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第三百二十四話 鬼人の冒険

 

 「わっ! 我はっ! 人語を解するっ!

 今はっ! 人間とっ! 戦うつもりもないっ!

 話がっ! したいだけだっ!」


 「なっ!? なんだ?

 オーガが喋っているっ!?」

 「亜人・・・じゃねーよな!?

 そんな亜人、聞いたこともねーぞ!?」

 「噂に聞く魔族・・・じゃねーか!?」


好き放題言われている。

鬼人の方は、自分自身をゴブリンから進化したオーガだと認識していた。

とはいえ、以前見たステータスウィンドウには、種族名が「鬼人」と表示されていた。

ならば今は自分は鬼人でいいのだろうと思う。


 「我はっ、鬼人っ、・・・という種族であるっ!」


 「鬼人!? 初めて聞くぞ!?」

 「い、いや、待て、お伽噺に聞いたことあるぞ?

 人間の知恵を得たオーガ種が稀に進化を果たして・・・。」

 「ちょっ、そんなもん、下手したらスタンピード以上の脅威なんじゃ・・・。」



話が進まない。

進まないが仕方ない反応か。


 「話はっ・・・出来ないのかっ?」

鬼人も半分諦めかけていた。

彼も気の長い方ではない。

ならばここの人間を皆殺しにして・・・


 「い、いや、話はって、お前、オレらと会話してどうしようってんだ?」


 「我はっ、知恵を得たっ!

 人の言葉もっ! 理解できるっ!

 せっかくっ、手に入れたスキルっ!

 ならばっ! いろいろなっ 事を知りたいっ!

 どうやってっ! 家を建ててるっ?

 牛やっ 鳥を飼育してっ!

 武器をどうやってっ 作っているっ!?

 知りたいことがっ たくさんあるっ!!」


それは嘘ではない。

嘘ではないが、一番の目的は何処に行けばもっと大勢の人間がいるのか。

いつでも好きな時に人間が食えるのが一番の理想だ。


 「お、おお・・・すげぇな、オーガが人間の言葉を・・・。」

 「いや、すげーけどよ、こいつ危険なんじゃないのか?」

 「ていうか、こいつスタンピードの魔物じゃねーのかよ?」



さすがにオーガが言葉を喋ったとして、

すぐに、あら、オーガさん、では仲良くいたしましょう、なんてあるわけがない。

それは鬼人も分かっている。


 「我はっ! もっと知識をっ! 得たいっ!

 だからっ、人間とっ話をしたいっ!

 だがっ、槍やっ剣をっ向けられるならっ、仕方がないっ!

 この身をっ守るためにもっ!」


 「あああああ、待て待て、わかった!

 オレらもオーガ種と戦おうなんて思わねーよ!!

 すっ、少なくともお前に、オレらと戦うつもりはないってことでいいのか!?」


 「で、でもお前、この街の人間を滅ぼしたんだよな・・・?」


 「確かにっ、我はっ、この街にっ、攻め入ったっ!

 恐らくっ、大勢の人間をっ殺したっ!

 だがっ、その時のっ、記憶はおぼろげだっ!

 人語をっ、解することも出来なければっ、知恵もなかったっ!

 ただっ、衝動のままにっ、人を喰らっていたっ!!」


 「こりゃ困ったな・・・。」

 「どうしろってんだよ・・・。」

 「オレらに判断できるわけねーし、そんな権限もねーだろ?

 捕まえて街に連れてくしかねーんじゃねーのか!?」


彼らが出した結論、

それは鬼人を拘束し、自分たちの街に連れ帰り、

お偉いさんか誰かに彼の処遇を判断してもらう。

そんなありきたりのものだった。


 「我をっ! 縛るというのかっ!」

 「あ、ああ、すまねーけどよ、

 仮にも大勢の人間を殺したオーガを自由にさせとくわけにはいかねーよ、

 けど、オレたちの街に戻るまでは、なるべく居心地いいようにするからさ?

 飯も食わせるし、道中、オレら人間の話を聞かせてやれるぜ?」


さすがに縄で縛られるのは不快だった。

だが、彼らは自分を人間の街に連れて行くという。

ならばチャンスである。

何よりも自分を縛る縄が貧弱であった。

全力を出せば引きちぎれるだろう。


そして、そのチャンスは意外にも早くやって来たのでる。



 「ほうっ、ほうっ!

 馬にっ、籠を繋いでっ、轢かせるのかっ!

 しかもっ、転がる輪っかをっ!

 これは便利だっ!!」


鬼人が野営地で興奮している。

スタンピードで滅びた街から、鬼人を馬車に乗せ、

その馬車が動き始めた時から彼は驚愕し、人間たちに説明を求めていたのだが、

野営のために一度馬車を降りてからは、自分の目で馬車の仕組みを確かめているのだ。



・・・馬たちがあからさまに怯えている。

鬼人に傍に寄られて逃げることもできずに繋がれているのだ。

怯えて暴れ出す程ではないが、ちょっと可哀相な気もする。


 「ぬっ!?

 怯えるなっ、馬どもっ!

 我はっ! 馬に欲情せぬっ!

 我はっ、お前らをっ、食糧としかっ見ていないっ!」


どうやらこの馬車を牽いていた二頭は牝だったようだ。

彼女達が鬼人の言葉を理解できたわけではないだろうが、

その言葉にショックを受けたように後ずさる。

まるで

「やだ、このオッサン、キモすぎるっ!」

「なに、この変態オヤジ、ありえないんですけど!」

とでも叫ぶかのように嫌そうな顔を浮かべていた。



そんな時に事件は起こる。


ビクン!


二頭の馬の耳が動いた。

何かの音に反応したのか?

焚火の火では林の奥までも見通すことは出来ない。


だがオーガ種の視力は人間のそれを上回る。

 「ふむっ・・・。」


「彼ら」は、足音を忍ばせ、気配を殺し、この場にいる者達に気付かれないよう、

細心の注意を払って近づいてきているようだ。

もっとも、それはこの鬼人にも馬たちにさえバレバレのレベルだったのだが。


 「人間よっ・・・。」


調査に訪れていた彼らは、この時点でかなり緊張を解いていた・・・。

得体の知れない鬼人種に内心怯えてはいたのだが、

鬼人は自分たちが披露する人間の暮らしぶりや、様々な工芸品に高い関心を示し、

凶悪な人相と体格を除けば随分と話しやすい仲になっていたのである。


 「んあ~、どうしたい、鬼人ちゃ~ん?」


酔っ払いである。

いくらなんでも警戒を解きすぎであろう。

おかげで口の滑りが良くなって、鬼人の方としては色々情報を仕入れられて有難い話だ。


 「囲まれているようだがっ、お主たちのっ、知り合いかっ?」


そこで初めて彼らの顔に危機感が浮かんだのである。


 「なっ!? 何がいやがんだ!?

 魔物か!?」

 「いやっ、お主たちと同じっ、人間だぞっ。」

 「な、て、てことは盗賊か!!」


茂みの向こうから観察していた彼らは、ターゲットの反応で、

自分たちの存在がバレたこと理解したのだろう。

もはや隠れる必要もないと、10人以上いる配下とともに姿を現した。


 「はぁい、みなさま、こんばんわぁ~♪」


 「なっ、なんだ、てめぇら!?

 この辺の盗賊かよ!!」


 「うふふ、ご名答~♪

 金目のものを出してもらおうかしら~♪

 命が惜しかったらね~♪」


既に調査隊の面々も酔いは醒めている。

盗賊が気持ちの悪い喋り方をしているからと言ってツッコミを入れる余裕もない。

 「ふ、ふざけるな!

 オレたちはスタンピードで壊滅した街の調査の帰りだっ!

 金目のものなんか持ってるわけがない!!」


 「あら、不景気ね~♪

 仕方ないわん?

 その馬車をちょうだい♪

 と・・・凄いわね、オーガを捕らえたの?

 そちらのオーガも貰おうかしら♪

 殺せば経験値凄そうだし、魔石や素材を売れば大儲けしそうね~♪」

 

鬼人も空気は読める。

新たにやってきた一団は、自分を縄にかけた者達の敵なのだろう。

ならばこの後は戦いになる。

自分はどちらに付くべきか?


話の内容を聞くに、盗賊とやらは人間たちのはぐれ者なのだろう。

ならば盗賊の味方になるメリットは薄いだろうか?

ならば・・・


 「手助けっ、してやろうかっ?

 我ならっ、瞬殺できるがっ?」


 「えっ?

 お、お前がっ!?」

 「い、いやいや、いくらなんでもオーガの手助けなんてっ。」

 「だがよ、オレらだけでこれだけの盗賊を相手出来ねーぞ!?」


彼ら調査隊は部隊全員で元の街に引き返しているわけではない。

最初に鬼人を発見したチームだけでここにいるのだ。

つまり人員は最低限。

途中で盗賊に会う想定などしていない。


つまりこの状況は絶望的である。

ここで・・・鬼人を解き放つ事は彼らにとってこの危機を脱する最高の手札のように思えたのだ。

 

鬼人のエピソードが終わらない・・・。

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