第三百四十八話 擦り合わせ
「メリーさんはカラドック達とこれまでのことを話し合った」
と、一文で済ませられたらどんなに楽か・・・。
<視点 メリー>
「こんにちは、はじめまして・・・
私はメリー・・・ていうのは変ね、
あらためまして、というべきかしら。
拾い上げてくれて嬉しいわ。」
強大な魔力を持った者達が高速で近づいてくるのはわかっていた。
そしてそれらが、カラドック達を含む勇者パーティーだということも。
どうやら魔人ベアトリチェやらともケリをつけたということだろうか?
彼らがマイクロバスのような長い形の車から降りてきたところで私は目を開く。
そして冒頭のあいさつを。
目の前には狼獣人・・・彼がマルゴット女王の甥のケイジということか。
カラドックはすぐ後ろに控えていた。
この人形の体の前の住人、百合子の娘、召喚士でもある麻衣はカラドックのすぐ後ろだ。
パーティーのリーダーはケイジだと言っていたから、
彼が代表として話をするのだろう。
「こちらこそ、あらためて・・・
オレがケイジだ。
鬼人を倒してくれてありがとう、
よければこの後、話をいろいろさせてもらいたいな。」
「願ってもない事だわ、
マルゴット女王からも少しは聞いているけども、
最新の情報を把握しておきたい。」
そこでまず、私は自己紹介を受けた。
兎獣人・・・勇者の称号を持つというリィナ・・・、
あら? 勇者の称号を得たのは狼獣人のケイジの方ではないのね?
あらゆる属性と多彩な攻撃呪文を操るダークエルフのアガサ、
強固な防御呪文と圧倒的な回復呪文を誇るハイエルフのタバサ、
なるほどこれがAランク冒険者か、
内在する魔力量にしても、今まで私が見てきた「苛烈なる戦乙女」のバレッサや、「栄光の剣」のミコノやライザの比じゃないわね。
・・・そして頭部をターバンのようなもので隠した魔族のヨル・・・、
戦闘、魔法どちらも使いこなすタイプのようだ。
そして肝心のカラドックと麻衣・・・
おや、もう一人、シルクハットにモノクル眼鏡の燕尾服って・・・
「お初にお目にかかります、
マスターの忠実なる僕、
『バブル三世』の一人、会長ラプラスと申します。」
あっ、この人が・・・
「・・・えっと、それって確か幼女の姿をしたスライムみたいな赤い瞳の・・・。」
「おお! そういえばメリー殿はオデムが案内をしたのでしたな、
オデムは失礼なマネをいたしませんでしたかな?」
「・・・刺激的な出会いはしたわね・・・。
でもおかげで、こちらにいる人たちと合流できたので感謝しているわ、
あなた方のマスターにも・・・。」
「それは重畳・・・マスターにもメリー殿の謝意はお伝えいたしましょう。」
そうだ、
私はこの人たちに会ったら最優先で聞きたいことがあったのだ。
「ええっと、一つ聞きたいのだけど、
あなたたちの仲間に『海を行く』人かロボットはいる?」
「はい?」
きょとんとされてしまった。
唐突過ぎたのだろうか?
ただ、後ろの方で麻衣が噴き出していた。
少なくとも彼女には通じるネタのようだ。
ゲホゲホしている。
気管に詰まらせると危ないわよ?
ようやく会長ラプラスはピンときたのか、人差し指を立てる。
「ああ、布袋さんのことですな、
海は行きませんよ、
オデムは布袋どんと呼んでおります。」
「・・・。」
確定ね、この人たち・・・。
麻衣がうつむいて何かを必死に耐えている。
必死に耐えてる姿が可愛いわね。
なお、私の21世紀以前の知識は、旧世界の転生前の知識だ。
化け物であった私は人前に当然出れるはずもなく、
多国籍軍需産業の中枢にて、引き籠りながらネットを最大限に有効活用していた。
私は極東方面を担当していたので日本のサブカル知識にも明るい。
まいあひー♪ まいあほっほー♪
・・・日本じゃなかったかしら。
あら、麻衣?
どうしたの? 顔を伏せたまま小さい拳をそんなに強く握りしめて・・・。
兎の子や狼の男の子にギョッとした顔で心配されてるわよ?
どうしよう?
何かがツボにはまったみたいね。
心を落ち着かせる呪文なら知ってるわ?
飲ま飲まいぇい! 飲ま飲ま飲まいぇい!!
え? それは違うって?
・・・そういえば女王たちの姿が見えないわね。
「あら? マルゴット女王たちは?」
「あ、ああ、女王たちは、本国に戻った。
これから話す事ではあるが、グリフィス公国のトップとして、
内外に発信しなけりゃならないことが山積みになっているのでその対策だ。」
続いてカラドックがケイジの話を補足する。
「一応女王には、メリーさんにあまり未来のことを根掘り葉掘り聞かないほうがいいとは助言をもらっているよ。」
それは凄く有難い話ね。
恩に着るわ、マルゴット女王。
その辺りで私は車の中に招き入れられた。
本格的な話はこれから車内で行うのだろう。
そう言えば、これ馬がいないわよね?
ていうか空飛んできたと思ったけど動力は?
「あ、それ、ラプラスさんの飛行能力で。」
・・・そこはアニメと一緒なのね。
カラドックが何事もなかったかのように説明してくれた。
魔族のヨルという女性は、馬車の外で魔物の接近を警戒するため歩哨に立つ。
パシr・・・いえ、便利な子の様ね。
会長ラプラスは外部の人間だそうなので、一歩外で私達の傍で控えているのだろう。
立派な内装の馬車の中で、私達が優先的に話したのはこの世界の現状だ。
転生者ベアトリチェの目的、そしてその死・・・。
彼女から生まれ落ちた元の世界の息子ミュラ、
そして彼がこの世界の魔王となったこと。
さらに、死にゆく人々の魂を吸収した邪龍が復活直前にあることを。
ちなみに勇者リィナと転生魔王ミュラの不思議な関係についても聞かされた。
終始居心地悪そうにしていたリィナはとってもかわいいと思う。
二人のエルフも同じ感想を持っていたのか、
二人でリィナの両隣を占拠して、彼女の脇腹をつついて遊んでいた。
仲がいいのね。
私もまじっていい?
そして今、私達は会長ラプラスに連れられて、
私達の世界から転生者として生まれたマスターとやらに会いに行くという。
その時は「闇の巫女」の称号を持つ麻衣の力が必要というところまで。
それと、私とカラドック、そして麻衣の状況はお互い話し合った。
カラドックの「勇者を助ける」こと、「心のわだかまりが解ける」こと、
それはマルゴット女王からも聞いている。
麻衣には特に使命はなく、自分なりに楽しめばいいように言われてる事、
そこまでは良かったが、
私の求める「真実」がこの世界にあると言われた話をして・・・
カラドックが頭を抱えていた。
「・・・この世界に一方的に送られてしまった者同士、
メリーさんにも協力してあげたいけど・・・
また、どっから手を付けていいか分からない話だね・・・。」
そうなるわよね、
そう言ってくれるだけでもありがたい話だけど。
「他人に頼ろうとは思っていませんわ?
その代わりこれまで同様、一人好き勝手に動くつもりではおりますので・・・。」
だから私の本当に求めるものが何なのか、それはこの場で話していない。
彼らを信用するとかしないとかの話ではない。
それを語るには私の過去を全て曝け出さなくてはならないだろうから。
ちなみにカラドックには最大限敬語を使って話している。
一応、元の世界では私は一時的とはいえ神聖ウィグル王国の王妃。
別に誰に何の文句も言われることもないとは思うが、礼儀は払っておこう。
ただ、当のカラドック自身何も気にしていないようだ。
「別に普通に話してくれて構わないよ?
パーティー内で一々話し方を切り替えていたら大変だろう?
ここが王宮とかならともかく、一歩間違ったら魔物が襲い掛かってくるようなところで礼儀にこだわる必要なんてどこにもない。」
話の分かる男の様で何よりだ。
本当にあの斐山優一の息子なのだろうか?
いや、あの偉そうな男の息子だから、逆に謙虚な青年に育つのだろうか?
なお私の前世が、カラドックの父である斐山優一に殺されたことも喋っていない。
いずれ折を見て話してもいいが、話がややこしくなるだけだと思うので。
それとパラレルワールドの話も聞かされた。
それぞれ互いに過去の出来事を話し合うも、私の知っている歴史はカラドックのそれと重なったが、麻衣の知っている世界とは微妙に異なるようだ。
もっとも彼女は妖魔とはいえ、一介の女子校生なので世界情勢にはあまり詳しくないようだったけども。
他のメンバーからも質問を受けたし、こちらからもいろいろ話をさせてもらった。
邪龍の話はこれからのものとして、これまでカラドックと麻衣との間で話題になっていたこと、
すなわち、天使シリスとアスラ王の話についてはとても興味をそそられた。
一つ、天使シリスとアスラ王には共通の目的があったのではないか?
それはシリスに人間の心を学ばせる?
・・・本当に?
一つ、この私たちの転移を企てたものは?
そしてその本当の目的は?
理由の如何に関わらず首を狩りに行ってあげないと・・・。
一つ、そして最終的な話になるが、そもそも元の世界で二人の天使が現れたその本当の理由は?
私は考え込まざるを得ない。
私にはカラドックと麻衣の二人の話に、新たな材料を投下することは出来る。
ただ、それで彼らの答えが明らかになるだろうか?
彼らの疑問そのものは私も興味を持つものであるが、
その答えは私が追い求めるものではないと思う。
もちろん、私自身それらの答えを知っている筈もない。
いや・・・シリスとアスラ王の共通の目的については・・・
手掛かり程度の情報は持っている・・・か。
・・・少し気になったと言えば、
麻衣の態度がおかしい。
さっきのネタを引き摺っているわけではなさそうだ。
明らかに何かを隠している。
彼女とその母親が、「リーリト」なる妖魔種という話は知っている。
元の世界で化け物だった私にとってはそんな驚くような話ではない。
麻衣が元の世界で正体を隠匿せざるを得ないというのは当然だろう。
だが、このパーティーにおいてはすでにカミングアウト済みとのことだ。
では何を隠す必要があるのか?
そう思っていたら、私の疑念を麻衣も気づいたのだろう。
念話らしきものが届いた。
(今度場を改めて話しますので今は触れないでください)
後で知ったが麻衣と人形メリーとは、チャンネルのようなもので繋がっているらしい。
もともとは母親との専用回線だったようだが、
私が代替わりしたことによって、チャンネルの微調整で可能になったようだ。
だから彼女の場合、私が持っている「念話」スキルとは微妙に扱いが異なるかもしれない。
・・・もしかして、さっきの「飲ま飲まいぇい」も聞かれていたのだろうか・・・。
彼女の一族がアスラ王側の存在という話は既に聞いた。
では麻衣にとって、この場で話されると不都合なこととは何なのだろう?
もしかしてとは思うが・・・麻衣は、彼女はカラドック達の「敵」なのか。
彼女の一族がアスラ王に仕える一族だというならその可能性はかなり高い。
その場合、
天使シリスの子孫と結婚、そして夜逃げ、
その後アスラ王の子孫と再婚し、子供まで作った私の立場はどうなるのだろう?
ああ、やっぱりカラドックには全てを伝えないほうがいいかしら?
麻衣「まさかあんな不意打ちが来るとは・・・。」
次回も似たような話が続きますが、ちょっと新たなネタを投下します。
いえ、おふざけじゃないほうの・・・。