第三百五十一話 アフロディーテとの邂逅
すいません、長めです。
<視点 ケイジ>
世界樹!?
ラプラスは世界樹と言ったのか!?
この位置からでもはっきりとわかる巨大なシルエット。
この世界で多くの言い伝えにある、人々の魂の帰る先・・・。
もちろん、その伝承が正しいものかどうかオレには何の確証も持てないが、
世界樹なんてものが現実に実在していたなんて・・・。
ラプラスの説明は続いていた。
「とはいえ、上空からでは我らがマスターの元には辿り着けませんので、
近場に降りてから徒歩で向かうことになります。」
「こっ、これは・・・もしかするとタバサちゃん、ハイエルフ初の世界樹目撃者!?
森都ビスタールの神官長どころか、全てのエルフの頂点となる女教皇への野望も現実味が増大!!」
そんな野望も持っていたのかよ。
思わずオレの口がニヤリと開いてしまう。
「タバサ、その時はオレとリィナのビスタール宿泊フリーパスの便宜を図ってくれ。
末永くな。」
真面目に考えたら、オレたち獣人への偏見解消への協力、
もっと俗っぽく考えるなら・・・、
・・・ま、今の話のような便利な友人が増えるに越したことはない。
アガサやタバサは邪龍討伐後、オレたちと別れることになるだろう。
その後、オレとリィナで冒険者稼業をどこまで頑張れるか分からないが、
この関係をなくしたくはない。
そんなことを考えてたらタバサに腕を組まれた。
「当然、その時はアガサも呼んで朝までパーティ、
なんなら私の寝室でも大歓迎!!」
太ももはこすりつけなくていいんだからな、タバサ。
ああ、でも楽しそうだな。
まぁいくらなんでも教皇の自室で騒ぐのは無理だろうけど。
ん?
・・・カラドック、
お前、いまわざと一歩後ろに下がったな・・・。
その意味は分かるぞ。
余計な気遣いしやがって。
だがその通りだよな、
お前は元の世界に帰らなければならないんだ・・・。
せめて前に言っていた「心のわだかまり」だけはちゃんと解消してから戻れよな・・・。
ラプラスが段々と長馬車の高度を下げてゆく。
それに伴い、周りの森の中へ、自分たちが沈み込んでゆくような錯覚に陥りそうだ。
辺りに人が歩く道のようなものは全くない。
いつの間にか、周辺の樹々の高さもあって、世界樹とやらも見えなくなっていた。
これは徒歩で近づいても、余程のことがないと世界樹を見つけることは叶わないだろう。
やがて長馬車はゆっくりと速度も落としていき、
最後には完全に地表5メートルくらいの位置に静止していた・・・。
眼下には岩だらけの広場のような空間がある。
そこが目的地という訳か。
「皆さま、長旅お疲れさまでした、
え、世界樹洞、世界樹洞に到着、お忘れ物ないようにお願いいたします~。」
「・・・ラプラスさん、車掌さんじゃないんだから・・・。」
麻衣さんが小さな声でつぶやいた。
あれか、車掌って世界の大破局前にあった電車ってやつのか?
オレも赤ん坊のころ乗ったことはあるらしいが、覚えてないんだよな、さすがに。
ラプラスは世界樹洞と言っていたか、
なるほど、すぐにそれらしき洞窟を見つけた。
「あの中に君らのマスターが?」
「はい、カラドック様、ご案内いたします。」
ラプラスはいつも通り、仰々しい挨拶でカラダを折り曲げる。
周りに脅威もなさそうだ。
魔族ヨルも辺りを警戒している。
麻衣さんは・・・麻衣さんも危険は感じていないみたいだが・・・。
「危機感は感じませんけど、ここからでも凄い魔力を感じますよ・・・。
まさか・・・ここまでとは。」
「そんな凄いのか?」
「たぶんですけど、魔人ベアトリチェさんよりも更に強大です・・・。」
マジか。
それならよっぽど邪龍討伐に協力を・・・
あ、この場所から動けないと言っていたか。
それなら仕方ないか・・・。
洞窟の入り口は結構広かった。
これがダンジョンとかだと、オークの集団とか警戒するところだ。
中は真っ暗闇だろうと思っていたら、ラプラスは懐中電灯のようなものを用意していた。
ん? 懐中電灯?
ランプ・・・じゃないよな?
あれ、懐中電灯だよな?
「はは、これですか?
動力は乾電池じゃないですよ?
魔道具の一種ですが、原理はマスターの世界のものを参考にしています。
この世界にも竹がありますからね、
フィラメントや配線まではこの世界のもので作れます。」
いや、オレに乾電池って言っても分からないから。
知ってるけど。
電球のフィラメントって竹から作れるのか、
後ろで麻衣さんが「あ~」とか感心しているな。
竹に心当たりあるそうだ。
しかし、これはこいつらとも仲良くしていた方がいいかな?
絶対に一儲けできると思う。
でも、ラプラスは既に犯罪者として手配されてるからなぁ。
ラプラスが足元を照らしてくれているからと言って、躓いたりしないかは注意が必要だ。
もっとも、天然の洞窟なら歩きにくい地形もあるかと思ったのだが、
実際は意外となだらかだった。
地下水が地面を削っていったのだろうか?
いや、なんか人工的と思うほど真っ平だな。
「あ、道は布袋さんが土魔法で整地してますのでデコボコはないと思いますが、
一応気を付けて歩いてくださいね?
オデムの食い散らかしとか残ってるかもしれないので。」
そういえば土魔法のスペシャリストがいるんだっけか。
オデムって・・・あれだよな、
オレの姿に化けてた真っ赤な瞳の・・・スライムだってか?
こないだ、初めて知ったよ。
食い散らかしって、何喰ってんだよ?
そのうち、視界に小さな光が飛び込んでくるようになった。
最初、オレのイーグルアイでも詳細は掴めなかったが、
間近で見てようやく何が光っていたのか理解できるようになった。
鉱石、か。
それも光の反射率がかなりいい。
もしかして宝石の原石か何かか?
女性陣の反応もいいようだな。
「ふわぁ、・・・これなんでしょうねぇ?
鑑定・・・あ、これがアメジストの原石かぁ!
こっちは!? トパーズ!!
ふぉぉぉお! ガーネット!!
なんですか、ここ!
宝石だらけじゃないですかああああ!!」
麻衣さんも興奮してるな、
リィナやヨルもつられて反応がいい。
「マスターの用事が済んだ後なら、多少持ってってもらっても構いませんよ?
たまに魔石も混じってますが、取扱いに注意してくださいね。」
気前がいいぞ、ラプラス。
それにしても、魔石ってこんなところから取れるもんなのか!?
その内、洞窟内は更に明るくなる。
カラフルで半透明な鉱石の煌めきだけではない。
奥の方に明らかな光源があるのだ。
二つの人影が見える・・・。
一つは人間というよりオークかオーガかとでも言わんばかりの巨体の・・・
そしてもう一体は子供か少女かとでも言うような・・・
先を言わないまでもわかるだろう、
マスターを守護する残り二人の「バブル三世」・・・。
布袋とオデムだ。
洞窟を通路とするならその通路の両側にランプの炎がある。
魔道具というよりは普通によく見かける市販のランプだと思う。
そしてその明かりに照らされた大男の声・・・。
「み、みなさま、ようこそ、
マ、マスターがお待ちです。」
相変わらず背中に大きな白い包みをぶら下げてやがる、
柔和な表情を湛えた布袋、
そして・・・
「あーっ! 狼のお兄ちゃんだあーっ!!」
ツインテールの金髪少女がダッシュしてオレの胸元に飛び込んでくる!
イゾルテの時のように肉体的ダメージはないものの、
いろんな意味で精神的に来る。
オレの両腕は、彼女がこれ以上、無茶な行動を取らないようにホールドさせるしかない。
だって、無理やり引き離すのも良心が咎めるというか・・・
見た目が完全に女の子だからな・・・
頭の中ではスライムだとわかっているんだが・・・。
リィナの視線がチクチク痛い。
彼女もこの少女の姿をした物体がスライムだと聞かされている筈なんだが・・・。
「あら、オデム?
その人はこないだの追い剥ぎの人みたいに溶かして食べちゃ駄目よ?」
「えーっ? 狼のお兄ちゃんは食べないよー、メリーさん。」
ぞっ・・・!?
背中の体毛が一瞬にして逆立つ。
何物騒な会話してんだ、オデムとメリーさん!
オデムも口をとんがらせて口調と態度だけはそこら辺の我儘な女の子みたいだ。
完全に人間の女の子に擬態してやがる!!
スライムスライム・・・この子はスライム・・・。
ラプラスはオデムをほったらかしにして、布袋と業務連絡か。
ちょっとこの子を何とかしてください。
「布袋さん、マスターの方は何か変わったことはございませんでしたかな?」
「あ、え、えと、この世界の神様たちが、ほ、訪問してきたくらい?」
「・・・はい?」
おい待て、今何かとんでもないこと言ってた気がするぞ?
この世界の神様!?
「あ、よ、用件は挨拶と、じゃ邪龍を倒して欲しいってことくらいです。
く、詳しくはマスターから・・・。」
「・・・そうですね、先に本来の目的を果たしましょうか、
どうぞ、皆さま、こちらになります。」
この三人の調子が、今一つシリアスになりきれないので、こちらも気が削がれるが、
一応油断するべきじゃないだろう。
こいつらに敵意はなさそうだが、マスターとやらが魔人よりも強大な魔力を持つ存在なら、
どんな無理難題をひっ被せられるかどうかもわからない。
ん?
一瞬後ろを振り返った時、麻衣さんがジト目で布袋を睨んでいた・・・。
「・・・あっ、お、こ、こないだはプリンご馳走様・・・?」
「・・・。」
あれ? いつもにこやかな麻衣さんが機嫌悪そうだな、
布袋と何かあったのか?
布袋も戸惑ってる。
「・・・布袋さんなら・・・、
キリオブールの街で、あたしが呼んだの気づけたはずですよね?」
「・・・あ!?
そっ、それはっごごめんよっ!
あの時も言ったけどっ! ぼ、僕らは君たちの戦いに関与しちゃ駄目だって言われてて・・・!」
「だとしても、ガン無視しなくてもいいですよね?
吸血鬼相手に何度も死にかけたんですよ?」
「うっ、あ、ご、ごめんなさい・・・。」
あ、これマジで怒ってる。
そういえば、麻衣さん、妖魔種最高ランクの吸血鬼を倒したって言ってたな。
空気読んで本人の目の前では言えないけど、その時の戦い見てみたい・・・。
「・・・まぁ、一回言っとかないと納まりが付かなかっただけなんで、もういいですけど。」
そのまま麻衣さんは、フンとばかりに視線を切って、前に歩き始めた。
もう話しかけても大丈夫かな?
「さっ、さぁ、皆さま、
どうぞ、我らがマスターはその先です!
皆様のご来訪を心待ちにしておりましたので・・・、
布袋さんっ、テーブルや飲み物の用意はできてますか!?」
「はっ、はい、ばっちりですっ!」
ラプラスも居心地悪そうだったようだ。
今回のメインゲストは麻衣さんだしな。
彼女の機嫌を損ねるのは良くないと判断したのだろう。
布袋に何のフォローもしてやらなかった。
お前ら仲間じゃねーの?
ていうか、こんな洞窟の中にテーブルセットってか?
地べたはガタガタじゃないのか?
あ、だから布袋が整地したのか。
かなりシュールな景観な気もするが。
ちょっと歩くと更に広い空間があった。
周りの光る鉱物という「インテリア」に対して、とてもアンバランスな高級家具が設置されていた。
そこに紅茶のかぐわしい香りが鼻をつく。
・・・それはいい。
それよりもだ。
その奥に・・・
照明からは陰になっているが、その奥になにか巨大なものがある。
なんだ、あれは・・・。
行き止まりの様ではあるが、圧倒的な存在感を持つ何かがある。
魔力持ちの人間は全員がそれをもっと明確な形で認識できているだろう。
カラドックもアガサも息を呑んだような顔をしている。
「あ、あれは・・・」
初めて目にしたときは「あれ」が何なのか、すぐに理解できなかった。
オレたちの視線よりやや上・・・2メートルくらいの高さか、
あっあれ、生きた人間なのかっ?
まるで彫像のような・・・い、いや・・・
そこに薄い肌着を纏っただけの美しい女性が、
両手両足を巨木の幹の中に埋もれさせて佇んでいたのだから・・・。
そして彼女は薄く目を開く・・・。
「ようこそ、みなさん、
配下の者達が世話になりましたね、
私が泡の女神・・・アフロディーテと申します・・・。
現在は、この世界樹の女神としての権能を与えられております。」
ただいま、調子に乗って下書きが進んでます。
新たな事実部分なので、
ここまで書いてよかったのか、
整合性は大丈夫か、過去の書き込みを見直しながらやってます。