第三話 とらぶる はず かむ
今回短めです。
カリカリカリカリカリ・・・ キュキュキュッ
「はーい、黒板写し終えたかなぁ?
もう消すぞー。」
「えー、せんせいはやーい!」
「もうちょっと待ってよー!」
そこは日本の学校でよく見かける風景。
高校あたりだろうか、
ただ高校生にしては生徒がみんなあどけない顔立ちだ。
入学したての一年生かもしれない。
「しょーがないなー、あと30秒待ってや── ん?」
教師が少し譲歩しようとした時の事だ。
彼は何かの違和感を覚えた。
いきなり教室の外から窓に差し込む光が強くなった気がしたのだ。
そして次の瞬間!
ガチャーン!!
窓ガラスが大破した!
そして直後に一人の女生徒が席から窓の反対方向に吹っ飛んだ!
「キャー!!
麻衣ちゃんに矢がー!!」
ようやくそのセリフを吐き出せるクラスメイトが一人いるかいないか、
殆どの生徒が何が起きたか理解できない。
窓が割れた瞬間、麻衣と呼ばれた女子が自分の座席から浮き上がった。
・・・そしてその頭の横に白い矢が突き刺さっている・・・
彼らに理解できたのはそこまでだ。
そして吹き飛んだはずの女子生徒、麻衣。
彼女が隣の生徒か机にぶつかるのは自明の結果。
けれども、そんな事態は起きなかった。
矢が側頭部に突き刺さった瞬間、
麻衣の身体は白い光に包まれ、
その存在が希薄になっていったからだ。
吹き飛んだ彼女の身体が、隣の席の男子生徒にぶつかろうとする時には、
既に麻衣の身体は立体映像のように薄い虚像となり、彼らが激突することはなかった・・・。
そしてそこまでの現象を、ここにいる教師や級友が理解できることはない。
何故なら、その時点でこの教室の全ての時間が停止したからだ。
実際は、先ほど女子生徒の正確な現状把握の声も、
最後までセリフを発せられることもなかったのだ。
ショックを受けた生徒たちの動揺も、
机や椅子のズレも、驚く教師や生徒もまるで彫像のように動きを止め、
いや、それどころか最初に割れた窓ガラスでさえも、
一部の破片は未だ宙を浮いたままである・・・。
そしてその場から・・・伊藤麻衣という女子生徒の存在は完全に消えていた・・・。
ただ、辺りを満たす叫び声は響きわたっていたが、
その声は彼女が元居た「世界」に届くことはなかったのである・・・。
「また あたしかよ──────っ!?」