広い土地ではなさそうだが、何か遺跡か砦のような建造物・・・ん?
「おい! なんか・・・動物の群れのような何かが動いているぞ!?」
この角度からだと視力関係なしに森の陰で全てを見通せない。
「もう少し近づきましょう・・・。」
「ラプラスさん、念のために高度は上げておいてくれ。」
カラドックの懸念ももっともだ。
何が潜んでいるかわからない。
念には念を入れた方がいいだろう。
「そうですね、了解しました。」
長馬車は空を飛んでるから結構なスピードが出ている。
目的地へはあっという間だ。
おかげで、すぐにオレの目にその全貌が明らかとなる。
「・・・おいおいおい、あれ・・・まさか・・・。」
「ケイジ!
あれはなんだ!?」
カラドックにも見えてきたようだな。
少し離れた遺跡のような場所から、
異形の魔物どもが後から後から湧いて出てるじゃねーかよ!!
「スタンピードだ!!
オレも実際に目にするのは初めてだが、間違いない!!
恐らくあそこにダンジョンの入り口がある!!
そこからどんどん湧きだしていやがるぞ!!」
「ばかな・・・!
じゃ、じゃあ、近隣の住民は!?」
カラドックの問いに、オレは魔物の群れの先頭を探る。
近くに民家や集落のようなものは見えない。
どこまでも群れの進行は・・・あれ?
右手に見える街道手前でストップしているぞ?
何かで進行を妨げているのか!?
そこへ麻衣さんが悲鳴のような声をあげる。
「いっ、いけない!!
誰かが群れの先頭で死にかけています!!
た、たった一人で・・・!」
はぁっ!?
スタンピードの先頭集団に、人間一人で抑え込もうとしてたってのか!?
そんなん、オレだって無理だぞ!?
どこの馬鹿の命知らずだ!!
と言ってる時間も惜しいな。
「ラプラス!
右手の魔物が詰まっている方向へ進路を変えろ!!」
「ケイジ様、了解しました!!」
・・・つっても、これ、どうするよ!!
死にかけてるっていうか、これもう間に合いようも・・・
「アガサ!
昨日の光球をもう一度できるかい!?
時間は一瞬でいい!!」
カラドックから指示が飛ぶ!
ああ、お前に任せておけば安心だ。
「光球発射指示了解!
全員瞑目!
3、2、1、ライト!!」
宮殿で使ったアガサの照明魔法。
術そのものはレベル1の基本術だが、込める魔力量でとてつもない光が放たれる。
「麻衣さんは遠隔透視で要救護者の位置をラプラスさんに指示してくれ!!」
「は、はい、わかりました!
ラプラスさん、右2時方向に500メートル程です!!」
「かしこまりました!
光球呪文解除次第すぐに向かいます!!」
「そう言ってる間にライト解除!!
全員開目ok!!」
オレたちの視力に影響はほとんどない。
なるほど、長馬車はスタンピードの先頭方向に向かっている。
魔物どもは全て目がくらんで一時的に行動不能に陥ってるようだ。
直接光を見なくても、何事かと振り返った段階で魔物の目を封じちまうからな。
む・・・街道への合流付近に土壁のようなものが何枚もあるな。
あれ、もしかしてアースウォールの壁か!?
「タバサさん、急いでください!!
もっもう間に合わないかも・・・!」
「いくらなんでもこの距離は無理!
しかも成功したとしても周りの瀕死の魔物ごと回復!!」
瀕死ってことは、
光を見てないだろうから、目も潰れてないかもしれない。
そんな状態で回復したら、すぐにまた目の前の人間を食い殺そうとするだろう。
・・・いや、その前に目を潰した魔物どもも回復しちまうのか?
「麻衣さん、無重力場を作ってくれ!!」
「あっ!? は、はい!!
虚術第四の術、ゼロ・グラビティ!!」
無重力ったって、対象物はもう動いてないんだろう?
なら・・・?
「重みがないなら私のサイキックで簡単に動かせる・・・それっ!!」
あっ、カラドックは念動力使えるんだ!!
麻衣さんが指示した方向の、死んでるんだか生きてるんだかわからない魔物どもの死体がどんどん上空に・・・どれだよっ!?
狼型の魔物にホーンラビットに、ゴブリンに・・・
「あの腕がなくなってる獣人みたいな小柄の・・・!」
あれかっ!
・・・まだ子供じゃないのかっ!?
「特定したっ!!」
すぐにカラドックは他の魔物のコントロールを手放したのか、
少年の獣人以外、手を放した風船のようにそのまま惰性で上空へと昇っていく。
面白がって見てる余裕なんかない。
残った獣人の少年めがけてすぐにラプラスが馬車を寄せる。
「この位置からなら可能!!
ハイヒール!!」
タバサのカラダから回復術が少年のカラダに注ぎ込まれ・・・
うわ、みるみるうちに傷が治っていくが・・・まだ生きているのか!?
ひでぇ・・・
右手の肘から先がなくなって、腹は内側から爆発したかのように・・・
「・・・ケガは治せるけれど、欠損した腕の修復は不可能・・・。」
悔しそうにタバサが呻く。
まぁ・・・この状態から命が助かるのなら御の字だとは思うが・・・
「ならあたしがなんとかします!!
しょうかん、ふくちゃん!!」
お!?
麻衣さんが例の白いフクロウを呼び出したぞ!?
直前に無重力状態を解除したのか、さっき空に昇って行った魔物が落ちて来る。
・・・もしかして、あの中に右腕紛れ込んでいるのか?
「ふくちゃん、この子の右腕を拾ってきて!!」
どうやら麻衣さんはもう見つけているようだ。
そしてフクロウもめちゃくちゃ視力はいい筈だ。
麻衣さんの指示通りに飛べば、あっという間に見つけてこれるのだろう。
未だ、地上に落ち切っていない魔物の雨の中を縫うように、
白フクロウが少年の腕を脚の爪で掴んで帰って来た。
・・・「これ」もズタズタだが・・・
「治療はタバサに任せて、ヨルさんと麻衣さんはタバサの補助!
残った私たちは、魔物の群れを片づけるぞ!!」
よし、来た!
「任せろ、カラドック!!」
「あっ、でもケイジとリィナちゃんは待機で・・・。」
ああっ!?
なんだ、そりゃあ!!
「いやいや、ケイジとリィナちゃんは私達の撃ち漏らしを片付けてもらうよ!
アガサ・・・広域殲滅呪文はまだ撃てるね?」
「愚問、
カラドックの好きな属性を指定してくれるだけでok!」
「ではお得意のパターンで行こう、
ここは道一本だからね、
水で頼むよっ!!」
・・・確かに一本道のようだな。
相変わらずえげつない。
さっそくアガサが水魔法最大術のメイルシュトロームを展開!!
・・・子供のころ、砂場で水路を作って、ありんこを水に流したことはあるか?
あれだよ。
あれを大規模にして蟻の数が大群になったと思ってくれればいい。
魔物どもは為す術もなく道の反対側まで押し流されて・・・
反対側の壁で激しく波しぶきを上げた後、またこちらに濁流が押し戻されて・・・
「そこで私の精霊術さ、
『凍りつく荊棘の狂想曲』!!」
・・・スタンピードに狂想曲ってシャレのつもりか・・・
あああ、
みんな氷漬けになりやがった・・・。
オレとリィナは撃ち漏らしを発見し、息の根を止める役だそうなんだが・・・。
「あたしたち、勇者とパーティーリーダーの筈だよね・・・。」
「ああ、オレたち、何の役にも立ってないな・・・。」
オレたちは二人、いつまでも遠い目で、
出来上がった巨大な氷河を眺めていた・・・。
あ、一応ダンジョンの入り口付近でぐったりしていた魔物が十数匹ほど倒れていたから、
息の根は止めておいたぞ。
・・・とても楽な仕事だったよ・・・。
獣騎士職業スキル、ハウリングとバーサークを手に入れた。
ハウリングは味方のステータス上昇、バーサークは自身の攻撃力と耐久力上昇、その代わりに遠距離攻撃使用不可になるとか。
・・・微妙。
ケイジ「おれ、ホントは技巧派なんだよなぁ・・・。」
タバサ「でも冒険者になった時点で獣人の能力は役に立っていた筈。」
ケイジ「ぐ、それはその通りなんだが。」
アガサ「恵まれたカラダ貰ったんだから、グチグチ言うの禁止。」
ケイジ「・・・うす。」
『凍りつく荊棘の狂想曲』
無理して難しい読みにしなくていいです。いばらでいいです・・・。
やばい・・・再就職の準備で下書きのストックが残り少ない・・・。