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第三百九十話 ぼっち妖魔は暖かい目を向ける

麻衣

「もう、名前長いから

ハキバぱぱとダーニャままでいいよね?」

<視点 麻衣>


しばらくしてから、

部下の神官さんが戻って来た。

敷地に封魔石を設置し終えたという。


ダーニャままがタバサさんに呪文の文言を伝えると、

タバサさんは一人、あたし達の元を離れてこちらに背中を向ける。


・・・あっ、

みんなに見られてると恥ずかしいようだ。


まぁ、ご家族もいらっしゃいますしね・・・。


ところがここで想定してなかった事件が起こる。

アラハキバぱぱから待ったがかかったのだ。

 「タバサ、どうせだ、

 お前のお披露目代わりに礼拝所の祭壇で行おう!」


 「・・・えっ、ちょ、父上、そこは今、怪我人の手当てで大勢の人が・・・」


うわぁ、その瞬間、ハキバぱぱがニヤリと笑ったよ!

とても邪悪な笑みだ!


 「まぁ、ハキバ!

 それはとてもいいアイデアよ!!」


ダーニャままも乗ったか・・・。

あ、タバサさん、マジでお顔が赤い!

さすがにこれは小っ恥ずかしいのだろう。

どんどん話がおおがかりになってゆく。

いえ、・・・確かに重大な事件ですからね、

間違いなく重要な役なんでしょうけど・・・。


けれど周りはと見ると、教皇のお爺ちゃんも、直接は関係のないダークエルフのおじいちゃんも期待の目で見詰めている。

これは逃げ場がない。


タバサさんはやる気も十分、

自信もたっぷりある。

事の重要性も完全に理解。

いつもご自分の能力を使って、みんなに貢献できることにやりがいを感じている人だ。


本来ならばここは大一番の活躍するところ。


なのにそこには自分を小さい頃から育てたパパとママの目がある。

ご両親のさっきまでの様子だと、我が子の天才っぷりをみんなにアピールしたくて仕方のないのだろう。


うん、子供のままならそれでいいんだろうけど、

大人になってまでその扱われ方は痛いね・・・。



空気の読めるカラドックさんや、リィナさん達と協力してどうにかフォローしてあげたいけど・・・。

あれ? こういう場合ってどういう励まし方すればいいんだ?



するとそこへ大きな胸を揺らしてアガサさん登場。

 「麻衣、心配無用、

 私と競い合う好敵手ライバルが、親の目如きでぐずつくようなヤワなはずも無し。」


 「アガサさん・・・!」


 「タバサも気合注入!

 あなたのハイエルフトップになるという野望はただの妄想?

 ご両親の背中を踏み越えるまたとないチャンス。

 どうせなら、今日この場でハイエルフ最高の神官は誰なのか、

 衆人の目に焼き付ける時。」

 

アガサさんは腰をくねらせながら片手を腰に当てる。

タプン・・・!

と音が聞こえたのはあたしの幻聴だろうか?

そう、まるでタバサさんを挑発するかのように胸が揺れたのである。


 「アガサ・・・。」



うおおおアガサさん、格好いい!

ハイエルフとダークエルフ最高の能力を持った二人ならではのやり取りだ!

傍から見るといつもセットの二人組に見えるけど、

水面下では常に競い合っていたんだね。

これは当人同士でないと通じない流れなのだろう!


 「フン・・・了解、アガサ!

 焚きつけ感謝!

 その言葉通り、今日・・・私はエルフ界一のアイドルに就任!!」

 「ハン・・・戯言、タバサ!

 そんな夢物語、私がいる限り実現不可能!

 寝言を言うならさっさと就寝!!」



二人の間に火花が散った!!

う・・・うん、よく分からないけど、これは二人の世界の中の話だ。

メリーさんも温かい目で見ている。

自分と誰かを重ね合わせているのだろうか。

まぁ、話の流れは良い方向に乗ったまま!


タバサさんは身をひるがえして、礼拝所の方に向かう。



祭壇のある礼拝所は既に大勢の怪我人が詰めかけていた。

三列位に並んで、先頭の人から神官の人が治癒呪文をかけている。


もちろん、かすり傷とか打ち身程度で神殿に来る人など少ないだろう。

ほとんどは肉を食いちぎられたり、傷が骨まで達している人、

特に酷いのは抵抗する手段を持たない子供だ。

お母さんの腕に抱かれたまま、治療を受ける子供も見える。


・・・そしてこうしている間にも被害は広がっている可能性もあるのだ。




そんな人たちを尻目にタバサさんは一人、壇上に上がる。

心配することは何もないと思うけど・・・。


一方、治療を待つ人たちが訝し気に目を上げる。

そりゃあ、自分や家族のケガの方が大事だ。

人が余っているなら自分たちの治療を早くしろと言いたいでしょう。


なのに。


 「神官たちは治療を中止!!」



タバサさんが大声でとんでもないことを言った。

治療していた神官の人たちは何事かと振り返り、

大勢の怪我人の皆さんは怒号をあげる。

けれど・・・


 「一人一人ちまちま治していては時間の浪費!

 神官たちの魔力も無駄!

 ゆえに・・・!」


あっ、タバサさんの周りに燐光が・・・。


 「何人なんびとにも平等に降り注ぐ光よ、

 この地のか弱き傷つきし者たちに大いなる慈悲を・・・『エリアヒール』!」



うわ!

光が礼拝所すべてを覆いつくした!

こ、これ、エリアヒールって今までのタバサさんでも使えたプリーストの呪文らしいけど、

普通はパーティーメンバーだけが対象で・・・


それをこんな大勢・・・しかも礼拝所全てを覆う光なんて・・・。




 「あ、あれ? 怪我が・・・。」

 「い、痛くない! 痛くないぞ!?」

 「ああっ! 坊やの傷口がこんな綺麗に!!」


 「今のヒールで傷が治った者は治療不要!

 まだ傷の消えぬ者、痛みの止まぬ者のみ、そのまま神官の治療を継続!

 そして、この森都ビスタール中央神殿大僧正タバサがこの神殿全てを覆う光結界展開!!

 以後この神殿敷地内に魔物の発生は皆無!!」


うぉおおおおおおっ!と大歓声きましたよ!!

そしてそのコーラスをBGMに、タバサさん、更なる呪文を詠唱・・・!


 「我が求めし至高の光よ・・・!」


お?

今までと文言が違う?


 「清廉なる光もて、この地より不浄なるまがつき、邪まなる災い、全て打ち祓いたまえ! 『フォースフィールド』!!」


その瞬間、あたしたちがいるエリア全体から光の粒子が立ち昇る!!

目には視えない。

あたしの感覚で捉えた映像だ!!


多少なりとも魔力感知に長けてれば、何らかの知覚はできるだろう。

気分が良くなったり、周りの景色が明るく見えたりとか。

もしくはさっきまで傷を負っていた人たちは、治りをさらに自覚できたかもしれない。


・・・もともと、

うん、礼拝所の説教台は天窓から光が入り込む設計のせいもあるんだろうけど、

間違いなくタバサさんは今輝いている!

いつものポーカーフェイスを貫いているけど、やり遂げた感いっぱいだ!


そして娘の活躍を黙って見ていたハキバぱぱが、

ようやくここでフォローに入るのだろう。

間違いなくこの人も娘を愛するパパだね。


 「コホン!

 皆様、光結界の術は成功しました!

 術者は中央神殿が抱える次世代のエース、タバサ!!

 この術が使える者は森都ビスタールと言えども、各神殿に一人いるかいないかです!

 このまま、この神殿にいる限り、あの忌まわしき虫どもが湧くことはありませんが、

 皆様とて、この神殿内に留まり続けるわけにはいきますまい。

 しかしご安心ください、

 本日、この地に教皇ナイトポーリィ様がおいでになっております、

 さらには盟友ダークエルフの魔法都市エルドラよりフリードマン神官長殿もおいでです。

 我ら全員で、同じ光結界をこのまま森都ビスタール全域にかけるつもりです。

 そうなればまた皆さまは安全に、安心して元の生活に戻れるでしょう!」


げぇ!?

今の術をこの森都全域にっ!?


 「神官はハンターギルドに要請を!

 動ける者、全てに封魔石を持たせ、森都の領域の境の全てに設置させるのだ!

 その終了報告をもって、儀式魔術を発動させる!!」



・・・凄い、さすがはハイエルフが治める森都の神官トップ・・・。


これだけの異常事態をあっという間に治めてしまった・・・。

うん、でも・・・


問題はまだ解決していない・・・。

ハンターギルドの人たちが領域の境全てに封魔石を設置するには時間がかかるだろう。

その間に、今の事態を分析しないとならないのだ・・・。




・・・なかなか邪龍の元に辿り着けない・・・。

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