第三百八十五話 ぼっち妖魔はハイエルフの街に辿り着く
<視点 麻衣>
やぁやぁ、みなさま、ごきげんよう!
麻衣だよ!
え?
テンション高い?
そ、それほどでも・・・。
いえ、まぁ、なんというか、魔物も出ないし、
ダークエルフの皆さんも歓迎ムードで受け入れてくれましたし、
何より、危険がなくなったとなれば、
普通に観光気分で過ごせますからね。
あたしが難しい話に頭を痛める必要もないし・・・。
えーと、昨夜の話から続けますと、
アガサさんは、昇進して部隊長の地位を手に入れました。
それまではノードス隊長さんと、その副長さんだというハg・・・いえ、影の薄そうにしている人の下の、筆頭隊員というポジションだったのが、
ノードスさんの所属を離れて別個の部隊の指揮権を持てるのだという。
ただし、ノードスさんは部隊長でありながら、ダークエルフの魔法兵団全体の兵団長でもあるので、何か共同の事案に携わる時はノードスさんの指示を受けることになるそうだ。
もっともこれらは名目上の話で、実際はアガサさんのお給料や手当が部隊長待遇になるというだけのこと。
だって、実際はアガサさんはこの後も旅を続けるのだから。
・・・あれ?
もしかしてアガサさんて、今のパーティで冒険中もお給料出てるの?
でもクエストの報酬はみんなで等分に・・・。
アガサさんの口元がニィッ・・・と裂ける。
「フフフ、給料二重取りっ!」
・・・グフッ!
なんという羨ましい待遇・・・。
それ、ひょっとするとステータスウィンドウに記載されるレベルのお話では・・・。
えっと話を戻しましょうか、
・・・昨夜はその打ち合わせと、今日のこれからの話をしたよ。
あ、そうそう、お泊りの部屋はあたしとヨルさんと同室だった。
テンションの高さじゃ、あたしよりヨルさんの方が激しかったよ。
のろけなのか、悩みなのかどうでもいいんだけど、ベッドの上でカラドックさん中心の話になって、
あたしが適当に話し合わせて、無責任なアドバイスして・・・。
ええ、ええ、他人がどうなろうと気にもしませんとも。
ていうか、寝かせろ。
いい加減にしないと襲うぞ!!
リィナさんはタバサさんと同室、
ケイジさんはカラドックさんと。
メリーさんは寝る必要がないからと、一人で夜の闇の中に紛れてしまった。
・・・事件起こさないでくださいね・・・。
まぁ、事件起きるかどうかは犯罪者次第なので、メリーさんのせいじゃないんだけど・・・。
アガサさんは自宅にお帰りになったそうだ。
ご自宅の家族に自慢してくるとか。
久しぶりの帰郷ですもんね、是非家族団らん楽しんでください。
そして朝です!!
「へぇ? アガサさん、弟さんいらっしゃったんですね?」
「ん、生意気でかわいくもない愚弟。
昨夜は私の巨乳地獄で折檻執行。」
それは折檻と言っていいのだろうか、
・・・ただのご褒美じゃ・・・?
なんでも家族に昇進と魔導士になったことを自慢したら、
ご両親が喜ぶ中で、ただ一人弟さんだけが毒を吐いたので、
アガサさんが襲い掛かったらしい。
「ブわ!クソやめろ乳お化け!!乳くせぇんだよっておふくろまでぐわぁっ!」
途中からお母さんも参戦したとか。
やっぱり巨乳らしい。
楽しそうなご家族で何よりだ。
ウチは一人っ子だしね。
マリーちゃんやエミリーちゃんが姉妹代わりみたいなもんだけど、そうなると男っ気もなにもないことになるわけで。
え? パパ?
どうしてパパを頭数に入れる必要があるのかな?
要らないでしょ?
・・・そういや来年になったら、学校に新入生入ってくるんだよね。
ウチはマイナーな文化部だけど、北欧ハーフの御神楽先輩はまだ健在だ。
三年生は名目上、引退扱いなんだけど、うちの伝統で三年生はしょっちゅう部活に遊びに来るしね。
そしてあのミステリアスな美貌は男子どころか女子まで虜にする。
まさしく妖精の美貌と言っていい。
あたしと同じ種族なんだから、ホントは妖精っていうか妖魔なんだけどね。
あの人目当てで大勢の男の子が外見に騙されて群がってくることだろう。
・・・ふっふっふ、ならばそのおこぼれというか、
いたいけな新入生の男の子をだまくらかして、このあたしの下僕に・・・ってなんでもないですよ!!
「あれ? ヨル、目が赤くない?
きのう眠れなかったの?」
「・・・ううう、ヨルはもうカラドックのお嫁さんになれないですぅぅ・・・
い、いえ! 女の子同士ならあれはノーカンの筈ですよぉぉ!!」
リィナさんリィナさん、その人はそっとしておいてあげて下さい。
ああっ!
どうでもいい事書いていたら話が進まない!!
いっ、いえっ、ちゃんと馬車は進んでいます!!
そう! あたしたちは何台かの馬車に連なって、
タバサさんの街、森都ビスタールに向かっています!
別の馬車には兵団長のノードスさんも乗ってるし、
更に別の立派な馬車には、神官長のフリードマンさんも一緒。
なお、深淵の黒珠の管理は神殿のナンバー2の人に任せてきたそうだ。
深淵の黒珠イベントは全て終了したからね。
この後は、この世界の人類全体に及ぶお話をしにいくのだ。
・・・まぁ、それも半分は終わっているのだけど、残りを解決しないとどうにもならない。
ちなみにケイジさんとリィナさんは、
ダークエルフの方々から報奨金を貰って邪悪な笑みを浮かべている。
「クックック・・・これで豪遊・・・」
「これだけあればどこの街に行っても美味しいもの食べ放題・・・。」
・・・大丈夫ですよね?
別にあたしやカラドックさんは冒険が終われば元の世界に戻れるつもりなので、
この世界でしか使えないお金貰う意味はないから別にいいんだけど・・・
あたしも美味しい食事に連れてってくれますよね!?
何よりも大事なのはそれだ!!
「おおおおお・・・。」
見えてきたぞ、森都ビスタール。
うん、周りの景色が変わったんで一目でわかる。
分かり易く比べてみよう。
朝まで過ごした魔法都市エルドラのイメージを色に例えると、濃緑色と陰・・・に対し、
ビスタールは新緑と白・・・だ。
白樺?
いえ、あたしに植物の知識はそんなないから、幹が白いからと言って全部白樺なのかどうか知らないけど、あくまでもイメージの話で。
そろそろ冬のはずだけど緑が多い。
紅葉とか落葉とかはどうなってるんだ?
「ふわぁ~、懐かしいね~?」
リィナさんが嬉しそうな声を上げる。
そういえばケイジさんとリィナさんは以前にここに来たって言ってたっけ。
「あん時はリボン祭り真っ最中だったから屋台の食い物の匂いも充満してたけど、
さすがに今回はないな。」
ケイジさん、今のイントネーションだと「お盆祭り」にしか聞こえないんだけど?
「砂と岩ばかりの魔族の街と違って、生命に満ち溢れているのですよぅ。
空気もおいしいですよぅ!」
ヨルさんも楽しそうだ。
あの人、カラドックさんへの色ボケ姿しか見てないけど、もともとは真っ当な感性を持ってるんだよね。
その辺りはケイジさんも評価しているそうだ。
・・・まぁ、だからこそこのパーティに参加しているわけで・・・。
街を囲む堀は、ここもエルドラと一緒だけど、馬車も通れるほど広い吊り橋は風情があるというかなんというか。
街に入ると、何事かと白い目で見られる。
この辺りもエルドラと同じ反応だね。
前日のうちにあたし達の来訪が伝えられていたので、お馬さんに乗った二人の案内人があたし達を出迎える。
衛兵・・・神官・・・じゃなくて騎兵?
みたいな格好の。
だって背中に大きな弓を抱えてるし。
「この街は弓が盛んなんだよ。」
「ケイジはその大会で入賞したんだろ?」
「ほえー、さすがですね、ケイジさん!」
「やめてくれ・・・優勝したんならともかく、3位でしかもほかに二人と同得点なら胸を張れない・・・。」
「あれはメンツが悪かったよ、
次回参加したら優勝狙えるって。」
ケイジさんの解説の後に、カラドックさん、あたしリィナさんと和気藹々な会話が続く。
いやー、いいですねぇ、
いろんな人たちと旅行できるのって。
・・・ホントにこれが観光旅行ならねぇ・・・。
女神アフロディーテさまがこっそり教えてくれたメリーさんの爆弾・・・、
あ、あの人は無事にあたし達と合流して、今も後ろの馬車にいるけど、
そして何よりこれからの事・・・。
ホントに邪龍っていうナントカにこれから立ち向かうの?
あたし、攻撃力なんか全くない一介の女子校生なのに?
そりゃ、巫女役として、みんなにいろんな情報は提供できたかもしれませんよ?
でもこの後は相手とも話や交渉自体出来そうにないと思うのだけど。
・・・と、
今から考えてもどうしようもないことに思いを馳せつつ・・・
気が付くと目の前に大きな建物が現れた・・・。
うん、今度は日本式建築じゃない・・・。
西洋風・・・て言ってもいろんな建築方法があるから、これだとも言い切れないけど大聖堂って感じかな。
イスラム教っぽい建物の先端がドーム状になってる。
「ビザンチン様式に近い、のかな?
私もそう詳しく知らないけど。」
へぇ、ビザンチン様式っていうのか。
さすが博識カラドックさんだ!
入り口の大きな門の所に「ニコラス聖堂」と表札がかかっているのはあたしには見えないことにする。
あたし、お茶の水になんか行ったことないもの。
パパの扱いがかわいそう・・・。