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第三百三十一話 冬の到来

最後の48時間勤務が終わった・・・。


もう職場に連泊しなくていい・・・。

残るは普通の24時間勤務が後7回・・・!


山間に、ひっそりと暮らす親子と鬼人オグリとの共同生活は、

ぎこちなくもうまく行っていたと言えるだろう。


さすがに、鬼人を同じ屋根の下で寝かす度胸など、父親も持っていないので、

離れの物置に鬼人の寝床を用意した。

その事に鬼人は全く不満はない。

彼にしても、自分と違う生態の人間と親密すぎる関係は不要だと考えていたのかもしれない。


オグリが連れてきた二頭の馬も、

この家の娘フユリによって、

ハルリ、アキリと名付けられていた。

日本の季節みたいな名前だって?

何の話だろうか?


話を戻すとしよう。

父親の心労は絶えなかったが、

鬼人は言われたことには殆ど文句も言わずに従っていた。


というより、鬼人は自分に出来ること、

自分にしか出来ないようなことは率先して働いていた。

逆に、小手先の家事やら、つまらなそうな仕事は最初から拒否していた。

分かりやすく例えると、

狩りと、害獣の排除、後は力仕事といったところか。


他に注目できる点として、鬼人オグリがフユリの遊び相手を嫌がらなかった事があげられる。

森の花摘みや河原の綺麗な石を集めたり、母親に作ってもらったという人形で遊んだりとか・・・。

遊びそのものに、何の意味があるのだろう?

オグリはしょっちゅう、そんな疑問を浮かべてはいたようだが、

フユリが楽しそうな表情を見せると、そういうものかと納得していたようである。



・・・しかし、

このエピソードにハッピーエンドは訪れない。

皆様も忘れてはいない筈だ。


この奇妙な共同生活が続いていたのは冬の初め頃までだった。

そこから先、

雪も降り始める季節になると、明らかに山の動物達の姿が見えなくなっていたのである。


鬼人オグリなら、

この辺にいるクマだろうとイノシシだろうと、

そして勿論、魔物であろうと、全て仕留めて食糧と化すことが出来るだろう。


だがいかに鬼人が強力とは言え、姿の見えない獲物を殺すことは出来ない。


そして致命的な事に、

鬼人が生き延びる上で必要な食事量は、

この家の主の5倍の量を用意せねばならなかったのだ。


加えて言うならば、

鬼人は野菜や果物も食べることはできるが、

やはり主食は肉となる。

魚でも勿論構わないが、

どちらにせよ、辺りがどんどん寒くなるにつれて、獲物が見つかることは困難になっていた。



最近はフユリの笑顔も少ない。

鬼人への態度に変化がないのは、

大したものだが・・・。


もちろん病気がちの母親の容態も芳しくはない。

何しろ必要な栄養が取れていないのだ。


この先の未来を暗示する、最も分かりやすい瞬間があったことをおしらせしよう。

それはある日の夕食の出来事だ。


 「お母さん、また食欲ないって・・・。」

 「一口、食べただけじゃないか、

 これじゃ、治るものも治らない・・・。」


 「・・・いいから、私の分はフユリが食べて・・・」

母親としての精一杯の主張ではあるが、

いくらお腹を空かせているのは確かでも、

こんな状態の母親に食べ物を譲られて頷けるフユリではない。

とにかく、ゆっくりでも少しずつでもいいから母親に食べさせないと・・・。


そしてそのやり取りをじっと見ていた鬼人は、その場の空気など読もうとすらしない。

 「父親よっ、お主の番いなのだがっ・・・」


 「は、はいっ?」


 「あれはっ、何かの役に立っているのかっ?

 ここを追い出しっ、他の番いを探すべきではないのかっ?」


 「は?」

父親は、本気で自分が何を言われたのか理解できない。

鬼人には家族という概念がないのだろうか?

良くも悪くも幼い故か、フユリは鬼人の言葉をストレートに受け止める。


恐らくフユリが鬼人に対して、これ程怒ったのは初めてだろう。

 「そんな事、言ったらダメなんだからねっ!!

 おかあさんはフユリの大事なおかあさんなんだからねっ!!」


子供と言えど、フユリが本気で怒っているのはオグリにも理解できた。

謝るというデリカシーすら持っていない鬼人ではあるが、この話をこれ以上する必要はないと判断したのか、すぐに席を離れ、庭の馬たちの様子を見に行った。


 「はあ~、最近、食事の質が、悪くなったわね~・・・。」

 「人参やリンゴなんて贅沢言わない、

 せめてこんなスカスカの雑草用意されても、ねぇ~・・・って、きゃあっ!

 鬼人さまっ!?」


鬼人は馬達の毛並みを撫ぜる。

モフモフしたくなったわけではなさそうだ。

何かを確かめるように・・・


 「あんっ、やだっ、鬼人さまっ、そんな手つきじゃっ・・・」

 「いやいや、アンタ、何感じてんのっ?

 あ、あの目、マズイわよっ!

 あたし達のこと、食い物と看做してる目つきだわよっ!」


鬼人に馬の言葉はわからない。

もちろん、馬は言葉を話さないけども。


しばらくして鬼人は離れていった・・・。

もはや馬達も甘い考えは捨てていた。

自分たちが喰われてしまう日は、すぐ近くに迫っているのだろうと・・・。





そして、

さらに寒さが肌を刺す頃になった。

この辺りは雪も降る。

森や山の中は雪化粧に包まれ、オグリがやってきた時とはまるで違う世界のようだ。

もはや魔物が近くにいる気配もない。

それでも食べ物を探しに行かねばならない。

鬼人が狩りに出るときは、周辺の案内もかねてフユリと行動を共にするのが常だった。

険しい山道を通る予定がない時は、馬のハルリかアキリを連れていく。


最初は父親も心配で、こっそり後をつけていた時もあったのだが、さすがに一月、二月も無事に過ごすと、もはや殆ど警戒心を失ってしまっていた。


・・・鬼人にしてみれば、

他に食べるものがあっただけの話なのだが。


今日も食べるものを探して山へ向かう。

今現在、天候自体は穏やかだが、地面はと見ると、足首が埋まるほどには雪も深く積もっている。


二人は家を出る前に、馬のハルリに荷物を載せ、出発の準備に余念がない。

そう、いつも通りなら・・・。


 「・・・オグリ、どうしたの?

 なに、あたしをみてるの?」


ふとフユリは鬼人からの視線を感じた。

いつも、何か用があれば喋りかけて来るのに、ただ黙って自分のカラダを見られるのは、

いくら警戒心の薄いフユリでも疑念を覚える。


 「・・・いやっ、フユリよっ、

 我とっ、最初に会った時よりっ・・・痩せたようだなとっ・・・。」


確かフユリの胸は少しずつ膨らみ始めていた筈だった。

年齢のことを考えると、これから徐々に盛り上がっていくのが普通。

しかし栄養状態が貧弱なため、いまだ専用の下着も不要なほどだ。

これではオグリが「収穫」を先に伸ばした意味がない。


 「・・・あはっ、それはオグリも一緒じゃないっ、

 前はもっと丸々してたよ?

 でも、食べるものがないから仕方ないよね・・・。

 今日こそ、何か見つけてこないとねっ!」


この雪がなければ、

食べられるキノコや、ホーンラビットの巣穴でも見つけられたかもしれないのに。

だが、オグリの我慢も、もう限界だったのだ。


 「・・・潮時っ・・・かっ。」

 「えっ? オグリ、何か言った?」


 「いやっ、何もっ、言ってない・・・っ。」

 「あはは、変なオグリ!」



一方、それを傍で聞き耳を立てていた二頭の馬は・・・。


 「・・・もしかすると、あたしたち、これでお別れかねぇ・・・。」

 「あたしの事はいいから、逃げられそうなら逃げるんだよ?

 人間の街まで行けば生き残れるよ・・・。」

 「はぁ、死ぬ前にカッコいいオスに抱かれたかったな・・・。」


 「こんなことならダビデの告白、okしときゃ良かったわ・・・。」

 「・・・は!? 何それ!?

 それ初耳なんだけど!!」

 「あ、やば!! ごめん! でもなにもしてないからっ!!」

 「ちょ、ちょ、ちょ!!

 あの馬面野郎っ! あたしのこと生涯幸せにするからとかほざいておいて、

 あんたも口説いていたわけ!?」

 「い、いや、でもあんたら結局、つきあってなかったんでしょ?

 なら別にそんな取り乱さなくたって・・・。」

 「そ、そりゃ、そうだけどさっ!

 気分悪いじゃないっ!

 あたしを口説いておいて一度断られたからって、

 すぐに次のメスに声かけるって、どんな神経してるのよって!!」



 「馬たちがっ、騒がしいなっ・・・。」

 「ほんと、どうしたんだろう?

 いつも仲いいのに・・・。」



 

次回、いよいよ・・・。

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