第三百八十八話 ぼっち妖魔は忘れてたわけじゃない
ぶっくま×2、ありがとうございます!!
<視点 麻衣>
「この部屋に何かいます!!」
あたしは立ち上がって周辺を見回す!
スパイのような部外者がいるという意味ではない。
ゴブリンのような魔物が入り込めるはずもない。
ネズミやトカゲなら普通にあるだろうけど、それなら可愛いものだ。
けど、この気持ち悪さはそんなものではあり得ない!
「昨日から魔法都市エルドラでも感じていたわよ?
その時は無視してもいいレベルだった・・・。
けれど、いま・・・現れている『それ』は無視していいものじゃないわね?」
メリーさんからの更なる情報。
あたしが気付かなかったなんて・・・。
・・・いや、多分エルドラの街に濃密に立ち込めていた闇属性の空気に気を囚われていたのだろう。
気づいてはいた筈だ・・・。
けど、気にしなかったのだ!
・・・ホントにあたしは成長しないな・・・。
昔から似たようなミスばっかり。
そして今、
あたしが感じた『それ』は部屋の中のどこか一か所などという話ではない!
まるでその部屋の隅っこを注意深く見まわせば、いくつものゴミが落っこちてるようなレベルで・・・
「なっ、なんだ、あれ!?
動いている!?」
目のいいケイジさんが真っ先に見つけた!!
それを分かり易く表現するなら何を引き合いにすればいいだろう?
「ああっ!
こっちにもいる!!」
続いてリィナさんが別の個体を発見。
スライム?
それとも幼体のロックワーム?
そう・・・
細長くウネウネした触手のような・・・
そう、大きさっていうか長さがちょうど、人の腕くらいの・・・肩から握りこぶしまでくらいのもの・・・
そして頭部分に相当する箇所には目とか耳や鼻といった感覚器官は一切見当たらない!
体表はすべて乾癬にでもかかっているのか、かさぶたのようなものが幾重にも全身余す所なく覆われている。
そんな物体が、いつの間にか部屋の至る所に蠢いていたのだ・・・!
杖を持っている警護役の神官さん達が慌てて対処に向かった!
「こっ、こいつら、どこからっ!?」
これが外を出歩いていて目撃したならば、それ程騒ぐ必要はなかったのかもしれない。
また、この程度の魔物が現れたからと言って、命の危険を感じるほどでもないだろう。
けれどここはハイエルフの森都ビスタール、
その中央神殿の奥深くに、いきなりいくつも出現できるなんて事があるはずもない!
だいたい、何なのこれ!?
普通の動物なら、人間に怯えて逃げるところだろうけど、
そいつらは目も耳もあるようには見えない。
にもかかわらず、手近なところにいる人間に向かって体をくねらせながら近づいてくる!
うわっ!
先端の頭部分がぱっくりと割れた!!
神官さんを攻撃・・・いや、捕食対象と見做したのだろうか?
キモい・・・。
不揃いな牙が飛び出している。
人間を食い物と認識しているので間違いないようだ。
「ぎゃああっ! 食いついてきやがった!!」
あっ!
言ってる傍から一人の神官の人が足に食いつかれた!!
すぐに杖を打ち付けて引き剥がすことは出来たけど・・・。
「ちっ、ちくしょう! 死ねっ!!」
「これでどうだっ!
・・・くっ、まだ死なないのかっ!!」
部屋の中で警護してくれてた神官の人たちは刃物を持ってない。
長い杖を使って気味の悪い生き物に叩きつけてるけど、
致命傷にならないのか扱いに戸惑っている。
・・・場所がまずいね・・・。
中にはアガサさん、ノードスおじさん含め魔法使いも何人かいるのだろうけど、
この部屋の中で魔法を使うと大惨事になる。
相手が強力な魔物ならそんな事も言ってられないんだろうけど、
今回は中途半端に相手が小さい。
さらに言うならば、部屋の中はテーブルや椅子などがあって射線が通りにくいのだ。
さらに言うと、ケイシさんもかさばる弓なんて持ち込んでもいない。
「あたしがいくよ!!」
リィナさんがショートソードを取り出した!
でもここで一番効率がいいのは・・・!
「いえ、リィナさん、あたしに任せてください!!
・・・聖獣召喚、ふくちゃん!!」
黄金の光が立ち昇る!!
現れたのは巨大な「白」フクロウ!!
「「「聖獣!?」」」
「「「召喚術!?」」」
ふっふっふっふ、初見のエルフの皆さんは当然にしても、
パーティーのみんなもこの姿のふくちゃんを見るのは初めてなのだ!
・・・あ。
この姿も何も、
ケイジさん達の前でふくちゃん呼ぶのも初めてだったっけ。
リザードマンさん達と一緒にいた時は、スネちゃんもふくちゃんも呼んでいたんだけどね。
さて、聖獣化したふくちゃんだけど、
なにしろ、ヴァンパイア戦で大量の経験値入ってるし、エドガーの魔石も食べている。
一気に進化したのだよ!!
ふさふさの羽毛も今は真っ白!
なんかこう、神聖な感じがして良い!
さぁ!
そして存在進化して手に入れた能力は!!
「ふくちゃん、分裂!!
敵は部屋中にいる魔物!!」
「「「「ぶっ、ぶっ、分裂ううううううううっ!?」」」」
ボンッという音と共にふくちゃんが小さい六羽のふくろうに分裂!!
そう、吸血鬼の蝙蝠化の能力を受け継いだらしい。
何故そのパターンで魔獣ではなく聖獣になるのかはよく分からない。
吸血鬼の止めを刺したのが、ツァーリベルクお爺ちゃんの浄化スキルだったせいで、
魔石に影響があったのだろうか。
とはいえ分裂することにより、ふくちゃんが小さくなってしまうので、
戦力的にはそんな変わらないけど、戦術の幅は広がる!!
あの魔石をギルドに討伐証明で出した後、売っ払わなくて本当に良かった。
ん?
なんですか?
・・・別に急ごしらえの設定なんかじゃないですよ?
読み返してみてください、
あの時、魔石をどうするかはあたしが決めていいと書いて、その後は何も触れてなかったでしょ?
ふっふっふ、
ちゃんとこういう展開を想定して・・・あっ、余計なことは書く必要ないですね!!
そして!
その逃れることのできない梟の目はなおも健在!
六羽全てが、魔物に向かって急襲!!
抵抗など一切許すことなく、その悍ましいカラダを喰い破る!!
あっ、食べないほうがいいよ、
お腹壊すかも!!
「・・・麻衣さん、どんだけ手札残してたんだ・・・。」
ケイジさんが呆れた顔で、あたしを見つめてくる。
「あっ、いえ、あたしと一緒で、ふくちゃんもそんな攻撃力あるってわけでもないので・・・。」
だからこないだの悪魔もどきや鬼人相手には絶対に無理。
あくまでこの程度ならなんとかなるというだけで・・・。
でもワイバーン単体程度なら今のふくちゃんで圧倒できるはず・・・。
それにしても、テイマーや召喚士が、
使役する動物を進化させて強力な軍団を作るって概念、この世界には広まってないのだろうか。
・・・まぁ、そもそも動物で魔物を倒すってこと自体が難しいのかな?
テイマーなら余程の数を揃えないと戦力にならないだろうし、
呼び寄せた動物にブーストかけられる召喚士なら、長時間呼び続けられる魔力も必要だ。
・・・ていうか、そもそも動物は魔石を食べないか。
たまたま、スネちゃんの時はホーンラビットを丸呑みしたから結果的に魔石を摂取しただけだからなぁ。
この育成方法・・・冒険者ギルドに広めたら情報料もらえないかな?
・・・おっと、
ふくちゃんが部屋の中に湧いた虫を全て撃破したようだ。
ふくちゃんが一羽に戻ってからあたしの元へ帰って来る。
「ありがとね! お疲れ様!!」
そして黄金色の光に包まれて帰っていく・・・。
とりあえず事件は終わった。
・・・いや、これが始まったという事なのだろう。
タイトルを付けるならば・・・「終わりの始まり」とか。