第三百六十一話 これから私の出番なの
<視点 メリー>
ちょっとしたハプニングが起きたみたいね。
ヨルという魔族の子が簡易ベッドに寝かされる。
これ、出発の時間が予定より遅れるのではないだろうか。
それにしても、いつまでこんな茶番を見せられ続けるのかしら?
とは言えカラドックには多少同情する。
大陸の覇者にまでなったというのに、実際は何も知らされていなかったという事なのだろうから。
かといって私が彼に出来ることは何もない。
女神の方も、身の上を聞けば酷い話とも思う。
自分の意志で人形に転生した私と違って、
気が付いたら知りあいなど誰もいない異世界に、身動きできない状態で放り出されたというのだから。
しかしどれもこれも私には全く関係ない。
確かに女神の能力は脅威だが、
カラドックや麻衣同様、人間だった時の私より遥かに過去の世界の者なのだ。
アスラ王とシリスが残した旧世界の人工知能に、彼女の名前が付けられていたという話は、自分が言い出したにしても興味深いが、ただそれだけの話。
会ったことはないけど、アスラ王ってちょっとおセンチな人だったのかしらね、くらいにしか思わない。
女神からさらに邪龍討伐に向けてギフトも配られるという。
なるほど、それも大事だろう。
何故三人だけにしか配られないのか知らないけども。
やっぱり私には関係ない。
後この場ですべきことは邪龍の居場所について聞くことだけだと思っていたのだけど・・・
どうやら女神の方がまだ何かあるらしい。
そしてさらに退屈なことに、どうやらそれも私には関係ない事のようだ。
「・・・私が皆様に差し上げられる祝福は以上なのですが・・・。」
「何か他に?」
カラドックはいろいろショックを受けていたみたいだけど、
気を取り直して頑張っているわね。
「ええ・・・やはり先程の次元超越の時に、私の中に新たな情報がいくつも入ってきて・・・。」
「え、そ、それは?」
「ええ、まずリィナ様・・・の」
「え? あたし?」
カラドックの話によると、この子は転生者ではないけれど、
元の世界の朱武の娘に顔がそっくりなんだとか。
恐らくそれに起因しているのだろう、
表面上は気丈に振る舞っているけども、内心は不安でいっぱいのようだ。
麻衣も気づいているようね。
リィナといい仲らしいケイジが全く無頓着と・・・。
「はい、リィナ様には天叢雲剣の使い方を・・・。」
「え、天叢雲剣の使い方って・・・あたしの精神力でガッとやって、どばって爆発させるだけじゃないの?」
・・・あの子は感覚派ね、人に教えるの向いてなさそう。
それにしても雷を呼ぶ天叢雲剣か・・・。
私が化け物として生きていた時に、朱武が胸元の紋章を媒介にして振るっていた能力だけど、まさか異世界で同じような能力を目にするとは・・・。
・・・いえ、これも因縁かしらね、
私の夫も受け継いでいた能力ではないか・・・。
そう言えばあの紋章・・・
娘はあの後も持ち続けていたのだろうか?
あの子は父親の姿を覚えていない。
形見代わりにあの子に持たせていたけども・・・。
女神の指導は続いている。
「・・・私も詳しいことは言えないのですが、
リィナ様の今のやり方だと、思いを込めた一瞬でしか能力を使えないでしょう?
そう・・・ですね、
不親切かもしれませんが私もその剣の使い手という訳ではないので・・・
ええ、と、リィナ様には『収束』と『維持』・・・
この二つの言葉だけでご理解いただけますでしょうか?」
「え?
収束と・・・維持・・・。
ああ、わかったようなわからないような・・・
いや、言葉の意味は分かると思うけど・・・できんの、それ!?」
「後はリィナ様次第だと思います・・・。」
「ああ、少なくともあのお兄さんはそういう使い方が出来ていたってことですね?」
後ろで麻衣がフォローに入る。
そうよね、
彼女もサイコメトリーで天叢雲剣とやらが使用されているところを視ていると言ってたものね。
「・・・あたしの、異世界でのじいさんってやつかよ・・・。」
リィナが再び天叢雲剣を引き抜いて刀身を見る。
「ま・・・確かにこいつで今まで危ないところを切り抜けられてきたわけだしな、
邪龍と戦う時まで身につけてみせるぜ・・・!」
彼女は自分を産んだ両親の顔さえ覚えていないという。
それでも物心つく頃にはその剣を肌身離さず身につけていたそうだ。
ケイジが彼女を買い取るまで奴隷身分だったと言っていたけども、
その剣を自分に与えた者に何を感じているのだろう・・・。
そして・・・その者は何を思い、リィナに剣を託したのか。
「それと・・・」
女神の話はまだ終わらないの?
そろそろ端っこに行って眠っていようかしら?
「メリーさんに・・・。」
ええ、次はどうぞご自由にメリーさんにでも・・・
あら、いやだわ?
メリーさんて私じゃない?
「え? 私に何か?」
「はい・・・あなたはこの世界で貴女の知りたかったことがあるのだとか?」
なんで知っているの?
ああ、さっきのサイレンスの時に麻衣から聞いたのかしら?
「・・・ええ、でも今のところ何も手掛かりはないわね・・・。」
「私が今それをあなたに提示できると言ったら?」
「・・・なんですって?」
いきなり何を言い出すのかしら、この女神?
・・・おっといけない。
思わず殺気を振りまいてしまったようだ。
ケイジ達が緊張で身を固めている。
「どういうこと?
女神さまは私の世界には何の関わりもないのでは?」
「・・・そうですね。
ですが先程申しましたように、私の中にいろいろな情報がいきなり浮かび上がってきたのです。
恐らくあなたについては、その人形のボディが深淵の黒珠と同じ闇属性だったからかもしれません。」
ああ、そういう・・・
いえ、でも。
「・・・意味が分からないわ。
私の過去をこのカラダを通して視たと言うなら、それは全て私が知っていることでは?」
意味が分からないというか、意味がないわよね?
「・・・そうですね、
私が知ってしまったのは・・・
人形を媒介にしたあなたの記憶です。
ですが、私はあなたの人生に全く関与していないだけに、
客観的に物事を見れるとは思いますよ?
ですから・・・私の話を聞いて、
あなたには納得のできない話もあるでしょう。
あなたがそれを真実だと受け止めれるかどうかも、何の保証も出来ません。
それでもよければ、その話になります。」
「・・・あなたの口から零れる話は・・・真実だというの?」
「ある側面にとっては真実としか言えないでしょう。
もう一度言いますが、メリーさんにとって受け入れられる真実かどうかはわかりません。」
・・・なるほど。
「いいわ、では何のお話をしてくれるのか・・・
いえ、待って?
先に一つだけ疑問に思ったことを言わせて?」
「ええ? どうぞ、なにから聞きますか?
もちろん、私にも分からない話もありますよ?」
「いえ、あなたのことよ?
今まであなたの身の上話を聞いていたけども、
あなたが他人に積極的に関わろうとしていたイメージはまるでなかったわ?
アガサやタバサにギフトを与えたのは、邪龍を倒すための世界樹の女神としての仕事と思えるけども、
私の過去の話なんか、邪龍討伐にも何の役にも立たない。
いくら私の過去の記憶が流れてきたからと言って、
そこまで私に干渉しようとする理由はどこにあるの?」
そうとも、
私が女神の話を聞いて、へぇそうかと思うことはあっても、
それ以上、何か介入する意義も見いだせない。
女神の悩みや心残りを解決することによって、見返りという形で、深淵の黒珠なりギフトなり手に入れるという目的があるならまだわかる。
けれど、女神が私の問題を解決したところで、私は彼女に返せるものなど何もない。
「・・・その質問のほうが、あなたにとっては気になるのですか?」
「確かに重要な質問ではないとは思うわ?
ただ、性分なのかしらね?
なんでも疑ってみる習性なの。」
「・・・なるほど、確かに私も・・・
話の流れでついでみたいなところもあるのですが・・・。」
ああ、そうか、
女神が手に入れた情報は厄介ごととして全て吐きだしてしまおうと?
なるほど、そういう考え方もあるか。
だが次の女神の言葉は、私の想定を完全に上回っていた・・・・。
「言葉にすると難しいのですが・・・
そうですね、あなたと私が似た者同士に見えたから、というのはいかがでしょうか?」