表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
330/748

第三百三十話 鬼人対コカトリス


 「なんだ、あの魔物はっ!?

 鶏みたいな姿なのに・・・馬ほどの大きさもあるっ!!

 まさか、コ、コカトリスっ!?」


父親と鬼人が窓から外を覗くと、

そこには異様な光景が映し出されていた。


姿そのものは鶏のような姿なのに・・・いや、

蛇のような尻尾を持っている。

そしてその大きさは、先程父親が観察したように、馬ほどの巨体・・・。

まるでその場所に最初からいた、馬と鶏たちを嘲笑うためにわざわざその姿でやって来たのかと疑いたいくらいだ。


当然、彼女達もいきなり現れた有り得ない姿の魔物にパニックに陥り、

鶏たちは羽毛を舞い散らせながら逃げ回る。

もっとも、パニックに陥っているのはここにいいる父親も一緒だろう。

 「ヒィィィィッ! ど、どうしたらぁっ!?」


 「人間よっ、あれはっ、魔物のようだなっ?

 このままではっ、家畜を喰われるのではないかっ?

 戦いにでないのかっ?」


 「むっ、無理ですっ!

 あっ、あんなもの熟練の冒険者でもないとっ!!」


まぁ、あのコカトリスとこの父親を見比べれば、魔物の方が強そうなのには鬼人にも容易に判断できる。

だがこのままでは、鶏も自分が連れてきた馬たちも食い尽くされてしまうだろう。

ならば鬼人の選択肢は一つである。


 「ならばっ! 我が行こうっ!

 あの魔物はっ! 食えるのかっ!?」

 「ええっ!? そ、それは是非っ・・・って食べる?

 コカトリスを!?」


父親の答えを待たずに鬼人は山刀を握りめる。

そのまま無造作に玄関の扉を開け放った!!

鬼人の身長ではこの家の玄関は狭い。

身を屈めながらゆっくりと外に出ると、

鶏を一羽、ちょうど食らい尽くしていたコカトリスも、突然現れた自分とは異なる魔物の出現に驚いたようである。


 「ックワアアアアアアアアアアッ!!」


姿を現した鬼人に威嚇の声を上げる。

このコカトリスという魔物、

戦闘能力はそれほど脅威でもない。

Cランク冒険者のパーティーがいれば対処できるだろう。

もっとも、冒険者ギルドがコカトリスの討伐に、出撃許可を与えるのは、ランクとは別に、

この魔物の持つ石化能力に対処できるかどうかである。


さすがに所詮は鶏型の魔物であるだけに、ブレス能力や邪眼系のチートな能力ではないが、コカトリスの唾液には石化毒とでも呼ぶべき成分が含まれているのだ。

もし、戦闘中にコカトリスに噛まれたら、その部分から石化が進行する。

これはポーションやピュリファイといった解毒呪文では治療できない。

石化解除専用薬は目が飛び出るほど高額で希少だし、

上級僧侶以上クラスのディスペルでないと解除できないのだ。

そして、

・・・いかに同じ魔物とは言え、鬼人オグリに石化能力に対する対処どころか、

その知識すらない。


あるのは殺戮本能のみである!


 「きゃああああああああああああっ! オーガ様ぁぁぁぁぁっ!

 待ってましたぁぁぁぁぁあああっ!!」

 「早く早く早くぅぅぅっ!!

 そのニワトリ野郎をぶった切ってぇぇぇぇえええええええっ!!」


馬たちも現金なものであるが、この場合は仕方ないだろう。

ていうか、彼女たちは馬なので、そんな人間みたいな言葉は喋らない。


一方、鬼人は何の策も練らずに真っすぐコカトリスの元へ向かう。

対するコカトリスは鶏の死骸を嘴から放し、翼をはためかせステップをとる。

なお、コカトリスは鳥類の鶏と違って、ある程度空を飛ぶことも出来る。

長時間の飛行は出来ないが、この家の塀を飛び越えるくらい訳もない。

それは戦闘に陥った場合でも然りだ。

敵の頭上から攻撃を仕掛ける事が出来る。

不規則な動きで鬼人を翻弄しようというのだろう。

だがそれに馬鹿正直にいちいち反応する必要など鬼人にはない。

何の遠慮もなく、互いの間合いに入る鬼人。

鬼人オグリは、このコカトリスに、「何の脅威もない」と判断したのだろう。



素早く首を連続で動かしたコカトリスは、鬼人の頭上から剥き出しの肩を啄む!

さすがに魔物である。

硬い防御を誇る鬼人の肩が喰い破られた。

もちろん、それなりの痛みもある。

だが、その痛み程度など鬼人には何のダメージにもならない。

その証拠だとでも言わんばかりに、傷つけられた腕を振り回し反撃を試みる。

コカトリスの反応も素早い。

あらかじめ、鬼人の反応を読んだかのように躱してしまった。


 「ふむっ・・・!

 いい反応だなっ!!」


とはいえ、攻撃力も反射神経も、鬼人の想定を上回る程ではない。

この程度なら・・・いや、



  ビキッ・・・!


肩がおかしいっ?

今さっきまでは普通に動いたが・・・


自分の右肩を見下ろすと、まるで石のように変色し皮膚が固くなっている。

石化し始めたのだ・・・!


この戦いを固唾を飲んで戦いを見守っていた父親が叫び声をあげる。

 「そっ、そのコカトリスは唾液に石化成分が入ってるそうですっ!

 嘴に気を付けてください!!」



 「ほうっ、これがっ、石化かっ!!」


一度石化が始まったら、回復手段がなければ、その石化は進行し続け、やがて死に至る。

だからこそ、多くの人間が恐怖を覚え、高ランクの冒険者にしか討伐は許されない。

だが、良くも悪くも、この鬼人にはその先の知識もない。


自分のカラダの動きを少々阻害される・・・

ただそれだけの話だった。


一方、コカトリスにしてみれば、獲物が動物だろうが魔物だろうが大した違いはない。

相手が逃げるか戦いを挑んでくるかの差でしかない。

相手が向かってくるのなら、極力攻撃を受けないように、

少しずつでいいから、敵の肉を啄み、石化させるだけでいい。

もっとも・・・完全に石化させてしまうと自分も相手を食べる事が出来なくなってしまうので、

獲物が戦闘不能になるだけの攻撃を加えるに留めなければならないのだ。

 

そしてコカトリスは自らのセオリーに従って、

大したダメージにもならない浅い攻撃を鬼人に向かって仕掛け続ける。

いつもならそれでいい。


実際、これまでに何体かゴブリンやホブゴブリンをそれで仕留めている。


・・・だがおかしい。

いつまで経っても鬼人の動きに変化がない。

コカトリスは焦る。

自分の石化能力が通じていない?

何故?


・・・コカトリスはここで気付くべきだった。

自分の攻撃が通じないなら、逃げるべきだったということを。


コカトリスは自分の石化が通じないなら、もっと多くの石化毒を注入しなければならないと判断してしまったようである。

そして・・・この魔物は致命的なまでに鬼人の間合いの奥深くにまで踏み込んだ。


その瞬間、コカトリスは鬼人の姿を見失う。

消えたっ!?

ヤツは何処に行った!?

慌てて左右に首を回そうとしたその時、巨大な掌によってコカトリスの首が握りしめられる!!

背後に回られたのだ!


ヤバい!!


殆ど反射神経で尻尾を鬼人に巻きつかせて締めあげようとするも、

地力が違う。

そんなもので怯む鬼人ではありはしない。


何故!?

どうして!?


自らの武器が何も通じない!

だが、知恵もない魔物にはその原因も理由も分からない。

そしてそれ以上の思考はコカトリスには許されなかった。

鬼人の手にした山刀が、白いコカトリスの胸の中央を貫いたのだ!!


 「クェェェェェェエエエエエエエッ!!」


断末魔の声をあげるコカトリス。


それでもまだ意識はある。

見れば鬼人の体には何か所も自分が攻撃して石化している部分がある。

このまま放っておけば、何もしなくても石の塊になっていた筈なのに・・・



そこでやっとコカトリスは気づいたのである。

鬼人の体の石化した部分が、まるで瘡蓋がはがれるように、鬼人の体から溢れ落ちていくのを・・・。



それ以上の思考は出来なかった。

鬼人がコカトリスの首を引きちぎったからである。


そう、鬼人の驚異的な再生能力は、コカトリスの石化進行速度を上回っていたのだ。

これなら何の回復手段も必要ない。

鬼人オグリは、コカトリスの石化能力も自らの再生速度も把握していなかったが、

それでも最初から鬼人に負ける要素は何もなかったのだ。



 「やったああああああああっ!

 鬼人様が勝ったああああああああっ!」

 「あたしたちに出来ないことを平然とやってのけるッ!

 そこに痺れる、憧れるううううううううううッ!!」


どこかで聞いたようなセリフを馬たちが言う筈もない。

だがこれで当面の脅威が去ったことは事実である。



 「すっ、すごいっ!

 コカトリスをものともしないなんてっ!!

 鬼人様、ありがとうございます!!」

 「わあああああっ! オグリつっよーいっ!!」


いつの間にかフユリも観戦していたようだ。

まぁ、あれだけ騒がしければ誰でも気づくだろう。


鬼人オグリはコカトリスの返り血を浴びたまま、悠然と戻って来た。

 「つまらんっ、魔物だったなっ、

 しかしっ、人間よっ、この程度のっ、魔物に対処できぬのにっ、

 このままっ、ここで暮らしていけるのかっ!?」



 「えっ、そ、それは・・・。」


無茶な話だ。

もとより、この家の周辺には魔物なんて殆どいなかったのだ。

それがスタンピードの影響で周辺環境はガラリと変わってしまった。

・・・ならば、ここに住み続ける事など・・・

だが今は、病気の妻ケィティが臥せっている。

ここの状況で引っ越しなど出来はしない。

それに間もなく冬だ・・・。


環境の変化は妻の弱った体には毒にしかならない。

では・・・ではいったいどうすれば・・・



 「あっ、じゃあオグリ!

 ここであたしたちと一緒に住んでよっ!!

 オグリなら、どんな魔物でもやっつけられるでしょっ!?」


 「ああああああああ、フユリッ、お前なんてことをっ!?」


だが・・・それが一番現実的ではないか?

この鬼人に勝てる魔物がもはや想像できない。


この冬を・・・或いは妻の病気が全快すれば、この土地から出ていくことも可能だろう。

それまでこの鬼人と共同生活を続ければ?


 


この間、いろいろな事を計算していたのは父親だけではない。

鬼人オグリも、少ない知識の中で何が自分にとって得になるかを考え続けていた。


その内容は・・・



鬼人はフユリを・・・父親を、

そして家の外の馬たちと鶏と・・・

さらにはこの父親たちが看病しているという妻の部屋の方を窺った・・・。


 「ふむっ、ならばっ・・・しばらくっ、厄介になろうっ・・・。」



こうして、鬼人オグリと、ある一つの家族との共同生活が始まったのである。

 

なお、コカトリスのお肉は美味しかったです(フユリ談)。



コカトリスさんの胃袋の中の消化液は、石化の進行を止める効果があるそうです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ