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第三百五十五話 女神の罪

あけましておめでとうございます。

<視点 ケイジのまま>


 「・・・ただ、ある時そこに一人の青年が現れました。」


おっ? これは事態が好転か?

 「彼は黒十字軍と戦っており、世界各地を黒十字軍から解放するために旅をしていたのです。」


あ、本題の男だな。

ん? そいつは黒十字軍に属する男ではなく、黒十字軍の敵だったのか?

オレらの元の世界のアスラ王は黒十字軍の親玉なんだが、世界が異なると立場が変わるのか、

それとも、この話の後に軍を乗っ取るのだろうか。



 「その青年は・・・戦い慣れていて、とても強く、

 前任の領主をあっという間にぶちのめしてくれました。

 瞬殺です。

 みっともなく這いつくばりながら、私の足に縋りつこうとしていた前任者を、彼はけちょんけちょんのボコボコにしてくれたのです!」


けちょんけちょんて表現使う人初めて見た気がする。

いや、話に集中しよう。


 「そして私が思ったのは・・・

 ああ、私はこの後、この人にベッドに押し倒されて、衣服を剥がされてしまうのだろうな・・・と。

 あれ? でも、若いし顔もそこそこ、カラダも鋼のような鍛え抜かれた筋肉・・・、

 どちらかというと好みで・・・

 今回は当たりじゃないのかな、えへへと思わずにはいられませんでしたが、

 逆に・・・そんな人もまた、

 彼より強い男が現れれば、結局は彼もいつか殺されてしまうのです。

 そう、思ったら・・・彼に情を寄せてはいけないんだと自分に言い聞かせて・・・。」



・・・いま、途中、女神の顔が蕩けたな・・・。

きっと白馬の王子様にでも見えたんだろう。

くそっ、滅茶苦茶ヒーローしてんじゃねーかよ!


 「しかもその方は、私の置かれた状況を理解すると、

 私にそんな下賤なマネは一切しないと、

 とても優しく、

 とても大事に・・・とても大切に扱ってくださいました。

 共にする食事の時は、無表情な私を笑わせようと、おもしろおかしい話をしてくれて・・・

 新しく領主となったあの方と、とても平穏で楽しい日々を過ごさせていただきました。」


ああ、いい話だなー、うん。

・・・あれ?

何か変だな。

それはカラドックも気づいたようだ。


 「え、と、お話し中にすみませんが・・・その心優しき男性が、

 アスラ王なのですよね?

 彼は戦いの旅の途中だったのでは・・・。」


まさか女をあてがわれて、黒十字軍に取り込まれたってことなのだろうか?

その方がその後の説明もつく。

だとしたら幻滅だな、アスラ王。


 「はい、その通りです。

 ですから・・・私は罠だったんですよ。」


ん? 餌でなく罠?

いや大して違いないか?


 「罠?」


 「あの方は私が囚われている都市に誘導されていました。

 もちろん、私が囚われている事など知りません。

 あの方にして見れば、その都市は彼が陥落すべき攻撃対象の一つだったのです。

 そして彼は前任の領主を倒し、それを見事成し遂げます。

 ・・・そこには記憶をなくした私が捉えられたままです。

 心優しきあの方は、私を保護しようとしたのでしょう。

 身寄りもなく、記憶もない、行き場がどこにもない哀れな私を見て・・・。

 目の前から敵がいなくなり、気を抜いた先に、

 そして・・・

 あの方までもが記憶を失ってしまうのです。

 害意も邪心も全くない私から差し出された・・・忘却の泉の水を飲んで。」



えっ?

それって・・・どういうことになるんだ?


 「あの方は旅を続けながら黒十字軍と戦っていました。

 お一人ではありません。

 とても・・・とても可愛らしい、太陽のような笑顔を振りまくミィナさんという女性と一緒でした。

 彼女もそこそこ戦える戦士だったのですが、その・・・都市の領主と戦えるのはたった一人だけ。

 戦いに勝利し、全ての儀式が終わった時には、

 あの方は、一緒に旅してきたミィナさんの事を完全に忘れてしまったのです。」


うえ!

それは・・・え、待てよ?

話の流れからすると、そのミィナって人がアスラ王の・・・本当の恋人で・・・

別世界だとしてもリナがアスラ王の孫娘で・・・

てことはアスラ王とミィナって人の間に子供が・・・

それは朱武さんと梨香おばさんでいいんだよな?

リナは朱武さんの娘だし。

オレ何言ってんだ!?

なんかこんがらがってきた!?


 「私と、記憶を失ってしまったあの方は、しばらく同じ館で一緒に暮らしました。

 その後も定期的に、領主の座と私を手に入れようと、何人もの挑戦者がやってきました。

 その間、あの方は誰の挑戦を受けても全て圧勝でした。

 いつの間にか、私もあの方より強い人はいないと思い始め、

 次第に自分の心がコントロールできなくなっていったのです。」


 「そ、それはつ、つまり・・・その人を異性として意識し始めたってこと・・・?」


リィナが若干嬉しそう、ってか楽しそうだ。

他人の恋バナが好きなんだろう。

それに自分の祖父かもしれない男が、絶世の美女に惚れられているという構図は気分がいいのかもしれない。


 「え・・・ええ、

 あの方はいつも私のことを気にかけてくださいましたし、

 何より、一緒にいてとても楽しかった・・・。

 心が安らぎました・・・。

 もうずっと、あの街で、あのまま暮らし続けるのもいいんじゃないかって・・・。」


ここからはまたカラドックに任せる。

 「女神様、先程、罠と仰いましたよね?

 それはその男を記憶喪失にして・・・貴女を使って骨抜きにすることが・・・黒十字軍の罠だと?」


 「・・・たぶん、それがすぐに思いつくことだとは思います。

 実際、あの方は仲間の元へ急がなくてはならない筈なのに、

 半年以上も足止めを食うことになったのですから。」


 「違うのですか?」


 「・・・目的は・・・もっと残酷なことだったのかと、今は思っています。

 足止めはついでの罠だったのもしれません。」


 「残酷なこと?」


また幾分女神が話しづらそうな表情になる。

さっきのような恥ずかしいというより、後ろめたいことでもあるかのようだ。


 「・・・あの方は、その天叢雲剣を振るうことが示すように、

 人並外れた強い精神力を持っています。

 それこそ私達の一族に匹敵するような強い力です。

 それはどういうことかと言いますと・・・

 私にも言えることなのですが・・・『忘却の泉』にも耐性がついてくるのですよ。

 すなわち記憶が復活し始める。」


え・・・それって・・・。


 「そしてその頃には・・・もう、

 私たちは互いに離れられない関係となっていたのです。」


女神の頬が赤い・・・。

男女の仲になったってことなのか。


 「あの方も・・・私も記憶を全て思い出しました。

 あの方には仲間が待っている。

 すぐにでも戦いに向かわねばならない。

 ですがもう、私には彼を手放す事は出来ない話でした。

 私も彼についていくだけだったなら、何とか互いに妥協出来たかもしれません。

 ただ・・・ミィナさんのことだけは・・・

 あの二人の再会を喜び合う顔を見ることすら、私には我慢する事が出来なかったのです。

 まだ・・・あの時点で、お二人は恋人同士にはなっていなかったのですが、時間の問題だと思いました。

 ましてや、私は愛と美の女神、

 自らの正体と能力を思い出した私が、お二人の気持ちに気づかぬ筈もありません。

 そこで私は・・・卑しくも浅ましい事に・・・

 先にミィナさんを見つけた偶然を利用して・・・

 彼女に嘘を教えたのです。」


 「嘘・・・ですか?」

 「はい、もうあの方は・・・仲間のもとへ先に行ってしまった、と。

 私を置いて行ってしまった。

 今から追いかければ追いつけるかもしれない。

 ・・・そう、彼女に嘘をついたのです。

 当時ミィナさんは流行性の感冒か何か、高熱を発し具合が悪そうでした。

 その状態で、たった一人砂漠へと向かったのです。

 嘘をついた私に対し、満面の笑みで『あ、ありがとう! 助かったよ!!』と。

 彼女はそう言ったのです。

 私を何ら疑うこともなく。

 ・・・はっきり言って自殺行為でした。

 でも私は止めませんでした。

 ミィナさんさえいなくなれば・・・あの方は私のもの。

 そう・・・思ってしまったのです。

 そしてミィナさんは荒い呼吸をしたまま、顔が赤いまま、彼を追いかけて旅立っていったのです。

 その彼は・・・私たちの上の部屋で眠っているだけだったのに。」


熱を出した女が一人で砂漠へって・・・

しかも治安も何もないところだろ?

それは・・・


 「やがて・・・破滅の時が来ました。

 私の罪を清算すべき時がやって来たのです。

 つまらないことが原因で、あの方に・・・全てバレてしまったのです。

 あの方は追いすがる私を振りほどいてミィナさんの元へ向かおうとしました。

 やめて! 行かないで!! 私を一人ぼっちにしないでください!!

 私の能力も全て使いました。

 哀れな女を演じました。

 自らの肉体を全て道具としました。

 どんなことをしてでもあの方を繋ぎ止めたかった・・・。

 他の女性にあの方を奪われるくらいならいっそ・・・!」



 「あの方にも・・・私を説得する手段はなかったのでしょう、

 私にあの方を引き留める力がなかったのと同じように・・・。

 結果は・・・

 死ぬつもりも死なせるつもりもなかったと思いますが、

 私がやぶれかぶれで取り出した短剣は・・・

 互いに揉み合ったまま・・・

 やがてその短剣は・・・私の胸に吸い込まれていきました。

 それが手元が狂っただけだったのか、あの方が私を見限っただけなのか、

 今となってはどうでもいいのですが・・・


 そして・・・気が付いたら、この世界樹に囚われていたというお話なのですよ。」




 「・・・これで私の罪の告白は終わりです。」



オデム

「メリーさん、どうしたの、お腹押さえて?」


メリーさん

「いえ・・・どこかで聞いたような話だなって・・・。」

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