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第三百三十八話 変わり果てた好敵手

最後の仕事が終わりました!!


みんなで レッツ無職!!

<視点 引き続きカラドック>


「魔王が生まれる」


何故このタイミングで!?

私は自分と似たり寄ったりの反応をして見せた麻衣さんに視線を合わす。


うん、彼女も私と同じ声が聞こえたのだろう。

その内容を疑うまでもない。

 「カラドックさん。」

 「麻衣さん・・・。」


私たちはどちらからともなく互いの名を呼ぶ。

次に何が起きるかは、

賢明なる皆さんにはすぐにわかるだろう。


 「きぃぃぃいぃぃぃぃぃっっ!!

 不潔ですようっ!!

 なに二人して視線を絡みあわせているですかあああああっ!?」


元気になってくれたのはいいけのだけど、

いま、それどころじゃないんだよ、ヨルさん。


あ、リィナちゃんが気を利かせてヨルさんを羽交い締めにしてくれた。

ケイジも縄をどこからか持ち出してきて、彼女をぐるぐる巻きにする。

これで落ち着いて話を進められるかな。


 「・・・それで二人ともどうしたんだ?」


仕事をやりきったとばかりに、ケイジが額の汗を拭う。

見ようによっては、狼獣人が一人の女の子を拘束して、誘拐か、それとも口には出せないような犯罪行為でもしそうかに見えるのだけど、

ここにはもう一般人も第三者も来ないから気にしない事にしよう。


麻衣さんは、この件について私が言うべきだとでも思ったのだろう、

無言で私に視線を送るのみ。

まあ、そうだね。

なら私が話を進めさせてもらうよ。


 「みんな、聞いてくれ。

 この先、全員に関わる重要な話だ。

 ああ、『聖なる護り手』だったかな、ダンも聞いてくれて構わない。

 どうせ、すぐに知る事になるだろうし。」


 「もったいつけるのう、カラドックよ、

 はよう妾に教えてくれ。」


二つの小さな拳を握りしめて、

わきゃわきゃとかわいい反応して見せるな、マルゴット女王。

思わず元の世界の母を思い出してしまうではないか。

あー、イゾルテも女王に合わせて動きをシンクロさせなくていいからね。


けどもったいぶってるつもりはないんだ。

早く情報開示してしまおう。


 「たった今、私と麻衣さんの頭の中に、

 何者かのメッセージが流れ込んできた。

 十中八九、私たち転移者をこの世界に送り込んでくれたヤツの差金だろう。」


麻衣さんの頭が縦に二回揺れる。

「そうだ、その通りだ」と口の中で言っているに違いない。


私の正面の相手はケイジだ。

冒険者としては彼がリーダーだからね、

当然私達二人が中心となって話を進めよう。

 「このタイミングでか、カラドック?

 一体なんだ?

 まさか、魔人ベアトリチェのことか?」


彼女の話だけで済むのならまだ良かったんだけどね。

私は心の底から残念そうに首を振る。


 「魔王が・・・」

 「え? ま、ま・・・なんだって?」


 「魔王が生まれたと頭の中の声がアナウンスしたのさ。

 たった今ね。」


 「「「「「魔王おおおおおおっ!?」」」」」


みんな驚くよね。

ていうか、私たちを送り込んだヤツはこの世界の状況を常時監視しているのか。

まあ、それは後回しにするとしても、

問題はこのタイミングだ。


現在、ベアトリチェという名の、

「魔人」と呼ばれる存在が出産奮闘中なのだが、

これを偶然と言えるほど能天気な人間はそうそういまい。

もちろんケイジもだ。


 「カ、カラドック・・・。」

 「うむ・・・。」

 「こ、このタイミングでって事は・・・」


私はゆっくり首を縦に振る。

 「そうだ、まず間違い無いと思う。

 後はベアトリチェの出産報告を待つしかないね.。」


 「ば、バカな、

 い、今頃になって、魔王登場かよ・・・。」


ケイジが狼狽えるのもよくわかる。

魔人ときて、その先にいる邪龍・・・それだけでも厄介この上ないのに、その覚悟を嘲笑うかのように更に魔王まで追加してくるのだから。


下手をすると、ケイジやリィナちゃんの心が折れることも想定せねばならない。

いや、だからこそ彼らを支える為に私達3人を用意したという事なんだろうか。


・・・なお先程のやり取りで、

ケイジが何かとんでもないボケをかますかと期待した人もいるかもしれないけどね、

あいつはこんなところで株を下げるようなヤツじゃないからね。

もし、あいつがそんなバカだったりしたら、

もう一回、私の国王パンチが飛ぶよ?


・・・あれ?

ケイジの尻尾が股の間に挟まってプルプル震えているように見える。

・・・気のせいかな。

それより話を続けないと。



 「まだベアトリチェ達の反応はないけど、

 あれから結構時間が経っている。

 ・・・無事に生まれたのなら・・・」


そこで麻衣さんに反応があった。

まさか遠隔透視を?


 「ベアトリチェさん達・・・こちらに向かってきてます。

 あ、浮遊スキルかな?

 廊下を浮いてっていうか、舞い上がっちゃってますね、

 歓喜の感情がヤバいです・・・。

 あれ赤ちゃんですね・・・、

 小さい子を抱き抱えてます。

 ハイエルフのオスカさんが、ピリピリして周りに小さい結界張りながら・・・ってところですかね。」


 「麻衣さん、その赤ちゃんが魔王かどうかなんて判断は・・・」


 「ああ、さすがに遠隔透視でそこまでは?」


無理か、

ていうか、生まれたばかりなんだよな?

まだ意識とか自我も芽生えてない筈だよな?

ならばまだ魔王としての脅威はないと思いたい。



 「悪い方の懸念を言っておくとじゃな。」


女王には予測できる未来が見えているのか。

私たちはそのまま彼女の言葉を待つ。


 「ベアトリチェは妊娠してから、脅威的なスピードで出産したことになる。

 どういうカラクリかは分からぬが、その勢いで魔王が成長し続けるなら・・・」


既に私たちの手に余る存在となっている可能性があるのか。


 「あ、あたしがやらかしちゃったんですかね・・・?」


そうか、麻衣さんの不思議スキルでベアトリチェは妊娠してしまったんだものね。

けども。


 「だから麻衣さん、君が気にやむ必要など全くない。

 このまま、この後の状況にも注意してくれてればいいさ。

 難しいことはこっちに振ってくれ。」


 「あ、ありがとうございます・・・。

 あ、そ、そろそろ奥の扉が開きます。」


「聖なる護り手」のリーダー、ダンがボロボロになったカーテンで、哀れな最期を遂げた仲間の遺体を包んでいた。

ベアトリチェ達に見せないつもりなのだろう。

彼は、ゆっくり抱きかかえたそれを、ベアトリチェが出入りする扉から離れた所へと安置した。



ちょうど、そのタイミングで扉が開かれる。

先頭は、不意打ちを警戒していたのだろう、ハイエルフの結界師オスカ、

そして死霊使いのカルミラと僧侶のクライブだったか。


めでたいのか、困っているのか、判断に迷う表情を浮かべているな。

確かにさっき殺し合いしていた相手の前に、

生まれたばかりの赤ん坊を見せる神経が分からない。


何も考えていないのか、

それとも私たちなど警戒する必要すらないと思っているのか・・・。


ようやくベアトリチェ本人が現れた。

本当に舞い上がっていたようだが、

ゆっくりと壇上に足をつける。

・・・出産という苦行を成し遂げたせいか、

顔はやつれているが・・・


見惚れてしまうな・・・

子供が産まれた事が本当に嬉しそうだ。


 「皆さま!!」


単純に私たちに見せびらかしたいだけのようにも見える。


 「生まれたんですの!!」


眩しいよ・・・。

敵でなければ拍手喝采で祝福したいのに。


 「ついに! 私の祈りが神様に通じたんですわ!!」


神に魔王の誕生を願ったというのか。

何という皮肉だろうか。


 「あ・・・!」

ん?

麻衣さんが何かに気づいた?

震えている?

いったいどうした・・・


 「そ、・・・そんな」

 「麻衣さん?」


 「妾にも見えた、ぞ。」

女王!?

いったいあなた方は何を見たんだ!?


そして麻衣さんが告げる。

その赤ん坊の「称号」を


 「て、て、て、てんせい・・・しゃ?」


今度はなんだって!?


 「皆様!!

 お聞きください!!

 私の子供が・・・愛する息子が、

 時を超え、世界を超え、

 今! 再び私の元に帰ってきてくれましたのよ!!」


その言葉に再び私はベアトリチェの方を向く。


何を言っている?

私の子供が?

愛する息子が?

再び私の元、・・・だと!?


 「私のミュラちゃん!!

 私のかわいい、愛するあの子が、再び!!

 ああ!! 私の元へ!!」


ミュラ・・・!?

それは・・・

 

魔人ベアトリチェは、

本当に愛おしそうに、自らの腕の中の赤ん坊の顔に頬ずりしていた。


 「きゃあああああ! ミューラーちゃーんっ!!

 きゃわいいいいいいいい!! は~い、ちゅっちゅしちゃいますねぇぇぇぇ!!」


え、あ、と・・・うん、これ・・・

私はどんな反応すればいいっ?




リィナ

「? ? ?」


ケイジ

「・・・・・・。」


カラドック

「ミュラは恵介の最大の恋敵になるわけだけど・・・。

え、と、ミュラが恋心を抱いてるリィナちゃんは勇者で・・・

それでミュラは魔王だから・・・?」


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