第三百九十五話 父として 姉として 男として
ぶっくま、ありがとうございます!!
VRoid、アガサ完成しました!!
画像はあとがきに。
<視点 ケイジ>
「・・・ケイジにも思うところがあろう。
しかし、これは何よりもそなたの為じゃ。」
「・・・オレの?」
別にまだ文句は何も言ってないぞ。
だが、オレは女王が何を言うのかは聞いてみたい。
「うむ、考えてみよ、
ケイジは勇者でなかったとはいえ、邪龍討伐を任された冒険者パーティーのリーダーじゃ。
その出自もいずれ明らかになる。
今回の件でケイジ・・・そなたがこの公家に連なるというのなら、
そなたの両親は誰になるのか、という話は必ず出て来る。
なのに五体満足のアルツァーが何もせず、
領地でのほほんとしておれば、
・・・そなたの事を悪く言うものが必ず出て来る。」
ああ、
どうせ遊びで愛人との間に産ませた獣人だから、父親とその家には見放されるような男だと取られるわけか。
「えっ、でも、それってケイジの為っていうか、
貴族の体面の話じゃ・・・。」
「・・・否定はせんよ。
けれども、じゃ。
それでもケイジのためになることは間違いない。」
リィナの指摘は正解だとオレも思う。
マルゴット女王がオレの為などというが・・・
そもそもオレはそんな体面は気にしていない。
アルツァーの体面だって知ったことではない。
・・・が。
「・・・マルゴット女王、
オレがこの国や軍の人事に口だす権利もないし、
女王がそれでいいと決めたのなら、それでいいと思う。」
「ケイジよ・・・。」
「ただ一つだけ・・・。」
オレは確かめておきたいことがある。
「なんでも言うてみるがよい。」
「それは誰が言い出したんだ?」
「・・・アルツァー本人じゃ。」
・・・やはり、そうか。
オレは目をつむる。
女王や他の第三者が考えた事ならもはや何の興味もない。
あいつもオレには触れたくも近づきたくもないという事なのだろう。
だが自分から言い出したということは・・・
考える・・・。
邪龍復活の危機の前にそんな個人的なことでとも思うが・・・
これもオレが越えなければならない壁なのかもしれない・・・。
子供の頃なら、たとえ前世の記憶を思い出したところで決して考えもしなかっただろう。
カラドックがこの世界にやってきて・・・
麻衣さんにいろいろな視点での事実を教えてもらって・・・
そして極めつけはミュラだ。
ていうか、ミュラっていうよりオレの態度と反応だよな。
オレはアイツに何を言った?
そしてその前、オレはカラドックになんで殴られた?
『オレはお前が母さん(おふくろ)にした仕打ちを忘れない』
このセリフはいつの記憶だ?
前世でオレが死ぬ直前か、
こっちの世界で女王に引き取られる寸前の話か。
オレが恨んでいたのは誰だ?
シリスか?
アルツァーか?
ベアトリチェにやり直す機会を与えたって?
彼女はずっと後悔していただと?
ミュラに・・・自分の息子に許されたいがために、
もう一度正しい親子の関係になりたくて・・・
不老不死を求めて・・・有り得ない確率の転生に希望を見出し・・・
(まぁ!! ケイジ様!! 私のことをそんなに想って頂いて・・・!
次に機会があったら是非素敵な夜を共に・・・)
うるさい!
いま、考え事してんだ!!
割り込むんじゃない!!
(ひゃあっ!?)
オレも集中力ないな・・・。
ついついあの女の顔が頭に浮かびやがった。
あの女ならホントにそんなこと言ってきそうだけど・・・。
だいたい今はシリアスな展開の筈だ。
茶々を入れるような場面じゃないだろう。
話を戻すぞ。
・・・オレだって前世でリナを助けられなかったことにずっと苦しんで・・・
この世界でようやくそれが叶った・・・。
救われたと思ったんだ・・・。
あれだけ・・・あんなにも大勢の命を奪ったオレが・・・
だったら・・・
オレはゆっくりと目を開ける。
「ケイジよ・・・。」
そんなに時間はかかってないとは思うが、
女王はオレが口を開くのをずっと待っていてくれたようだ。
「女王・・・
今の段階でオレが言うことは何もないよ。」
「それは・・・あやつを、
アルツァーを・・・。」
「だから今は何も言わない。
何故ならこの場にあの男がいないから。」
「・・・!
それはつまり、あやつと・・・」
「その時があったらな。」
「ケイジ、そなたは・・・。」
「女王にとっても弟・・・なんだろ、あの男は。」
女王の瞳は潤んでいる。
そうとも、全方位に愛を振りまくマルゴット女王が、
どんなバカなマネをしたヤツだとしても、自らの弟を切り捨てる事など出来ないだろう。
それでもオレの前で女王は弟を許してはならなかった。
オレがどこへなりと姿をくらませて、オレの存在をなかったことにすれば、
仲の良い姉弟関係を取り戻せたかもしれない。
だが、オレはここに戻ってこざるを得なかった。
女王の子供たちもそれを望んでいた。
だから女王はその後も弟を許すわけにはいかなかった。
けれど・・・
女王の胸のうちはわからないが、
姉として・・・どこかで弟を許してやりたかったのかもしれない。
少なくともその機会を持たせようということだろうか。
まぁ、オレ自身が許すかどうかは別の話だ。
肝心のあいつの気持ちが分からないからな。
ヤツにしてみたら、ただの世間体を気にしたポーズに過ぎない可能性もある。
ただ少なくとも、
今の時点では、
・・・問答無用に、決して許しはしない・・・というつもりもない。
前世の時とは違うんだ・・・。
それにしても・・・
カラドックの母マーガレットさんがこの世界ではマルゴット女王、
オレのこの世界での父親は・・・やはり前世のアーサーさんになるんだろうか。
名前も似てるしな。
顔は正直覚えていない。
あとは騎士団長のブレオボリスも一緒なのか?
パラレルワールドって、人だけじゃなく世界もそっくりになるって話じゃないのか?
元の世界とこの世界はあらゆるものが違い過ぎる。
ステータスだとか勇者に魔王だとか、
魔法は・・・似たようなものはあるか。
けどレベルアップとか職業補正とか何だよな?
月が二つもあるんだから、どう考えても地球じゃないんだろうし。
・・・それと女王の子供たちは全く違うよな。
元の世界ではマーガレットさんの子供はカラドックだけと聞いている。
向こうでは、
マーガレットさんに「天使」が絡んでしまったがために、
子供の世代から全てが狂ってしまったとでもいうのだろうか。
「すまんな・・・ケイジよ。」
「いいさ、カラドックにも怒られたからな。」
女王はオレの内心をどこまで見透かしているんだろうな。
オレもこの後、自分自身でアルツァーにどういう態度を取るかわからない。
繰り返して言うが、頑なに「許すつもりはない」とは思っていないだけなんだ。
あれだけの罪を犯したオレが救われて・・・
他に罪を犯した奴が悔やんでいるのに、オレがそいつを許さなかったなんて・・・
あまりにも虫が良すぎる話だろう?
それこそオレが取っていい態度ではない。
またカラドックに殴り飛ばされるだけだ。
・・・もちろん、そいつが何の反省もしてないなら話は別だぞ?
アルツァーがおふくろの死に対し、なんの後ろめたい気持ちも持っていないとしたら、
その腕を斬り落としてやってもいいと思う。
オレを認知しなかったことについてはどうでもいい。
前世の記憶を取り戻したオレにとって、たぶん気持ちの悪い話になるとしか思えないからな。
・・・それにきっと・・・ヤツはそういう運命にあるのかもしれない。
ところが、ここでカラドックがふざけた発言で、
オレの気持ちを台無しにしてくれやがった。
「えっ? ここで私?
ケイジに何か怒ったっけか?」
「・・・おい、カラドック。」
確かに別の話題だったけどさ!
なんできれいさっぱり忘れてるんだよ!!
痛かったんだぞ!!