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第三百五十九話 カラドックの疑問

ぶっくま、ありがとうございます!

<視点 カラドック>


目の前の真っ暗な空間から、突然麻衣さんの大声が響き渡った。


 「布袋さん! ラプラスさんでもいいです!

 タオルか拭く物をお願いします!!」


どうやらサイレンスを解除したようだ。

緊急事態だろうか?


慌ててタオルを手にした布袋という男がラプラスと一緒に真っ暗な空間に飲み込まれる。

呼ばれてはないけど、オデムという目の赤い少女も一緒だ。

やっぱりラプラスだと女神の顔には手を届かせるのでギリギリじゃないか?

布袋の身長なら余裕だろう。


 「あ、布袋さん、もっと下!」

 「布袋さん! マスターに粗相をしたらいけませんよ!」

 「は、はい、す、すいません、ここですか、マスター?」

 「グシ・・・、グス、ご、ごめんなさい、ンブッ、手間をかけて、グス・・・」

 「マスター、それは言わない約束ですよ?」

 「ああ・・・私がこんな体じゃなかったら・・・」

 「おっかさん・・・じゃなくて布袋さん、そこから下はあたしがやります、

 タオル貸してください。」


声だけが色々聞こえてくるけど、儀式は成功したのだろうか?

私の後ろでメリーさんが「今のはネタかしら?」と首をかしげていた。

何の話だろう?


 「女神さま、もーいいですかー?

 ダークネス解除しますよー。」

 「あ、ま、麻衣様、いろいろ気を遣ってくれてありがとうございます、大丈夫・・・です。」


やがてダークネスも解除される。

その時には、麻衣さんもラプラスも布袋も女神の傍から離れていた。

儀式は無事に終わったと見ていいみたいだね。


少女の姿をしたオデムが、不機嫌そうに女神の前で顔を見上げていた。

 「マスター? 大丈夫?

 誰かマスターのこと虐めたの?

 オデムがギッタギタにしてくる!」


女神の顔は瞳が潤み、瞼が少し腫れているようだ。

さっきの様子からして泣いていたのは間違いないな。


 「フフ、心配しないで下さい、オデム。

 泣いていたのは嬉しいことがあったからです。

 そして、麻衣様のおかげで・・・目的を果たすことができました。

 オデムも、ラプラスさんも布袋さんもありがとう・・・。」


結局、これは一体何の儀式だったのだろうか?

あの深淵の黒珠を介して、元の世界を覗き見るためのものだったのだろうか?

そこには彼女の愛する男性がいるから?

残してきたその男を、もう一度瞼に焼き付けておきたかったとでも言うのだろうか?

しかしだとしたら・・・時間の流れはどうなっている?

女神が死んだ直後か、

この世界で経過した時間通りか、

それとも長い時間が過ぎ去った後だろうか・・・。

一応、聞けることは聞いておこう。

 「女神さま、これで全て終了なのですか?」

 「はい・・・もう思い残すことはございません・・・。」


・・・なんか物騒な表現だな、

本当に大丈夫か?


 「元の世界の想い人に・・・会えたのですか?

 まさか会話とかも?」


あ、女神が恥ずかしそうに瞼を閉じてしまった。

今の質問はデリカシーに欠いていたようだ。


 「あ、す、すみません、答えづらそうなら無理には。

 ただ、これだけは・・・

 女神さまが覗いた世界は・・・

 女神さまの元の世界ということでよろしいのですか?」


 「はい、そうですね、

 それは間違いありません。

 カラドック様の世界でも麻衣様の世界でもないのでしょう。」


それ以上は教えてくれなさそうな雰囲気だな。

・・・ではやはり、この女神からは私の知りたいことはこれ以上何もない。

しかし、さっきのメリーさんの話はどうしても気になる。

400年後の未来の話だ。

未来の危機は無事に回避される・・・

そのこと自体は安心していいのだろう。

だが400年後に稼働している人工知能だとか軍事施設とかはなんだ?


私が死んでその後に、かつての文明と同じ規模の科学技術を取り戻すと言うなら、それは私にとっても喜ばしい事だ。

私の存命中にそれが成し遂げられるとはどうしても思えないしね。

ただ、さっきの言い回しでは「天使たちが」・・・とは?

どう考えても、それはアスラ王と父上の二人が関わっていると解釈せざるを得ない。


「残した」とメリーさんは言った。

「復活させた」とは言っていない。

生きているか死んでいるかも分からない二人が・・・

空の彼方からやって来る得体の知れないものを防げるだけの設備を「残した」というのか?


どうやったら話が繋がる?

アスラ王の和平への呼びかけを全て拒絶した父シリス・・・。

天使(父上)の目的は地上の「魔」を監視する事・・・

天使は人間の歴史に干渉してはならない・・・

以上の話はこのカラドックが直接父上から見聞きしたもの・・・。


アスラ王が作った国・・・父上がスーサを完膚なきまでに地上から消し去ったのは・・・

ある意味「人間の歴史に干渉してはならない」というアスラ王のルール違反を、父上が制裁するために行ったとでも言うのだろうか?

天使が自らの力で国を興すことなどもっての外だと。


では「魔」とはなんだ?

さっきの天空からの災厄のことか?

いや、父上が言ったのは「地上の魔」だ。

それが天空からやってくるというのでは話の整合性が取れない。

しかも父上に「未来を予知する力」はないという。

アスラ王も同様・・・だよな?

彼はこの私など及びもつかない超絶的サイキック能力の持ち主ではあったが、

更にその上に予知能力まで持っていたら、父上だとて手が出せない筈である。


・・・ではどうやって400年後にやってくる災厄を知り得ることができたのか?

それともただの偶然、軍事施設がその時代に残っていて、たまたま天空からの災厄とやらを何とかすることが出来てラッキーという話だったとでも?

いくらなんでもそれは考えにくい。


そしてこれが私が納得できない最大の理由だ。

どうして全てを・・・国家すら私に引き継いでくれたにも関わらず、

それだけの大事な話を父は私にしてくれていなかったのか?



・・・いや、もしかしたら・・・

今まさに、父上自身がその活動を行っている最中なのか?

誰の目にも触れさせない必要があるのだろうか?

だから父上は私たちの前から姿を消した!?

現在進行中の話なら仕方ないけど・・・

完成したら私の元に報告に来ていただけるのだろうか?

ならば・・・今はそれでいいと考えるべきなのか。


・・・あともう一つ引っ掛かっていることがある。

さっき麻衣さんは、「あの人の中に眠る神様の力」という表現をした。

あの人というのは、麻衣さんの世界のアスラ王のことだろう。

つまり、アスラ王の中に眠る神様の力と言い換えていい筈だ。

私の知るアスラ王は人間のままだった・・・。

少なくとも父上は私にそう説明した。

ここで思い出すのは黄金宮殿にて魔人ベアトリチェが言ったこと。


 『もう一つの私の前世で、ルードヴィッヒ様はアーサー様とミィナ様をあの方の生贄になさるおつもりでしたのに、

 あの方は最後の最後でお二人の命を奪いませんでしたわ!!

 完全に覚醒されていたにも関わらず!!

 もうあの方のお姿は人間のものに思えませんでしたのに、きっと人の心が残っていたんですわ!?』


・・・ベアトリチェは私の世界の人間だが、

更にもう一つの世界の記憶を持っていた・・・。

そこではアスラ王が天使として復活したような話をしてたはずだ。


麻衣さんの話はあくまでも天叢雲剣に残っていた映像から・・・

いや、それだけならそんな話にならない。

彼女もある程度理解している。


すなわち、アスラ王は明確に「復活する」「復活しない」前後の姿がある。

それは父上も同様だ。

だから私もそこまでは理解できる。

では、

その復活前後で何が違う?


父上のように「天使として眠っていた能力」が発現する?

「天使として」?


麻衣さんは「神様の」と言ったぞ?


麻衣さんがアスラ王側の存在であることは今のところ問題ではない。

「天使」と「神」。


ここだ。


キリスト教の世界観なら

この両者は同一ではない。

明確に大きな差がある。

しかし多神教の世界を知ってしまうと話が変わる。

世界には様々な神々があり、天使はその内の一人だ。


そしてもちろん、父上本人がそれを語る時、

それは地上の宗教観とは著しく異にする。


小さな意味で言えば天使とは「天から遣わされたもの」

大きな意味で言えば天使とは「人間以上の高次元の生命体」


前者に該当するのは父上だけ。

後者の場合は父上とアスラ王二人となる。


麻衣さんの言った「神様」というのは当然後者だ。


気になるというのはここにある。



じゃあ、麻衣さんの言う「人間以上の高次元の生命体」とは何だという話だ。

父上が監視せねばならないと常々言っていた「地上の魔」?

いや違う。

父上の話ではアスラ王は、父上の監視対象である「魔」ではないらしい。

もっとも、当時のアスラ王は人間のままだったから、「その時点」では「魔」でもなんでもないという解釈はできるかもしれない。

できるか?

・・・無理がある気がする。

その解釈で良ければ、人間のアスラ王が国を作ったっていい筈だし。

余計に訳が分からない。



復活後のアスラ王を見たというベアトリチェから、もうその話を聞くことは不可能だ。

以前、この世界に飛ばされてきた時に、私自身で天使の定義をマルゴット女王にしたはずなのだが、

それ以上、突っ込まれなかったこともあってか、自分でその先を考えようとしていなかった。


・・・しょうがないじゃないか、

父上とアスラ王の対立は、もう私の中では終わっていた話だったのだから。


いくら賢王と呼ばれていようが、毎日毎日いろんな案件やら決裁書類やらが私の机の上に詰み上がっていくんだ。

余計なことを考えている暇すらない。

ラヴィニヤとウェールズだけが私の心の癒し。



わかっている、わかっているとも。

もう、これ以上は考えるだけで時間の無駄だ。

女神が元の世界にいた話も、時系列的に言えば、まだアスラ王は復活前の話だろう。

恥ずかしがってるみたいだし、女神からもこれ以上は情報は取れまい。


後は聞くとしたら、メリーさんと麻衣さんだけだろうけど、

・・・メリーさんからは難しいだろうなぁ・・・。

麻衣さんは一般女子校生アピールしてるし。

仕方ないか・・・。



もはやここで出来るのは、後はお片付けと、深淵の黒珠の回収だけかと思っていたのだけど、

少し予定外の事が起きる。

どうやら女神からお礼のイベントが用意されていたらしい。


 「ダークエルフのアガサ様、

 どうぞ、このまま深淵の黒珠をお引き取り下さい・・・。

 長い事申し訳ありませんでした・・・。」


女神の言葉に、待ちかねたぞ! と言わんばかりにアガサが胸を揺らして立ち上がる。

 「あっ、麻衣の巾着袋は利用可能?」

 「あ、だいじょぶです! 使ってください!!」


麻衣さんの腰元の巾着袋だね、

あれは亜空間に繋がっているらしいから、外から攻撃を受けても中身は無事らしい。

ほんとうにどういう仕組みなんだ・・・。


そして、予定外の話とはこの後に・・・。



 

「恥ずかしがってるみたいだし、女神からはこれ以上話を聞くことはできまい。」


麻衣

「カラドックさん、惜しい!

もう少し女の子の心を理解していれば!」

メリー

「恥ずかしいのと、のろけたいのとで葛藤してたみたいね」


アフロディーテ

「あ、あのどうかその辺で・・・」





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