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第三十八話 ぼっち妖魔は味を占める

ここらで軽く説明を。


☆ リーリトとは。

英語表記でLilith リリス。

古代ユダヤ教に伝わる、アダムと共に造られた世界最初の女性。

婚姻時に男性の下に組み敷かれる行為に我慢ならずアダムと離縁。

独り者になったアダムを見かねた神が、アダムの肋骨からイブを造り、二人は結ばれる。

そして後に、イブは蛇に欺かれて善悪を知る木の実を食べて楽園を追い出される。


基本はこんなところですが、他にもリリスは悪魔と結婚しただの、人間の子供を奪うだの、バビロニア時代にまで起源を遡ることも出来るようです。


この物語では世界の神話と比較して、アダムとイブが善悪を知る実を食した時点で、人間は死ぬべき存在となったと設定してます(ギリシア神話ではエピメテウスとパンドラの物語)。すなわちそれを食していないリーリトは死すべき者ではない。ただし不老不死はあまりに現実的でないので、人間より長い寿命を持っている設定にしています。

また「善悪を知る木の実」とは何かという話も重要です。

一方では「知恵の実」とも呼ばれ、同じくギリシア神話に当てはめるなら古の巨人が人間に与えた「火」が相当すると思われます。

それがきっかけで神々は人間を皆殺しにすると決めたのですから。

しかし「人間に与えられたものは何だったのか」?

これは伝える神話により様々です。

なので無理にそれを特定は致しません、あえて言うならば、

「それ」は通常の「動物」と、「人間」種を分け隔てる決定的な何か・・・

或いは天空の神々を恐れさせる何か・・・


そして話は戻ってリーリトですが、彼女は「それ」を手に入れてません。

しかし、後代にまで妖魔として生きながらえていることからも、彼女は別のものを「蛇」から手に入れたに違いありません、

エデンの園にもう一本生えていた禁断の木の実「生命の樹」・・・。


ただ、これも現実的ではありませんので、長い寿命を得たならば、繁殖力が著しく低下してしまうという設定にしています。

そして彼女たちは子供を産むために人間の男に近づき、目的を果たす。

その後、自分たちの正体を悟られないため、用済みになった男は殺される。

それがこの物語におけるリーリトの生態となります。


この物語の主人公の一人、伊藤麻衣の母親、百合子は夫を殺す事を拒否し、リーリトたる自らの肉体を放棄します。

このような過去を持つ伊藤麻衣は、自らのアイデンティティーについて散々考え抜くわけですが、

果たして彼女は自分に納得のいく答えを見つけることができるでしょうか。


なお、最初に書いた神話が真実とは決まっていません。

この後、麻衣は自分なりにある仮定に思い至るようになっています。


麻衣

「もしかして・・・リーリトとイブって・・・実は?」




では行ってみましょう!


 「ダナンさん、ダナンさん。」


ダナンさんはあたしのあらたまった声掛けに、

前の方角を見たまま「なんだい?」って返してきた。

 「ダナンさん、あたし、ダナンさんに失礼なことしました・・・?」


ごめんなさい、演技です。

演技でしょぼーんな口調で語りかけてます。

当然、慌てますよね、女の子にそんなこと言われて。

 「え!? な、なに?

 そ、そんな事ないよ!? どうして!?」

 「・・・だって、一度もあたしの目を見てしゃべってくれないじゃないですか。」


せめて顔ぐらい見てほしいよね。

一応、ダナンさんも自覚はあるらしい。

あたしの言わんとすることに気付いてしどろもどろに言い訳する。

 「あ、あ、た、大変遺憾に思います!

 そ、それはよく言われるんだ、

 別に君が悪いわけじゃなくって、

 ど、どうしても僕が女の人の顔を見るのが苦手で!」


会話は普通に・・・いや、ちょっと普通じゃないけど、緊張せずにできるのになぁ。

 「あたしみたいな年下の女の子でもダメなんですか?」

 「え、あ、いや、ほんとにちっちゃい子なら大丈夫なんだけど、

 あ、あのー、その、ドキッとするような子だともう・・・あっ!」


自分の発言が墓穴を掘ったと理解したのか、ダナンさん足早になった。

聞いてるこっちが恥ずかしくなってきたよ。

まぁドキドキしてたのは知ってたけどね、

ある程度ストライクゾーン範囲内の女の子全てにドキドキするってんなら、

あたしも変に意識する必要はないだろう。

・・・と、理屈では納得できるんだけど。


 「あ、ダナンさん・・・。」

 「な、なんだい、麻衣ちゃん!?」

 「ちょうどいいところなんですが・・・。」

 「い、いいところ? い、いけないよ!

 それは大人になってからじゃないと・・・。」


なにを言ってるんだろう・・・。

勘違いなのか、素なのかわからなくなってきた。


 「いえ、あの。」

 「ま、まずは本人同士の気持ちが大事だと・・・。」

 「とりあえず落ち着いてください、魔物です。」

 「えーーーーーーっ!?」


とは言え、ホーンラビットだよ。

慌てなければ大丈夫。

 「召喚、フクちゃん!」

さすがにスネちゃん呼ぶのは魔力の無駄遣い。

まだレベルの低いフクちゃんで十分だ。

といっても、フクちゃんがかなりえぐい。

上空から接近に気付かないホーンラビットを鉤爪で捕まえて、上空から加速をつけて真っ逆さまに落っことす。

 

地面に激突したホーンラビットは何もできずに虫の息。

ぎこちない動きながらダナンさんは止めの槍を突き刺す。

 「え、えいっ!」


一発では仕留められなかったけど、無事に二回目の突きでホーンラビット絶命。

 「いいですね、後で素材は山分けしましょうか?」

と言って、あたしは動かなくなったホーンラビットを巾着にしまう。

 「ああ、うん、そうだね、だけど落ち着いてるね。」


ダナンさんは動揺続行中だ。

魔物に動揺してるのか、あたしに動揺してるのかどっちなのかはわからない。

面倒と言えば面倒だなあ。

たぶん、あたしがこの後、何があってもスルー状態、そして無反応でいけば、

そのうちダナンさんも慣れるんだろうけど、さすがにそこまでドライになるのもなぁ。

かといって年頃の女の子らしくきゃーきゃー付き合うのも、

今現在、探索中なことを考えると不真面目すぎるというか、むしろ危険だと思うし。

まぁなるようになるか。


あたしはダナンさんの質問に答える。

 「遠隔透視や気配察知スキルがありますからね、

 それより目的地はそろそろじゃないですか?」

 「あ、ああ、うん、あの丘の越えた後にある森の先だよ。

 全種類、見つかるといいんだけど。」

 「でもそこまで役に立つ薬の材料が一か所に固まってるなら、

 採集しやすいと思うんですけどね?」

 「ハチトリソウの花は見つけやすいよ。

 だけど他がね・・・。

 マトリダケは魔物の死体に生えるから、必ずしもそこにあるわけじゃないんだよね。

 カメは沼の底にいたらまず捕まらないけど、

 沼から上がってきてさえくれれば難しくはない。

 ピンクスライムは見つけるのが大変、

 昼虫夜草も判別しづらい、見つけづらいってのがあるから。」


 「あれ? カメの手って貝じゃないんですか?」

 「えっ?」

 「えっ?」


 「麻衣ちゃん、カメの手っていうぐらいだからカメなんだけど・・・。」


うわ、可哀相なものを見るような目で見られた。

でもすぐに視線逸らされた。

ううう、悔しい。

 「だ、ダナンさん、あたしの世界では亀の手って海の岩場とかにいる甲殻類なんですよ、

 形が亀の手に似てるからそんな名前で・・・。」

 「あ、そうだったのかい!?

 ごめんよ、変な目で見ちゃったりして・・・。」

変な目で見た自覚はあるんだな、このやろう。



そんなこんなで丘を越えた。

眼下に広い森が見える。

あの森の中に目的地の沼があるという。

さすがにここまで太陽の下にいたから多少の疲れも出てるけど、

森の中に行けば少しは涼しくなるはず。

 

 「ただ、森の中はレベルが低いとはいえ魔物も出るからね・・・。」

 「それなら森に入ったらボディガードを呼びましょう。」

 「ボディガード?」

 「昨夜、蛇のテイムスキルを覚えたんです。

 ダナンさん、蛇苦手ですか?

 苦手なようでしたら、目につかない周りに配置しておきますが。」


 「す、すごいな、ああ、見慣れれば大丈夫だと思うよ?

 ていうか、蛇に襲われることもある森なのに、

 それってもう・・・。」

 「ええ、少なくとも蛇は襲ってこなくなります。」


 「麻衣ちゃんに依頼して良かった・・・。」



そしてあたし達は森の中。

くまさんに、出会わない。

花咲く森の道、

周りの蛇さんたちに呼びかける。

 「みんなー、ちょっとお手伝いお願いねー。」


あ、そうだ。

 「すいません、ダナンさん、さっきのホーンラビット、やっぱりもらっていいですか?

 この子たちのご褒美にしたいんで。」


テイムスキルにそんなものは要らないのだけど、これは気持ちの問題だ。

 「ああ、べ、別に構わないよって、うわ?」


巾着袋から引っ張り出してきたホーンラビットをあたしは不器用に捌く。

まぁ、売るわけじゃないなから、見栄えが悪くてもいいよね?

そしてそれにつられて、

何匹かの蛇さんたちが集まってきた。

この森にそんな大きな個体がいないのか、

あたしのレベルが低いからなのか、

あまり強そうな蛇さんはいない。

 「強そうな魔物がいたら、こっちに教えてくれるだけでいいからね?」


あたしは順番に蛇さんたちに肉をあげると、

彼らは嬉しそうに呑み込んだ後、それぞれ森の中に戻っていった。

ダナンさんは呆気にとられてその光景を見詰めるだけだった。


さてさて、

依頼の品でもっとも簡単に見つけられるのがハチトリソウの花だ。

名前のごとく、食虫植物で甘い蜜を出して蜂をおびき寄せるという。

たぶんだけど、・・・ハエトリソウに近い形?

と思ったらほんとにそうだった。

大きさが桁違いだったけど。

生息域はダナンさんが知っていたので苦も無くゲット。

さすが簡単なFランク依頼。

ただ、ホントに大きい。

花を採取しようとする時、襲ってこられるかと思ったけど、

そんな事はなかった。

でも花を切断した瞬間、捕食部分の葉がビクッって震えたのは怖かった。

これ、魔物じゃないんだよね?


続いて沼地に。


 「あ、麻衣ちゃん、マトリダケは湿った土壌の死骸とかに根付くから、見つけられそうだったら注意しといてね。

 魔物の死骸に生えるキノコって大体それだから。」


 「はーい、わかりましたー。」

とはいえ、これはあたしの感知能力や透視能力の出番ではない。

人間とか強烈な個性を持った魔物とかなら捜索できるけど、

何処にあるかもわからない大人しい死骸なんか見つける手立てがない。


よし! ここは蛇さんたちに頼もう。

彼らに魔物の死骸を探索してもらう。

ちなみに普通の動物の死骸にはマトリダケは生えないそうだ。

 

沼地に向かっている間に、

蛇さんたちからピピッと合図。

合図のあった場所を遠隔透視すると確かに動物の死骸が・・・。

でもキノコは生えてない。

たぶん、死骸も魔物ではないようだ。

蛇さん達にはそのまま捜索をお願いする。


 「あ?」


 「ん? 麻衣ちゃん、何か・・・魔物?」

 「ああ、いえ、蛇さんの一匹がスライムを片付けたようです。

 採集目的のピンクスライムではないようです。」

 「ああ、ピンクスライムはレアだからね、仕方ないな。」


と言ってる間に、「お?」

 「こ、今度は何だい?」


 「これはもしかして当たりかも?」

透視スキルを使うと、魔物らしき死骸が見えた。

まぁ、半分腐ってるんだろうけども。

そしてその死骸にキノコらしき物体がいくつも・・・。


 「ダナンさん、こっちへ。

 マトリダケ、見つけたかもしれません!」


 「ほ、ほんと!?」


蛇さんの先導の元、鬱蒼とした茂みの奥にそれはあった。

こんなん、普通に探してたんじゃ見つかるはずない。

余程の嗅覚を持っていればなんとかなるかもだけど、

そもそも死肉なんて、さっさと他の動物に食べられてしまいそうなもんだ。


 「おおお! 紛れもなくマトリダケ!

 これは希少なんだ、これが獲れただけでもこの行程は成功だよ!」


それは素晴らしい。

これはEランク採集だったみたいだね、

あたしの冒険者ランクをあげるのに高得点だそうですよ。


 

麻衣

「これは楽しいかも・・・。」


この後、麻衣ちゃん暴走するかも。

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