第三百七十三話 もう一つの真実
一連の物語の設定を忘れないように改めて。
嵐の神様とか大地の神様とか、冥府の神様とか色々出てきますが、
物語の世界観では、人間にとって神様とは一人だけです。
その神様に仲間がいたかどうかは定かではありません。
少なくとも人間がこの地上に誕生した時には、その神様しか地上には存在しておりませんでした。
そこへ天空の彼方から別の神々がやってきて、
地上に総攻撃をかけました。
人間はそこで絶滅するはずでしたが、人間の神様の活躍でその後も生き延びることとなりました。
ただし、天空の神々との協定で、
人間の神様は大地の底に封じ込められることになり、
今後、互いに地上に人間には手を出さないこととなりました。
この話が後世どのように変化したり、神々の姿をどのように捉えたり描いたりとかは、
全て人間側が勝手に作り変えただけのお話です。
・・・なお、なぜ天空の神々がそこで手を止めたのかは、
ネタバレいたしませんのでご了承ください。
ヒントはいろいろ物語中に散りばめてはおりますが・・・。
<視点 久しぶりのリィナ>
はい、皆さま、
兎型究極美人勇者のリィナちゃんです。
久しぶりですね、
今回女神さまとメリーさんの話でいろんなことがありました。
正直あたしには話についていけてません。
麻衣ちゃんたち・・・いえ、カラドックの世界って言った方がいいのかな?
あたしのおじいちゃん・・・らしき人の話題も結構多かったのだけど、
会った事もない人についていろいろ言われても実感わかないし、
かといって無関心でいられるわけにもいかず、肩身が狭いようなお尻がむず痒いような。
・・・はぁ、
ていうかですね、
正直あたしの内心それどころじゃなーい、って感じなんですよねぇ?
ただでさえ、自分の出自がどうなってるか落ち着くこともできないのに合わせて、
あのミュラくんとかいう魔王。
間違いなくあたしのことをリナって子だと認識しちゃってますよね。
あれ、あたしどんな対応すればいいのですか?
たぶん、次に会う時ミュラ君はもっと成長しているでしょう。
それはそれできっと可愛い男の子スタイルでしょうかね?
そこでもしかしたらケイジとあたしを取り合う喧嘩でもするのでしょうか?
んふっ、・・・違う違う!
・・・柄じゃなーいっていうか、
あたしが悩んでるのはそんなことでなくて・・・
ケイジは絶対に気付いてないですね。
麻衣ちゃんは・・・麻衣ちゃん気づいてくれてるっぽいんですよ。
はっきりこの件で話をしたことないけど、
要所要所のタイミングで、あたしに同情するような目を向けてくれています。
あの子・・・本当にいい子ですよ。
時々カラドックやケイジに「女」の視線を向けることがありますけど、
あれはどちらかというと、年上の男の人にちやほやしてもらえるのが楽しいって感じなんですよね。
一線を越えるようなことは決して考えてないようです。
さらに言うと、
麻衣ちゃんは、あたしを自分のご主人様のお孫さんと考えているみたいです。
これは、あたしがリナという女の子かどうかは関係ないということなのでしょう。
正直、まだ麻衣ちゃんとはそんな深い付き合いをしたわけでも、長い時間を共有したわけでもないのですが、
せっかくなんで麻衣ちゃんの厚意に甘えちゃおうと思っています。
さて、メリーさんと女神さまの話を終え、
そろそろ出発しようかというところになって、女神さまが麻衣ちゃんに声を掛けました。
・・・と思っていたら・・・。
「麻衣様、
それと・・・どうしましょうか、
やっぱりリィナ様にいたしましょう、
お二人とも少しよろしいですか?」
えっ? あたしも?
「は、はい!」
「あ、えーと、なんだろう?」
当然、ケイジ達も何事かと振り返るのですが、
女神さまは内緒の話をしたいみたいです。
「申し訳ありません、
他の方は外していただけますか?」
カラドックやケイジ達が怪訝そうな顔を浮かべています。
あたしと麻衣ちゃんが呼ばれる事態ってなんなんでしょうね?
ただ、立ち去る間際になって不穏な話があるわけでもなさそうなので、
カラドック達は出発の準備に入るようです。
女神さまの傍には布袋さんとオデムちゃんが控えています。
ラプラスは帰りの長馬車の支度でしょうね。
麻衣ちゃんはさっきの深淵の黒珠イベントで女神さまとは話しやすくなっているのでしょう、
今回も口下手なあたしに代わって話をリードしてくれるようです。
「え、女神さま、内密の話ですか?」
「そ、それでなんであたしも?」
「すみません、人選で悩んだのですが、麻衣様だけだと負担も大きいでしょうし、
『あの方』のことで余計な疑いもかけられるかと思い、
それとやはりリィナ様がこういう話には相応しいかと。」
やはりってどういうことなんでしょうかね?
リナって子のおじいちゃんで、麻衣ちゃんのご主人様だそうなアスラ王絡み?
「い、いったい・・・。」
「ええ、メリーさんの話です。」
おっと、メリーさんの事でしたか、
でもメリーさんの話にあたしって要りますかね?
麻衣ちゃんは先ほどの話にも介入していたみたいなので、
あたしよりスムーズに女神さまの話を理解できているようです。
「あ、もしかしてあれで終わりじゃないと・・・。」
「ええ、メリーさんは気づいてないみたいだし、
かといってあの場でそれを指摘するのはあまりにも残酷でした。
このままメリーさんが気付かないままであれば、私も知ったことではありませんが、
どこかでそれに気づいた時、あなた方のどちらかがフォローしてあげられればと・・・。」
「そ、それ、あたしに出来るかなぁ・・・?」
「メリーさん、人間の時にろくな恋愛経験してないようですからね、
リィナ様が適任だと思います。」
えっ? それが理由!?
で、でもそれはあたしだってそんな大した経験も・・・!
「あれ? じゃあヨルさんは?」
麻衣ちゃんが疑問の声をあげてくれます。
あっ、そうです、あの子がいました。
そうですよね、
あの魔族娘ならただいま発情期真っ盛り、
そういうお話は適任だと思いますけど。
「・・・ヨル様では別の意味で重すぎます・・・。
迂闊にヨル様にその役をさせるとカラドック様に被害が・・・。」
「「ああ・・・」」
そ、そういうことですか。
それはカラドックが可哀相です。
それにしてもさすが愛と美の女神ですね。
あたし達の人間関係全て把握しているようです。
「え、でもいったい・・・。」
基本的に会話は麻衣ちゃんにお任せです。
あたしは途中で聞きたいことがあったら口に出しますね。
「メリーさんは人間だった時に『黒髪の女の子』を死なせてしまったことを気に病んでるようなのですが・・・。」
「ええ、そうでしたよね?」
「メリーさんの話だと、その子の生き延びる選択肢はいくらでもあったようなことを言ってました。」
「ですね。」
「でもそこが問題じゃないんです。」
「え?」
「リィナ様、もしあなたが・・・」
「え、あたし!?」
ここであたしに振られるとは・・・。
「はい、もしリィナ様が・・・仮にですよ?
あなたがケイジ様を失ってしまったら・・・。」
「え・・・」
その瞬間、
血の気が引きそうになりました・・・。
あの、執事魔族シグの時の、地面が消えてなくなった光景がフラッシュバックして・・・
「女神の口から出た言葉だからと重く捉えないでください。
これはメリーさんの過去に関わった人たちになぞらえているだけの話です。
もし、ケイジ様が死んでしまったら・・・リィナ様はその後どうしますか?
ケイジ様のことを忘れて強く生きていけますか?」
やめてください、マジでシャレになりません。
「あ、有り得ない!!
いくら女神さまだって、そんな事言わないで欲しい!!」
「あ、そういうことなんですね・・・。」
「えっ、麻衣ちゃん今の話でわかったの!?」
なんで麻衣ちゃん、こんなに察しが良いのでしょう?
巫女職だからですかね?
ていうか、さっきの話し合いも予知夢を視たって言ってたせいか、
異常に物分かりが良かった気がします。
「リィナ様にとっては不快な話であることは重々承知して・・・
さすが未来の事象を視た麻衣様にはご理解できたようですね・・・。」
「あー、あたしもそんな命懸けるような恋愛したことないですもんね、
あたしの人生での最終最大目標ではありますけど。
となるとやっぱりリィナさんかあ・・・。」
「そ、そうなの?」
麻衣ちゃん、それで納得しちゃうんですか?
あたしは奴隷出身だし、ケイジに買われてからも殺伐とした冒険者家業ばっかりだったから、麻衣ちゃんみたいなタイプの子には殆ど会ったことは有りません。
よくある農村や町中のおとなしめな女の子って感じなんですよね。
・・・ただその出自と種族が異常で、能力が半端ないんですけど・・・。
あ、それで女神さまの話はなんでしたっけ?
「はっきり言ってしまうと、
400年後の世界で、先程の黒髪の女の子は逆ハー展開でした。」
逆ハー展開?
なんですかそれ?
・・・続きます。
この後、あたしはとんでもない話を聞かされることになります。
こういうのどんでん返しっていうんですかね?
メリーさん、それを知ったらどんな反応するんでしょうか。
次回、いよいよ核心部分です。
なお、そういえば「語られない物語」、
タケル編と優一編描いたのに、フラア編なかったなと、
いま、そっちの部分作ってます。
「今作では彼女を登場させない」と以前書いたので、本人は出てきませんけど。