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第三百七十一話 いま麻衣の目はぐるぐるになっているの

せっかくなんでメソポタミアのもう一つのお話を


引用

「エンキとニンフルサグ」という神話によれば、ニンフルサグとエンキとの間には、ニンサルと呼ばれる娘がいた。ニンフルサグが不在の間に、エンキはニンサルとの間にニンクルラという娘をもうけた。ニンクルラはまた、エンキとの間にウットゥという娘をもうけ、さらにそのウットゥとも関係をもった。しかし、エンキは、ニンサル・ニンクルラに対するのと同様、しばらくするとウットゥのもとを去ってしまい、困惑したウットゥは、戻ってきたニンフルサグに助言を求めた。ニンフルサグはウットゥに、エンキの精を体から取り出して土に埋めるように言った。ウットウがそのとおりにすると、埋めた土から8種類の植物が芽を出し、みるみると成長した。エンキはこれらの植物を見るや食べてしまったが、それがもとで自分の体の8つの臓器に病を得てしまった。ニンフルサグは、エンキの体から植物を取り除いてそれらに生命を与え、8つの神(アブー(en:Abu)、ニントゥルラ(en:Nintulla、またはニントゥル(Nintul))、ニンストゥ(en:Ninsutu)、ニンカシ(en:Ninkasi)、ナンシェ (en:Nanshe、またはナチ(Nazi))、ダジムア(en:Dazimua)、ニンティ(en:Ninti)、エンシャグ(en:Enshag、またはエンシャガグ(Enshagag))とした。これによって、エンキは癒された。

引用終


エンキは大地の主人とされます。豊穣の神ですね。

上の話は穀物起源神話とされますが、

連想するのはどちらでしょうかね。

すなわち日本神話のオオゲツヒメかウケモチか、

もしくは冥界で体に8匹の雷神を纏わせていたイザナミか。

<視点 メリー>


麻衣の疑問はまだ続く。


 「ただやっぱり日本神話にしても、ちょっぴりあたしのリーリトのイメージと重ならない部分もあって・・・

 そういうのを考えていくと、あたし達に伝わっている神話ってのも、どこからどこまで正しいのか・・・。」


 「麻衣さん、何か不審な点でも?」

私も神話とかには詳しい方じゃない。

麻衣の相手はカラドックにお任せするわ。


 「えーっと、これ最近気づいたんですけど、ちょっと話は長くなるかも・・・。

 あたし達の一族って、イブの子孫と比べて感情が薄いとされているんです。

 伝えられる理由としては、イブがエデンの園に生えていた禁断の樹の実を食べたからってことで、その実は『知恵の実』とも『善悪を知る実』とも言われてますが、

その本質は『心』だそうです。

 あたし達リーリトの始祖はそれを食べてないから、人間らしい感情がないってことになってるんです。」


 「へぇ・・・」


確かに麻衣は同世代の女性たちと比べたら感情は薄い方だと思う。

けれどちゃんと喜怒哀楽はあると思うわ。

何より・・・

この人形のカラダに焼き付いている彼女の母親の情念は凄まじいものがある・・・。


 「ところが最近になって、あたし達が感情を持たないのは、もっと後天的な理由もあるのかなって・・・。

 あたし達って代々、正体がバレると即捕まって殺されたりとかしちゃうので、

 子供産んだら用無しになった夫を口封じに殺す風習があったんですよ・・・。

 あ、カラドックさん引かないでくださいね、あたしはそんな事しませんから。

 ・・・で、そんな事、まともな精神状態で出来っこないから、

 意図的に自分たちの感情をなかったことにしようとしてたのかなと・・・。

 でもそうすると、最初の神話を否定しなきゃ成立しないんですよね。

 もともとリーリトには感情があったんじゃないかって・・・。

 そうすると堂々巡りで・・・。」


・・・確かにそれは答えが出ないわね・・・。

ところがここで女神のお導きが得られるみたい。

 「・・・いまふっと思い出したのですが・・・。

 似たようなお話が私達の世界でもありましたよ?」


 「え? 女神さまの地底世界でですか?」

 「ええ、ただ、地上でも似たような話が伝わっているかもしれません、

 それも二つありますね。」


 「え? 二つもですか?」


 「ええ、でも一つは女性が出てきませんね

 ある一人の神が、天上のゼウス様に捧げものを行う時に、

 粗末な皮にくるまれた美味しいお肉と、

 豪勢な脂肪にくるまれた骨を差し出して、ゼウス様にどちらがいいか選ばせたそうです。

 話によってはゼウス様は中身を見抜いていたとも、逆にまんまと騙されたのだとする異伝もあるようですが、

 ゼウス様は骨の方を選んだ・・・。

 これによって神々は不死となり人間は死すべき存在となる。

 こんな話でしたかね。」


カラドックと麻衣は元々向こうの世界の人間だ。

似たような話を知っているのだろう。

 「あ、なるほど、それは先ほどのバナナタイプに近いですね。」

 「聞いたことある気がします、女神さま、もう一つは?」


 「こちらの話の方が麻衣様の話に近いですね。

 エピメテウスとパンドラ・・・死の起源説話ではありませんが・・・。」


 「あ、そ、それ、そうです、

 アダムとイブの話のギリシア版がその二人の物語だと聞いてます!」


パンドラの箱・・・壺だったか、甕だったかはともかくそれも有名ね。

開けてはいけない箱をパンドラと言う娘が開けてしまい、

この世にありとあらゆる災厄が飛び出してしまうけど、

最後に「希望」だけが残ったというお話だったわね。


 「ですが麻衣様、そちらにもリーリトに比すべき女性はいないのですよね。」

 「そうなんです。

 それで元のユダヤ教の話も、それが正しい話じゃなく、別のオリジナルがあったんじゃないないかって考えてるうちに、他の解釈はどうなんだろうって・・・。」


でも神話とかお伽噺とかって、伝える人の都合でいくらでも改ざんできるわよね?

それがどこからどこまでかはっきりしないと手も足も出ないと思う。


けれど、まだ女神は言うべきことがあったみたいね。

 「そう言えば麻衣様?」

 「あ、は、はい?」

 「私はかつて『例の方』から、あの方の祖国の神話を聞いたことがあります。

 詳しくは覚えておりませんし、その方も特別に詳しいわけでもないと仰ってましたけど、

 その国の人間が死ぬ話については、全く別の話を聞いたことがありますが・・・。」


 「え? そうなんですか?

 あ、そ、それ教えてもらっても?」


 「はい、もちろん、構いませんよ、

 えーと、名前はさすがに憶えてません。

 確か男女の神がいて、女性の神が火を産み出してしまったために、カラダを焼かれ、

死んで冥界に去ってしまった。

 男性の神が女性を諦めきれず、冥界に赴くと、女神は冥界で飲食をしてしまったために元の世界には戻れないと・・・けれどそれが可能かどうか冥界の神に尋ねてくるので、それが済むまで、中に入らないでと言ったにも拘らず、

 男性の神は腐りきった愛する女神の死体を見てしまったとか・・・。

 それに怒った女神が、これより先、人間を毎日1000人殺すと宣言したあと、

 では男性の神は人間を1500人産むことにするというお話でした・・・確か。」


へぇ・・・あら?

そちらのほうが、デモーニッシュなリーリトのイメージに近づいているんじゃないかしら?


 「あっ、それイザナギとイザナミの物語・・・な、なるほど、そっちもあったのか。」

 「この話を何故私が覚えていたかというと、

 よく似た話が私たちの世界にもあったからです。

 人間のオルフェウスという若者が冥界に下った話、

 オルフェウスは自分の死んだ妻を冥界から連れ出す事までは成功しても、途中で振り返ってしまうんですよね。

 そして地母神デメテルの娘、コレという少女が冥界の王ハデスに連れ去られて、一年の四分の一が冬になるというお話ですね。

 どちらも冥界で飲食すると地上に戻れなくなるというのが、日本と同じ設定のようで興味深くて・・・。」


 「た、確かにそっくりですよね・・・、

 あ、あれ?」


 「麻衣様、どうしました?」


 「え、い、いえ、今のお話聞いて・・・。」


麻衣は何かに気付いたのかしら?

 「ま、まさかなんですけど・・・

 イブとリーリトって・・・同一人物!?」


はい?

さすがに私も疑問の声をあげるわよ?

 「待って、何がどうしてそんな考えに?」


 「い、いえ、さっきのギリシア神話の冬の起源説話・・・確かペルセフォネって名前のバージョンは聞いたことあるんですけど、確かその話、その後誘拐された女の子は死の国の女王になるんですよね?

 あとそれと、イザナミも最後は冥界の女神に・・・。

 もしそれがあたし達リーリトの物語と重ねられるものなら・・・

 一人の女性に二つの姿があるってことに・・・」


え・・・待って?

ああ、なるほど、そういうこと?

リーリトは自分の意志で、

イザナミという日本の女神は事故で、

ペルセフォネは誘拐されて冥界の主になるって事かしら。

つまり冥界へ赴く理由は何でもいいのね?

けれど・・・

 「でもそれだと、今の人間は誰の子孫なの?

 それにリーリトの子孫であるあなたたちの存在と区別できなくなるのでは?」

 

 「そ、そうなんですよね、

 あ、待てよ?

 エデンの園で神様から『心』をもらったのは元々イブでないとしたら・・・

 リーリトは、その罰で楽園を追放されて・・・残った楽園には・・・

 あ! じゃ、じゃあイブはリーリトの娘!?」


 「ああ、リーリトが男性に従うのを拒否して楽園を出ていくという件は、

 ユダヤ教が女性の罪深さを強調するために盛られた可能性もあるわけか。」

さすがカラドックは理知的な分析をするわね。



 「え、でもそうするとリーリトは人間の呪いだけひっかぶって楽園を追われた!?

 うわぁ、いくらでも解釈ができちゃう!」

それにその話だと、リーリトには「不死」と「知恵」両方備わってしまうことになるわよ?


つまり結局、何もわからないということね、

ごくろうさま。


・・・でも、気のせいかこの話、さっきのフラウ・ガウデンとかいう妖魔の話に繋がってない?


ギリシア神話だとタブーを3つ連続でやらかしてるんですよね。

①ゼウスに骨、人間に肉を選り分ける

②神の火を盗む

③災厄の詰まった箱を開ける


>・・・でも、気のせいかこの話、さっきのフラウ・ガウデンとかいう妖魔の話に繋がってない?

ていうか、イザナミからアマテラスやらデメテルやらニンリルやらみんな一本の線で繋がってしまうという恐ろしさ


間にポリネシアのマウイ神話なんて入れた日には、

全部同じ話にしか見えなくなってしまう。

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