第三百五十八話 ぼっち妖魔はご主人様を信頼する(後書き画像有り)
ぶっくま、ありがとうございます!
あ、画像って後書きにも貼れたんだ・・・?
本文だけかと思ってた。
<視点 麻衣麻衣>
あたしは後ろを振り返る。
「皆さん!
ここから先は女神さまのプライベートタイムです!
誰も邪魔したり入ってこないでくださいね!!」
あたしに出来ることは少ないんだけどね。
とはいえ、女神さまを守るべきラプラスさん達には受け入れがたいお話のようだ。
「あ、そ、それは、麻衣様?
我々はマスターの眷属なのでマスターの傍に・・・」
「いえ、ラプラスさん、麻衣様の言う通りに願います・・・。」
「は、ははっ!!」
女神さまもあたしのやることに納得してくれたようだ。
ラプラスさん達の立場も分かるけど、内容が内容だけにね。
あたしのやることはもう決まった。
お仕事をするだけである。
別に誰かに感情移入することもない。
まずは虚術士の出番!
「ダークネス!!」
真っ暗になるよ!
「そしてサイレンス!!」
はい、しーん!
そういや静寂って書いて「しじま」って読むんだね。
初めて知ったよ。
ええ、ええ、どうせ偏差値50そこそこですとも。
さて、これからだけど、
あたしは何も見ない、何も聞かない。
みんなからも女神さまのことは見えなくなる。
ただこの場に結界空間を作り、女神さまの望みを叶えるだけ。
それが、
女神さまにとって本当に幸せな夢を見れるかどうかはわからない。
「闇の巫女」の仕事はここまでだ。
「さぁ、女神さま!」
「・・・わかりました。
麻衣様、ありがとうございます・・・。」
声は聞こえないんだけどね、
お互いの感知能力である程度は通じ合う。
あとは流れでどうにかなるだろう。
もう目視はできないけど、深淵の黒珠の位置はばっちりだ。
その上に手を乗せると・・・
おっ?
うわあああ、こ、これが闇の魔力?
なるほど、親和性っていうべきか、あたしの波長となじむ。
なんか、これ・・・うまく使いまわしたらあたしの能力でいろんなことができるかも!
なんていうか、水を飲んだら、その水が一気に全身までしみわたってゆくような・・・。
そしてその直後、あたしの真上にとんでもない魔力の塊が浮かぶ。
女神さまの魔力だ!
おっ、大きい!
そしてめっちゃ濃い!!
こっ、こここここれをどうしろと!!
あっこの魔力を深淵の黒珠に!?
でも、性質が・・・あ、あたしがやるんですね?
出来るのかな?
先ずは少しずつ・・・
あたしは左手を深淵の黒珠に乗せたまま、右手をゆっくりと女神さまの魔力塊にかざす。
いきなりは無理だから、少しずつ女神さまの魔力をとりこんで・・・闇の波動に変換・・・
あたしの体を通して黒珠に注ぎ入れる・・・。
これ、この技術・・・
他にも応用できるかと思ったけど、余程の条件重ならないと無理だからね?
まず、自分の魔力を外部展開してそこに留めるってのが無理ゲー。
直接相手に接触しながらなら、
いわゆ魔力譲渡のようなことはできるかもしれない。
ただその場合でも相手の魔力との親和性がないと不可能だ。
A型の血液の人にB型の血を輸血してもそこには実害しかない。
だからあたしとしてもこれは危険な技。
女神さまの魔力をあたし自身が吸い取ってはならない。
あくまであたしのカラダは魔力の通り道、
そしてその間に女神さまの魔力を闇属性に変換して深淵の黒珠に注ぎ入れる・・・。
いけるのか・・・。
少しずつ、少しずつ・・・もっといけるか・・・。
あ、これ・・・もしかするとカラドックさんやマルゴット女王のやっている精霊術に近い技術じゃないのだろうか?
あの人たちは、自分たちの周りにある精霊・・・もっとも「精霊」という概念はこちらの異世界のみの話、
あたしたちの世界で言うと「場」という概念がしっくりくる。
一度カラドックさんに聞いたのだけど、
例えば自分が草原にいたとして、
その草原には「風」のエネルギー、「水」のエネルギー、「火」のエネルギー、「土」のエネルギーが混在して漂っていて・・・、
もちろんそれはそんな単純に分類できるものではないそうなのだけど、
それらを取り込み、分析、同調、そしてそれを自分が起こしたい事象にするために、体内でエネルギーを調節して、場に送り返す・・・。
それを継続的に繰り返すことで術を駆動するという。
ただし、例えば「水」気の全くない砂漠で雨を降らすことは出来ないし、
「火」の気のない地下洞窟で火を巻き起こすことも出来ない。
カラドックさんの体を触媒にして、場のエネルギーを自らの望む属性に増幅させてるというべきか。
じゃあ、今あたしがやってる作業をカラドックさんが出来るかというと、
あの人に「闇」属性魔法の適性がないところをみると無理なのだろう。
女神さまの魔力塊を受け入れる事が出来てもそこで手詰まりとなるはずだ。
あっ、
そんな事を考えているうちに状況に変化が?
これは・・・肉眼でなく・・・感覚で黒珠の中に、奥底の方から光が射してくるようなイメージが湧く。
まるで日の出に合わせて部屋の雨戸開けたかのように・・・。
「あ・・・あああああ」
光が強くなる。
「窓」は全開だ。
でもあたしにはその「外」の光景は視えない。
光が強すぎるのだ。
「あたし」では視ることも出来ない。
けれど・・・あたしよりも強い魂を持つ女神さまなら・・・
「視えます!
扉が開きました!!
この世界は・・・私が生きていた時のあの世界!!」
女神さまから驚愕と歓喜の感情が伝わってくる。
成功したのだろうか?
どういう現象なのだろう?
変換された女神さまの魔力を通じて、元の世界と回線がつながったってイメージなのだろうか。
うわ!
女神さまの意識がカラダから飛び出た!?
幽体離脱?
そして女神さまの意識は、まっすぐ深淵の黒珠に吸い込まれるように沈んでいく・・・。
「どこに・・・あの方はどこに!!」
あたしには、世界樹から解き放たれた女神さまが、
まるで海の中を泳ぐかのように、
さもなくばお空を飛びまわるかのように、大事なものを求めて舞い踊る姿が頭の中に浮かび上がる。
「見つからない、見つからない、
あの人はどこにいるの!?」
探し人は分かっている。
あのお兄さんを探してるのだろう。
女神さまの焦燥の念だろうか。
もしかしたら時間の制約があるのかもしれない。
いや、時間というか残存魔力の問題か。
この儀式に使う魔力コストは女神さまの膨大な魔力を以てしてもギリギリなのだろう。
そもそも今やってる術はどういったものなのか。
あたしの遠隔透視の次元超越バージョンなのだろうか。
だとしたら・・・
「どうして!
どうして見つけられないの!?
私にはもう会うことも出来ないの!?」
悲しみと絶望の感情が湧きあがってくる。
もし・・・もしあのお兄さんが本当にあたし達リーリトの主で、
そして本気で女神さまに会うつもりがなければ、
何をどうしたところで女神さまが見つける事などできないだろう。
もちろんあたしが何をしても無駄である。
あの人にその気がなければ。
・・・でも、
そんな人じゃないよね?
あたしが直接会ったのは一度きり・・・。
優しくて、ちょっとおまぬけな感じの・・・一緒にいて安心できる・・・
「これは・・・麻衣様の記憶?
ああ、ええ、間違いなくあの方です!!
そう、そうです!!
あの方は優しくて・・・ちょっとおっちょこちょいで・・・」
そしてどんな辛い目に遭っても・・・
前を向いて・・・
「ええ! ええ!!
わかりますわ! だからこそ私が!
傷ついたあの人の傍で支えて差し上げたいのです!!
・・・どうかっ!」
「あ・・・」
あれ?
女神さまの反応が消えたっ!?
えっ、どういうこと?
まさか、魂が飛んで消えちゃったりなんてことは・・・!?
ポトッ
!?
冷たっ・・・くない?
むしろ温かい?
ポトッ・・・ポトッ
深淵の黒珠の上に置いていた手の甲に、暖かい液体がしたたり落ちる。
血!?
まさか術を使い過ぎて脳にダメージが・・・。
あ、違う。
これは・・・血液じゃないね・・・。
いつの間にか、意識が戻ってきていたようだ。
サイレンスをかけていて良かったのかもしれない。
余りの衝撃で、一瞬感情を読み取れなくなってしまっていただけのようだ。
そういうこともあるのだろう。
・・・涙。
すぐに女神さまの反応は復活した。
ていうか、むしろまたもや感情の津波にあたしが押し流されそうだよ、
見つけたんだね、あのお兄さんを。
意志の疎通はできたのだろうか?
相手に感知能力がなければ、実体を持たない女神さまが、どんなアクションを起こしたって何の反応も得られない。
その場合だと、女神さまに出来る事はあのお兄さんの姿を眺めていることだけだ。
もちろん、それだけで女神さまが満足するならそれでもいい。
でもここまで舞台を作っておいて、それだけだなんてあまりにも寂しいと思う。
逆に、女神さまが思念体を作れるのならば、
思念体で人の形を成して、相手に自分が誰かを認識させることが可能かもしれない。
自分が生きていた時と同様の、美しい姿を。
それならお互いの笑顔を見れるはずだ。
あのお兄さんは、
涙と笑顔でわけわからないほどぐちゃぐちゃの顔になってる女神さまを優しく包んであげることが出来たのだろうか?
あたしのご主人様・・・
信じてますよ?
異世界にまで飛ばされて、こき使われて可哀相な麻衣ちゃんのささやかな期待を裏切らないでくださいね?
「ふぇええええぇぇぇぇぇぇんっ!」
・・・て、声が聞こえてきそうなほどあたしの手、びしょ濡れなんですけど!!