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第三百三十七話 絶望の誕生

ぶっくま、ありがとうございます!!


<視点 カラドック>


・・・終った。

あれだけ脅威の戦闘力を誇っていた鬼人が呆気なく・・・。


それもまるで子供でもあしらうかのように、あのメリーという人形が止めを刺した。

そして彼女は私たちと同じ転移者だという。


私や麻衣さんに比べ・・・いや、麻衣さんの出自もかなり驚愕的だが、

人形メリーは桁違いの衝撃だ。

大陸最大規模の国家の王様・・・という、自分で言うのもなんだが、権力者の頂点にいる筈の私の存在すら霞んで見える。


だが、取りあえず戦闘は終わった事は間違いない。

もはや危急の危機はない。

人形メリーのことも不可解だが、麻衣さんに起きた変化も重要だ。


首や心臓を破壊されていた筈だが、何事もなかったかのように・・・

えっ? ケイジの問いかけに対して「なんにもしてない」って・・・それは



 「カラドックよ、・・・妾たちが見せられていたのは幻術だったのじゃ。」


えっ?

マルゴット女王!?

幻術だって!?


 「そうよ、

 この鬼人が私のドレスの中に顔を突っ込もうとした辺りからかしらね?

 多少、麻衣にも協力してもらったわ。」


それこそ何事もなかったかのように、人形メリーが女王の言葉を肯定する。

しかし、なぜマルゴット女王がその事を・・・

あ! 女王には魔眼があるんだっけ!


 「・・・さすがに自分のカラダを使われた時にはびっくりしましたよ、

 メリーさんにそんな能力あったんですか?」


麻衣さんにもわかっていたのだろうか?

いや、これは実際に彼女の体に何のダメージもなかったからこそ、気づく事が出来たという事か?


 「ああ、いいえ?

 これは私は人間だった時に持っていた能力よ。

 ・・・あまりいい思い出はないのだけど。」



無意識の動作なのだろうか?

人形はそう言いながら、自分の脇腹に手を当てていた・・・。

元は人間だったって?

いったいどんな過去を送っていたのだろう。


いや、だが先に確かめるべきは・・・

 「麻衣さん、カラダは無事なのか!?

 幻術とか言ってたけど、首をへし折られたり、胸を貫かれたりしているように見えたのは・・・。」


 「ああ、なんともないですよ?

 あたしからは、もう一人のあたしが突然目の前に現れて、それに向かって鬼人が攻撃しているように見えていましたんで、だいたい何が起きていたのかは理解してました。」


やっぱりそうなのか、

あとすると・・・


 「え、じゃあ、瞳の色が金色に変わったのは・・・」

 「変わってません、変わってません!」


 「爪が魔族のように鋭く伸びたのも・・・」

 「伸びてないです、伸びてないです!」


あれらも幻覚だったんだね。

それに加えて「不死」なんて属性ついていたら、確実に麻衣さんは人間やめてると言わざるを得ないものね。


 「・・・。」


あれ?

なにか麻衣さんから視線を感じたけど、気のせいかな?



 「いいかしら?」


話の切りがいいと思われたのか、人形メリーが話しかけてきた。

 「なんだろうか?」


 「・・・はっきり言って、状況把握はまるで出来ていないのだけど、

 そもそも私はどこにいるの?」

 「ああ、そうだ・・・。

 私たちが追っていた相手は魔人という存在なんだけど、ここはその魔人の拠点、黄金宮殿。

 ・・・この状況だと何を以って黄金宮殿かと突っ込みたいかもしれないけどね。

 その魔人の正体も明らかになったところだよ。

 魔人の種族はサキュバス、

 そしてその出自は、私と同じ異世界からの転生者ベアトリチェだ。」



 「転生者?

 ・・・ベアトリチェ、

 誰だったかしら?

 どこかで聞いたような名前の気もするけど・・・。」


 「え・・・と、メリーさんて呼んでいいのかな?

 君が私と同じ世界の人なら、アスラ王国側の女性だと言ってわかるかな?

 あ、でも、さっきマルゴット女王が君は遥かな未来の世界から来たと言ってたから知る筈もないか。」


 「いえ、それは・・・

 ああ、ベアトリチェ・・・

 確か黒十字団に所属する女性・・・

 四人の使徒の一人、朱武を陥れるのに暗躍した女性だったわよね?

 そんな女性が転生していたのね。」


 「驚いたな・・・!

 そんな知識を持っているのか!!」


 「申し訳ないけど、殆どはただの書物から得た知識よ。

 それもただ一人が書き記した書物からのね。」


なんか不必要に人形に見つめられている気がするな?

それにしても誰がそんな書物を書いたんだろう?


 「それは・・・一体。」

 「話す順番が逆になってしまったかもしれないけど・・・

 あなたが・・・もう一人の転移者、

 そして斐山優一の息子、エクトーラの娘ラヴィニヤの夫、

 すなわちウィグル王国のカラドック王・・・で、

 間違いないのね・・・。」


 「詳しいね・・・そうだ。

 私がウィグル王国第二代国王、カラドックだよ。」


そういえば、この人形は冒険者の間に知れ渡っている私の名前を頼りに追って来たんだったっけ。

だが、今の人形の話し方には違和感があるぞ?

確か、彼女は私たちの世界のはるか未来からやって来たと言っていた。

未来の人間が私の父のことを斐山優一と呼ぶだろうか?

ウィグル王国建国後は公的には「シリス」としか父も名乗っていないし、

周りもそれ以外の名を呼びもしない筈なのだが。

それにラヴィニヤの母親の名前まで知っているのか。


すると、

人形の雰囲気が変わった。

何をするのかと思ったら、

なんとメリーさんは、そこいらの貴族でも文句がつけようのないほどの「華麗なカーテシー」をしてみせたのだ。


 「はじめまして、カラドック王、

 今は・・・メリーと申します。

 人間であった時の名前を名乗るのはお許しください。

 あなた方の時代より遠い未来の時代、

 神聖ウィグル王国の北方、イズヌ国のとある辺境伯の娘、

 縁あって神聖ウィグル王国アイザス王のもとに嫁いだものでございます。」


うわっ、

それはムチャクチャ親近感湧いてきたっ!


 「えっ、じゃ、じゃあ、私の子孫の元にやってきてくれたお嫁さんか!!」


麻衣さんの時も驚いたけど、そんな因縁もあるんだなあっ!


 「ええ、その事も含め、いろいろお話がしたいのですが・・・。」

 「ああ、もちろん歓迎するよ!!

 ・・・そうだね、ここじゃ場所もなんだし、どこか落ち着いてみんなで・・・」

 「あ、いえ、それ以前の問題があって・・・。」


 「ん? いったいなんだい?

 遠慮せずに言ってみてくれないか?」


私の縁者じゃないか!

多少の我儘は聞いちゃうよ!?

ん?

マルゴット女王がニマニマしてる?

私の反応を読まれていたのだろうか。

ちょっと恥ずかしいな・・・。


ところがメリーさんの主張は私の予想を遥か斜め上のものだった。

彼女はグルんと首を回して麻衣さんの方を振り返ったのだ。


 「あの・・・麻衣?

 あなた、魔力大丈夫?

 かなり召喚に使っている魔力が不安定になってきているのだけど・・・。」


・・・えっ?


 「えっ、あっ!?

 ちょ、ちょっとヤバいかもしれませんっ!」


麻衣さんが両手をぶんぶんさせてあわあわし始めた!

あっ、そう言えばメリーさんは麻衣さんの召喚魔法でここにいるんだった。

え? 召喚解かれるとどうなるの?


 「だっ、誰かっ、MPポーション持っていませんかっ!?」

 「いや、MPポーションはまだあるが、込み入った話をするんじゃろう?

 多少魔力を回復させたところで焼け石に水じゃぞ!?

 元々彼女がいた所で回収して話を進めるべきじゃと思うが!?」


そっ、それはマルゴット女王の言う通りだろう、

戦闘でも続くならともかく、戦いの終わった今無駄なコストを・・・て、

メリーさんの周りに七色の光が立ち昇る・・・!



 「あっ、もう・・・ダメっ・・・」

麻衣さんから悲鳴に近い声が上がる。

魔力切れを起こすと、意識不明か意識朦朧状態に陥り、

使用している魔力は全て強制的に解除される。

それはいいが、まだここは敵地なのだから、麻衣さんが行動不能になるわけにはいかない。


 「女王!

 すみませんが、さっきの残りでも構いませんので、麻衣さんにMPポーションを!

 メリーさんの方はまた後で・・・!」


 「う、うむ、そうじゃな! それ麻衣殿!!」


世話役と回復役に特化したニムエさんとタバサとで、麻衣さんに無理やり薬を飲ませた。

その間に、メリーさんに盛大な溜め息を吐かれて、彼女は召喚時と同じ虹色の光の中に吸い込まれていった。




 「・・・ああああ、ごめんなさい、

 メリーさん、行っちゃいましたか・・・。」

口元から零れた液体を自分の手で拭って麻衣さんが復活する。

あの分だと、少量しかMPポーションを飲んでいない筈だ。

まぁ、これ以上、戦闘を行う訳じゃないし、

立って歩くくらいならなんとかなるだろう。


 「いやいや、麻衣さんがメリーさんを呼んでくれたおかげで鬼人が倒せたんだし、

 麻衣さんが気に掛ける必要は全くないよ。

 ・・・それより、この後、メリーさんが何処に行ったかなんて・・・。」


 「ああ、さすがに今すぐは勘弁してほしいですけど、

 もう、メリーさんの魂の波動は覚えましたから、

 落ち着いたらいつでもあたしの能力で探知できますよ。」


頼もし過ぎる・・・。

本気でウチの国に麻衣さんが欲しい。


 「・・・じゃあ、問題はこの後・・・だよな。」

ここで今まで空気だったケイジが聞いてきた。

うん、まぁ、展開についてけないよね。

仕方ない。


 「そうだね、

 もう・・・恐らく互いに戦意は残ってないだろうけど、

 このままで戻るわけにもいかないし・・・、

 ベアトリチェ側の意向だけでも確認する必要があるな・・・。」


ただなぁ、今現在、下手すると出産真っ最中なんだよなぁ・・・。

勝手だけど、せめて最初に休ませてもらった迎賓室にでも戻ろうか?


でも・・・あそこまで戻ると、鬼人と並ぶもう一人の怪物・・・

竜人と出くわす可能性もある。

もし竜人の戦力が鬼人と並ぶものだとしたら、今の私達では絶対に勝てない。


そんな時、

ここでも更なる混迷が私たちを襲うのか、

筋書きを書いた奴はどこのどいつだと言いたくなるくらい、

私達が想像すらできなかった事件が起こる。


いや、かねてから言われていた筈だ。

この世界に来た時から。

気づくチャンスはいくつでもあった。

余りに想定外の事が多すぎて、そちらに気を配る事を怠ってしまっていたのだ。


 「この世界に勇者がいるのなら」

 「リィナちゃんに勇者の称号が与えられたなら」


それに気づいたのは私と麻衣さん。


なぜなら、二人の頭の中にだけ、その電子音が鳴り響いたのだから。


 ピンポンパンポーン♪


そしてその反応にカラダを硬直させる私たちに、当然他のみんなは不審に思うだろう。


 「カラドック? 麻衣さん!?

 いったいどうした!?」


ケイジの問いにすぐには答えを返せない。

この先に聞こえて来るであろうメッセージを、私達が聞き逃すわけにはいかないのだから。

そして私と麻衣さんの頭の中に聞こえてきたのは、

既に予想された抑揚のない電子音声。

けれどもその内容は、私達にとって受け入れがたい、あまりにも絶望的な内容だったのだ。




 『お知らせいたします。

 この世界に魔王が誕生いたしました。』

 

一人目は鬼人、

二人目はメリーさん、

さぁ、三人目ですよ。


このタイミングで魔王です。


魔族執事シグが追手として現れたあたり(201話)から物語の後半と考えていたので、

完結までで400話前後かなと適当に考えていたんですが・・・それで終わるのかな・・・?

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