第三百九十一話 ぼっち妖魔は面倒ごとに首を突っ込まない
ぶっくま、ありが・・・あ、消えた!!
<視点 麻衣>
前の話からの、あたしの覚悟と緊張感は一瞬で砕け散った。
「いやいや、さすが私たちのタバサだ、
私の後を継ぐには何の心配も要らないな・・・!」
「ホントだわ、もう冒険者について旅に出ていくって聞いた時には、
胸が張り裂けそうだったのよ?
それが、こんなに成長して・・・。」
「ち、父上、母上・・・あの、そろそろ・・。」
「見れば、さきほどのダークエルフの魔術士殿とも互いに高め合う素晴らしき仲間を得たようだ。
タバサにはこれまで、そんな良き友人などおらなかった。
今後とも娘を頼んでも良いだろうか!」
「ホントに本当よ?
なんだったら、この中央神殿に転職してこない?
あなたがよければタバサちゃんのお嫁にさんになってくれてもいいのよ?」
凄いな、ダーニャまま。
タバサさんの結婚相手が女性でもいいのか。
アガサさんもどう反応すべきか、微妙な笑みを顔に張り付けることしかできない。
「あの・・・これ、なんて拷問・・・。」
そしてついにタバサさんは、机の上におでこをくっつけて撃沈してしまった。
さっきまでの凛々しい姿はどこへいったのか。
え、えーと、その、目の前の異常事態の分析と対策は・・・
一度タバサさんから救援要請を目で訴えてきたけど、
麻衣ちゃんスマイルと謎のガッツポーズで応じたら、絶望の表情と共に暗闇の底へ沈んでいった。
あの流れに迂闊に手を突っ込むと、あたしもお嫁さん候補にされちゃいそうですからね。
タバサさんのLPがゼロになってしまったので、
カラドックさんやダークエルフの人たちと教皇のおじいちゃんとで話を進める。
あ、もちろんカラドックさんは、タバサさんご一家の団欒は完全にスルーしてたよ!
さすがだね!
それで、
メリーさんが気付いていた昨夜からの瘴気の話とかんがみて、
今回の虫騒ぎはどう見ても邪龍復活の影響としか考えられないとのこと。
あたしの感覚でも、あの気持ちの悪い虫どもは、
かつて魔人ベアトリチェさんの胸を貫いた触手に近い気配を持っていた。
「どうやら、邪龍の復活に合わせて地上全域に瘴気が漏れ出したのだろう。
その濃度上昇の経過、拡散する速度など詳細を掴むには未だ情報が足りぬが、
人形殿の言うように、あまり時間は我らを待ってくれないようだ。」
たぶん、ノードスおじさんの見立てで正しいのだろう、
この場のみんなが頷いている。
そして魔力を対して持っていないケイジさんから当然の疑問が起きる。
「あの結界はどこまで信頼できるんだ?」
「しばらくは安全じゃが、瘴気の濃度が高まればいずれ結界を喰い破ってこよう。
それまでの気休めじゃな。」
答えてくれたのは教皇のお爺ちゃん。
一番偉い人にお爺ちゃんなんて気安すぎるって?
うん、でもみんな気にしてなさそうだよ。
あとこちらはダークエルフ勢。
「フリードマン様、我らも一度エルドラに戻った方が?」
「いや、ノードス兵団長、それは急ぐものではないな。
今は深淵の黒珠が戻って来たからの。
闇属性の波動が満ちている間は、そうそう瘴気も湧きあがってはこれまいて。
もちろん光属性の方が効果は高いのじゃがな。」
そしてその二人の会話にケイジさんが首を突っ込む。
「あー、気を悪くしないで欲しいが、邪龍の瘴気とやらは闇属性ではないのか?」
まぁ、これは聞いておかないとだね。
魔法都市エルドラは闇属性に満ちている。
もし、闇属性が邪龍との親和性が高ければ、
先の魔物も大量発生ということになりかねない。
まぁ、あたしも闇に属するらしいから心配してないんですけどね。
「うむ、全く違うよ。
そもそも光と闇は相反する属性であって、
光に当てられたからと言って消え去るようなものではない。
・・・何と言えばいいのか、今回のは仮に邪属性とでも言っておこうかの。」
だそうです。
続いてカラドックさんの疑問。
「ふむ、ちなみに光結界で防げるというのは、他に・・・
例えば日中の屋外なら太陽の光でも効果あるということですか?」
「うーむ、それも今後の検証が要ることではあるな。」
教皇様でもわからないらしい。
「とりあえず、ノードス兵団長、わしらはビスタールに結界を作ったのち、
明日エルドラに戻るとしよう。」
「わかりました!」
深淵の黒珠が戻って来たから、エルドラに関しては他人の協力は要らないそうだ。
フリードマンお爺ちゃんや現地の神官さん達で事足りるという。
「教皇猊下は・・・他の都市も廻らぬとなりませぬな。」
ハキバぱぱが意地悪そうな笑みを浮かべる。
「・・・老人を働かせすぎじゃよ・・・。
ていうか、お前もじゃぞ。」
「くっ?」
ちなみにハキバぱぱは、森都ビスタールの他の神殿にいかないといけなくなった。
そしてケイジさんの心配は他にもある。
「エルフの街はそれでいいんだろうが・・・。」
「ふむ、ヒューマンの街か・・・。」
教皇のお爺ちゃんは考え込むように背中を椅子に預けるも、
結論はハキバぱぱが下すようだ。
「ヒューマンの街にも金枝教始め、光結界を張れる大僧正クラスの神官はいるだろうが、
街や都市を守る規模になると、一人や二人じゃとてもじゃないが話にならない。
もちろん、対処の仕方ややり方が分からぬというのなら、教えてやるのは構わんが、
我らエルフが一つ一つヒューマンの街を回るというのは虫が良すぎる望みだぞ?」
うん、無理だよね。
エルフの都市が5つしかないのに、規模の大小は考えないとしても、
数多くのヒューマンの都市や町、それに村までも考えたら膨大な労力を必要とする。
なのでカラドックさんの方針は誰だって理解できるところ。
「いえ、さすがにそれは非効率過ぎますので悪手だとはわかります。
それよりはおおもとの邪龍をどうにかするしか・・・。」
「けど、さっきみたいにいきなり現れたら、一般人じゃどうにもならないぞ?
一度や二度撃退したとしても、24時間ずっと気を張っている事など誰にもできない。」
ここにいるメンバーの中じゃ、獣人のケイジさんが最もヒューマンに寄った考えになるんだよね。
・・・あ、よく考えたら、この「蒼い狼」にこの世界のヒューマンいないんだ。
まぁ、人種やら種族やらはあたしにもどうでもいいので、
今は思い付いただけのアイデアを口にしてみよう。
「・・・あの、家や部屋の中に聖水撒くとかは・・・。」
乾いちゃったりしたら効果なくなるかもだけど、
何もしないよりマシじゃないだろうか?
教えて! ハキバぱぱ!!
「ふむ・・・効果は・・・少しはあるかも?
聖水なら僧侶職なら大体作れるはずだしな・・・。」
ツァーリベルクのおじいちゃんもバンバン撃ってたしね。
「時間稼ぎくらいにはなるといったところか?」
頼りになるぞ、麻衣さん、
とばかりにケイジさんが嬉しそうな顔をこちらに向けてくれた。
そう、ケイジさんは種族関係なく、みんなの命を第一に考える人なんだっけ。
・・・ふぅ、今回の会議はこんなところかな。
当初の予定からかなりかけ離れた事になっちゃったね。
それにしても、とんでもない事態だとも言える。
まぁ、そもそもこの世界のラスボス相手にしようというんだ。
甘い考えなど一切許されないのかもしれない。
あ、そうそう、
日暮れ間際になったけど、
教皇のおじいちゃんやら、ハイエルフの有力神官さんやら、ダークエルフのお爺ちゃんら総出で、森都の光結界は完成いたしました!
明日はラプラスさんと合流して、
グリフィス公国に向かいます!!
あ、もしかしてあたしがこの世界に転移して、初めての大都会かしら!!
・・・でもきっと、
楽しめる余裕なんかないんだろうな・・・。
と、いうわけで、あたしの実況解説はこれでしばらくお休み。
次回は・・・えーと、ケイジさん?
エルフの街の話はこれで終わりなんだけど、
何か個人的なエピソードが・・・。
ああ、あの話ですね。
またリィナさんの顔が般若のようになるのか。
では皆さま、また今度!