第二百九十九話 Aランクパーティー聖なる護り手
ぶっくま、ありがとうございます!
前回はすみません。
48時間勤務の後、いきなりその日の夜に臨時の仕事を入れられて、意識をうしなってしまってました。
ええ、ただの寝落ちです。
「ハーハッハッハッハー!
待ちくたびれたぜぇ!!」
油断はしていない。
いつかオレたちの会話の切れ目で仕掛けられることは予想していた。
無精ひげを生やしたイケおじ剣士の攻撃を、
オレは手に入れたばかりの剣で受け止める!
ぐっ、かなりの膂力だなっ・・・!
「おっ!? 受けやがった・・・!
て、なんだ、その剣!!
もしかして魔剣の類か!?」
男はオレに受け切られた事か、
それとも初めて見る禍々しい形状の剣に興味を持ったのか、すぐに間合いを取る。
「さすがは破竹の勢いでAランクに上がって来ただけのことはあるな、
オレは『聖なる護り手』のリーダー、ダンだっ!!」
なるほど、動きを阻害されない程度のハーフプレートにガントレット、脛あてと、
・・・あの輝きはミスリルか?
装備も剣技もかなりのものだ。
さすがにAランクパーティーを率いるだけのことはあるな。
「ケイジよ!」
背後からマルゴット女王の声がかかる。
戦闘中の為、後ろを振り返ることは出来ないが、
多少、脚の軸をずらせ、女王の声い反応していることを示しておこう。
そして女王はオレの反応を理解したようだ。
続いてオレへのアドバイスか。
「妾が保証しようぞ、
そなたのレベルとステータスは剣士としてはSランクに届こうとせんばかり・・・。
そしてその剣は易々と破壊されるようなものでもない。
油断さえしなければ、何者もそなたに敵うことなどないであろう!!」
嬉しいことを言ってくれる。
まぁ、敵もAランクで名を馳せた男だろう。
何らかの隠し玉はあるかもしれない。
それと・・・オレの場合、この剣の扱いにまだ慣れていないからな、
そこの不安がないでもないが、
後ろには頼もしい仲間がいる!
早々と圧倒させてみせるか。
「・・・ではオレも名乗ろう。
Aランクパーティー『蒼い狼』リーダー、ケイジだ!!」
剣士ダンは、オレの自己紹介を聞いて嬉しそうに笑った。
脳筋か、こいつ?
「ははっ、いいねぇ、しかも狼獣人?
強そうだなぁ、
オレは長生きしてお前みたいな強そうな奴と剣を交えるのが楽しみなんだよ、
どんだけ鍛錬しようと、年取っちまったら全力で戦えないだろ?」
なるほど、
気持ちは分からないでもない。
そしてその目的のためにベアトリチェについたか。
・・・だが、悪いが、ここで彼女の目的はストップさせる!!
行くぞ!!
オレの突進の影にリィナが潜む!
「うおっ!」
見抜かれたか!?
だがその上でオレたち二人の攻撃を捌けるか!?
いや、向こうももう一人の巨漢が現れた。
装飾された騎士盾を持ったタンクか!
「うわあらっ!?」
カラダのほとんどの部分を覆うような盾を前にしてリィナが急ブレーキ!
無理もない。
これは無理にぶつかったらリィナの方が弾き飛ばされる。
前衛職対決は少し相性が悪いかもしれない。
だが・・・
「待ちくたびれたのはこっちの方・・・」
既に「彼女は」詠唱を終えていたようだ、
オレたちの攻防の隙に全てを・・・!
浅黒い肌の豊かな胸を揺らし、
まるで踊り子のようなモーションから、ここ一番の大呪文を放つ!!
ダークエルフ随一の魔力を持つアガサのトルネイド!!
「うおおおおおおおおおっ!?」
剣士ダンと盾役が足元を踏ん張って必死に抵抗するも・・・
無駄だ!!
すぐに二人は吹き飛ばされ、そしてもちろん、狙いは彼らだけでなく、
後衛の連中も・・・いや、あれは!?
吹き飛ばされた二人は、当然残りの奴ら纏めて後ろの壁にでも叩きつけられる筈だと誰もが思った。
だがしかし、オレたちの予想を外したのは、
吹き飛んだ二人の体が、宮殿の真ん中あたりで見えない壁でもあったかのように途中で軌道を変え・・・
そしてそのまま床に転がっていったのだ・・・。
「ぐあぁっ・・・!」
ダンと盾役はともかく・・・ベアトリチェ含む控えの連中は無傷・・・
「防御呪文・・・いや、これは・・・結界か!!」
マルゴット女王がいてくれるおかげで殆どの事象は分析できるな。
だが、結界だと?
そういえば、この黄金宮殿全てを包む程の結界能力を持つ者がいるんだったけな。
だが、それだけの力なんて・・・
「どうやら、あの薄衣をまとったハイエルフが術者の様じゃの・・・。」
ハイエルフ・・・オレたちをここまで案内したオスカとかいうスケスケエルフか!
だがアガサの最大呪文を防ぎきるなんて・・・。
「ケイジ、あの結界は厄介。」
「タバサ、お前のプロテクションシールドよりも強力なのか!?」
「プロテクションシールドもホーリーウォールも、
一定以上の攻撃を与えれば、耐久力の限度を超え崩壊。
けれど結界呪文は、相手の攻撃を届かせないための代物。
どれだけ強大な呪文を打ち込もうと、術が届かなければ破壊不能!!」
「・・・てことは相手の魔力切れか・・・
意図的に術を相手が停止させるのを待つしかないってことか!?」
「・・・もちろん結界の維持にはかなりの魔力を消費・・・
いつまでも展開し続けるのは不可能な筈・・・。」
なるほど、問題はそれまで向こうが待ってくれるかということだが・・・。
「もう一つ結界には弱点がありますよ!!」
麻衣さん!?
「結界を作るには、術者が境目だと認識できる区画と言うものが必要です!!
その認識を崩すだけの事象を起こしてしまえば結界は吹き飛んでしまいます!!」
・・・すげぇ。
見ると麻衣さんはフンスとばかりに鼻息を荒くして・・・
いえ、いくらでも得意顔見せてください!
それだけの価値ある一言だ。
負ける気がどんどんしなくなっていく。
「まぁまぁ、オスカ、
大丈夫ですの?
どんどん、手の内が暴かれていってますけど?」
「クィーン・・・お任せを。
まだ、私たちにはいくらでも手札が・・・。」
「それにしても、ダンにドルスも吹き飛ばされ過ぎ、
ほら、ヒール。」
むっ?
ベアトリチェの位置からまだ距離がある筈の剣士ダンの所までヒールが飛んだ。
これだけの距離が離れていても治癒呪文が使えるのか。
今のはベアトリチェの脇に控えていたローブを纏った男のヒューマンだな。
てことは残りはあと一人・・・もう一人控えているローブ姿の女性は魔術士か?
オレの視線を感じたわけでもないのだろうが、その残りのローブ姿の女性が杖を掲げる。
んっ!?
なんだ、この気配!!
その女性の周りを黒い人魂のようなものがギュルギュルと囲み始める!
魔法か!?
それとも召喚術!?
すぐにその黒い塊は人の上半身のような影となり、あろうことかこちらに向かってきやがった!!
女王が叫ぶ。
「レイスじゃ! あの術士は死霊使いぞ!」
うお!
またレアなジョブの人間を引き連れているな!
・・・だが!
「・・・笑止!
あらゆる属性の術を使う私には無駄なこと!!
『ホーリーレイ』!」
そう、レイスは実体を持たないがゆえに、直接的に肉体を攻撃される危険は少ないが、
生命吸収と敵に恐怖を与える。
だがそれだけだ!!
厄介と言えば厄介だが、こちらには光属性の術を使えるアガサがいる。
詠唱破棄したアガサのホーリーレイがレーザーのように死霊を貫いていくが・・・
「ぬ・・・狙いが分散・・・小癪!」
くそ、面倒な!!
レイスのコントロールが抜群なのか、
四方八方に何十体ものレイスが拡がり襲い掛かってくる。
一匹ずつ倒すなら、アガサにとっても朝飯前だろうが、
これだけばらけられてしまうと、照準を合わすのも難しいだろう。
「ヒィィィィィッ!?」
護衛騎士ブレモアの叫びか!
確かに騎士職にはレイスの対処は難しいだろう。
だが!
薄暗い宮殿の中を紫電が切り裂く!!
リィナの天叢雲剣だ!!
天叢雲剣の雷光は死霊の動きを食い止める事が出来る!
そしてその隙に・・・・
オレはベリアルの剣を握りしめた右腕を掲げる!!
シャン!
「な、なんだ、あの狼獣人は!?
何をしようというのだ!?」
アスラ王には未熟とキレられたが、前世含めあれから数十年の時間が過ぎ去った。
しかもこちらの世界では、冒険者としてゴーストやレイスを討伐せねばならないクエストも何度もあった!
オレは舞う!
この世から不浄なものを全て洗い流す「祓いの剣」だ!
この技はカラドックにさえ知られていないオレの奥の手の一つ!
このオレの一振り一振りが清浄なる結界空間を構築するんだ。
オレにスキルや魔術は使えないが、死霊攻撃は通じないと思い知れ!!
「ええっ!?
あたしのレイスちゃんたちがあんな踊りで祓われてるぅっ!?」
悪かったな、だがもう一つ残念なお知らせだ!
リィナやオレの技はただの前座!
「タバサ!!」
「愚挙・・・!
この天才上位司祭タバサちゃんを前に死霊の集団など、
海水に飲み込まれるナメクジ同然・・・!
『ホーリーシャインッ』!!」
「「「「うわあああああああっ!」」」」
宮殿全てが柔らかい光に満たされる!
ホーリーシャインは生物・魔物にもダメージを与える事が出来るが、
敵にも僧侶がいるらしい、
「聖なる護り手」のメンバーには「ホーリーウォール」の守護が掛けられていたようでダメージはゼロだ。
もちろん結界師オスカによって守られている、ベアトリチェとその両脇の術士にはこちらの攻撃は届くこともない。
だが・・・あれだけいた黒い死霊どもは全滅だ。
「うう、あ、あ、あたしのレイスちゃんたちが一人残らずぅ・・・」
「聖なる護り手」リーダー、剣士ダンが呆然と呟く。
「お、おいおい、お前ら、とんでもねーな・・・。
さすが、こんなところまでやってくるだけのことはあるな。」
フン、どうやらオレたちの実力はAランクとして十分、世に通じるってことだよな!!
間もなくベアトリチェ編最大の山場です。
ストーリーを練り始めた頃から考えていた設定が今!
あ、今っていうか、もうちょっとしたら・・・。