第三百七十四話 残酷なる真実
ぶっくま、ありがとうございます!
<視点 もう一回リィナ>
あれ?
知らない単語が出てきましたよ?
「逆ハーって?」
解説は巫女巫女妖魔の麻衣ちゃんにお願いしましょう。
「あ、リィナさん、逆ハーってのは、一人の女の子に男子が群がってる状況です。」
あーあーあーあー!
あたしは思わず手を叩いちゃいます。
「あ、り、理解できた。
逆ハーレムって意味か、
それは羨ましいというかなんというか・・・。」
たまに冒険者パーティーにもいるんですよ。
男のリーダー一人に複数の女の子たちが従っているのとか・・・
いえ、逆ハーなら、一人の女魔術士か女僧侶に他の男性陣がちやほやしてる感じですか。
そして女神さまが詳しく解説してくださいます。
「何分にも、その子は災厄から世界を救ったメンバーの中で、ただ一人の女性ですし、
元平民とだけあって、誰もが気安く声をかけやすいし、
王様が手を出すのは勿論アウトですが、王様もその子に色目使ってた感じでしたし、
本命の男の子以外にも、
法王の息子さんだとか、貴族の息子たちとかかなりの人気者みたいでしたね。」
「なんというリア充・・・
同じ『闇』属性のはずのあたしとどうしてそれだけの差が・・・。」
麻衣ちゃん、ガチで羨ましそうですね。
「あ、その頃はまだ闇属性ついていなかったのではないでしょうか?
・・・話を戻しますね、
ですがその分だけ、言い寄って来る男性たちに気が置けなかったのでしょう、
ある意味それが自然な状態では、まともには恋愛などできないでしょうね。」
「あああ、仮の虚像を売り物にするアイドルみたいな感じですか・・・。」
「麻衣ちゃん、目が死んだ魚みたいな感じに・・・。」
「それでもやっぱり女の子です、
それもどこにでもいる何の変哲もない、ただの平民気質の。
王族だとか英雄だとかの重圧に耐えきれずに、どこかに心を休める相手を探していていたはずです。」
いきなり身分の低いところから宮殿の一番偉い方に祭り上げられちゃうんですもんね・・・。
それはきっつい・・・ですよね。
「そして彼女が見つけたのは、身分とか地位とかを全て無視して、自分そのものを見てくれる男性。」
「「おお!!」」
いいです! いいです!!
そんな人に自分を求められたら女の子としては最高ですね!!
「しかもイケメン。」
「「ああ!」」
い、いえ、別に悪い事じゃないですよ?
女の子ならそれは当然・・・でしょう。
「さらには群がる敵をバッタバッタと斬り刻んで、彼女の危機には幾度となくその身を晒して彼女の命を救います!」
「「うおおおおおお!!」」
凄いじゃないですか!!
なんですか、そのスーパー凄いぐれいとふる男の子!!
あたしの前に現れてくれませんかね?
え? ケイジ?
あ、え、いえ、ちょっと見てみたいだけですよっ?
ていうか、女神さまもノリノリです?
「・・・けれど、
彼女は永久に失ってしまうのです、それも立て続けに二人も。」
「あ・・・。」
それで・・・さっきの・・・なんですね。
二人・・・っていうと、
・・・あ、もう一人はさっきのメリーさんが言ってた妖魔から逃げ出した方ですか、
でもそっちはあたしと同じ血筋の人にあたるんでしたっけ。
そっちの人は死んだわけではなかったようでしたけど、
たぶん、何かあって永久に決別したって感じなのでしょうか。
「・・・ここから先は・・・当の本人にしか気持ちはわからないでしょうけども。
もう、メリーさんの記憶も、その子に対してはその時点で途切れてしまいます。
その後に関しては全て伝聞のようですね・・・。」
「じゃ、じゃあ」
「それまでに積み上げた人気とか地位とか信頼とか全て投げうって、
そんな生活全てぶち壊して、
そんな檻から連れ出してくれる筈の人がいる。
それまであと少しの我慢だ、
なら辛いけど最後まで頑張ろう、
そう思っていたのに・・・
あの人もあたしのために頑張ってくれてるんだからここでしっかりしないと。
そう・・・それだけを心の支えにしていたのに・・・
・・・けれど、
届いた知らせはその人の死・・・、
どれだけの絶望が彼女を押し潰したのか・・・。
想像を絶するものがあります・・・。」
「あ、うあ・・・。」
な、なんですかそれ・・・。
ヤバいです・・・胃の中のものが全部こみあげてきそう・・・。
「メリーさんは言ってましたよね?
『助かる手段はいくらでもあった』って。
そんなもの、あるわけないんですよ、
当の本人が、生き永らえたいなんて思っていないのだから。」
酷い・・・。
いくらなんでも酷すぎますよ、それ。
「先ほど麻衣様がおっしゃってた『本人の意志』はあるでしょう、
その意味では麻衣様の発言は間違ってません、
私もそう思います・・・。
ただ・・・それは余りにも残酷な。」
「あ、あ・・・」
麻衣ちゃんが、まるで悪いことをして叱られる子供のように縮こまっちゃってます・・・。
「あ、うあ、ご、ごめんなさい・・・あたし」
あたしには麻衣ちゃんにカラダを寄せてあげることしかできません・・・。
「いえ、麻衣様は間違っていないと言ったでしょう。
ただ肝心なのはこれからの話で・・・。」
「え?」
「問題は、そこまで彼女を追いつめるきっかけというか、
その最愛の人を奪うよう仕向けたのは・・・」
え? ちょっと待ってください?
その話の流れって・・・。
「ま、まさか。」
「ええ、メリーさんの中の人です。
たぶん、あの方も恋愛経験がない分、そこまで深く考えていなかったのでしょう、
『好きな男が死んだくらいで人生に絶望するなんて・・・』。
『他に男なんて選り取り見取りじゃない』。
先程の場でこのことを指摘したら、たぶんそう答えが返ってきたと思いますよ。
その子の不幸が、とてつもない能力を持った他の誰かの筋書きの結果?
自分にも原因を作った自覚はある?
・・・とんでもない。
最大最高最悪の戦犯こそメリーさん本人じゃないのでしょうか?」
う、うわああああああ。
これどうしたらいいんですかっ!?
そんなことしても何の意味もないんですが、
あたしと麻衣ちゃんはお互いに縋るかのような形で腕を絡ませます。
「こ、これ、この話・・・メリーさんに。」
「はい、お二人に気を付けていただきたいのはまさにその話なのですが・・・
メリーさんも言ってましたけど、
正直この私は本来、他人の人生になど興味ありません。
申し訳ありませんが、あなた方冒険者が明日にでも魔物に敗れ死んでしまったとしても、
心を痛める事もないでしょう。
そして・・・この件をメリーさんが知ってしまう、或いは自分で気付いた場合、
自らの罪の意識に苛まされて、自分で自分の身を砕いて死んでしまうこともあり得ると思っています。」
そ、そうですよね?
あれだけその「黒髪の女の子」に執着するような発言をしていて、
その子を死なせた人を憎んでいるような態度まで見せて・・・
それがその実、その真の犯人は自分だったって気づいたら・・・。
「私は別に構わないのです。
あの方が死のうと成仏しようと、私の知ったことではありません。
ですが・・・麻衣様、お気づきですよね?
邪龍討伐にはメリーさんを欠く事はできないということも。」
「あ・・・それまでなんとか・・・え?
そんな無茶振りっ!!」
えっ、それってまさか、その時までメリーさんに気づかせないことがあたし達の仕事?
それとも気づいちゃったあとでもいいからメリーさんを思い留まらせろとでも?
うん、無理です!
それこそ賢王カラドックにでも頼らないと・・・
いえ、カラドックでも難しいのでしょうか・・・
あ、そうですね、未来のことにカラドックを関わらせたらいけないんでしたっけ、
確か未来が変化してしまうとか?
「そこで先程の話です、
是非ローゼンベルクの街にメリーさんを連れて行ってください。」
「あ、さっき予知したっていう・・・、
その街に何があるんですか?」
「少なくとも邪龍討伐まではメリーさんに無事でいてもらわねばなりません。
そのためのものがあるのです。
何かは行けば分かると思いますよ。」
「そ、またそんなふんわりとした・・・。」
「では麻衣様、わたしがあちらで『あの方』から聞いた名前を・・・、
『〇○○』という名前に聞き覚えは?」
「え? 日本人の名前ですか、それ!?」
「ええ、恐らくそうかと・・・
なんでもいつの日か、麻衣様がその子を手助けすることになるのだとかなんとか・・・。」
はい?
「はああああああああああああっ!?」
あっ、やっぱり麻衣ちゃんも驚いてますね。
「あれ? もう麻衣さま本人には承諾貰ったようなこと言ってましたよ?」
「・・・え、いつそんな・・・
てあれかああああああああああああああああっ!?」
麻衣ちゃん、驚くっていうか何か思い出したみたいです。
ていうか、
今の女神さまの話って・・・
どう考えても・・・さっきの儀式のときに、あたしたちの知らない誰かと話をして・・・
それは女神さまの世界の、女神さまの昔の想い人だったはず・・・。
それなのにどうしてまるでこちらの状況に合わせたような話が・・・?
しかも麻衣ちゃんを知ってる?
麻衣ちゃんと会話した?
・・・うん!
あたしには何のことだかわかりません!!
「な、なんですか、まさかその街に今更他に転生者でも!?」
あ、麻衣ちゃんがまだ話を受け入れ切れてないようですね。
「いえ、転移者も転生者も一人もいません。
ただ名前だけ憶えていてください、
あるのは痕跡だけです。
恐らく似たような名前になってると思われますので・・・。」
「ああ、まさかの都市伝説繋がり・・・。
あたしメリーさんの次は、
〇子さんのお手伝いをすることになるのだろうか・・・。」
〇子さんってなんでしょうね?
さっきの名前と微妙に違うような?
何故かトイレのイメージが頭に浮かびましたけど関係ないですよね?
「あ、でも今回は麻衣様は何もしなくていいはずですよ。
麻衣様がその方に関わるのはずっと先のお話の様です・・・。」
「え、・・・あ、はぁ・・・。
ていうか、それ・・・邪龍騒ぎが終わっても、まだ仕事が・・・」
麻衣ちゃんも気苦労が絶えないようです。
そういえばさっきのメリーさんの時も、いろいろ不都合な話があったのか、
必死に話題を変えようとしていましたもんね。
「あ、リ、リィナさん、やっぱり気づいてましたよね・・・。」
ええ、もちろんです。
でも安心してください、
あたしは麻衣ちゃんの味方です!
この時点で名前出そうかと思いましたけどやめました。
どうせ物語には登場させないし。
〇〇〇は苗字二文字+名前一文字
〇子は漢字一文字。
ただし名前は同じ読みでも別の漢字です。