第三百十九話 忘れていたんだろうとは誰にも言わせない
ぶっくま、ありがとうございます!
会社に辞める宣言してきました!
48時間勤務なんてやってられるか!
何が「人は足りてる」だ!!
社員全員残業時間枠いっぱいで足りてるわけないだろー!
<視点 ダン>
・・・畜生・・・。
体が動かねぇ・・・。
まだ体力は残っている筈だ。
ここで座り込んでいる場合じゃねぇのも分かっている。
ドルスがやられちまった。
これまでオレやドルスがどんな大怪我しても、クライブの小僧が回復してくれたんだけどな・・・。
よりによって小僧のいない時に・・・
しかも本来なら味方の筈のオグリの野郎に・・・
いや、元から鬼人なんかが人間の仲間になっている時点でおかしいと思うべきだったんだ。
この組織のトップが、元は異世界のヒューマンだったという魔人クィーンがいたおかげで見誤っちまったんだ。
確かにクィーンなら鬼人をコントロールできたかもしんねぇ。
けど、クィーンがいなけりゃこの様だ。
はっ、何が聖なる護り手だよ。
リーダーのオレがなんも守れていねぇ・・・。
クライブやオスカ、カルミラが戻ってきたら何て言われるんだろうな・・・。
せめてドルスの仇を討ちに、この剣をオグリのどてっぱらにぶっ刺してやりてぇが、
膝が言う事を聞いてくれねぇ。
タイマンであの鬼人に立ち向かうのは無理だと本能で理解しちまっている。
「蒼い狼」?
あいつらなら?
無理だろ、
クィーンの術のおかげで軒並みステータスダウンしているし、
どんどん戦力が削れていって、後は時間の問題だ。
あの狼獣人が放った衝撃波は驚いたけどな。
次をオグリが耐えたら終わりだろ?
そんで・・・あちらの娘どもは何を騒いでやんだよ・・・
まぁ、オグリは人間の女を繁殖対象に見做しているみてぇならな、
命は獲られる危険はないかもしれねぇ。
それが幸せなこととは思えねぇけどよ。
そしたらなんだ?
あれは召喚術か!?
あの黒髪のちびっ子、そんな術を隠してやがったのか!
何を呼び出す!?
そんじょそこらの動物や魔物じゃ話になんねーぞ?
竜種でも呼び出せたらって・・・そんなんSクラスの冒険者でもないと無理だろうしな・・・
あっ、失敗しやがった!
だが一時、虹色の光が見えたな。
オレも詳しくねーが、動物種やランクの低い魔物を呼ぶときには白い光が現れるそうだ。
ある程度、実力を持った魔物を呼ぶときは金色の光が立ち昇るという。
既にこの段階でAランクの召喚士と言ってもいいくらいだ。
そして虹色の光・・・。
呼び出されるものは高度な知能を持つとされる。
妖魔なら上位種以上のものが、
動物種なら精霊クラス、
不死体ならリッチとか、それこそ悪魔種とかな。
それを呼ぼうとして失敗したってとこか。
無理もねぇ。
例え実力に見合わねぇ魔物だろうと、そこまでの化物を呼び出しでもしねぇと、オグリには敵わねぇ。
おっ、まだ諦めねぇのか?
そいつはいいが、オグリもそこまでのんびりじゃねぇぞ?
と思ったら、オグリはオグリで、
新たな獲物がやってくることに感づいたようだ。
まぁ、ヤツは戦いと破壊と性欲だけで生きてきたような奴だ。
殺戮対象が増えるのは嬉しいんだろうさ。
ん?
おいおい?
今度は成功するのかっ!?
何を呼んだ?
魔導体?
魔導体ってゴーレムとかだよな?
話になんねぇだろっ!
そら相手がどんなに強くても、意志のねぇゴーレムなら怯えずに戦い続けることは出来るだろうさ!
だが鬼人オグリは、ストーンゴーレムだろうとアイアンゴーレムだろうと、
赤子の手を捻るように砕いちまうぞっ!?
恐らく伝説クラスのミスリルゴーレムだって相手になるとは思えない。
いや、・・・足止めくらい位は使えるのか?
囮としても使えるだろうしな。
あの狼獣人の衝撃波とゴーレムで足止めし、
あのダークエルフの魔法を撃ち込めば・・・って失神してんじゃねーかよ、あのボインのねーちゃん!!
いやいや、あの山盛りの巨乳に見惚れてる場合じゃねーわな。
お、お、お・・・なんだ、あれ?
七色の光の中から現れたのは・・・
銀色の髪をなびかせた・・・貴族の女・・・いや、違う!?
・・・んだ、ありゃあ・・・。
最初、どこのお姫様かと思った。
まぁ、あんな真っ黒のドレスなんか着たお姫様なんてどこにいるんだよって話なんだが。
そして次に思ったのは、
あのド馬鹿でけぇ鎌はなんなんだよっ!!
どういう理屈であんな細っこい腕で両手鎌を支えられるんだっ!?
いや、待て待て待てっ!
魔導体召喚だったよな?
ゴーレムを呼んだはずだよなっ!?
じゃぁ、何かっ!?
あの高貴なドレスを纏った美少女は・・・どこぞの貴族でも何でもなく・・・
女性の姿をした人形っていうことなのかっ!?
呆気に取られて何も言えねぇオレのことはどうでもいい。
だが・・・だが・・・有り得ねぇことに・・・
その眠っていたかのように目を瞑っていた人形は、
ゆっくりと瞼を開き・・・
そして喋りやがったんだ・・・言葉を。
「あら、こんにちは・・・。
初めまして、私の名は・・・メリー。」
・・・みんな固まっていた。
どうやらあいつらも初めて呼んだのか、それとも呼べるかどうか半信半疑だったのか、
誰もがどんな反応をすればわからないようだった。
無理もねぇ。
人形が言葉を喋ったんだぞ!?
しかも流ちょうに!
そんなもの見た事も聞いたこともねぇ!!
すると、たった一人、
なんで一国の女王がここにいるかわからねぇけど、
グリフィス公国のマルゴット女王が人形に近づいていた。
「・・・久しぶりよの、メリー。
・・・今までどこにおったのじゃ・・・、
てっきりカラドックの後を追っていたと思っていたのじゃぞ?
ん? どうした、ラウネよ?」
あ、女王の首元にしがみついていた幼女が、転がり落ちるように部屋の隅っこへ?
「・・・あら? マルゴット女王、ごきげんよう。
私は久しぶりという感覚はないわね、
ついこないだ、会ったばかりに感じるわ?」
転がっていった幼女についてはスルーしたのか、
あの銀髪の人形は女王と知り合いのように会話している。
「どうやら寝坊しておったようじゃの?
現状は理解できるか?」
女王も震える幼女について、一度視線を投げかけたが、まあ、この場では後回しにするしかないんだろうな、人形との会話を優先するようだ。
「・・・そうね、
商人さんの積み荷に紛れてアークレイの街にまで向かっていたのは良かったんだけど、
荷馬車がワイバーンに襲われたみたいなの。
商人さん達は無事だったようだけど、驚いた馬が荷馬車ごと崖から落ちて・・・
そのまま、誰も通りがからなかったみたいで・・・。」
「ああ、そなたは人間の感情を糧に動いておるのじゃったな・・・。
商人が使う街道にワイバーンが現れたとなると、魔物を討伐するまで街道封鎖が当たり前の処置だからの。
つまり、傍に誰もいない、通りかかることもないとなると・・・。」
「ええ、エネルギーがなくなって全ての活動を停止せざるを得ない。
ひどい目に遭ったわ。」
そんな傘も持たずに道を歩いていたら、大雨に降られて困っちゃったみたいなノリで言われてもよ・・・。
そこで人形は自分を呼び出した女の子に気付いたようだ。
あの黒髪の少女が人形を見詰めている・・・。
「あら? 私を呼んだのは・・・・あなたね?」
人形は、あの細い指で、煌めく自分の髪をかきあげる・・・。
動きも洗練されているっていうか、
本物の女にしか見えねぇ・・・。
あの人形が戦闘できるかどうか知らねぇが、
美術品としても相当価値が・・・って、小さい国ぐらい買えるんじゃねーかっ!?
一方、黒髪のちびっ子は、自分で人形を呼んどいて、
黙り込んだままだな。
何か事情でもあるのかよ?
「・・・。」
「召喚士・・・でもどうやって私を・・・あら?」
「メリーさん・・・と呼んでいいんですよね?
あたしのことが分かりますか・・・?」
「・・・ええ、あなた・・・人形の記憶にあるわ・・・。
この人形の体の・・・前の住人の娘さんね?」
なんじゃ、そりゃあああああっ!?