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第三百四十七話 訪問者

<視点 泡の女神>



 「魔人ベアトリチェは死んだようです・・・。

 そして魔王・・・異世界より転生したミュラと言うものが新たに生まれました・・・。」


 「お、おお・・・。」

 「マスター、それはとても強い相手?」


私の前の世界からやってきた転移者と転生者・・・

それぞれが関わる争いは一応の終結を見た。

この後、ラプラスさんが彼らを私の元へと連れてきてくれるだろう。

この場では、私の眷属である布袋さんとオデムが、

私の発言を一言も漏らすまいと、真剣な表情で私の足元に控えていた。

・・・まぁ、私の足は世界樹の幹に埋もれて見えないのだけど。


 「魔王・・・ミュラ、

 まだ生まれたばかりとはいえ、かなりの魔力を保持してますね、

 これから成長することを考えれば脅威の魔力を持つと考えていいでしょう。」


 「ならオデムが暗殺してくる?」

元スライムのオデムが物騒な発言をする。

とはいえ、人間の常識が今一つ理解しきれてないので仕方ないのかもしれない。

ラプラスさんや布袋さんが一生懸命教育をしているけど、二人だけでは厳しいようだ。



 「いいえ、オデム、あの感じだとヒューマン・亜人に対してそれほど攻撃的な意識は持ってないようです。

 しばらく様子を見るべきでしょう。

 ・・・それよりも・・・。」



 「マ、マスター、じゃ、邪龍ですか?」

布袋さんは落ち着きがない。

能力そのものはとても高いのだけど。


 「そうですね・・・魔人を切り捨てた、ということは、

 もう魔人に頼る必要がなくなったと考えているのかもしれません。

 恐らく復活は間もなく・・・あら? これは・・・」



そこまで喋って私は何かの違和感を感じた。

たとえるなら、周りの空間に突然異物がいくつも現れたような・・・


 「何者ですか・・・?」

それは複数の気配・・・いえ、膨大な魔力・・・。


この私達しか存在しない洞窟の中に突然出現した。

魔力の気配感知に敏感なオデムも慌てて周辺を警戒する。

 「う!? うわあああああああ、なにこれ!?」


 「お、オデム、マスターをま、守るんだ!!」

布袋さんが私を背に守り前方を睨む。

これらは何だろう?

肉眼でははっきりと捉えられないが、確かにそれらの強大な気配が目の前にある。

・・・邪悪な存在ではなさそうだが・・・。



 『突然の訪問をお詫びする、

 異世界より来たりし美しき女神よ・・・。』


 「こ、声だけ聞こえる!?」

 「凄い魔力! マスター並みの・・・!?」


一、二、三・・・いや合計五体のエネルギーの塊とでも言おうか?

その内の一つが語りかけてきた。


なるほど・・・


 「この世界の元々の神々・・・というわけですか。」


 「か、神々!?」

もちろん布袋さんだとて初めて遭遇するのだろう。

物知りのラプラスさんがこの場にいないことが痛い。

こっちの状況を、逐一現在進行形でラプラスさんに伝えることは出来るけど、

彼も現在、重要なミッションを遂行中だ。

こちらが緊急だと教えてしまうと、向こうの仕事に支障が出る。

この場は私達で凌ぐとしようか・・・。

今のところ害意は見えないようだし。


 『ご明察、痛み入る。

 ・・・できればもっと早い段階で挨拶すべきだったのかもしれぬが・・・』

 『何分、何分何分何分、我らも好き勝手動いておるでな、

 ここに五柱も揃うだけ、稀なことと思って頂きたい。』

 『・・・ほう?

 そこにいるのはスライムなのか?

 人語を解するどころか己の意志を持つとは・・・!』

 『しかもそこの縦にも横にも大きい男は、

 異世界の記憶を用いて、かつて鬼人を退けた者ではないか?』

 『さすがは異世界より来たりし女神、

 我々の思考から外れたものを創る・・・。』


布袋さんが、かつて手の付けられなかった鬼人と戦ったことも知っているのか。

布袋さんは「あの人」の格闘術の記憶を保持している。

さらには体全身にオリジナル土魔法で強固な鎧を身につければ、

この世界において、肉弾戦で布袋さんに立ち向かえるものはそう見つからない。


 「どうやらこの世界においては私の先輩・・・というところでしょうか?

 歓待いたしたいのは山々ですが、私も自分が何故こんな世界にいるのか説明すら出来ない状態です。

 皆様が何を求めてこんな場所までいらしたか、教えていただきたいものです。」


確かに、この場にいる存在は、今まで私が遠隔透視してきた存在の中でも遥かに桁違いのエネルギーを持っている。

先ほど私がこの世界の神々と言ったのは間違っていないようだ。

私の今の状態とはかなり異なるけども。


 『然り、然り然り然り、我々はこの世界において神と呼ばれる存在・・・。』

 『異世界の女神よ、そなたは先代の世界樹の女神を引き継ぐようにこの世界に現れた。』

 『先代の世界樹の女神は、この地においてその役を全うした・・・。』

 『それにしてもなるほど、泡の女神か、称号のままに美しい・・・。』


 「・・・この世界の神々は不滅ではないという事ですね・・・。」

なるほど・・・何となくわかってきた。

彼らは神と自分たちで言っているが・・・

この私とそう大差ない存在なのかもしれない。

肉体を持っているか否かはかなり大きな違いなのだろうが。



 「あなた達の誰かが・・・私をこの世界に?」


 『そうではない、そうではないそうではない、異世界の女神よ。』

 『我々からは、突然そなたがこの世界に産まれたように見えたのだ。

 そう、今、まさに魔王が生まれた時のように・・・。』


ふむ、この世界の神々とやらに敬意は払いたいが、

どうやら、転生や転移に関しては、彼らは何の情報も持ち合わせていないらしい。


 「では何故、今ここに?」


 『魔王と・・・邪龍の件である。』

うん、そんなところだろう。


 『いや、というより異世界からの転移者の件と言った方が良いのではないか?』

 『異世界からの女神よ、そなたは彼らを魔王や邪龍と戦わせるつもりか?』


お・・・っと、

もしかして私は余計なマネをしようとしていたのだろうか?

とは言っても・・・


 「あまり積極的に関わるつもりはありませんが、

 一応自分が世界樹の女神であるという自覚はあります。

 立場上、現在の邪龍の存在は無視できないと思っていましたが、

 干渉しないほうが良かったのでしょうか?」


 『いや・・・』

 『いやいやいや・・・』

 『是非干渉していただきたい。』

 『もうほんとうに一切何の遠慮もなく。』


この人たち・・・


 『むっ? いまいまいま! 何か我らを虫でも見るような目つきになったか?』

 『か、勘違いしないでいただきたい、

 我々は既に肉体は滅び、実体を持たない身、

 それ故、地上の出来事に直接的な干渉できないのだ!!』

 『我々は神としての力を持つ!

 だが、肉の身を持たぬ存在でその強大な能力を振るうと、

 その分我々の存在は希薄なものとなってしまうのだ!』

 『それ故、過去に邪龍や魔王が出現した時は、地上の人間に啓示を与え、

 彼らに進むべきその方向を指し示してきたのよ!』


だんだん威厳がなくなって来たようだ。

せめて神々を名乗るなら、私の同族だったゼウス様やハデス様くらいしっかりして欲しいものだと思う。

・・・もっとも、それはそれで偉そうなのでやめて欲しいが。


 「・・・ではもしかしてステータスに称号を与えるのもあなた達が?」


 『然り、然り然り然り・・・しかし我々だけで全てを与えているわけではない。』

 『たとえば「勇者」の称号を我々が与えれば、

 我々と相反する勢力が「魔王」の称号を魔族に与えたりもする。』

 『いずれにせよ、魔王や邪龍の復活はヒューマンたちにも知らせねばならない。』

 『邪龍が復活すれば、多くの生命がこの地から消え去るであろう。』


 「・・・なるほど、大体は理解してきました。」

この人たちがあまり役に立たない人たちだということも。



 『そこで異世界の美しき女神よ。』

 「なんでしょうか?」


 『魔王については我らが選んだ勇者でなんとかなるであろう。』

 『だが、だがだがだが、邪龍はこのままでは危険だ。』

 『あの異世界からやって来た魔人めが、よりにもよって邪龍の力を引き上げてしまった!!』

 『そこでそなたには、あらゆる異世界特権を使って勇者とその仲間たちを手助けしていただきたい!!』


ふむふむ、なるほどなるほど。


 「お話は分かりました。」


 『おお! おお、おお、おお!!』

 『さすがは異世界より来たりし女神!!』

 『さすめが!!』

 『結婚して欲しい!!』

 『おいこら!!』


どうやら虫が一匹か二匹混じっていたようだ。

 「・・・さっそく私の力を試させてもらってもよろしいでしょうか?

 『タナトス』の力なら効果ありそうですね・・・。」

 

 『い・・・いや、いやいやいや! 我は関係ない!!』

 『我らに死は不要っ!!』

 『言ったのコイツだし!』

 『吸われてぇ・・・』

 『誰だ、こいつ連れてこようっつったの!!』


やっちゃっていいのだろうか?

私がこの世界の神々とやらを全て皆殺しにしてもいいのかもしれない。

なんだかほっといても自然発生しそうだし。


でも「あんなもの」吸い取って、私と一体化するって思われるのも滅茶苦茶気持ち悪い。

やっぱりやめておくか。


 「・・・残念ですが・・・。」


 『えっ!?』


 「私もこの後、転移者たちに会う予定ですが、

 彼らに与えられるものは何もありませんよ?」


 『そっ、そんなそんなそんな・・・』

 『では、どのようにして邪龍とっ!?』

 

 「情報ぐらいでしたら与えられますが・・・

 そもそも、私自身、彼らから欲しいものがあるのです。

 私と彼らの関係は対等と思っております。

 ご期待に応えられず申し訳ありませんが・・・。」


 『む・・・、無念、無念無念・・・終わりだ。』

 『この世界は邪龍に滅ぼされる・・・。』

 『そうなっては我らも滅んでしまう・・・。』

 『一度でいいから結婚したかった・・・。』

 『お前な・・・』


今この場で滅ぼしてあげた方がいいのだろうか?


 「ただし・・・。」


 『おっ、おう!?』

 「これは私の考えですが・・・

 彼らに任せれば・・・邪龍は討伐可能ではないでしょうか?

 ・・・いえ彼女達・・・と言った方が良いかもしれませんね・・・。」




これまで見てきた転移者たちの活躍・・・。

もし私の考えが正しければ・・・

きっと勝てるのではないだろうか?

だからこそ、彼女達はこの世界に送られてきたのだろうから・・・。


そうでしょう?

私の愛しき人よ・・・。

 

この世界の神々は、創造神などといった絶対的なものでなく、

どちらかというと知的存在が進化して精霊化したようなものだと思ってください。

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