第三百五十話 世界樹
<視点 カラドック>
会長ラプラスの長馬車は、一路南へと飛ぶ。
途中、ワイバーンに襲われることもあったが、
もともと人間たちが多く暮らすような地域に入っているので、前回のような大群で現れることもなかった。
もちろん、麻衣さんが全て事前に察知したしね。
ケイジやアガサの迎撃で事足りた。
そうそう、
前回と言えば、鬼人と戦った時にヨルさんの槍が破壊されてしまった。
ケイジが使わなくなった剣とか予備の武器はあるが、やはりヨルさんも使い慣れた槍に類する武器が欲しいとのこと。
マスターに会いに行く帰路でもいいから、どこかの街で武器を調達することになる。
普通に街の武器屋で買い物してもいいいのだが、
マルゴット女王が別れ際に、グリフィス公国内であれば、各地の領主に便宜を図るよう通達を出しておいてくれるとのことだ。
そこらの武器屋に陳列される物よりかは上等な槍が手に入るだろう。
マスターがいる場所とやらはかなり遠いらしい。
丸一日ラプラスの飛行スキルで飛び続けても辿り着くことはできない。
おまけに人の行き来が、そう簡単に出来るような場所に住んでいることもなさそうだ。
「皆様にもう一度お伝えさせていただきます。」
ラプラスのこの言葉も二度目となる。
「此度は我らがマスターが望まれた事。
故に皆様をマスターの元へご案内させていただくわけですが、
本来マスターは人の目に触れるべき存在ではありません。
我ら『バブル三世』はマスターを守るために存在しております。
努々他の人間にマスターの所在を明らかにされぬようお願いいたします。」
もちろん、こちらも全て承諾済みだ、
ラプラスの主張は理解できる。
「ご理解ありがとうございます、
さてそこで麻衣様・・・。」
「あっ、は、はい?」
自分に振られるとは思っていなかったんだろう、麻衣さんが慌て気味に対応する。
この程度だと察知スキルは働かないみたいだ。
「これより先、次の休憩を最後にマスターの元へノンストップで参ります。
そこで麻衣様の虚術・・・でしたか、
この馬車の中をダークネスで真っ暗闇にしていただけますでしょうか。
魔物が近づいた時には解除していただいて構いませんよ?」
「あっ、わ、わかりました。
でも、そんな長時間は・・・?」
「大丈夫です、麻衣様の魔力量で十分賄える程度の時間です。
そしてもちろん、向こうに付いたらMPポーションで回復させていただきますので。」
なるほど、徹底しているな。
ただ、いくらなんでも麻衣さんの感知能力頼みだけってのも不安だな。
真っ暗闇だとやることもなくなるから寝るくらいしかできないだろう。
それはさすがになぁ。
「・・・リィナとヨルは寝てていいぞ。」
ケイジが周りを見回して一瞬で判断した。
そうだね、私とタバサは術でやることがある。
アガサもすぐに敵が来たら攻撃できるように警戒は切らさないとのこと。
さすがのエリートエルフだね。
まぁ、リィナちゃんたちは本能に忠実ということで・・・。
あとは、真っ暗闇状態で・・・そこまでラプラスを信用できるかという話なんだが・・・、
まぁ、ラプラス本人は飛行スキルとエアスクリーンを使い続けなければならないのだから、そんな余裕はないはずだ。
さらに・・・。
「私も眠る必要ないから、異常が起きたら声をかけるわ。」
メリーさんも警戒してくれるとのこと。
彼女とは・・・私の子孫のお話して欲しいんだけどな?
「? どうしたのカラドック?
私の顔に何かついてる?」
しまった、ばれたか。
「えっ、あ、ご、ごめんね、
あの、人類が滅ぶとかそんな仰々しい話じゃなくて、
もっとプライベートなものでいいから私の子孫の話が聞けたらなと思っただけで。」
メリーさんは二、三度、目をぱちくりさせる。
本当に精巧な造りだな。
誰がどうやって作ったのかそれも気になるところだ。
「・・・私の友人の話でも聞きたい?
王室の第二王女が親衛隊長と許されぬ恋に落ちて王宮を脱走、
間に生まれた女の子が、平民の家族に育てられて、ふとした事件で出自が明らかになり、
王宮に迎えられたお話・・・。
ちなみにその子は、カラドック、あなたの妃であるラヴィニヤに
黒髪以外とてもそっくりだと言われていたわ。」
「・・・うおおおおおおおおおおおおっ!!
なんだいその話はあああああああああああああっ!!
聞きたいっ! 聞きた過ぎるぅぅぅううううううっ!!」
あ・・・
周りが引いてる・・・。
柄にもなく興奮してしまったようだ。
麻衣さんやケイジ達が奇異なものでも見たような顔をしている。
「カラドックさんもそんな風に興奮するんですね。」
「カラドックは変なところにスイッチがあるよな?」
「えー、でもカラドックにもそんな一面があるなんていーじゃーん?」
麻衣さんもケイジもリィナちゃんもやめて!
「そろそろカラドックにも隙が発生。」
「いよいよカラドックも私達の玩具。」
「はぁ、はぁ、カラドックぅ、ヨル達も二人の子孫ををををを!」
こいつら油断も隙もないな!!
あ、メリーさんまでもそんな生暖かい目で・・・いや、あれは醒めた目だろうか?
人形の表情わかりづらい!!
最後の休憩地付近はかなり緑が多かった。
気温もアークレイより暖かい。
かなり南下してきたのだろう。
飛んでいる間はエアスクリーンがかけられていたので、
周りの空気までもが変化していることには気づかなかった。
もう、この辺りでは人家も見えない。
「あちらの世界でいうところの亜熱帯とまではいきませんな。
真冬には雪もたまにではありますが降りますよ。
それでも年中温暖な気候と言ってもいいでしょう。
それなりに魔物もでますがね。」
それは警戒を切らすわけにはいかないね。
ただ、そのおかげで滅多に人族は訪れないというわけか。
その後、最後の休憩を終え、
馬車の中を真っ暗にしながらマスターの元へと向かう。
特に魔物に襲われたりとか、突発的なトラブルもなかった。
メリーさんに子孫の話を聞こうかとも思ったけど、さっきの騒ぎで恥ずかしかったのでまたの機会にしようと思う。
「麻衣様!
もうダークネスは解除してよろしいですよ!!
間もなく見えてまいります!!」
目を慣らす為に麻衣さんはゆっくりと暗闇を解除してくれた。
だんだん私達の目にも視界がはっきりとしてくる。
周りの景色は変化してるだろうか?
・・・ああ、やはり岩場と、そこかしこに固まった森が方々に・・・
人の住んでいる気配などどこにもない。
やはりそんなところにマスターとやらは隠れ潜んでいるのか・・・。
そこへ目のいいケイジが大声を上げる。
「お、おい、前方に・・・みんな見えるか!?」
なんだ、あれは!?
ケイジの言う通り、窓から顔を覗かせて前方を臨む。
巨大な塔・・・!?
近くに山脈のようなものは見えない。
ただひたすら地平線が続くと思われたその内の一点に、
不自然な異物が聳え立っている・・・。
いや、あれは・・・まさか樹木か!?
まだ遠近感が掴めないから実際の大きさはわからないが・・・
下手をしたらかなりの大きさの・・・
「はい! 皆様、見えてまいりました!!
あちらこそ、この世界の根幹・・・世界樹でございます!!」
世界樹・・・だって!?
伏線、埋め込み終了。
アガサ「ホラホラ、タバサ、あれが世界樹。」
タバサ「これは驚愕、カラドック、一緒に興奮してあげるから手を恋人繋ぎ。」
カラドック「え、ちょそれはさっきの私の醜態に配慮してくれて・・・で、でもいいよ、それは!」
ヨル「その役目は常時興奮しているヨルの役目ですよぅぅぅぅっ!!」
リィナ「コラコラ! エロメスども! カラドックを誘惑するんじゃなーい!!」
カラドック「リィナちゃん・・・(尊。」
麻衣「勉強になります(ムハー。」
ケイジ「麻衣さん・・・あまりそういうのは見習わないほうが・・・。」
メリー「そうやって、みんな大人になってゆくのよ。」
ラプラス「楽しそうでなによりです。」