第三十一話 ぼっち妖魔は罠になんか引っ掛からない
<視点 麻衣>
地下四階層・・・行くそうです。
でもベルナさんの魔力量がそろそろ・・・
ん?
ベルナさん、そんな悲壮な表情してないな?
なんか余裕ありそう。
その事を聞いたらベルナさんは苦笑いを浮かべつつも、
「着いたら分かるよ。」
と言ってきた。
ふむ、
地下第四階層、魔物はそんなに多くないような・・・
気配が薄い。
ただ危険察知スキルがあたしに警鐘を鳴らす。
これ・・・もしかして罠フロア!!
みんなしてあたしを前に引っ張り出してきた。
薄ら笑いを浮かべながら!
ちょ! 背中押さないでっ!?
悪魔か、この人達!!
おまわりさん、悪魔がここにいます!!
「いやいや、お嬢ちゃん、
俺はもう君の感知スキルを認めているよ!
素晴らしい才能だ。
だからこそ、ここで罠をも見破る目を持っていることを証明して欲しい。
なに、ここは初心者用ダンジョン、
罠と言っても即死するような凶悪なものはない。
せいぜい落とし穴とか毒ガス噴霧とか、ああ、毒ガスといっても時間で回復するものだ。
落とし穴も下のフロアに落ちるだけ、
打ち所さえ気をつければ骨折程度で済む。
もっとも、地下五階より下行くと、槍がいきなり出てきたり、矢が飛んでくる罠もあるけどな。」
ダメでしょう!?
まあ、槍が飛び出てきたり、弓矢が飛んで来るよりマシだけど。
ていうか不思議なのは、飛び出る槍はともかく、弓矢って何なのよ?
何度も罠が作動したら矢はなくなるよね?
誰が補充してるの?
ダンジョン管理人いるよね、その場合。
そんな時ケーニッヒさんが大声で遠くの隅を指差した。
「見るとええ!
あれ、宝箱かの!?」
嬉しそうだね、ケーニッヒさん、
ここまで宝箱一つも見なかったもんね。
でも騙されないよ!
「ミミック!!」
遠隔透視で中身見れば宝箱なんかじゃないことは一目瞭然。
問題は遠いこと。
ほっとくか、倒しにいくか。
でもあたしはミミックの生態を知らない。
あれ、追っかけてきたりしない?
迂闊に倒しに行って罠に引っかかる未来がありありと見える。
未来視のスキルなんか要らない。
お約束というやつだ。
だいたい罠ってどんな種類があってどんな構造なの?
落とし穴系はわかる。
地面より下の空間を遠隔透視すればいいだけだ。
他は?
まさか異世界で赤外線センサーなんかあるはずもない。
一番分かりやすいのは荷重がかかる事で発動するもの、あと、糸に引っかかるものとかあるけど、あれも自動で復旧しないよね?
一度でも掛かれば誰かが張り直さない限り二度目はないトラップ。
ていうか、発見したら除去するよね?
初心者ダンジョンなら。
とりあえず話を戻そう。
向こうに見えるミミックは・・・。
遠距離から仕留めたいとこだけど、ベルナさんは魔力温存中。
フクちゃんの爪ではミミックの外装固そうだし。
スネちゃんの巻き付きで圧殺するのが一番鉄板な気がするけど、向こうに辿りつくまでの罠が怖い。
「スネちゃん、フクちゃん、周りの警戒お願いね?」
あたしは罠の発見に集中する。
ここでは鑑定魔法と呼ばれるかもしれないけど、あたしが行うのはサイコメトリー!
四つん這いになって前方の床面を触りながら前進する。
床を踏んだり、荷重で発動するトラップなら、軽く触るだけなら問題ないはず。
・・・問題ないけど・・・
「うううう、罠だらけじゃないですかあ!」
そこかしこに仕掛けがあるのがわかった。
落とし穴、踏むとガスが発生する床、近くの扉と連動している床、その扉が開くと魔物が飛び出してくるらしい。
この広間はトラップエリアなんだ。
ようやくトラップエリアを抜けたらしい、ミミックまで五メートルほど。
あたしはみんなを見回すと、ケーニッヒさんが応じてくれた。
目にも止まらぬナイフが飛んでいく!
スカッ!!
と気持ちのいい音がしてナイフはミミックに突き刺さる!!
「ギュアオオ!!」
突然、宝箱の形が変形し蓋の部分が上下に開く!
やっぱりあの部分が口になるのか、不揃いの醜い牙が剥き出しで襲ってきた。
「スネちゃん!!」
バクンとミミックがそれ以上、口を開くのを許さない!
スネちゃんの分厚い胴体が、ミミックのカラダを縦に縛り付ける!!
ミミックの悲鳴なのか、体が潰れる音なのかわからないけど、耳を塞ぎたくなるような「ギィィィィ」という音の後、ミミックはバキィンと砕け散った!
完勝!!
・・・それにしてもホント嫌らしいトラップだよ。
まぁ無視して通り過ぎるっていう選択肢もあったんだろうけど。
ケーニッヒさんもエステハンさんも絶対わかってたよね、これ。
地下四階層の敵は、もともと数が多くなかった。
もしかして罠にかかって地下五階層に落とされているのも相当多いのかもしれない。
個体のレベルは高くなっていたが、集団で行動しているものは少なく、かえって倒しやすかったのではないだろうか。
地下五階層に降りる階段の場所は、小部屋のような空間にあり、その部屋にはスライド式の扉すら備え付けてあった。
これ、一種の安全地帯だね。
ここで休憩タイムだ。
エステハンさんの総評タイムでもある。
「うーん、ここまでで三時間ほどで降りてこれるとはかなり早いぞ。
最短ルートで降りたら一時間かからなかったかもな。」
ちなみに松明は三本目だ。
ダンジョン内では時を計る手段がないので、
燃える時間を一時間程度に調整した松明を使っているという。
ある程度の時間がこれでわかるというわけだ。
「『炎よ集え、ファイア』!」
ケーニッヒさんが用意した炭にベルナさんが火を点ける。
お茶の用意である。
冷たい水で一息つくより、温かいお茶で体をリフレッシュさせようとのことだ。
魔法レベル1なら大して魔力は消費しないんだって。
「まぁ、今日の目標は、次の地下五階層で最後だ。
地下五階層もこの部屋と同じように、その下へ降りる階段の場所は小部屋になっていて外部から独立した空間となっている。
・・・もっとも、そこにはフロアボスがいるんだがな。」
「え、今回はフロアボスとは戦わないんですよね?」
「そのつもりだ。
フロアボスの部屋は、ここと同じように扉で仕切られているから、途中で遭遇することはまずない。
フロアの魔物をあらかた片したら地上に戻って、本日のミッション終了だ。」
あー、お茶が美味しい。
そしてあたしは余計なことに気づく。
「え、と?
フロアボスって、何を食べて生きてるんですか?
部屋の外に出ていかないんなら食べるものないですよね?
小さな虫とか?」
「ああ、それはあれだ。
忘れたか、ここはトラップフロアだ。
時々、地下四階層から魔物が落ちていくんだよ。」
おおお、そういう仕組みなのか。
「ちなみに水とかは?」
「地下五階層の階段部屋には水が湧いている。」
なんという贅沢部屋。
「あと、先に言っとくとダストシュートみたいなトイレもあるからな。」
それダンジョン?
魔物も冒険者も共用?
「それよりお嬢ちゃんはレベルあがったんじゃないか?」
「あ、はい、召喚士レベルが3になりました。
新たに、魔獣召喚、不死体召喚、魔導体召喚がスキルポイント消費で覚えられるようです。」
今、スキルポイントも2000オーバーしたから、この内、二つは覚えられる計算だ。
まぁ妖魔召喚覚えたいから無理に取らなくてもいいけど。
ベルナさんが苦虫を噛み潰したようにこっちを見る。
「不死体召喚ん?
さっきのスケルトンとかゾンビ呼び出せるの?
す、凄いっちゃ凄いけど、見たいような見たくないような・・・。」
どっちですか。
でも言いたいことはわかる。
さすがにあたしだってそんな趣味ない。
盾役としては使えそうだけど、あんまり強そうでもないし。
魔導体ってゴーレムとかかな。
そっちの方が役に立ちそうな気がする。
・・・役立つと言えば・・・
「そうだ、エステハンさん。」
「ん? なんだ、お嬢ちゃん?」
「ここで転職できますか?」
「ああ、できるぞ、
ギルドカードの記載は変えられないが、レベル上げやスキルを身に着けたいなら転職しとくのも手だ。」
「じゃあ、巫女職に。」
召喚士レベルは順調だからね、
焦らずバランスよく攻めるよ。
転職は冒険者ギルドで行った時と同じく、簡単に終わった。
まぁ巫女職と言っても、感知系スキルは大体コンプしてる。
むしろ精神衛生上あまり敏感にしたくない。
普段は精神障壁張ってた方が安全なくらいだ。
なので今回の目的はチートスキルのレベル上げである。
地下五階層では遠慮なく使うつもりだ。
「あと思ったんだが。」
エステハンさんが語りかける。
「なんですか?」
「お嬢ちゃんは鑑定士にも適性あるんだよな?」
そういえばそうだっけ。
まぁサイコメトリーだしね。
「そうみたいですね、
でもそれが何か?」
「鑑定士のレベルは上げないのか?」
「今でも十分な気がしますけど、伸びしろあるんですか?」
「うーん、俺も鑑定スキルはあるが、
ギルドマスター代行としてギリギリのレベルだからなぁ。
レベルが上がれば商人としても認められるし、最高レベルになると、隠された情報なんかも見れるようになるそうだから便利だぞ。
魔法使いになりたければ、魔法スキルの取得条件もわかるようになるかもしれない。」
「へぇ、そんな手段もあるんですね?
考えておきます。」
うーん、サイコメトリーとは原理が違う気がしてきた。
まぁいっか。
次回、地下五階層!!