第三十七話 ぼっち妖魔は素材採集の旅に出る
<視点 麻衣>
・・・ごめんなさい、
別にそこまでひ弱そうってことはないんだけど、周りがいかつい人達ばかりだったのでついつい。
日本ならその辺に普通にいそうな体格です、はい。
あたしが不思議がってると、チョコちゃんが手を差し出して説明してくれた。
「伊藤様、こちらちょうど今いらっしゃったんですが、いくつか採集依頼をかけた医療ギルドのダナンさんです。
採集する素材は薬の材料となるので、冒険者ギルドとしては持ちつ持たれつの関係になりまして。」
ああ、さっきエステハンさんが言ってたナビゲーターになるのかな?
ダナンさんと言う人はまだ二十歳そこそこって感じだけど、なんか大人しそうというか、気弱そうというか。
それでもぎこちなく笑みを浮かべて挨拶してきた。
「は、はじめまして、
治療ギルド薬草部門担当のダナンです、
ほ、本日はお日柄もよく・・・。」
「ダナンさん、それ挨拶違うから。」
チョコちゃんから的確な突っ込みが入った。
きっと初めてではないんだろう。
「あ、あれ?
えっと、じゃあなんて言えば・・・。」
緊張してるんじゃなくコミュ障か、この人?
まあ悪い人ではなさそうだ。
「はじめまして、伊藤麻衣と申します。
一応、今そちらから出された採集依頼を受ける方向で話を聞いてますけど、まだ詳細が・・・。
それに申し訳ないんですが、なにぶん一昨日冒険者登録したばかりで右も左もわからない状態で。」
「あ、ああ、聞いてます聞いてます。
それでも召喚士、巫女と優れた才能をお持ちとか。
目的素材がある場所は大体把握してるので、伊藤さんの目を借りれれば効率良く採集できると思うのです。
依頼は前から出してたのですが、なかなか冒険者の手を借りられず、自分たちだけで採集しようとするとどうも難しいんですよね。」
なんでだろ?
身体能力の問題かな?
でもそれならあたしだって体力ゼロなんだけど。
さてそれでは肝心の採集素材とは。
マトリダケ
赤金亀の手
ハチトリソウの花
ピンクスライム
昼虫夜草
知らない知らない、そんな素材。
動物と食べ物は元の世界に準拠してるのに、魔物と採集物は異世界オリジナルなのか。
まあいずれもこの村近辺で取れるという。
「村の外なんですけどね、
街道を外れ西の沼地の方に行くと、これらの素材が大体入手し易いんです。」
「何か必要な薬があるんですか?」
「今回はたまたま不足しがちな素材を集めたいだけで、緊急に薬を用意しなければならないわけではありませんけどね、
備えあれば憂いなしというわけで、村の数少ない診療所に余裕を持って置いておきたいんですよ。」
今回、あたしは鑑定士に転職させてもらった。
巫女職でも良さそうだったけど、鑑定レベル上げると何か美味しいことがあるかもしれないので。
まあ、今回のクエストではレベルは上がらないかもしれない。
何しろ最初から鑑定士レベルは3なのだから。
そう言えば、生物部の先輩の御神楽ルカ先輩は、あたしよりサイコメトリー得意なはずだけど、あの人だったらもっと鑑定士レベルが上になるのかな?
巫女レベルはあたしの方が上だろうけどねー、と対抗意識を燃やしてみる。
「あ、それでダナンさん。」
気になることも押さえとかなきゃ。
「はい、なんでしょう。」
「村の外に出るならホーンラビットとかスライムに襲われることもあると思うんですけど、ご自分の身は守れますか?」
今回の依頼は採集であって護衛ではないはずだ。
詳しく聞いてないけど護衛のミッションは依頼料も高く、Fランク冒険者では受けられないと言う。
「あ、私は冒険者の方々ほど強くありませんが、この村から沼地までに生息する魔物ならなんとか追い払えると思います。
長槍借りてくる予定ですし。」
うーん、あたしが最初に出会った魔物とか相手なら大丈夫かな?
「あ、あとあまり当てにされても困りますが、土系の術が使えます。
レベル3のアースウォールまでですけど。」
ほう、それは意外。
てか、魔法を使える人自体は結構いるんだね。
「沼地まではどれぐらいの距離なんですか?」
「徒歩でも一時間程度です。
今から行けば遅くても夕方六時ぐらいには帰れるかと。」
なら後は準備だけすればいいか。
「では出発は三十分後でよろしいですか?」
「おお、受けていただくのですね!
ご馳走さまです!
では私は一度医療ギルドに戻って報告と、私も身の回りの準備して参ります!」
なんか微妙におかしな言葉が入ってるけど、翻訳の問題じゃなくて、この人個人の問題なんだろうな。
ダナンさんは嬉しそうに自分のギルドに帰って行った。
あれ? そう言えば今回は男の人とニ人っきり?
「ごめんなさい、依頼受けといてなんだけど、チョコちゃん、あの人って変な人ではない?」
聞かれたチョコちゃんは急に笑い出した。
「あー、あの人、紳士ってか安全パイですよ、
前にベルナさんとパーティー組んだ時も、ベルナさんの顔を一度も直視できなかったって有名ですから。
まあ、そこに母性本能くすぐられる人もいるらしいので、一部の女性には評判いいです。」
そ、そうなんだ。
でも男の人としたら、そのエピソードはあまり広めて欲しくはないよね?
あたしも年下の男の子相手だったら、からかって弄んでしまうかもしれないけど、さすがに成人の男の人にそんな失礼なマネはできないだろうな。
マーゴさんだったら、気にせずちやほや面倒見そう。
そう言えばもう何年も会ってないけど元気かな?
普通の女子高生のあたしがイギリスなんか行く機会ないしなぁ。
あと、あたしは初心者冒険セット(フィールド用)をレンタルした。
往復ニ時間の距離なら必要ないかもしれないけど念の為だ。
そして三十分後、ダナンさんは戻ってきた。
時間に正確だね。
採集用の大きなリュックと、柄が木でできた長槍が装備品に増えている。
あたしもこういった武器を持ってた方がいいんだろうけど・・・
多分似合わないんだろうなあ。
その後あたし達はエステハンさんとチョコちゃんに見送られて冒険者ギルドを出発した。
「宴会は夜の七時からですよ~、
それまでに戻ってきて下さいね~!」
なんかアットホームな見送られ方だ。
いや、嬉しいんですけどね。
そう言えばナチュラルにチョコちゃんて呼んじゃったな。
だって名前が可愛すぎる。
顔立ちも女の子ちっくだし。
多少失礼な気もするけど向こうも気にしてない感じだ。
ていうか、気になるのがチョコちゃんて名前、
エステハンさんがつけたのだろうか、あの顔で。
村から出る門は、あたしがこないだやってきた門とは別の場所だ。
途中までは街道に沿って歩くのだけど、途中から草原に出る。
と言っても、目的地の西の沼地までは、定期的に往復する人もいるので、申し訳程度の道ができている。
「沼の周辺には僕みたいな素材集めする人ぐらいしか行かないよ。
魚も沼にはいるけど、あまり美味しくないらしいから釣り人もいない。」
「ああ、村の中に川が流れてましたもんね、
わざわざこっちまで来る必要ないわけですね。」
ダナンさんが丁寧に説明してくれるけど、こっちの顔を見ようとはしないな。
さっきの挨拶の時も微妙に目は合わせてくれなかった。
まぁ、悪意は感じないから素なんだろう。
チョコちゃんが言ってた通り、女性全般が苦手なのかもしれない。
とはいえ、男の人と二人きりって状況は間違いない。
そして周りには誰もいない。
・・・普通に考えたらあり得ない。
いや、まぁ、あたしもダナンさんからは邪念を感じなかったから普通に依頼受けちゃったんだけど、落ち着いて考えるとあまりよろしくないはずである。
別にあたしだってきょどったりするわけじゃないけど、いいのかね、これ。
まぁ危険がないならいいか。
「えっ!?
調合士の人って魔物とのバトルでレベルあげるわけじゃないんですね?」
「あはは、うん、そうだよ、
もちろん、戦えば身体能力のレベルは上がるけどね。
調合士の職業レベルはあくまでも薬剤の調合であがっていくんだよ。
レベルあげるのはひたすら地味な作業だけどね。」
まぁ、当たり前っちゃあ当たり前の話だとは思う。
魔物倒してレベル上がる方が本来おかしいんだから。
まぁ深く考えないでおこう、とりあえずは。
そしてどうもあたしは勘違いをしていたらしい。
というのも、薬の調合なんて、レシピ通りに作れば普通に出来上がるはずなのだ。
レベルとかスキルなんて概念が当てはまる筈がない。
ダナンさんによると、そのままレシピ通りに薬を作るのが調薬士なのだという。
これはあたしの世界の調剤士さんと一緒。
それで、調合士というのは、
いわゆるその場で傷を治してしまうような、ポーションなどのファンタジー仕様の職業だということらしい。
僧侶系回復呪文や光系魔法回復呪文はその場でしか効力を発揮しないが、調合士による回復薬は作り置きが可能だし携帯もできるので、
それなりに需要のある職業なのだ。
しかも薬の材料さえあれば、MPもほとんど使わないので、この職業を目指す人も多いとか。
ただ、薬の効果についてはそれこそレベルや個人の資質が大きく関わってくる。
「でも病気とかだと必ずしも治療できるってわけでもないんですよね?」
ダナンさんは渋い顔をした。
そんな万能なら冒険者だって覚えようとするはずだものね。
「まぁね、
病気の種類によっては効果が出ないものもあるし、そこは原因を見極めて正しい投薬をしないと意味がない。
ただ、そこは調合士というか、医術士の範疇でね、
もちろん、理想は医術士と調合士のスキルと知識、両方を備えているのが一番なんだけどね。
どうしても効率とかを考えると片方に偏ってしまうんだ。」
怪我とかの外傷だとポーションで治せるそうだけど、病気とかはどうにもならないらしい。
そっちは普通の薬でじっくり治すしかないそうだ。
でも毒に対しては解毒呪文がある。
むぅ、奥が深い。
・・・しかしダナンさん、サービス精神旺盛なのかいろいろ教えてくれるね。
その代わり、相変わらずこっちに視線を向けてはくれない。
別に不快じゃないんだけど、不自然すぎてもやもやする。
というわけで次回、
リーリト麻衣の! ちょっといじってみましょうコーナーです。
マーゴ
「わー、麻衣ちゃんも男の人をいじくるようなお年になっちゃったのね~?」
麻衣
「え、い、いえ、そんな大それたことは・・・。」
マリー
「やってる。」
エミリー
「学校でやってる。」
麻衣
「ちょ、ちょっとおっ!?」





