第三百六十話 ギフト
<視点 カラドック>
「これより皆さんへ、世界樹の女神として・・・。」
えっ?
「これから皆さんは邪龍討伐に向かうのでしょう?
ならば、何人かの方々にギフトを差し上げます。
内容は私にも分かりません・・・、
アガサ様、タバサ様、ヨル様・・・どうぞ私の元へ・・・。」
ギフトだって?
女神は言葉を続ける。
「どうやら・・・この世界で神と呼ばれるものは、
人間や亜人になんらかの加護や祝福を与えられるようなのです。
先日この場所にこの世界の神々だとほざk・・・いえ、仰る方々が現れて、
そんな話を聞きました。
その時には私も具体的に何ができるかもわからなかったのですが、
今回・・・深淵の黒珠を使って次元の狭間を越えた影響か、
私の中で潜在能力が開花したような自覚があります。
今ならその能力を使う事が出来るでしょう。」
それは凄い!
その恩恵に与れるエルフ達が興奮する。
「世界樹の女神からのギフト!!」
「待望のチートスキルゲット!!」
「ヨルは病気以外なんでも貰うですよぅ!!」
いつもポーカーフェイスのタバサも食いつきがいい。
術のスペシャリストであるアガサはさらに貪欲に最強の座を目指すのか。
・・・ヨルさんは・・・ある意味ちょっと怖いのだけど・・・、
周りの人間が手に負えなくなるような物騒なものは渡さないで欲しい。
しかし何故この三人なんだろう?
彼女達の共通しているのは女性である事・・・。
じゃあ、麻衣さんやリィナちゃんは?
後は何だろう?
魔力なら麻衣さんもアガサ達に引けは取らないと思うんだが・・・。
一番手は、深淵の黒珠を引き取ったまま近くにいたアガサが女神の前に立つ。
深淵の黒珠を安置していた台座はラプラスさんが片づけていた。
「ではアガサ様、よろしいでしょうか?
先ほども言いましたが、どんなギフトがあなたに渡るかはわかりません。
ただあなたにとって有益であることは確実だと思います。」
「委細了解、世界樹の女神からのギフトをダークエルフたる私が断る道理なし!
謹んで拝領。」
「畏まりました・・・
では・・・世界樹の女神の名のもとに・・・我が祝福をこの者に・・・。」
その瞬間、女神の体から淡い光が浮かび上がる。
やがてその光は零れ落ちるように、アガサの体に・・・。
「・・・こ、この力は・・・ステータスウィンドウ・・・!
ああ・・・私の能力に変化が!
適性職業・・・魔導士が追加!!
称号に世界樹の女神の祝福!!
さ・・・さらにユニークスキル!?
木属性魔法!?」
おお! 凄いなアガサ!!
属性魔法は基本四元素以外は冷雷光闇だけだと思ったけど、そんな属性もあるんだね。
「木属性ですか・・・。
戦闘向けでなはいですが、生産系魔術としては破格のものかと・・・。
特にアガサ様の魔力量なら、私の同胞、地母神デメテルに準じた能力が使えるかもしれません。
どうぞこれからに役立ててください。」
「こっ、これがあれば、使い方によっては一国の女王にも!?」
なれるかもしれない・・・。
冒険者のギルドマスターどころじゃなくなってきたな。
頑張れアガサ、応援するぞ。
早速私はアガサと握手して、彼女の職業を上位魔術士から魔導士に変更してやる。
このクラスだと、MP、知力、レベルアップ時のステータスの伸びが半端ない数字になるという。
感極まったのか、目を潤ませながらアガサはその後抱きついてきた。
胸が・・・
う、うん、今回は私をからかっているわけじゃないことぐらいは理解してるさ。
自制心・・・自制心。
「つ、続いて私の番、女神さま、私も激しく熱望・・・!」
「タバサ様、畏まりました、
世界樹の女神の名のもとに・・・我が祝福をこの者に・・・。」
先程と同じ光がタバサに注がれる・・・。
こちらも問題なく成功・・・果たして結果は・・・?
「ステータスウィンドウ・・・んはああああああああっ!!
称号はアガサと同じく世界樹の女神の祝福、
てっ、適性職業が・・・大僧正に・・・!
これがあれば、上級司祭以上の最高ランクの僧侶呪文を習得可能!!」
「大僧正のスキルには土地の浄化能力、味方へのバフ能力、結界能力などもあるようです。
他人を守護する能力としては他の追随を許さないかと・・・
戦闘だけでなく、街や都市の守護者としても力を発揮できるでしょう。」
アガサの変化が横に次元が拡がった感じで、
タバサの変化が上に次元が突き抜けた感じかな?
アガサと同じくタバサの職業を上位司祭から大僧正にチェンジ。
こちらも同じように抱きつかれたが、いつものように足を絡められたりはしなかった。
純粋に嬉しいんだろう。
・・・逆にこっちがそれを物足りなく感じt・・・いや、落ち着けカラドック!
それが彼女達の罠だ!!
平常心・・・平常心。
ところが、これらのシーンを横から眺めていた、赤い瞳の少女がとんでもないことを言い始めた。
「あー、楽しそー、オデムもやるー!」
えっ?
「いいやちょっと待てオデムうわ」
・・・良かった、
私じゃなく、ケイジがオデムの犠牲になった。
是非狼獣人のモフモフを堪能してさしあげろ。
「小さな子に抱きつかれて良かったねぇ、ケイジ・・・。」
「い、いや、バカ言うなリィナ、これ、力が半端なk・・・
オデム! くっ苦しい! ギュワアアアアアアアアッ!! 折れるっ! 死ぬッ!!」
あれ? ケイジの体からベキベキ聞こえちゃいけない音が聞こえてくる?
こ、これはさっそく大僧正タバサの出番だっ!!
「このパーティー、カーストの一番下がヨルさんで、その次がケイジさんなんですよね?」
麻衣さんが他人事のように冷静に分析する。
おかしいな、どうしてそんな区分けになってしまったんだろうね。
リィナちゃんもケイジの苦しむ姿を見て楽しそうだ。
「あー、カラドックが国王としたら、
普通に考えて次は司祭のタバサかなあ、
アガサは現場のエリート役人だものねぇ、
あたしは身分的には奴隷の筈なんだけど。」
「い、いや待て、
そ、その考え方、なら、オ、オレ、一応王族なん、だぐわっ!?」
ケイジはまだ余裕があるか。
結構しぶといな。
あ、またどこかの骨が折れたかな?
「ヨルだって町長の娘ですよぅ!
魔族令嬢ですぅ!!」
そんな令嬢なんて聞いたことない。
「・・・てか、お、おま、えら、楽、しんで、ない、で・・・助、けろ」
あれ?
まだタバサに回復呪文かけてもらってないのか。
「いま、回復呪文かけても無駄。
先に誰かがあの子をケイジから離してあげないと魔力の無駄遣い。」
ああ、確かにせっかく回復させても、その体勢のままならまたベキベキに折られてしまうものね。
そこで他に誰もいなかったんだろう、
布袋がオデムを引き剥がしてくれた。
「むー、布袋どんのいじわるー!!」
ようやくケイジが回復呪文をかけてもらう。
よかったなケイジ、手遅れにならなくて。
「・・・最近オレの扱いが酷すぎる・・・。」
気のせいだよ。
「いよいよヨルの出番ですよぅ!!
女神さま、ヨルは男どもを一発で魅了できる魔眼が欲しいですよぅ!!」
ろくなことに使わない気がするから絶対にやめて。
「あ、あのごめんなさい、
何が渡るかは全く分からないの・・・。」
そして三度目の譲渡・・・。
「きましたですよぅ!!
称号はお二人と同じ世界樹の女神の祝福、
そっ、そして適性職業・・・魔戦士!!
あれ? ・・・ユニークスキル『魔闘法ex』ですよう?
なんですかぁ、これはぁ?」
「どうやら魔族のデフォルトスキルの魔闘法の進化型の様です。
通常の魔闘法では自分のカラダに魔力を通して強化するだけですが、
このスキルは身につけている防具や武器にも魔力強化することができるようです。
ヒューマンや亜人に多く見られる魔法剣は、
武器に属性を与え性質変化しますが、こちらは純粋に強度や破壊力をあげられるみたいですね。」
「ひゅおおおおおおお!
ヨルの時代が来たですよぉぉぉぉっ!!」
グルんとヨルさんの首がこちらを向く。
わかっているとも。
アガサやタバサの次は自分だとアピールしたいんだね。
さっきの二人に比べ、明確に下心がありそうだけど、
あからさまに差をつけるわけにもいかないし・・・。
そこで麻衣さんが驚愕の事実を私に告げる。
「カラドックさん、アガサさんにタバサさんも、
さっきので『押した瞬間一歩引く(ヒットアンドアウェイ)』スキルを身につけたみたいですよ?」
なんて凶悪なスキルを覚えたんだ。
「はわわわわっ! それならヨルも身につけるですよぅ!!
ま、まずはカラドックと息が触れ合う5センチの距離まで近づいてっ!
そこから・・・!!」
ふっ、だが残念だったね、ヨルさん、
この国王カラドックには「スルー」スキルがあるのさ、
その程度じゃ私の鉄壁の防御を打ち破る事が出来ない。
そしてさらに、握手してジョブチェンジさせた瞬間、
ヨルさんの耳元に「おめでとう」と言葉を囁いて、
空いてるもう片方の手でターバンに覆われたヨルさんの角をゆっくりと撫でる。
カウンター攻撃さ!!
「・・・ぴぎゃっ!?
カ、カラドックがヨルの角を・・・あっ、あ~ああっ・・・!」
あれ?
そのままガクガクと膝を震わせて、ヨルさんが内またでへたり込んでしまったぞ?
「カラドックがヨルの角を・・・
熱いギフトが、ヨルの中に入ってきたですうう、
こ、これでヨルは妊娠しちゃったんですよぉぉぉぉぅ・・・。」
そのまま、ビクンビクン・・・て。
え・・・。
「あの・・・タバサさん、回復呪文をお願いできるかな?」
「・・・回復の意味なし、ヨルはただ今絶頂状態、
カラドックはヨルの新たな世界への扉を解放、タバサちゃん今後一切関知せず。」
「カラドック、お前このままヨルに何の責任も果たさなかったら、
元の世界に戻る前に確実に刺されるからな。」
ケイジ、不吉な予言はやめてくれ・・・。
「カラドック様、私は自分を棚に上げさせていただきますが、
女性は追い詰められると何をしでかすかわからない者もいますので・・・。」
女神さま、そういえばあなたも刃物を持ちだしてきたんでしたっけ。
・・・うん、私は国王だ、
このことは全てスルーさせてもらおう!
いよいよこの後、400年後の世界のネタバレに入ります。