第三十六話 ぼっち妖魔は見知らぬ街を満喫する
<視点 麻衣>
おはようございます。
あたしの話はここまでにしようと思ったけど、次の日のことも少し付け加えておきます。
朝、食堂で、ローラちゃんや女将さんに、昨夜のことでお詫びをしあったりで、何事もなく朝食をいただいた。
お詫び代りにおかずを一品余計に貰えました。
ご馳走様です。
そして今日は村の市場で買い物!
案の定、制服姿のままのあたしはここでも目立った。
真っ先に外套を買う。
もちろん頭が隠れるフード付き。
魔術士専用の、属性攻撃低減効果のあるような高級なローブは、こんな村では中々手に入らないとか。
まあ、いいですよ。
目的はそれでないので。
それより革のサンダル。
学校指定のローファーじゃ荒地はきつい。
そして、村人の格好と大差ないような上下一式。
まあ、こっちは宿屋に戻って着替えるよ。
途中、歳の近そうな二人の女の子たちが買い物に来てたので、恐る恐る声を掛ける。
向こうもあたしが村の外から来た異邦人である事はわかってたらしい。
昨日、一昨日と騒ぎになってたみたいだからね。
小さい村じゃ、あっという間に情報伝わるんだろう。
まあ村の外ってか、この世界の外から来たんだけどね。
要件は、
下着に困ってるのだけど、どこでどんなものを買えばいいかわからないので教えて欲しいと。
会話の中で、あたしが昨日、ダンジョンに潜ったことと、その際、この村のベルナさんに付き添ってもらったことを告げると、案の定、彼女たちは食いついて来た。
やっぱりあの人、人気者なんだね。
いろいろ教えてくれたので、お礼に屋台で売ってたジュースをご馳走しました。
情報だけ教えてもらえれば良かったのだけど、ご親切にも下着屋さんに付き合ってもらった。
パンツは予想通りカボチャパンツ・・・いえ、ドロワーズがメインです。
予想を外したのはちゃんとブラジャーがあること。
もちろん現代社会の製品のようにバラエティ豊かなサイズやデザインがあるわけではないけど、だいたい形に合うものを見つけられた。
試着室はないんだよね。
まあ、女性しかいない店だったし、ブラウスのボタン外してモゴモゴ不器用に外したりつけたりして確かめた。
よし、これでいい。
サイズ? カップ?
年頃の女の子にそんなもの聞いてはいけません。
ちなみにこれ内緒なんだけど、あたしは他の女の子と比べて少々体型が独特だ。
どう独特かと言うと、胴回りが円に近い。
えーと、表現難しいな。
魚のエイって平べったいでしょ?
普通の人間って胴回りを前から見ると平べったいよね?
あたしはどちらかと言うと、平べったいのではなく、そう、ウナギの胴体のように丸いのである。
胴長だって言ってるわけじゃないからね、そこ間違えないでね。
・・・わかってますよ、蛇型の体型だって言いたいんでしょ?
そうだよ、その通りだよ、文句あんのか、こんちくしょうめ。
すいません、なんでもないです。
それでは案内してくれた子たちにお礼を言って、宿屋にリターン!
次はお洗濯です!!
追加料金でローラちゃんが洗濯してくれるそうですが、このぐらいは自分でやりますよ。
洗濯場と水、たらいなどは無料で貸してくれます。
洗濯石鹸は自分で用意して欲しいと言うことで買ってきました。
それよりローラちゃん働き過ぎてない?
まだ13歳だよね?
あ、でも学校とか行ってないならこんなものなのかな?
読み書きや計算なんかはお父さんやお母さんに教えてもらったそうだけど。
これで午前中の仕事は終わり。
さて、ギルド近くのお食事どころでお昼ご飯を食べました。
卵と香辛料を使った炒め物。
うん、変わった風味だけど美味しい。
ごめんね、グルメ物語じゃないから詳しい説明できなくて。
まあ、言葉さえ通じるなら異文化でも何とか生きていけそうな事がわかって良かった。
その後、冒険者ギルドに立ち寄ったら、さすがに受付は一昨日と違う人が座ってた。
・・・え?
若い女の子?
ツインテールの清楚な箱入りお嬢様って感じだ。
嘘、いや、別におかしな事は何も無いけど、この村の冒険者ギルドに若い子いたんだ?
昨日もダンジョンの行き帰りでも見なかった気がする。
向こうも小柄なあたしなんかがギルドにやって来て戸惑ってるみたい。
「い、いらっしゃいませ、
冒険者ギルドにようこそ、本日はご依頼ですか?」
一昨日と似たような反応か。
まあ初対面なら仕方ないよね、
そしたら周りでだらけてた他の冒険者の人があたしの説明の手間を省いてくれた。
「チョコちゃん、
その子、昨日オヤジさんと一緒にオックスダンジョンに行った新人の召喚士だよ!」
おお、ありがたい紹介。
ただ聞き流せない単語があったよね。
オヤジさん?
「あ!
じゃお父さんが言ってたあたしと同い年の異世界人てあなたなんですね!?
昨夜お父さんが超ご機嫌で話してくれました!!
あ、自己紹介しませんでしたね、
父が昨日はお世話になりました!
エステハンの娘のチョコです!!」
ぬわに!?
「あ、いえ、お世話になったのはこっち・・・て、エステハンさんの娘ぇ!?
に、似て、あ、いえ、ごめんなさい、
伊藤麻衣です、宜しくお願いします。」
「あはは、大丈夫です、みなさん、似たような反応されますから。
あたしもむしろ、みなさんの驚く顔見るの楽しくなっちゃって、
あ、これは聞かなかったことに。
でもお父さん、怒ると怖いのは確かですけど、普段は優しいんですよ?」
ああ、そう言えば女子供には優しいって言ってたっけ。
うん、いや、そこは疑ってませんよ。
ただ遺伝子の奇跡を見たような気がして、ちょっとね。
「あ、うん、エステハンさんが優しいってことは昨日の探索でわかってますよ、
今日はエステハンさん、お休みですか?」
「うふふ、ありがとうございます、
あ、そう言えば伊藤様は昨夜、ブッカとオッチョの二人に襲われたんですって?
ケーニッヒさんから聞いてます。
あの人達、目付きイヤらしいからもしかしてと思っていたんですけど、ご無事で何よりでした!
エステハンはその後始末で自警団やら事務処理などでバタバタしてますけど、ギルドマスター室におりますよ。
伊藤様が見えたら呼ぶように言われてます。」
あいつら、この子にも狙いつけてたのかな。
まあ、あのエステハンさんの娘だと知ってるんなら、そんな大それたマネなんかできなかったろうけども。
ていうか、こんな可愛い女の子が娘なら、エステハンさんも絶対にあいつら許さないだろうね。
あたしはチョコちゃんに案内されて、フロアの奥にあるギルドマスター室を訪れた。
コンコン!
「どなただね?」
「昨日はお世話になりましたー、
伊藤麻衣ですー。」
「おう!
開いてるから入れ入れ!!」
意外と機嫌良さそうだな。
バタバタしてると聞いたけど、そんなでもないのか。
失礼しまーすと中に入ると、立ち上がったエステハンさんが満面の笑みで迎えてくれた。
改めて見ても怖い。
「おう、嬢ちゃん! 昨夜は大変だったな!
無事で何よりだ!
まあ、座れ座れ!!」
すぐにチョコちゃんがお茶を持ってきてくれた。
お客さんてわけでもないのに申し訳ないです。
「それであの二人だが・・・。」
「あ、はい。」
やっぱり本格的に怖い顔になった。
きっと三段階くらいに変化するんだと思う。
「今は自警団の留置所に移送している。
処分は冒険者資格の剥奪、
あと、手続きが全て済めばこの村から永久追放という形に落ち着くだろう。
まずはな。」
「まずはというと?」
「うむ、昨夜の事件自体は未遂で終わってるからな。
侵入罪と誘拐未遂、暴行未遂ではそこまで重罪には問えん。
ただ、余罪がボンボン出てきそうなんだ。」
ああ、そうか。
「あたしの件が初犯でないと。」
「そうだ、
他にも誘拐したり、違法な奴隷売買に関わっているのがわかったら、懲役刑や犯罪奴隷だ。
そこまで取り調べると時間がかかるし、この村では扱いきれない。
怪我の回復を待ってこの領地の中央都市に移送する。」
どっち道、ここには戻ってこれないってことね。
「それで話は変わって今後なんだが。」
「あ、はい。」
「強制ではないし、せっかくだから程度の話だが、ランクFからランクE程度の採集依頼をやってみないか?
村の外の依頼もあるが、手強い魔物と遭遇する危険はあまりない。
だからこそのランクだがな。」
今晩の宴会までの時間潰しにもなるね。
「え、と、
それは構いませんけど、ソロで行くんですか?」
「あ、いや、そう言う依頼もあるが、今ちょうど、ナビゲーター付きの依頼が来てるんだ。
ただまあ、依頼料がそんなでもないんで、他の冒険者に見向きされなくてな。」
ああ、なるほど。
経験値稼げるわけでもお宝にありつけるわけでも、お金にもならないと。
「別に大丈夫ですよ。
ただ、あたしも採集活動は初めてですから、どこまで役に立つか・・・?」
「そこは心配しとらん、
嬢ちゃんの目がありゃバッチリだ。
じゃあ、受付のチョコに聞いてみてくれ。」
そこであたしは受付に戻ってチョコちゃんに採集依頼の話を聞いてみた。
「あ、採集依頼受けてくれるんですか!?
え、と、Fランク、Eランクの依頼掲示板がそこにありますよね!
その中から選んで頂きたいのですけど、今回是非お願いしたいのが。」
そこでチョコちゃんが不自然に話を切った。
あたしは視線を掲示板に向けてたので、何だろうと思って振り返る。
そこにはいつの間にか、ひ弱そうなお兄さんが立っていた。
読み直してたら麻衣ちゃんとチョコちゃん、同い年にしてたか。
後の方で間違えてないかな・・・。