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第三百八話 パーティー瓦解

 <ケイジ視点>


ブレモアがやられた。

・・・あ、直接的にはメイドのニムエさんに、男として背筋が凍るような一撃で沈んだわけだが、戦力が一つ消えたことは間違いない。

ん?

ブレモアは役に立ってなかったんじゃないかって?

そうでもない。

術者中心のこのパーティーで、前衛職が後に控えているということだけでも、敵に注意とプレッシャーを与えていた。

何よりブレモアがいなくなるとイゾルテ達の守りに不安が生じる。


まぁこちらも敵の前衛職を無力化しているからおあいことも言えるんだが・・・。


それよりこの後だ。

ベアトリチェの全体攻撃闇呪文でオレたちは等しく能力と生命力にダメージを与えられている。

絶体絶命とまではいかないが、この先の奴の作戦次第では更に追い込まれる可能性もあるだろう。


するとどうしたことか?

つい今しがたまで、瓦礫の上に崩れ落ちたブレモアを同情するような目で見下ろしていたベアトリチェが、

急にオレの方を向いて、目を見開きながら笑みを浮かべたのだ。


・・・まるで新たな得物を見つけたとでもいうように。



ゾクリと。



背筋が凍る。

なんだ?

まるで遠い昔に味わった恐怖を思い出させられてしまうかのような・・・


反射的に身構えるが、やはり反応速度が鈍っているのだろうか、ベアトリチェはあっという間にオレの後ろに回り込んでいた・・・!


 「うふふふふ、そんな身構えなくてよろしいですわよ?

 先ほどのブレモア様とのやり取りを見てらしたのでしょう?

 私はケイジ様・・・あなたを攻撃も致しませんし、魅了スキルも使いません。」


確かにそれはその通りだったろう。

だが安心なんてできるものか、

もっと恐ろしいことを考えているのかもしれないのだから。


 「ケイジ!!」

オレを心配してリィナが叫び声をあげる。

今すぐにでもリィナをオレを助けるために飛んできそうだ。

その声に反応したか、ベアトリチェがリィナの方に顔を振る。


 「ああ、リィナ様もご安心ください?

 ちょっと、こちらのハーフ獣人ケイジ様に少し確認したいことが有りまして・・・。」


その言葉にリィナの動きが止まる。

勿論オレにしたところで攻撃できようもない。

ただでさえ、直接攻撃をかけてこようともしない、素肌晒しまくっている女性にどうしろというのか。

だがこのオレに確認したい事とは!?


うっ

ベアトリチェの細い指がオレの腕に触れてきた。

互いの顔同士も近い。

・・・しまった。

獣人の鋭すぎるオレの鼻が裏目に出る。

女の匂いだ・・・。

あっ!

オレの両足の間に太もも挟み込んできやがったぞ!?


よせ、やめろ!

足を絡めるなっ!!

オレは必死に彼女を引き剥がそうとしたが、

次のベアトリチェの言葉で動きを止められてしまった。


 「そう、ケイジ様・・・、

 私・・・あなたにも会った事があるような気がするんですよね・・・。」


なんだとっ!?


バカな!?

そんな筈はない!!

この世界では勿論、前世だとてベアトリチェになんぞ・・・っ!


 「嘘だ! オレはお前に会った事なんてないっ!!」

 「ええと・・・そうなんですよねぇ、

 私も獣人の方なんて滅多に会いませんですし・・・

 前の人生でも獣人なんて・・・

 あ、確かもう一つの人生では狼男に変身できる方はいましたけど、

 ケイジ様とは似ても似つきませんわ?

 あの人の名前はマルコさんだったかしら・・・。

 何て言うのか、ケイジさんとは魂の匂いに覚えがあるというのか・・・」


別世界では狼男なんていたのかよ、物騒な世界だな。

それより魂の匂いだと?

なんだ、そりゃ・・・

いや、待てよ?


それって・・・


オレは振り返って麻衣さんの姿を探す。

そうだ・・・。

彼女が言ってなかったか?

確かマルゴット女王と、麻衣さんの世界のマーガレットさんが同じ魂の匂いがすると・・・。


そしてリィナに関しても、麻衣さんの世界のアスラ王と近しい匂いが・・・。


じゃあオレは!?


オレはすぐに麻衣さんの姿を見つけた。

彼女もベアトリチェの言葉の意味が分かっているのだろう。

麻衣さんの瞳はオレとベアトリチェの間を行き来する。


 「うーん、もう少しで思い出せそうなのですが・・・。

 あら? ケイジ様・・・マルゴット女王やウーサー様の匂いが混じってらっしゃいます?

 もしや私のもう一つの人生の方で・・・。」


今度は背筋が逆立った・・・!

オレに記憶はない。

少なくともベアトリチェが思い出したという、もう一つの方の世界の記憶なんぞ全くない!!


・・・だがこの恐怖のような感情は何だ!?

真正面からベアトリチェの薄い笑みを見た瞬間、何かを思い出しそうになった!

 「やめろ! その薄ら笑いをオレに向けるなっ!!」


 「まぁ、酷いことをおっしゃるのですね、

 でもその反応は不自然すぎませんか?

 まるで以前、私に酷い目に遭わされた人が二度目に私に遭ったかのような反応ですのね?」


 「そ、そんな、筈は・・・っ」

 「うふふふ、ご自分でも否定したいのに、否定できない何かを思い出したというのですか?

 ますますケイジ様が私の知り合いのような気がしてきましたわ?」


ダメだ・・・

完全にベアトリチェに主導権を握られてしまっている。

こんなもの問答無用に彼女を斬り伏せちまえば全部片が付くんじゃないかっ!?

そうとも、

この女が何を言おうとも、オレの過去に何が有ろうとも、

この戦いを強制的に終わらせてしまえたら・・・




 「カラドックはヨルが守るですよぉぉぉぉぉっ!!」



なんだ!?

今この場の騒ぎの中心はオレとベアトリチェだけだったはず。

カラドックに何の危険があるというんだ?

ヨルは何を騒いでいる!?


オレの気が一瞬逸れた隙に、またベアトリチェがオレの体に自分の胸の膨らみを押し付けてくる。


・・・くっ、だ、大丈夫だ、こんなもの・・・。

まだだ!

まだアガサの方が大きいぞっ!!


瞬間的にアガサと視線が合った。

その一瞬でオレたちは通じ合った気がする。

アガサがその場で自分の両肘で豊満な胸を挟みつつガッツポーズを示したからだ。


そのせいか、ベアトリチェの表情が曇る。

 「・・・何か勝負を挑まれた気もしますが・・・

 今はあちらの妖精の方が面白い事態になってらっしゃいますわね?」


そうだ、今はヨルの方の・・・えっ? 妖精!?



  「おねがいじゃぁっ!

 ラウネはカラドックが欲しいのじゃっ!!

 ほんのちょっと! ほんのちょっとラウネの中に入れてくれるだけでよいのじゃぁっ!!」



・・・眩暈がした。

状況はすぐにわかった。

栄養不足に陥った妖精ラウネは、頼みの綱の護衛騎士ブレモアが使えなくなってしまったので、他の人間に栄養補給をしてもらおうと考えたのだろう。

けれど、ラウネにそれができるのは、人体(?)の構造上、男のみ。

すなわちオレとベディベールとカラドックだけなのだ。

そしてオレは現在、ベアトリチェに捕まっている。

もう一人ベディベールもいるが、あいつはニムエさんが守っているし、恐らく魔力的なエネルギーはカラドックの方が大量だろう。

恐らくあの妖精ラウネの目には、カラドックが美味しそうなご馳走に見えたという事だろうか?


そして当のカラドックは嫌悪感を剥き出しにして後ずさりしている状況。

そこへカラドックの危機を察知したヨルが割って入った所ということだな。


 「やっぱり・・・やっぱりヨルの予感は正しかったですよぉぉぉっ!

 この妖精は危険ですぅぅぅぅっ!!

 あの空飛ぶ馬車の中でカラドックに色目使っていたのは、やっぱり狙っていたんですねぇぇぇぇぇっ!?

 これでフラグの回収もばっちりですよぉぉぉっ!!」


・・・最後の言葉だけは何を言ってるかわからなかったが、この状況はかなり不味い。

傍から見ていると、ヨルがカラドックを庇うように立ち塞がり、その槍をマルゴット女王に向けているようにも見える。

もちろん、ヨルの標的はマルゴット女王の首に巻きついている妖精なのだが、

万一のことがあってはと、ニムエさんやベディベールも女王の傍にやってくる。


不味いぞ・・・このままではこのパーティーが・・・


 「うふふ、ちょっと、石を放り込んでみただけのつもりでしたけど、

 かなりの効果が出たようですわねぇ?」


なっ、ベアトリチェ・・・まさかこの混乱・・・

最初から狙っていたのかっ!?



「良い子のみんな、元気かぁっ!?

オレだあ! みんなの人気者マルコ=シァスだぁ!!

・・・え、知らない?

し、知らねぇってどういうことだよっ!!」


「マルコ、こちらの物語に私たちの出番はありませんよ、おとなしくしていてください。

・・・あざみさんとラヴゥは出演できてラッキーでしたけどね。」

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