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第三百六十二話 いま記憶の底をほじくり返されているの

前作のネタバレがかなりあります。


敢えて名前出してないので読みにくいかもしれませんが、

過去の物語思い出して誰が誰だか区別してください。

<視点 メリー>


・・・は?


周りの空気が凍る。

カラドックの精霊術ではない。

これ・・・私に感情を復活させたのは失敗ではないの?

下手したら人形の能力とは別に血を見せるわよ?


無言で女神を睨む私に、彼女は更に言葉を続ける。

いい度胸だわ。

怖いものがないというのは恐ろしいわね。


 「先程、私が一度死んだ話をしたとき、

 つられるように・・・メリーさんも脇腹を押さえましたね・・・。」


ああ・・・

以前、ハーケルンの街のギルドマスター、キャスリオンと話をしたときにも無意識に手を当ててしまっていた。

よく見ているわね、この女神。

傍にいたオデムしか見てないと思っていたのに。

ちなみにその時は死んでもいないわ。

隣の部屋で優秀な女医を覗き見させていたからね。

もうそれはほんと、私が刺されるのがわかっていたんじゃないかってくらい、ロケットのような素早さで私たちの部屋に入ってきて、速攻で処置をしてくれた。


 「一緒にしないでくれるかしら?

 私はあなたのような痴話喧嘩の結果ではないのだけど。」


 「・・・そうですね、

 でも貴女は、その時こう言われたように思ったのではないですか?

 『お前はお呼びじゃない』・・・と。」





・・・え?

なに?



いま、女神は何て言ったの?


私が彼女の言葉を未だ受け止めていないにも拘らず、

女神は更に言葉の矢を射かけて来る。


しかも連射で。



 「『ここから先にお前の出番はない』、

 『もう舞台から降りろ』、

 『後はオレたちの演目だ』、

 ・・・あなたは・・・そう言われたと感じてしまったんじゃないですか?

 あのナイフがあなたの脇腹に深々と刺さった時に。」


まだ何か言ってくる。

 「だから後は見ることしか出来なかったのでは?」


さらに追い打ちをかけて来る。

 「だからわざわざ人形の身に転生したのでは?」






いえ、まって、

それは・・・


 「あれは・・・あの時は・・・私じゃない、

 私は違う・・・

 私は幻術を使って・・・

 私は私の姿でなく・・・

 あの子の姿を使って彼の前に・・・

 隣の部屋から彼女本人に覗き見させて、

 あの二人が・・・お互いの気持ちに気付くようにと・・・」


余計なお世話であるという自覚は勿論あった。

ツンデレどころかいつもツンツンの二人。

でも互いにいがみ合ってるかと思えば、いつも二人で生死の境をくぐり抜け、

気が付くと一緒にいて・・・。

当時から感知能力を持つ私が見てもその関係は微妙。

じれったいったらありゃしない。


あの子も私が自分の姿そっくりに変身したのと、

私がこれから何をしようとしているのかを理解して、

口では思いっきり私を止めようとしていたけども、

あの子も葛藤していたんだろう、

最後は私が部屋から出て行く姿を見ているだけしか出来なかった。



けれど、私に親切心といえるものは殆どなかった。

彼らの人間関係をぐちゃぐちゃにして、その上で二人の行く末がどうなるか見てみたかっただけ。

まさかあの男が、自分が愛するはずの姿をした女から迫られて、

ナイフを刺してまで拒絶するなどと誰が予測できよう?


そう、あの男に拒絶されたのは私でなく、あの子の筈。

なのにどうして私は女神の言葉を否定できない?



 「私はあなたの記憶を見たといったはずですよ?

 状況の話ではありません。

 あなたはその時・・・『世界に』拒否されたと感じたんじゃないのですか?」



あ・・・


そうか、

私はあの男にではなく、

「世界」に

拒絶されたのか・・・。


私のやる事や企みなどは、彼らを待ち受ける運命には何の影響も及ぼさない、

そうだ、

あの時感じていた無力感、敗北感・・・。


21世紀に化け物として生きていた時、

斐山優一や朱武たちと戦って私は殺された。


400年後の二回目の人生で、斐山優一と朱武の子孫に嫌がらせやちょっかいかけようにも、

彼女達の運命には何の影響も与えることは出来なかった。

二人を貶めることも。

二人を救うことも。


もっとも、それは彼も同じだったはずだ。


あの子を救う事が出来なかったから


だから彼は私の同類だと思った。

だから私たちは一緒に暮らした。

愛情はなかったとしても、

私達はどこかで繋がっているんだと安心できた。


・・・なのに、彼は私やミカエラを残して逝ってしまった。

それがあの人の望みだったとでもいうのだろうか?


あの人の死の少し前、

昔あの人と一緒に暮らしていたという、

若い女性が自分の伴侶と共に訪ねてきた。

その胸に、産まれたばかりの赤子シズミくんを抱えて。


彼女達の突然の訪問に、どうやらあの人は怯えていたらしい。


その昔、

その女性がまだ幼く、あの人と一緒に住んでいた時に、敵国の兵隊たちに攻め入られたことがあったそうだ。

その時、彼女の母親や、他に一緒に暮らしていた女性達が、敵国の兵に嬲り殺されていたにも拘らず、あの人は立ち向かうことも出来ずに、ベッドの下でただ震えていることしか出来なかったというのだ。


それも一人の売春婦を自分の盾にして。


さすがにその部分は彼女には話すことが出来ずに後で私が教えてもらった。

そしてあの人は、母親を殺された彼女の、物言わぬ表情に耐えきれず、その館を逃げ出したという。



そのことで、成人したその子から、どんな恨みの言葉をぶつけられるか、

どんな呪詛の言葉を叩きつけられるのか、

これまで築き上げてきた栄光、名声、それらが全て崩れ落ちることの恐怖で、

あの人の心は壊れる寸前だった。

いや、もうその時点で彼は壊れていたのだろう。

私には彼の感情が読める。


殺意。


それはもう、精神でも錯乱したのではないかと思えるくらいの狼狽ぶりだった。

救国の英雄に、そんな不様な過去があることを明るみにされたら、どんな事態が自分を待ち受ける事になるのか。

そんな事を考えていたに違いない。

クズだ。

誰だってそう思う。


あの人は本気で、あの若夫婦を赤ん坊ごと口封じのために殺そうとしていたのだ。



ところが、その彼女があの人に対して、

「感謝」と「尊敬」の念しか持っていないと知ったあの人の表情・・・


しばらく二人の間に会話というものは成立していなかった記憶がある。

お互いが何を言ってるのか理解したのはしばらく経ってのことだった。



 『え?

 な、なんであたしに謝るの!?

 おじさん、あんなに活躍したじゃない!

 ママの仇も討ってくれたよね!?

 あの後すぐにテルアハの町を救って・・・

 その後もイルの兵隊たちを何百人も何千人もやっつけて・・・

 終いには、王様が予言した空から降ってくるっていう災厄まで退けて・・・

 おじさんはあたしの英雄なんだよ!

 あたし、いっつもみんなに自慢してきたのに!!

 この国を、この世界を救ったあの英雄と、

 あたし小さい時、一緒に暮らしてた時あるんだよって!!

 一緒に水汲みに連れて行ってもらったり、

 ろばのお世話の仕方おしえてくれたりして、

 そ、そりゃ本当に短い間だったかもしれないけど、

 あたし、幸せだった!!

 あたし、ママとおじさんと暮らしていた時が、一番楽しかったんだよ!!』


その場で彼は泣き崩れていた・・・。






彼女達が帰ってから、

あの人は私に自分の惨めな過去を告白してくれた。

臆病者の癖にプライドだけは高いあの人が、

涙を流して私に全てを吐き出したのだ。

まるで泣きじゃくる子供のように。


私は彼の話を聞くことしか出来なかった。

それまで一緒に暮らしていたにも拘らず。



私には何もできなかったのに・・・。


私はまた何もできなかったのだ・・・



あの人の自殺に、彼女との再会が大きく影響しているのは間違いないだろう。

だがそれが彼の自殺の原因とはどうしても思えない。

なにしろ彼はそれまでに罪を犯し過ぎた。

死刑台に送ってしまった「あの子」のこともある。


彼は・・・あの人は、


自分が幸せになってはならないと、


ずっと考えていたのかもしれない。


だから、

幻術で・・・

あの子の姿をした私の誘惑をも拒絶したのだろうか。


本当にバカな男だった・・・。




私はそこまで過去を振り返った後に女神に視線を送る。


 「女神さまが私と似た者同士というのは・・・。」

 「メリーさんほど複雑ではないと思いますよ。

 私にとっては『あの人』こそ世界。

 あの人に拒絶されたということは世界に拒絶された事と何ら変わり有りません。」


なるほど、確かに恋する乙女にとっては惚れた男性こそが世界だろう。

私にはそこまで思いを寄せた相手はいないしね。


政略結婚で嫁いだアイザス王には何の情もない。

悪い人ではなかったけれど、

私を殺した斐山優一の子孫に、思慕の情など持つものか。


ごめんなさいね、カラドック。

 

シズミくんという赤ちゃんは、後にミカエラと結婚することになります。

幼馴染婚ですかね、うらやましいですか、ケイジ君?


ケイジ

「ケンカ売ってんのか!!」

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