第三百二話 「聖なる護り手」ダン
おうよ!
オレだぁ!!
Aランクパーティー「聖なる護り手」のリーダー、ダンだぜぇ。
最近、ヒマしててよぉ、
まぁ、夜は極上の酒と刺激的なクィーンのお誘いもいただいてそれなりに楽しめちゃあいるんだが、
やっぱ、オレらは獲物をぶった切ってナンボなんだよ。
そりゃあ、黄金宮殿の周りにも魔物はいるが、
さすがに生息数もまばらで、宮殿の中に侵入しようなんて奴らはほとんどいねぇ。
あたりまえだよな。
この宮殿にはヴェノムドラゴンだけじゃねぇ、
ドラゴンから進化を果たした竜人のゾルケトフ、
同じくオーガ種から進化してきた鬼人のオグリ。
・・・あ~ん?
片っ方の名前の扱いが酷ぇ?
すまん、何言ってんだかわからねぇが、こいつらは強ぇ。
オレもどちらかと言えば、そういうヤツらと剣を交えるのは大好きなんだが、
この二人はマジにやべぇ。
竜人ゾルケトフはまだいい。
訓練のために勝負を挑んでも、常識の範囲内で攻撃してくるので、大事にはいたらない。
・・・それでもズタボロになったけどな。
オグリはダメだ・・・。
マジで殺されるところだった。
うちの天才僧侶小僧クライブの治癒が及ばなかったら今頃オレはここにない。
・・・下手したら邪龍に捧げられてたかもな、オレの魂・・・。
ちなみに、この二人の化け物・・・
竜人ゾルケトフと鬼人オグリは、訓練でも互いに矛を交えることはクィーンから禁止されている。
理由はわかるよな。
こいつら一人で小国の軍隊並みの戦力なんだぞ。
必ずどちらかが死ぬ。
そして周りの被害は想像も出来ない。
・・・まぁ、そんな奴らが宮殿の正面を守ってんだ。
魔族だろうとワイバーンの群れだろうと何人もこの宮殿の守りを突破出来る事など有り得ねぇ。
つーわけでな、
一応、オレらの仕事は名目上、クィーンの守護なんだが、
ヒマなんだよ。
パーティーのタンク役のドルスとは普通に訓練できる。
天才僧侶小僧クライブとハイエルフの結界師オスカはクィーンの世話だ。
・・・クライブはもう食われちまったな・・・。
まぁ、オレらも文句言えねぇんだが、あの年でクィーンのカラダを味わっちまったら、
他の女は抱けなくなっちまうんじゃねーか?
うちのパーティーにはあともう一人、死霊術士のカルミラという女がいる。
すげーだろ、結界師のオスカと並んでレアな術士がうちには二人もいるんだ。
んん?
パーティー名が「聖なる護り手」なのに、そんな怪しげなジョブの女がいていいのかって?
わかってねーな、
この世界には悪霊に祟られたり、死んだ身内の霊障に悩まされたりってケースが結構あるんだ。
勿論その場合は、僧侶や司祭クラスの呪文で打ち祓うってのが一般的なんだがな、
カルミラなら、悪霊を鎮めるだけにしたりとか、状況によってはそう言った悪しきものを守護霊のようなものに性質を変化させることも可能だ。
いつだったか、ある貴族の屋敷で起こる騒霊現象で、気味悪がったメイドたちの離職が頻発、家族の中からも寝込むものが続出で、オレたちが依頼を受けた。
悪霊の仕業らしきことは教会の調査で判明したが、当時の僧侶たちは誰もそれを解決できなかったのだ。
そこで、ウチのカルミラが活躍した。
原因の霊は、その貴族の当主の死んだ祖父の霊であることを突き止め、カルミラは恐ろしいことに・・・いや、喜ばしいことに、その祖父の霊を屋敷の守護霊となるように説得したのだそうだ。
以来、その屋敷で騒霊現象はピタリとやんだ。
その代わりというか、当主の幼い孫娘が・・・先祖の肖像画に話しかけたりすると、朝食に出されるコップの中の水が甘くなってる時があるとか・・・。
不思議なことがあるもんだよな。
ああ、まぁ、そんなわけで、クエストの種類によっては、
なんでもかんでも敵を殺して、はいおしまいってものばかりじゃねーわけよ。
オレとしてはそっちの方が楽なんだけどな。
何気にこのパーティーを陰で操ってるのはハイエルフのオスカだ。
まぁ、重要事項の決定はオレがやるからよ、
その辺りはうまく回ってると思うぜ、このパーティー。
クィーンと出会った時の衝撃は今でも忘れらんねぇ・・・。
いや、あっという間にオレら魅了されちまって・・・
状態異常回復の要のクライブが魅了されちまったらどうしようもねぇだろ・・・。
けどクィーンは、まともだったオスカが戦意を喪失した段階ですぐに魅了を解いてくれた。
その上でクィーンは、自分の目的を・・・不老不死についてオレたちに話してくれた。
そんな事が可能なのか!?
半信半疑のオレたちにクィーンは様々な奇跡をオレたちに見せつける。
邪龍・・・についてはオレたちの間でもかなり意見が割れた。
だが、クィーンによれば、邪龍復活後も邪龍は眷属となった者には手を出すことはないし、
もともと魔王のように軍勢を率いることもないので、全てが終わった後は好きにしたらいいとのことだ。
だったら、オレたちのリスクは低いよな?
あ?
人間が邪龍に滅ぼされてもいいのかって?
あーあー、それは誤解だそうだ。
確かに邪龍は過去において、生きとし生けるもの、目に映るもの全てを破壊し命を奪っていたそうなんだが、クィーンの交渉術が凄ぇんだわ。
やっぱり邪龍と言えども寿命ってのがあるようで、封印されている間は寿命の進行も止まるわけだが、復活しちまえば何百年かはわからねぇが、いつかは死ぬ。
・・・まぁそれまでに人類が生き残ってるかどうかは知らねーが。
けど、クィーンは定期的に人類・亜人の魂を喰わせることで邪龍に不老不死を与えると。
当然の話だが、その為には人類を滅ぼしてはならない。
そこでクィーンは選択を迫ったわけだ、邪龍に。
人類を滅ぼさずに一定の魂を得るだけ満足できるなら不老不死を与えられますよと。
・・・わかるか?
クィーンの出した条件は、邪龍から人類を守るためのものでもあるんだ。
あ、わかってる、わかってる。
それでも人類に相当の被害だって言うんだろ?
でもそれってよ?
実際に邪龍復活して表立って邪龍が暴れ始めたら・・・
どれだけの被害が人類に出る?
いま、クィーンがやってる行為は、子供が新たに生まれにくくなるだけだ。
誰も死なねぇ。
苦痛を味わうわけでもなく、街が破壊されるわけでもねぇ。
・・・まぁ子供が生まれにくくなるなら経済発展は遅れるかもな、
でもそれだけなんだよ。
もちろん、各国は認めるわけにはいかねーだろう。
だからオレらも国に帰ってクィーンや邪龍の目的を大っぴらに伝えることは出来ねぇ。
そんで今に至る。
そう、
今回のように邪龍の目的が察知されたならば、オレたちのような冒険者がクィーン討伐にやってくることが考えられる。
またその対処のためには、オレらのような奴らが定期的にヒューマン社会に戻って情報を仕入れる必要もある。
そう言った仕事は竜人や鬼人にも出来ねぇ。
だからまぁ、「蒼い狼」っつう、Aランクパーティーがここに来ることは分かってた。
異世界人であるという精霊術士の存在も。
そりゃ手強いかもな・・・。
だが、こっちには絶対の結界能力を持つオスカも、
死霊使いカルミラもいる。
後はオレ前衛同士でどこまで戦いを楽しめるか・・・
そう思ってたらなんだぁ!?
精霊術士が3人んんんんっ!?
い、いや、それでもオスカの結界術なら・・・
そう思ってた時がオレにもあったぜ・・・
なんだ、あれ・・・
ストーンシャワー!?
え・・・この宮殿で!?
なんかさっきっから台風のような風が吹き荒れ始めたんですけど・・・