第三百九十四話 擦り合わせ
そろそろニート生活とおさらばしようか・・・。
会社辞めてもう4ヶ月も経ってるなんて・・・。
通勤時間、給与面で「このくらい」と考えていたんですが、
つい昨日、狙っていた会社にエントリーしようと、送信ボタン押す直前でためらい、
ふっと広告的に現れた関連業種の欄を見ていたら、学生時代に働いていた場所で募集が!!
・・・今の住所からだと通勤1時間20分はかかるけども・・・
全面改築して建物も変わってるし、もう知り合いも誰もいないだろうし、
仕事環境も職種も違うけども・・・。
応募しました。
面接はゴールデンウィーク明け!!
<視点 ケイジ>
「・・・それで、邪龍の虫どもはどうにかなったのか?」
宮殿内はほとんどパニックに近い状態だったそうだ。
もちろん、まだ虫たちもそんな強力ではないレベルだったので、
怪我人は大勢いたが、死者はゼロとのこと。
「全く昨晩から大騒ぎの連続じゃ・・・。
今は市内も宮中も警備体制を強化しておる。」
普通なら長旅(?)を済ませたオレたちをゆっくりもてなしてくれるところだろうが、
生憎そんな余裕がない事は互いにわかっている。
それよりも、マルゴット女王には周辺各国の連携状況を教えてもらったり、
こちらはこちらでエルフ勢の動きの説明、
そして互いが見知っていることの擦り合わせなど、話すべきことは山のようにある。
「現状は芳しくはないが・・・
ケガの功名というべきかの?
あの虫どもの騒ぎで周辺国も本気で動かざるを得まい。」
邪龍復活について、及びその対処について、
グリフィス公国の友好国は問題なく連携の同意が取れたそうだ。
問題は近年この国と諍いを起こしていた国やその同調国だ。
そいつらは事態の重大性を理解しながらも、マルゴット女王主導で邪龍討伐に向けて動くことに難色を示しているという。
・・・くだらねぇ・・・。
「しかし光結界で一時的に虫どもの発生を抑えられるというのは朗報じゃの、
すぐにでも国内の金枝教はじめ他の宗教団体に公布、
周辺国に連絡を行うぞ。」
「とりあえず、この宮殿だけならば、タバサが設置できるとのことです。
封魔石の備蓄はございますか?」
細かい説明はカラドックに任す。
オレが口出すのは今後の方針だけでいい。
「うむ、封魔石は妾の研究で時々使用するからの、
この宮殿を覆うだけならばなんとかなるだろう。」
・・・一々全てをここに記すと何時まで経っても話が進まないように感じるな。
他にどんな話をしたかって?
じゃあ話の順番に列挙していくぞ。
非協力的な対立国家について。
冒険者ギルドや金枝教などと言った非政府機関を通じて協力を仰ぐ。
なお、カラドックが加入以前、オレたち「蒼い狼」が傭兵活動していた時期に、
それらの国々とオレの間には、少なからずパイプがある。
・・・もちろん政府や軍部といった中枢でなく、
あくまで戦線の現場レベルの話だけどな。
そちらの指揮官、責任者に話を繋げるだけでも、国と国の交渉に影響を見込めるなら期待していい。
文面はカラドックに考えてもらって、この日の午後オレは、一生懸命手紙を書き続けることとなった。
・・・狭い部屋で獣人に細かい作業させるなよな?
いや、面倒とか苦手だとかそんな話じゃなくて絵的にさ・・・。
似合わんだろ?
あと手紙の送付自体は、この国の官吏たちに頼って構わないとのこと。
虫の発生について。
光結界が及ばない地域については、
その地域の領主と冒険者ギルドに駆除を一任する。
結界を作れる人間など、せいぜい、神殿・寺院が精一杯で、
町全体を覆えるものなどいないと考えた方がいいそうだ。
麻衣さん発案の聖水散布はやるだけやってみるとのこと。
「結果が出なかったらどうしようっ」とわたわたする麻衣さんを落ちつかせよう。
・・・最近、お互い慣れてきたのか、麻衣さんとの距離を近くに感じる。
見てると普通に可愛いよな・・・。
・・・いや!
別に麻衣さんを女として見ているわけじゃないぞ!
あくまで学校の後輩の女の子・・・じゃダメかっ!?
えええっと・・・そ、そう、妹っていうか、ペット的というか、
あ、ペットはオレの方な!!
もふもふだもんな!
だからリィナさん、バチッって静電気発生させないようにねっ!?
・・・女神の件。
大まかな話は伝えた。
彼女の正体が、世界樹の女神だったって明かした時はさすがに驚かれたようだ。
ただ細かい部分は端折らざるを得なかった。
女王も興味津々だったが、それは邪龍騒ぎが終わるまで我慢することに。
半分は色恋沙汰だったような気もするし。
ていうか、むしろ女王やイゾルテが一番食いつきたそうだったのが、そのジャンルな件。
そして、
女神のお告げでこの後ローゼンベルクという町に行くことを伝える。
オレも詳しく知らなかったが、その街の領主は女王の遠縁らしい。
正確には縁戚関係にあるのは領主本人ではなく、その夫人の方とのこと。
それで、ヨルの武具をそこで手に入れるという話ならば、
女王が紹介状を用意してくれるそうだ。
名前はクリュグ伯爵?
聞いたことはあるような気がする。
一応、婿養子だそうで、名目上の領主はその人らしいが、
実際の家督はその妻であるアスターナ伯爵夫人にあるとのこと。
つまり女王の甥にあたるこのオレも、
そのアスターナ夫人の遠縁ということになるのだろうか?
「あそこは代々、武門に秀でておる家での、
クリュグ伯はもともと地方の子爵家の長男だったが、
国内の剣術大会で優勝したクリュグをアスターナが見染めての、
互いの家も本人同士も納得済みの誰もがうらやむ婚姻だった。
今は7つになる娘がおるぞ。」
なるほど、そんな家なら魔族のヨルが扱える武具があってもおかしくはないな。
「この世界って、意外と女性の地位高いですよね?」
麻衣さんが興味深そうに言う。
なんでも麻衣さんが、ソロの頃に世話になった貴族も女性が家督を持っていたらしい。
そう言われりゃ、そうかもしれないな。
まぁその分、亜人の地位が低いんだけどな。
あと・・・気になったのがメリーさん。
どうかしたのかと聞いたら、その貴族の名に覚えがあるような気がするが、
どこで聞いたのか思い出せないとのこと。
「そなたは一度、この国の冒険者ギルドで依頼をこなしたのじゃろう?
その時に誰かから聞いたのではないか?」
なんでも「栄光の剣」とかいう冒険者パーティーに・・・
例のハイエルフの妹さんがいるパーティーか、
そこにもこの国の貴族の継承権を持たないメンバーが二人もいたそうだからな。
メリーさんは、
「そうかもしれないわね・・・。」
と、納得したんだかしてないんだか。
少し間を置いてから、やはりまだ気になったのか、
「ちなみに、女王、
その7才だとかいう女の子の名前は?」
と、彼女が問うと、
「確かマデリーンじゃったな。」と返って来た。
隣でイゾルテも同意する。
「間違いありませんわ?
明るくてちょっとお転婆な子でしたわ。」
その瞬間、全員の目がイゾルテに向かう。
イゾルテの言う「ちょっとお転婆」か・・・。
少し不安なんだが、気にしないことにしよう。
メリーさんは、やや考えこんでいたようだが、
「やっぱり知らない人たちね・・・。」
と、そこで話のケリをつけたようだ。
まぁ、どうせこの後、行くんだ。
今の時点で気にするものでもないだろう。
「それとじゃな・・・。」
マルゴット女王の雰囲気が変わった。
含んだものを感じるというか、何か言いづらそうな・・・。
女王もオレが不審がった顔をしているのを感じたのだろう、
何らかの覚悟をしたかのようだ。
「邪龍討伐には勿論、我が軍も動く。
一応、その件もケイジ達には伝えねばと思うての。」
それはそうだろう。
マルゴット女王とこのグリフィス公国は、オレたち「蒼い狼」を全面的にバックアップすると国内外に公表しているのだ。
そのオレたちが邪龍討伐に直接向かうと言うのだから、
グリフィス公国国軍が動かないというのは体面上も道義上もあり得ない。
もっとも女王が言い淀んでいたのはその先の話だった。
「その軍の総大将なのじゃが・・・。」
ああ、総大将は必要だろ。
誰がなるんだ?
次期後継者候補のコンラッドか?
それとも騎士団長ブレオボリスか?
まさかここでマルゴット女王本人が、とか言い出すなよ?
「邪龍討伐軍総大将には・・・妾の弟・・・
つまりアルツァーが就任する。」
「なんだと・・・」
オレは一瞬席を立ちあがりかけた。
いや・・・これはただの反射だ。
だから途中で理性が働いて言葉も尻すぼみになる。
「ケイジ・・・アルツァーって人、確か・・・。」
「ケイジ、それは君の・・・。」
リィナとカラドックにはわかっちまうよな。
女王側も子供たちがオレと女王の反応を見比べる。
初めて出てきた名前が4人ですね。
そして・・・メリーさんも彼らの名前には覚えがないとも・・・。
でもちょっと引っ掛かるものはあったようですが。
「聞き覚えがあると思ったのは・・・ワインの名前だったかしら・・・?」
どうやら勘違いしてしまったようです。